カロス奇譚:ゲッコウガはかく語りき
※参照※
輪廻:清水崇(2005)/キャッチコピー「ようこそ、前世へ」
手持ち無沙汰な夜、「映画でも見ましょうか」と提案する男。
で、まさに本日、怪談(とも呼べぬ陳腐な語り…もとい騙りだった)が絡む詐欺まがいの出来事に出くわしておきながら、選択したジャンルが「ホラー」なのだから本当に性格が悪い(無自覚ブーメラン)。
ソファに集まったわけだが、全員が並んで座るにはやや小さい作りだったからこそ、これ幸いとばかりにルチャブルを背後から抱きすくめて腰を下ろす。
案の定というか、ルチャブルは恥じらって頬を染め、落ち着かない様子だ。しかし、ソファの構造上仕方ないことを理解した彼は、ある程度妥協してなされるがままになってくれた。可愛い。
いつものように隣の男のもとへ行けばいいものを、デデンネがルチャブルの翼にもぐりこんできた点に関しては『おい空気読め』と心の中で毒づくのだが、ルチャブルは何ら気にするふうでもなく彼女を抱えて早速世話を焼いているので、…今回は見逃してやろう。
画面で展開されるのは、「婉曲的な恐怖」で定評のあるカントー映画だった。
直接的に化物が登場するポケウッド的な分かりやすさはないが、「何かがいる」という「予感」によって生理的な恐怖を煽る…という、アレだ。カントー系にありがちで、どうせバッドエンドなんだろうなあとメタ読みしつつ、己の意識のほとんどはルチャブルに注がれている。
このジャンル、どうやら苦手らしい。きっと無意識だろうが、今のルチャブルはぶわりと膨羽しているので、羽の先が頬に当たってくすぐったい。だからといって話の筋に怖がっているというよりは、…何というか、作品全体からゴーストタイプそのものを連想しているのだと思う。格闘技が全く効かない相手なので、根源的な苦手意識が作用しているのだろう。一生懸命視聴している姿と相まって二重に可愛らしいから全然いいんだけれども。
作品の舞台は廃墟と化した宿泊施設で、主役の女優が怪異から逃げ回っている。
とある一室に入って――いや外に逃げろよと思うのだが、女はあろうことか押し入れに隠れてしまった。
あー、詰んだわ。この女終わったわ。袋小路に自分からいく奴があるか馬鹿。見つかるに決まってんだろ。
ここで、押し入れの中で息を殺す女の顔にカメラの焦点が当たり、クローズアップされていく。恐怖にひきつって目を見開く演技はなかなかのものだ。
この間も絶え間なく怪異の足音が近付いてくるし、これから無慈悲に引き戸が開けられるのだろうと分かっていてもなお恐ろしさを感じさせる演出が効いていて、さすがプロが撮っただけのことはあった。昼間のお粗末な創作に対する口直しといったところか。
焦らしに焦らして緊張もフルスロットル、いよいよ押し入れの中が暴かれる――という、その瞬間。
「 わ ! 」
はいはい、出たよ。
やると思ってたわ。
昨今のガキでもやらねーぞというレベルの、クソ野郎による下らない悪戯が炸裂する。しかも、これに引っかかったのがまさかのデデンネだった。勘弁してくれ。
『 きゃああああああッ 』
『『 い゛――ッッ !! 』』
元貴族にあるまじき、しかし聞く者が聞けば愛らしいと思うのかもしれぬ声で絶叫――のみならず、デデンネの持てる最大威力の電撃が惜しげもなく大放出される。
一方のこちらは声も出せぬほどの激痛に苛まれ、ルチャブル諸共散々な目に遭うのだった。
なァにが枯れ尾花だコラ。ビビってんじゃねーぞ。
「効果は抜群だ!」と、いらぬ茶々を挟んでくる阿呆に明確な殺意が湧く。
今夜こそ寝首掻くからな(物理)
念仏唱えて震えて眠れクソが。
ちなみに、実はルチャブルが引っかからなかったことを少々意外に思っていたのでそれとなく訊いてみたら、『おまえが何か仕掛けてくるんじゃないかと思って身構えていた』とのこと。
え、やだ。あんなやつと一緒にしないで(無自覚ブーメラン)
***
見終わってみればやはり救いようのない結末であり、割と精神を削られたらしいデデンネは『あるじ殿は…のぉまる型のはず…』と呟きながら、なんぞ魔除けのつもりでいるのか男の枕元で丸くなっていた。
いやノーマルなわけあるか。よしんばノーマルだったとしてゴースト無効は確かだが、そのノーマル野郎も対ゴーストには暖簾に腕押しなんだぞ。大丈夫か。
『ルチャブルも安心するでござる。悪タイプはゴーストの輩に抜群が取れる相性ゆえ』
『何の話だ。怖いなんて一ッ言も言った覚えはないぞ』
不服そうに申し立てられたのだが、いつになく就寝時にくっついてくるので過剰な萌えの気配に眩暈が生じ、そのまま吐血するかと思った。実際、今も目が冴えて眠れていない。ルチャブルは腕の中で安心しきって寝ているし、それがまたこちらへの信頼を裏付けていて…はー…たまんねェ…って感じ。昂ぶるがため、眠気は一向にやってこなかった。
野郎の暗殺は、またの機会ということで。
今は――拙者だけの