本音:シーツの白にルチャブルの羽の色が映えて、本当に綺麗だ。
煩悩:これエロ抱き枕の構図でよく見るやつ…(言い値で買おう)
定期健康診断を兼ね、今回は例外的にポケモンセンターでの宿泊となっている。
健康管理として必要なこととはいえ、ポケモンが相手となると、多様なタイプや生態、特殊な身体構造などに配慮するため作業が煩雑化しやすく、併せて待ち時間も長くなるのが難点だった。
複合している場合、タイプ1の型に準じて健診を受けることになるが、その点でいけば今回は電気タイプの対象者が多かった所為で、まだデデンネの番が回ってきていない。
「そろそろ呼ばれるはずなんで、待合室に行ってきますね。
この調子だと終わるのは一時間後…かな。ふたりとも、留守番を頼みます」
そう言い置き、デデンネを連れて男が個室を去っていく。
憎たらしいことに、忌々しくもあの野郎とは思考回路が似通っているので、「一時間後」と告げたあたりに含みが持たせてあることを察してしまった。
ルチャブルとふたり、部屋に残していくことが気がかりで「一時間内で終わらないようなあれこれをするなよ」と釘を刺したつもりなのだろう。
…まあ、暗示されたことを見抜いたからといって、シカト一択なわけだが。
ルチャブルは静けさが広がる部屋の中で、今更のようにふたりきりであることに気付いたらしく、はっとした顔をしている。
途端に緊張が伝わってきて、この状況をどうしようもなく意識している様が、愛おしくてならなかった。
『…訊いておきたいことがあるんだが』
意外にも、先に沈黙を破ったのは相手方。
こちらを見ることなく俯いたまま、あぐらを組んで硬直する姿はさながら修行僧のよう。見守るうちに横顔の赤みが濃くなって次第に翼の色に近くなり、このまま炎となって燃えてしまうんじゃないかと危ぶまれるほどだった。よほど恥ずかしいのだろうと、なれば、彼がこれから話そうとしている内容に少し期待してしまう。
『おまえは、…その、…、…シたいと思う、のか。俺と』
はい???
当然では?
ていうかベッドの端に腰掛けて訊いたらいかん話題だろうよ。それ。
そうした煽り要素も何一つ気付いていないんだろうなあと呆れつつ、自分もしれっと隣に座った。
ぎしりと軋むスプリングの音を聞き、つい、やらしー煩悩が湧き上がってくる。
惚れた相手とベッドで隣り合ってるんだぞ。呼吸と同じくらい自然にエロい展開を想像するだろ、雄なら。ここがポケモンセンターだろうが何だろうが「ルチャブルとふたりになれるベッドのある場所」なら所詮はラブホなんで(最低)
卑俗な思惑をひた隠す一方、その手の話題をルチャブルから切りだしてくれたことの意味を、しかと噛みしめる。
キスまでは許容してもらえたし、少なくとも嫌がっているようには見えなかったから安心していたが、その先まで考えてくれていたのなら、…決して己の一方通行ではなく相手もまたこの関係を真剣なものとして受けとめているのだと改めて感じることができて、心からの幸福を覚えずにはいられない。
『そうだな。…許して、もらえるのなら』
がっつきたいところを懸命に抑え、沈着を装って返答した。
こちらが肯定したことで益々ルチャブルは身を固くしているが、それは嫌悪ゆえのことではなく、どうやら上塗りされた羞恥が原因で、そのことにまた一つ、安堵する。
『…抱いてほしいというのなら、俺なりに誠意を尽くそう。
……、おまえが、……俺、を、……抱きたい、なら……』
好きにしろ。
――と、それは最早、囁きと言っていい掠れた声量だった。
たっぷりと時間が経ってから紡がれた結論があまりにいじらしいので胸がいっぱいになってしまい、そっと染まる目元を撫でれば、不意を突かれたように彼の肩が跳ねる。
