手分けして食糧を探すのはよくあることだ。
落ち合う場所を定めたあとは、そこからの行動範囲をおおまかに決めて、(時間に関しては完全に感覚任せだが)長々とした活動は控えつつ、たとえ収穫がなくとも途中で戻る…くらいの共通理解があれば互いに不安はない。
ゲッコウガは、木々の間を奔る。
結果は上々だった。特に、ルチャブルの好む実を土産にできることが嬉しい。彼は素直な性格だから、喜ぶ顔も容易く脳裏に浮かんだ。早く戻ろうと急いて、心も浮き立たとうというところだが――こんなときに限って、水を差すようなことが起こったりする。
『 誰か 』
どう考えてもそのあとに「助けて」が省略されている、弱々しい雌の声。
ゲッコウガは、その性格上、救援を無視できるし罪悪感も持たない。このときも、真っ先に『求められる「誰か」が自分である必要はない』と考え、通り過ぎようとした――けれど。
つい、うっかり。
ホントにもーマジでうっかり、ルチャブルのことを思い浮かべてしまった。
脳裏に過らせたが最後、次は、彼ならどうするかという想像が勝手に展開していく。…救いを求める声を聞いた途端に迷いなく助けにいくだろうと、それは考えるまでもなく明らかなことだった。しかも『女や子どもを見捨てるなんて最低だ』と彼に叱られる幻聴すら聞こえてくる始末。うぐ、とゲッコウガはたじろぐ。
なぜ拙者が、と思う。
だが、――ルチャブルの隣にいて恥ずかしくない雄ではありたかった。ので。
心の底から苛ついた舌打ちをしたあと、仕方なく引き返すことにした。
柄にでもないことをしている自覚は十二分にありながらも辺りを捜索すれば、程なくして声の主が見つかった。
一体のブースターだ。人間が狩猟時に用いる網に絡まり、身動きが取れなくなっている。激しくもがいた所為か、網がきつく体に食い込んで彼女を弱らせる一因となっており、もはや牙や爪を使ってどうにかなりそうな単純な話では済まない有様で横たわっていた。しかも、このやつれ具合。いつ人間が回収に来るかしれない心労の中、飲まず食わずで丸一日は経過しているだろうか。
全身で発火できるのだから焼き切ってしまえばよかろうにとも思うのだが、現場は鬱蒼とした森の中だ。ひとたび火種が生まれたあとは海からの強い潮風に煽られて大惨事につながる。そのあたりを考慮した結果、二進も三進も行かずに困り果てていたのだろう。
一旦木の実を置いて近付くと、ブースターは縋るような目を見せた。
『…、……あの、…』
『黙ってろ。動くな』
すげなく吐き捨て、生成した水の刀でがんじがらめの糸を切断していく。白刃を見て一度は怯んだブースターだったが、下手に動けば傷つくのは自分だと分かったのか、終始大人しく身を縮めていた。
あー…めんどくせー…と心の中で百遍くらいは繰り返しつつ、一応は慎重に手を動かして、一本また一本と時間を費やしていく。予定していたよりはずっと帰りが遅くなっているわけだが、ルチャブルは心配してくれているだろうか。こんなときでさえ頭の中のほとんどを小鳥のことでいっぱいにしながら、ゲッコウガは一通りの処置を終えた。
解放されたブースターは、よろめきながらも立ち上がる。…そうか、立てるのか。衰弱している以外に大したことはなさそうだと判断し、ゲッコウガは踵を返した。後ろから追いかけてくる彼女からの礼の言葉など、どうでもいい。呼び止めるような声かけもあった気がするが、今度こそ聞かなかった振りをして、ルチャブルのもとへと駆け出していく。