久しぶりの睦み合いで感極まるゲッコウガ
『オレがどれほどおまえを抱きたかったか、わかるか』
そう問えば、『教えてくれないと分からない』と挑むように言われた。『教えられるもんならやってみろ』と焚きつけられたに等しく――それでこそ己が最愛だ。組み敷かれている状況下で挑発をかませる彼の雄々しさに、惚れ惚れとしてしまう。
これは心して応えなければ漢が廃るというものだろう。
思いがけない発言が効いた所為か、さっそく本能が牙を砥ぎ始めている。優しくしてやりたいという考えに嘘はないし、せめて見せかけだけでも紳士ぶりたいわけなのだが、身の内を支配していくようなこの熱から察するに、やせ我慢もそう長く続くとは思えなかった。
ルチャブルは山吹での詳細を話さずにいる。こちらも尋ねはしなかったし、別に聞き出そうとも思わない。相手にそれを要求してしまえば、必然と思い出さねばならなくなる。いたずらにしんどい作業をさせるつもりはない。
今はただ、傍にいられる幸福を噛みしめている。再び出会えたことが喜ばしい――ルチャブルにだけは、己のこうした「きれいな部分」が正常に働く。一方、そのきれいなものと矛盾なく胸中で同居する誤魔化しようがない肉欲もあって、とどのつまり、己の本質はどこまでいこうが獣に過ぎないのだった。
約
ルチャブルに知られたら拳が
もし、もう一度その心身に触れていいと言ってもらえたなら、どんなふうに甘やかそうか――とても口には出せない卑猥なことばかりで脳内を埋め尽くしながらも、劣情に駆られるがまま行動に移さぬよう必死に押し殺してきた日々。それが、ようやく解禁される。己が日夜考え抜いてきたあれやこれやを達成するには、到底、一晩では足りない。この初回で何が何でも彼を夢心地にさせ、「次」の約束を取り付けられるように全力を傾けなければ。エロの原動力なめんなよ。
今にも相手の全てをむさぼって食い荒らそうとする、この暴力的な衝動をどうにか優しさの膜で包み隠しながら、ルチャブルに口付けた。
舌の先で味わう、唾液の甘さ。口内の湿った温もり。歯の並び。時折聞こえてくる、色を含んだくぐもった声。少しの欠けもなく記憶の通りで、たまらなくなる。赤裸々に打ち明けてしまえば、この時点で完全に芯が入り、ガッチガチに勃っていた。さすがに早すぎやしないかと思わないでもないが、嬉しいことに、それはルチャブルも同様で、互いに尋常でなく興奮し合っていることがわかり心底安堵する。併せて、こうした性的な接触への嫌悪感が残っていない様子に、密かに胸を撫で下ろした。今まで辛抱させたからとお情けで抱くことを許容されたのではなく、彼にもまた求めてもらえたのだと知れて、高揚する。
相手の一物をそっと握ると、ぶわりと羽が広がった。
雄として手っ取り早く得られる単純な快感だからこそ、反応も如実に表れる。しごくたびに零れ落ちる相手の悩ましげな吐息はあまりに扇情的で、聞いているうちに、時間の経過と比例して己の腰が重くなっていく。
『…俺も、おまえの、…』
掠れた囁きが鼓膜を揺すった。……、…ちょっと待て何だその魅力的な提案は。もちろん本音を言えばめっちゃ触ってほしい、…けど。
『拙者の分は、ナカで果てるときまでとっておく』
くだらんところで見栄を張る。馬鹿だ。虚栄ついでに、気にせず身を委ねているだけでいいとルチャブルに言い聞かせて追い上げる。手の動きをはやめたことでさすがに小鳥も余裕をなくし、息を詰め――痙攣、直後、てのひらに熱が弾けた。
吐精時の少し苦しげな表情が艶っぽくて、これが泣き顔にまで歪んだらたいそう美しかろうといらんことを考えてしまうのだが、そういう、いっそ痛々しいほどの激しい悦楽を伴うひとときは後日に回そう。少なくとも、今夜じゃなくていい。
指先に絡む粘り気や濃厚な雄の臭い、量……全ッ然抜いてなかったんだなというのが否応なく物語られる精液の状態に興奮し、異様にざわつく全神経。自分ですら手を伸ばさなかったところを拙者には触らせてくれるのか、とか、そんな発想で悦に浸ってしまう。我ながら気色悪い。
前がこんな有り様なのだから、後孔は推して知るべしだ。案の定、通常のあるべき器官として閉ざされている。性器ではない部位を、言うならば無理に仕込んで使っていたのだから、手つかずになれば本来の自然な状態に直ろうとするのも当然だ。ゆえに、半端なほぐし方では怪我をさせる。
『時間が掛かりそうだ』
白濁を秘所に塗り込めるようにして指の腹を動かすと、彼はひくりと喉を動かしつつ『だろうな』と返してきた。若干『手数をかけてすまない』的な雰囲気を感じ取るが、何をおっしゃるのやら。全く苦ではない。何なら、「処女」を「二度」貰えるような気さえして、心を弾ませている阿呆である。