その初心な反応が可愛らしくて、己の口元が緩んだ。
『無理をするな。投げやりになってほしいわけではないでござる』
『
ルチャブルは腹をくくったように吸って、次の瞬間、吐息と共に一言を見舞ってくる。
『おまえが相手ならいいと言ってるんだ』
――とどめを、刺された気がした。
元から大した強度のなかった理性の糸は、ふつりと、あっけなく切れた。耐えられようはずもなかった。破壊力が桁違いだったのだから。
脳みそが使い物にならなくなったので、熟考もなしに反射で動く。
ためらいなどかなぐり捨てて小鳥をシーツの海に沈め、組み敷くと、ようやく彼と目を合わせることが叶う。見開かれた目の中で琥珀色が鮮やかに煌めいて、惚れ惚れするほど綺麗だった。
『御主にそこまで認めてもらえたこと、まずは光栄に思う』
彼の小さな口のふちを、ゆっくりとなぞった。
『拙者は、…御主と口付けを交わせただけでも十分に幸せだった。それなのに』
いま以上を求めてもいいのか。
問えば、『もう二度は言わない』と照れ隠しで乱雑に返されて、そんな態度諸共を包み込んで掻き抱きたい気分になる。
『互いのためにはっきりさせておこうか。
…オレは、おまえを抱きたい。もっと、…深く、奥まで』
挿れたときはたぶんこのあたりまで入ってるんだろうなと思いながら相手の腹に手を置くと、ひゅ、と息を呑む音が聞こえる。
そのこわばりを憐れと思うより先に高揚を覚えるのだから、いよいよ始末に負えない。
『一応尋ねるが、…やり方は?』
『…上っ面のことしか知らない。経験なんて皆無だ』
『そうか。…なら、おまえには多少なり負担をかけることになるぞ。すまん』
未経験と知れてバカみたいに胸を撫で下ろした己を自覚する。我ながらきッしょい。別に処女厨なんてくだらないこだわりを持っているつもりはないが、ルチャブルに限っては話が別だ。これで経験済みだったら元の相手を探し出して息の根を止めるまで気が済まなかっただろうから、朗報ということにしておこう。
『慣れてるんだな』
『まさか。おまえと本懐を遂げたくて色々と知識を仕入れていただけだ』
嘘だけど。
慣れていますとも。この上ないほどに。
もちろん今世の実態だけを取り上げれば童貞に違いないのだが、ほとんどノープロに等しい。
なにせ実質、千回くらい抱いてるしな。おまえのことは。
++++++++++
それがずっと昔から当たり前だったみたいな顔をして、平然と、こともなげに舌を挿れてくる。
普段から首元に巻かれているものだから見慣れているはずなのに、口の中に居座るとなると、それは全く知らない物体へと早変わりする。たとえば手で触れて確かめるのではなく、口の中で、料理を味わうみたいに、その厚さや弾力を教えられる日がこようとは思ってもみなかった。
別に美味しいものでもなんでもないのに勝手に唾液が溢れてきて、ゲッコウガが少しでも舌を動かすと水音がして、そこから何かどうしようもなく官能的なものが生じている気がして、心臓が痛くなる。
うごめく肉塊を通じて全てを調べ尽くすようにキスをしてくるから、口を重ねて繋がり合っている事実をまざまざと突きつけられて、全身にぶわりと熱が奔った。
こんなに踏み込まれても、…嫌じゃない、から、困ってる。
森で生きていた頃に仲間として親しくしていた同性の連中を思い浮かべてみても、こんなふうに口付けるなんて到底無理で、やはり根本的には同性に興味がない自分の指向も何ら変わってはいないのに、…どうして、こいつ、だけは、…平気なのか、分からない。
キスだけで既に相当艶っぽく思えていたのに、これ以上に未知の伸びしろがあるとでも言うのだろうか。だったら、…そのとき、脳が沸騰した挙句に心臓が壊れて自分は死ぬんだろうなと思う。
