「私の輿入れが決まったよ」
ルチャブルがこの城に来て二度目の春を迎える頃、主人が嫁ぐ旨を告げてきた。
「意味、分かるかな。私にも
理解できている。できている、が、こんなときどう振舞うのが正解なのだろう。ひとまず、祝福の気持ちを込めて一鳴きすると、「ありがとう」と頷かれた。
慶事だ。
しかし、まるで平凡な話題であるかのように、姫君の口調はいたって軽い。
好き合って
彼女は、「国と国を繋ぐために私がいる」のだと言い切ってしまう。「私の『個』たる意志が干渉できようはずもない」と、そんなことを、穏やかな表情で口にするのだ。
出会った当初から変わらず、この貴人は達観していた。切ないほどに。
「相手の殿方は、なかなかの曲者らしい。
だからといって足元をすくわれるわけにはいかない。私の所為でこの国に不利益が出ても困るから、自分の身は自分で守らないと。そのために、確かな味方が必要だ」
嫁入り道具、信用のおける侍従。そして、「護身刀としておまえを連れていきたい」…とは。
栄誉なことだ。この城に住まううちに習い覚えた仕草にそって、ルチャブルは三つ指をつき頭を垂れた。
大切な人を最後まで守ってこその
「…、…あと一振りくらいは、懐刀が欲しいな。おまえの相棒にもなろう」
「――…!」
そう思わないかと問いかけられたので、伏せていた視線をはっと上げると、彼女の美貌には柔らかな笑みが浮かんでいる。
「伝説上の刀剣でね、…その昔、海を渡った先の大陸には雌雄剣と名高い秘蔵の宝があったとされる。天下無双の一対ゆえに、互いに引き離されると泣き声をあげたというが…私は、せめて…おまえが哀しく鳴くことがないようにと願っているよ。
――聞いているか、花の君。
私の可愛い小鳥のために付き従う腹積もりがあるなら、漢気を見せよ」
檄が飛んだ後、呼応し、トンと微かな音がした。
天井部から、表の廊下に何者かが降り立った証である。そちらへ目を向けると、…障子の薄和紙には、午後の陽射しに照らされた――ルチャブルにとっての見慣れた影法師が、黒々と映し出されていた。