■ 第六夜
夢から醒めきれていない、夢見の悪さから立ち直れていない、そんな虚ろな目をして藤の子がやってきた。
早朝である。
何事かと起き上がると、後ろ足を器用に使って何かを横たえてくる。
畳の上に転がったものを目の当たりにした瞬間、既の所で、悲鳴を噛み殺した。
「おまえ、…ッ、なんと愚かなことを…!!!」
力なく目を閉ざした小鳥がいる。
鋭利なもので斬りつけられたかのような傷をこさえ、土埃の汚れが乱闘を生々しく物語る。
美しい羽の手入れを怠らない綺麗好きな彼には、到底似つかわしくない姿に成り果てていた。
藤の子を見ればわかる。
この子は助けを求めるような顔をしていない。これは己がやったのだと白状する、憔悴した表情だ。
「誰か!誰か起きている者はおらぬか!たらいに薬湯を張って参れ!」
朝の静けさを追いやって声を張り上げると、呼応するように、廊下の向こうからばたばたと慌ただしい足音が近付いてきた。
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「すまない」
万感を込めて告げた後、主人が抱きしめてくる。
記憶にある限り、初めての出来事だった。
逸品である着物の肌触り、温もり、焚きしめられた香に覆われ、戸惑う。
「おまえ、…この城から発ちなさい」
震えの混じる声音から、彼女の胸中が察せられた。
己の方が切られるのかと、そんな恨みがましいことは欠片さえルチャブルの心には生じない。この御方まで悲しませてしまったと、何よりも先に、そのことが自身にとっての憂い事だった。
「一目見たときから、おまえの誇り高さが好ましかった。
以来ずっと、…私の自慢だった。
強く、気高く、美しく、そして、」
絞り出すように、姫君は話す。
すべてが過去の出来事として語られている点に、ルチャブルは、終幕が間近であることを理解する。
「今や藤の子は、おまえにとっての呪縛となろう。
しかし、あの子はもう、この国のものだ。私の一存で左右できる存在ではなくなってしまった。
…だから。翼竜のいない場所へ行くんだ。
おまえのことは、決して探しはしないと約束する」
傍にいることで傷つけ合ってしまうのだから、離れるしかない。
なかったことにも、元通りにもできない。この現状が、月夜の残滓だ。
『…俺は、最後にしくじりました。それだけが無念です』
この声が伝わらずとも、一つ、啼いた。
ルチャブルは、おずおずと、翼を主人の背に回した。
最初で最後の抱擁だった。
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一度も振り返ることはなかった。
鳥とはそうしたものだ。飛びたつときには空を見る。彼らしく、別れ方まで潔かった。
ふと足元を見ると、羽が一枚。
片や紅緋、片や若竹――何度見ても、胸をうつほどに、華麗な。
拾い上げたそれを、漆の小箱へとしまいこむ。
今ではもう、達者であるよう願うことしかできない己が、無力だった。