※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

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第三話:②

■ 第二夜

 

 

 夢のようだと例えてもまだ足りない、匂いたつ美しさに一面が染まる。

 空間そのものに明るさと華やぎをもたらす紅葉が、幾重にも重なりあって、秋の錦織を広げている。

 

 城の者で野点を催すことになり、茶道具や朱色の傘が準備されているさなか。「金色のちひさき鳥のかたちして」との表現がぴたりと似合う銀杏の葉が、絨毯のように足元を埋め尽くす。人々が移動するたびに、かさりかさりと音をたてる。

 

 その群れる音から抜け出しこちらへ近付く者があったので、ゲッコウガは視線を上げた。

 幹に背を預けている己の隣へ美麗な一羽が歩み寄り、『食べないか』と、懐紙に包まれたものを差し出してくる。

 受け取ったそれは、秋明菊の練り切り。

 上品で淡い色味が、かえって、この絢爛な風景の中では存在感を帯びていた。

『茶菓子の御裾分けだとさ』という彼も、よくこされた上生菓子の白餡を味わっているらしい。目元が和らいでいる。

 その様を眺めているだけで満たされ「ごちそうさま」という気がしてくるが、せっかくなので、ゲッコウガも口にした。

 さらりと舌の上でほどけていく甘さが、心を和ませていく。

『…おまえと初めて会ったのも、こんな秋晴れの日だったな』

 彼の方から情緒的なセリフが聞けるとは思わず、しかもそれが感慨深げな呟きであったことが、殊の外ゲッコウガには嬉しい。

『そうでござるな。あのときも、紅葉が美しかった』

 ――今でも、褪せることなく焼きついている。

 透き通る空。

 銀色の秋風。

 金木犀の香。

 一陣の風に舞う紅葉の只中に、ルチャブルがいた。

 表に朱もみじ裏に青もみじをしのばせる雅な翼をひらめかせ、胸の雪羽をなびかせ、赤梔子(あかくちなし)の冠羽をそよがせて。

 青柳の中に浮かぶ琥珀色した一対の目が、穏やかな陽射しを受けて煌めいていた。

 

 心を奪われるのに、時間はかからなかった。

 

『拙者の一目惚れでござる』

 実は告げていなかったこぼれ話を今更のように伝えると、案の定、ルチャブルが淡く色付く。

 これだから愛しくてならないのだ。むせかえるほど甘い言葉がいくらでも思いつくほどに、彼の虜になっている自覚は、ある。

『…御主の頬に散る紅葉も美しい』

『ッ、気障なやつ…!』

 憎まれ口にはなりきれなかった声の調子に、恥じらいが滲む。

 ますます赤みが強くなる頬をひと撫ですると、潤んだ瞳が睨みつけ…というか、もうこの身長差じゃァ完全に相手方の上目遣いだった。二度目の「ごちそうさま」である。

 

 居たたまれない様子で、彼が照れ隠しに主人の元へと去っていく。

 

 残念。もう少し戯れていたかったのだが。

 その茜色の背中を、うっとりと、飽かず見つめ続けるゲッコウガだった。

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