『 夢十夜 』
――こんな夢を、見た。
※ 警告 ※
①流血沙汰
②無理矢理
③アニポケ(カロス版)サトシ組の前提:互いを信じる。互いが大好き。
しかし、今作はこの前提を崩したクソ鬱シナリオです。地雷原です。自衛なさってください。
■ 第一夜
夢にも思わなかった。
一瞬とはいえ、しかし確かに、ふたりを見失うなんて。
己の実力に関する過信に、相手をみくびる傲慢。それらに足元をすくわれた形だ。
不肖ゲッコウガ。なんたる不覚。
***
――当時。
一行は、夏の野山に来ていた。
春先に比べれば随分と色合いを濃くし、
主人たる姫君は殿に
翼を悠々と動かし二人に追従するのは、ルチャブルにオンバーン、殿付きのファイアロー。
例によって、ゲッコウガは草の者だった。影の中を泳ぐように疾走、跳躍し、敵の有無を探りながら、この気まぐれな外出に同行している。
一息入れるためか、やがて主人らは下馬して大樹の根元に腰をおろし、ゲッコウガはその様子を太い枝の上からうかがっていた。
己が仕える者より頭上を位置取るなど無礼の極み。しかし自身の役割柄、俯瞰は優先事項である。目をつぶってもらうとしよう。
『つかず離れずでついてくる脚力はさすがだな』
声の方向を見遣れば、すぐ隣に、ファイアローが舞い降りてくるところだった。彼女が殿の右腕であるという認知はしていたが、こちらとしては姫付きの者であるため、あまり関わる機会はなかった。
話しかけられた覚えも、今の現状を含めて片手で数えられるほどである。
実に、――
いつにない接触へ眉をひそめる思いでいると、ファイアローは小首を傾げた。その拍子に、焔のように赤く染まる冠羽が揺れる。
『…なんだよ。虫の居所でも悪いのか』
『別に』
言うなれば、この一瞬であった。
冒頭である。
憩う人間の
あたかも示し合わせたようであり、それゆえ、違和感も増大する。
『…おまえも弟にはあまいくちか、姉上殿』
嫌味を込めて言ってやれば、彼女は悪びれもせず、悪戯が成功した子どものような顔つきになる。
『なんとおそるべき洞察力!くわばらくわばら』
いかにも猛禽類らしい鋭い目が「してやったり」と瞬き、実に小賢しい。
『あんたはあんたで随分と過保護だな、色男。見張らねば不安とは、どうも、思っていたより小心者らしい』
『なんとでも言え。
…生まれついての翼持ちには分かるまい。飛べぬ者の不安など』
翼を広げた相手に逃げられたら、もう、追えない。
翼を広げた誰かにさらわれたら、もう、届かない。
逃したが最後――それが、地べたを這う者の醜い末路である。
『私の弟分は、そんな性急な手段に出る野郎じゃないさ』
『知ったような口を。惚れた相手を前にしたとき、雄など全員馬鹿に成り下がるものでござるよお嬢さん』
『そう捨て鉢なことを言いなさんな。
私がこの命を懸けたっていい。あいつらは何事もなく戻ってくるさ』
『自惚れるな。おまえの命一つで溜飲が下がると思うのか』
『おや、手厳しい』
わかったわかった。探して連れ戻してくるよ。
肩をすくめて、ファイアローが枝を離れていく。信用するに足りないのでゲッコウガも独自に動きたかったが、折悪くも野生の獣が近付く気配を察知してしまい、舌打ちをした。主人を守るためにも迎撃せねばならない。
まともな戦闘力を持ったものがこの場から軒並み離れるのはまずい。それを理解しているからこそ水手裏剣を生成する今なのだが、嗚呼、面倒な。
なんとも間の悪い事態に、苛立つ。
腹いせに嬲ってやろうか。己の運のなさを恨めよと未だ見ぬ接近者に毒を吐き、ゲッコウガは飛び出していった。
+++++
『警告しておくぞ、
帰りしな、オンバーンだけが拾うことのできる声量で、ゲッコウガが告げる。
『手を出したら殺す』
一言だ。
言い終えるや否や、彼は姿を消した。復路もまた、草の者に徹するつもりなのだろう。既に気配すらも失せている。
淡々とした口振りだった。
必要以上にドスが利いているわけでも、凄みがあるわけでもなく、その何ということもない言い方こそが恐怖だった。
殺しが日常の中にある者特有の話し方とでも言おうか。元は御庭番の出だと聞いてはいたが、その片鱗を見る思いである。
――そして。
オンバーンは、直接示された威嚇に、むしろ勇んでいる。
「童」と言われはしたけれど、反面、オレは兄者にとっての「脅威」になれているんだなと、…そう思うと少し、痛快ですらあった。