『その間、…口付けてくれるか』
乞うてみる。
意外にも、抵抗や照れ隠しはなかった。上から寄せた口元に、そのまま素直に近付いて自分の口を重ねてくる。
終始この調子なので、ふたりして絶え間なく吐き出す荒々しい呼気に熱せられ、季節が冬であることを忘れてしまうほどに巣穴の温度は上昇する一方だ。
これなら何とか、と思えるくらいに柔らかくほどく頃には、双方ともに汗だくになっていた。汗以外にも、己の先走りがだらだらと涎のように垂れているために、さっきからルチャブルの白い羽毛をしとどに濡らしている。
まだ序盤もいいとこなんだが。
どうにかすると事後にすら思える状態に薄く笑って、先端を押し当てた。
『…ルチャブル、』
挿れるぞ。
告げると、こくりと小さな頷きが応えた。
以前とは違い、すんなりと入る感覚がない。自身の粘液もある程度挿入の手助けをしたとはいえ、強引に開くと言った方が近い状況だ。ほぐしたから惨事になっていないだけのことで、これは多少なり痛い思いをさせてしまったかもしれない。蕩けてもらおうと思っていた傍からこれとは情けない限りだ。
『つらくないか』
問えば、『大丈夫だ』との回答。しかし、そのセリフを受けておきながらも待機を選んだ。やがて、おずおずと『動かないのか』と確認が寄越されたが、『馴染むまで待つ』と答えておく。無難な返事だったと思う。
なにせ久方振りだ。肉壁に包まれた時点で既に強烈な快楽がこの身を奔る。絡みついてくる粘膜のぬくさは気持ちいい、が。
形が違う、と、内部の違和感を拾った瞬間――この場にいない
互いに何も言わない。何も訊かない。これからだってそれは変わらない。ただし、何があったのか、それだけは言わずとも分かる。より確実に分かってしまう。この情交によって。
どこかで予想していたことだが、やはり直面すれば冷静ではいられなかった。
ずっと己が独占していたものだ。専用として整えていたものを身勝手に変形させられ、これがどうして怒りを覚えずにいられよう。
さっさと自分のもので上書きしなければ。取り戻さなければ。『馴染むまで待つ』という言動には、そんな意味も込められていた。
『ン、…』
ゆっくりと穿って奥に触れ、行き止まりを探るさなか、漏れ出る嬌声がひとひら。嫌がってはいない。大丈夫だと言っていた先程の言葉は、こちらへの遠慮からくるものではなかったようだ。ならば、構わず食おう。
急激な抽送で快楽を打ちつけるようなことはせず、ただ、明瞭な悦びを得やすい内側の箇所を潰すようにしてじっくりと圧してやった。
『――…ッ‼』
ルチャブルが声にならない悲鳴と共に、弓なりにしなる。そのなまめかしい姿態を目の当たりにして、自ずと喉が鳴る。
嗚呼、これでいい。何もかも快楽で押し流してなかったことにすればいい。また一から気持ちいいことを教え込んで、かつてこちらが置いていかれた理由も、ふたりにとって不都合なものも、法悦の中に溶かし込んで葬り去ってやろう。
『これからしばらくはおまえを毎晩抱くからそのつもりでいろ』
『ッ、…何、言って、…あ、…ぁ…っ!』
『異論はないだろ?』
決めつけて、答えを聞かずに律動を続ける。
他者に触れさせたことを気にしているのなら、何度も抱いて己の色に染め変えてやった方がかえって安心するだろうと、自分本位な理由も追加して、ルチャブルを思うさま堪能した一夜だった。
***
事前に取り決めて抱いたことなんてなかった。
相互何となくその気になれば、とか、こちらの我慢がきかなくなったときに彼が(仕方なさそうに)付き合ってくれる、とか、要するに、いつも場当たり的だった。今回のように「夜になったら絶対に抱く」と明言したのは初めてで、だから、日暮れが近付くにつれてルチャブルが緊張していく様子が手に取るように分かる。どんな顔をしていればいいのか、どんな心構えをしていればいいのか、今更分からなくなったような落ち着きのなさが可愛い。
ぎゅうと抱きすくめると、なおさら硬直している。密着したことで鮮明になる鼓動の速さを指摘したら、怒るだろうか。
『怖いことはしないでござるよ』
『…わかってる』
ぐっと耳元に寄せられた口から『残さず食えよ』と言われたときの、破壊力たるや。なだめるはずが、かえってこちらの方が平常心を奪われてしまう結果となる。
昨日の今日だ。未だ渇きが癒えきっていないところへ、そう煽ってくれるなルチャブル。後から困るのはおまえの方だというのに。
――さて、…今宵はどうやっていやらしい鳴き声を紡ぎだしてやろうか。
惚れた一羽を前に胸を焦がしたままで『当然』と返した己の声は、いやに獰猛な響きを帯びていた。
【 了 】