■ 第二夜
夢のようだと例えてもまだ足りない、匂いたつ美しさに一面が染まる。
空間そのものに明るさと華やぎをもたらす紅葉が、幾重にも重なりあって、秋の錦織を広げている。
城の者で野点を催すことになり、茶道具や朱色の傘が準備されているさなか。「金色のちひさき鳥のかたちして」との表現がぴたりと似合う銀杏の葉が、絨毯のように足元を埋め尽くす。人々が移動するたびに、かさりかさりと音をたてる。
その群れる音から抜け出しこちらへ近付く者があったので、ゲッコウガは視線を上げた。
幹に背を預けている己の隣へ美麗な一羽が歩み寄り、『食べないか』と、懐紙に包まれたものを差し出してくる。
受け取ったそれは、秋明菊の練り切り。
上品で淡い色味が、かえって、この絢爛な風景の中では存在感を帯びていた。
『茶菓子の御裾分けだとさ』という彼も、よくこされた上生菓子の白餡を味わっているらしい。目元が和らいでいる。
その様を眺めているだけで満たされ「ごちそうさま」という気がしてくるが、せっかくなので、ゲッコウガも口にした。
さらりと舌の上でほどけていく甘さが、心を和ませていく。
『…おまえと初めて会ったのも、こんな秋晴れの日だったな』
彼の方から情緒的なセリフが聞けるとは思わず、しかもそれが感慨深げな呟きであったことが、殊の外ゲッコウガには嬉しい。
『そうでござるな。あのときも、紅葉が美しかった』
――今でも、褪せることなく焼きついている。
透き通る空。
銀色の秋風。
金木犀の香。
一陣の風に舞う紅葉の只中に、ルチャブルがいた。
表に朱もみじ裏に青もみじをしのばせる雅な翼をひらめかせ、胸の雪羽をなびかせ、
青柳の中に浮かぶ琥珀色した一対の目が、穏やかな陽射しを受けて煌めいていた。
心を奪われるのに、時間はかからなかった。
『拙者の一目惚れでござる』
実は告げていなかったこぼれ話を今更のように伝えると、案の定、ルチャブルが淡く色付く。
これだから愛しくてならないのだ。むせかえるほど甘い言葉がいくらでも思いつくほどに、彼の虜になっている自覚は、ある。
『…御主の頬に散る紅葉も美しい』
『ッ、気障なやつ…!』
憎まれ口にはなりきれなかった声の調子に、恥じらいが滲む。
ますます赤みが強くなる頬をひと撫ですると、潤んだ瞳が睨みつけ…というか、もうこの身長差じゃァ完全に相手方の上目遣いだった。二度目の「ごちそうさま」である。
居たたまれない様子で、彼が照れ隠しに主人の元へと去っていく。
残念。もう少し戯れていたかったのだが。
その茜色の背中を、うっとりと、飽かず見つめ続けるゲッコウガだった。