■ 第七夜
夢の跡を歩いていかねばならない。
いかに楽しかろうと目覚めたが最後、現実は、いつだって虚しい。
「この大莫迦者が…!!!」
振り上げた手は、しかし、ついぞ藤の子を殴打することはなかった。
代わりに、さめざめと畳にしみをつくり続ける獣の頭部を抱き寄せる。
「横恋慕の分際で泣くんじゃない」
こみあげる哀情で自身もまた声や指先がわなないたが、嗚咽が漏れぬよう、耐えた。
「その癒えぬ悲しみを背負い、謝罪の機会を永劫失うことが、おまえに与えられた罰だ。心して向き合え」
誰かに想いを寄せることそれ自体は罪悪ではない。非難される謂れもない。
しかし翼竜は若かった。あらゆる意味において。
未熟さゆえの繊細な揺らぎを持ち、胸中の激しさを隠せず、身を引けと説教を受けたところで反発したくなる、ごく普通の若者だった。
だからといって、好いた惚れたと、それを理由に何でも許されるわけではない。
そのことを、身を以て体験するまで、…この子は分からなかった。
若人を育てるのは、後悔と挫折だ。
しかしこの結末は――あまりにも。
あまりにも、苦い。
同じものを私もまた呑み込まねばならない。
選んだのだから。
二者択一を迫られた結果、藤の子を残し、可愛い小鳥を手放したのだから。
どちらを選んでも等しく後悔すると分かっていた。ただ、「両方」を保持できる希望が潰えた現実を知りながら、それでも二者に固執すれば…きっと、いずれはふたり揃って失うことになっただろう。
取捨――というならば、そう、私は確かに捨てたのだ。この身を守り続けてくれた、あの美しい一羽を。
思考の過程で、この国の事情が絡んだことは否定しない。ある種の優劣をつけたことも事実。もっともらしい理由をあげつらって己の正当化を図ろうとしていると指摘されたら、それまで。
何にせよ最終的に判断をくだしたのは私自身だ。誰にも転嫁はできない。いまや私は選択の責任を負い、今後そこに付随してくるであろうあらゆる苦悩を引き受けていくべき立場となった。
…それにしても、まるで追い出すような形になるとは。身体についた傷への処置はできても、小鳥の心に更なる痛手を負わせてしまったやもしれぬ。相応しいねぎらいもなく、いかにも主人としての情に欠けていた。
せめて別れ方くらい、優しいものにしてやりたかったのに。
結局は最後まで彼の高潔を当てにしたのだ。
彼なら聞き分けてくれると分かっていた狡い人間が私だ。
なればこそ、もう、忘れてはくれまいか。
私のことも、自身を襲った不幸も、何もかも。
今ごろ遠く離れた森を翔けているだろう一羽の姿を思い描きながら、そっと念じる。おまえを犠牲にしてまで気を遣うべき他者はもういない。全てを忘れ、どうか、今度こそ己の幸せのために生きてほしいと、…それを祈らずにはいられなかった。