こうして押し倒されるなんて初めてのことで、人間が使う寝具は柔らかいから少し心もとなくて、背中から引きずり込まれて沈んでいきそうな気がした。今は口の中を這っている舌が、今後、おそらくは別の箇所にも触れるはずで、そして、――この、紺青色した雄に、いつか、でも間違いなく抱かれることを意識したら、…こいつは同じく雄として育ちきっている野郎の中へ子種を仕込むように欲を吐き出す気でいるんだろうかと想像したら、…もう、ダメだった。
『ん、――ッ !!! 』
口を塞がれたままだったので、発声しようがくぐもった音になる。
大して芯が入っていたわけでもない、反りの緩いそれを、しかし彼は見逃してはくれなかった。それどころか他者から触られたこともない部位を遠慮もなしに直接握りこんでくるので、その刺激に、思わず腰が浮く。
ゲッコウガの顔が離れていった際、突然のことで混乱するこちらとは対照的に、相手は余裕綽々と、どこか狡猾にも見える表情で舌なめずりを見せた。
『おまえ、…何して、…』
『興奮してくれたのかと思ったら、…嬉しくてな』
解放される気配がないばかりか明らかに吐精を促すための動きをしてくるから、分かりやすく単純なその快感を、軽率に迎え入れてしまう。
『あ、ぁ…ッ!』
『…相変わらず、…おまえの声は甘いな…』
相変わらずも甘いもあるものかと憎まれ口をたたく暇もなく翻弄されるさなか、ぐっと下腹部に乗り上げてくるものがあった。
ちらと視線を遣っただけでも分かってしまう欲望の兆し。大きさ。相応しい質量。蔦のように細かな血管が浮き上がる怒張に、相手の狂熱が如実に現れている。
体格の差分だと分かってはいても、ひくりと喉が上下した。
こちらのどこに興奮しているのか全く理解できないが、こうして実際に欲情されている証だとか、…求められている、こと、だとか、気恥ずかしいものがいっぺんに押し寄せてきて、声が上ずる。
『っ、…おまえ、それは…、…無理だろ…』
『無理じゃない。ルチャブルなら大丈夫だ』
『…何だそのあやふやな根拠は…』
彼らしくもない、いい加減な返事。まともな説明になっていないが何故かゲッコウガの顔は自信に満ちており、悦に浸っている。
『なにも今すぐ挿れるつもりはない。…だが、いずれ、…オレがおまえのナカにこれをうずめる気でいることは承知してもらおうか』
『 ! 』
存分に知らしめるように、一緒くたにされる。
ふたりして裏筋を重ねて雄茎を添わせる格好となり、ゲッコウガの大きなてのひらに包まれて、抵抗する間もなく上下にしごかれた。
『待っ、…ッ、ぅ、あ、…ァああっ!』
『そのまま素直に鳴いてろ。…オレも勃ちすぎて痛い。抜く』
とんでもないことを言い放って、彼は、急速な追い上げにかかる。
互いの先からとろとろと蜜がこぼれ、ぬめりが広がって、相手の動きがますます滑らかになっていく。
自分で処理するのとはわけが違う、知る由もない快楽が、あらゆる神経に牙を立ててきた。情けない声を聞かれることが恥ずかしいのに、裏腹に口は開きっぱなしになって、自身のものだとは認めたくない、耳を塞ぎたいような、媚びた喘ぎが漏れ出てくる。不随意で目の表面に潤む膜が張り、水の中にいるみたいに視界がぼやけたとき、…己の聴覚が、ク、と相手の喉が鳴る音を拾った。
『そんなに、…泣きそうな顔を見せるな。
――まだ慣らしてねーのにぶち込みたくなるだろうが』
乱暴な脅しをかけられた、刹那。
口付けというより攻撃的に、要は口に噛みつかれた為、ふたり分の呼吸も叫びもどこかに消えてしまった。
身体が痙攣し、直後、己の腹から胸にかけて飛び散っていく倍増しの白濁――熱で蒸されたのか、顔を背けてしまいたいほどのいやらしい性臭が立ち昇る。
『…洗うか』
ゲッコウガが起き上がる。
