『どんどんみすぼらしくなってくなあ、おまえ』
ダーテングからの冷やかしに、ドンカラスは分かりやすく苛立ちを見せ、ぎろりと睨み返す。
日頃から外見にかなりの気を遣ってきた彼だからこそ、容姿をからかわれることが殊更に我慢ならなかったようだ。
『うるさいよ。
ただでさえ体力消耗してイライラしてんだからさ、余計なこと言わないでくれるかな』
口調を荒げる間にもぼろぼろと羽が抜け落ち、そのうちの一枚をヤミラミが拾って指先でいじりながら、小首を傾げいている。
『羽が抜けるだけでそんなに疲れるもんなのかよ』
『違ァう!!! 今さら頓痴気なことを言うんじゃない!!!』
別に茶化しでも何でもないヤミラミからの一言にさえ機嫌を損ねて、ドンカラスは口角泡を飛ばす。最近の彼は情緒が不安定で、精神的に落ち着かないことが多い。
『新しい羽根を生やすのに体力を使ってるんだよ!!! 毎年のことだろうが!! オイそこ!いま初めて知ったと言いたげな面を見せるな !!』
『いや知らねーもん、実際。疲れやすいとか』
なあ?とヘルガーに振られ、その場にいたニューラが底意地悪そうに目を細める。
『オレたちにとってはさ、おまえがハゲ散らかす時期だっつー認識しかないんだわ』
『情緒もクソもねェ風物詩だよな』とズルズキンまでも乗っかり、野郎共がゲラゲラと笑い転げている。
ついに頭から湯気を出しかねないほど激昂し、ドンカラスがなりふり構わず詰所内に熱風を見舞ったことで、夏の熱帯夜が極まっていく。ぎゃあぎゃあと騒ぎが広がり阿鼻叫喚――やがては『やめろ熔ける』とキリキザンが静かにキレて、関わった六体の後頭部にもれなく鋼のこぶしを落としていくのだった。
その片隅で、しれっとゲッコウガは体表を水で覆い、熱気の難を逃れている。
よくもまあ飽きもせずにやかましい連中だと一瞥をくれて、さっさとルチャブルの元へ行ってしまおうとおもむろに立ち上がった――そのときだった。
『おまえもさ、夜に行くのは止めてやれよ』
ドンカラスからの、制止。
鉄拳制裁の痛みに呻きながら発せられた声は、当然と言おうか必要以上に刺々しい。鬱陶しく思うも、不本意ながらゲッコウガは振り返った。
『ルチャブルも換羽期なんだし、夜更かしさせない方がいいと思うけどねえ?
仮にも好きだと言うならさ、相手の体調を気にしてやんないのは褒められたことじゃないな』
八つ当たりでこちらを煽るつもりかとゲッコウガはうんざりするのだが、気になる発言ではあった。…彼も換羽期だなんて、そんなことは、…
『腹ン中の虫がおさまらねェからって絡んでくれるなよ、ドンカラス。そのまま行かせてやりゃァよかったのに』
ブラッキーがまるで助け船を出さんばかりの発言をするものの、無論、奴の性格を考えればそんな気を利かせてくれているわけでないことは火を見るよりも明らかだった。
『
『そっか!大事なことを相談されてないってことだな!やーい一方通行~!!』
ブラッキー以上にあっけらかんと地雷を踏んだヤミラミの目に水クナイが命中し、鉱物とぶつかる甲高い音がキィンと弾ける。
『おまえ後から呪ってやるからな!』と喚く声をまるっと無視して、ゲッコウガは闇夜の中へと駆け出していった。