先程までの荒々しさが嘘のように凪いだ薄紅の目で、労わるように視線を向けてきた。ついでに、生温かいものを羽根に付着させたこちらを容易くかかえて横抱きにしたまま、歩きだす。
あまりに過保護だ。介抱でもあるまいし。
『…、…俺も自力で動けるんだが』
『しかし、…御主が立てば床を汚すでござるよ。…まあ、なんだ、…ふたり分だぞ。量が量だからな』
『…っ』
盛り上がりの最高潮を過ぎたあとは、いつでも、雄特有の虚無と冷静が現実を思い出させる。
浮かされているうちはある程度気にせずにいられた慚愧の念が突如として膨れ上がり、閉口するほかなかった。
++++++++++
コウガくんが大人しく言うこときくとは思えないんだよなあ。
健診だって結局一時間以上かかった…つまりは、僕が不在にしている間でそれなりにヤることヤれちゃうわけで。
部屋のドアを開けたとき、そこでは何が待ち受けているのだろう。
「何かが始まる寸前」も嫌だし、「最強〇×計画実施中」も絶ッッッ対に嫌だし、「明らかに事後という気怠い感じ」も嫌だ。何もかもが嫌だ。頼みの綱はルチャさんの良識ではあるんだけど、彼は割かしちょろくていらっしゃいますので…(失礼)
いま僕の右肩には姫が乗ってるからさあ…ダメじゃない?ますらをの局部とか結合部とか見えちゃってたら終了のお知らせじゃない?エクストリームセクシャルハラスメントじゃない?
やっぱりあいつらを残してきたのは失敗だったなと後悔しつつ、ドアの前で決意の深呼吸をキめて――ひと思いにばばーんと個室に踏み込む。
結論から言おう。
野郎共はふたり揃ってベッドの上で眠りこけていた。色気もくそもない適当きわまるその寝相…マ~ジで、ほっとした。
その安心や脱力たるや…もう、なんか、アレよ。悪夢から無事に目覚めたときの感じに近い。
なァんだ結局寝落ちかよわはははは、と、僕の心は持ち直す。健全で何よりですわ、うん。
待ちくたびれ、慣れない健診に疲れたということもあってか、ちゃっかりふたりの間に割り込んで姫も寝ちゃったし。
あらららら、…トリオで仲良く寝ちゃうの可愛くなァい?こうして見てみれば、なんとあのコウガくんさえ許容範囲に入ってくる。黙ってればツラはいいからな、こいつも。
とりあえず「最悪のタイミングで鉢合わせる」という事態に陥らなかったことがやたらと嬉しくて、僕はご機嫌に、スマホで写真を撮っておくのだった。
いい感じに静かだし、僕は新聞を読んだりしながら、…そのうち、ふと思いたってトイレへと席を立った。
こういう、宿泊がメインではない施設にはありがちなユニットバスの中、すっかり油断していた所為で、僕は用を足すどころではなくなるんである。
んんんー???
え、待って待って待って待って。怖い怖い怖い怖い。何?ここを使う理由って何?どゆこと?
浴槽が濡れてるし?シャワーヘッドも濡れてるし?何なら床もすげー濡れてるんですが?これシャワーカーテンひいてねーなド素人め。
いやホントね、あと少しでいいから隠す努力をしよう?集団生活するなら細やかな配慮って大事よ?大方コウガくんが十八番の「めんどくせ」を発動させた結果だろうけれども。
ホテルと違ってセミダブルでもないし、ツインでもないし、ベッドは一つしかないし…仮に僕が想像している内容と大差ないことが行われた後なら、…せめてシーツを替えたい…が、難しいだろうなあ。取替え理由はなんて言えばいいわけ。僕はジョーイさんにセクハラするつもりも毛頭ないのだ。紳士だから。
…、…まあ、いいや…。
今夜はソファで眠ろう。あったかい布団はトリオに譲るわ。
僕ってば度量が広いのよね。麗しい自己犠牲精神。博愛の心。なんて出来物なのかしら。我ながら理解あるトレーナーだと思う…でしょ?
だから、…だからさ。たまには誰か褒めてくれてもいいのよ!(切実)