放課後の校庭で 課外授業な愛を知る/相対性理論『地獄先生』
「先生、タナトスって何のことか分かる?」
「…どうしたんです、急に。ダーク・ファンタジーでも読みましたか」
ダーク?
つまり、タナトスって、怖いものなんだろうか。
「本を読んだんじゃなくて、歌の話なの。
好きな曲があるんだけど、それを歌ってるアーティストさんがね、インタビューで言ってたんだ。『タナトスの誘惑』って小説を参考にして作った歌なんだって。だから、何のことかな、って」
自分で調べることもできたけど、先生と話すきっかけが欲しくて、私は恥ずかしげもなく無知をさらしていく。
先生は少し考えて、やがて慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「訊かれたことですから、そのまま答えましょう。
タナトスとは、…神話における『死神』。そこから転じて、精神分析用語では『死への
「死神…」
アップテンポでキャッチーなメロディーが好きだったから、「死」なんて、そんなドキッとさせるようなモチーフがあるなんて思いもよらなかった。
「がっかりさせてしまったかな」
気遣わしげな先生の声に、私は慌ててしまう。
「そんなことないよ!ちょっとびっくりしただけ」
「死にまつわるものだからといって、作品にケチをつける気ではないんですよ。
数あるテーマの中から選び出し、それを創作物として昇華する営みは、何にせよ素晴らしい。君が好きだと言うなら、魅力ある楽曲なのでしょう。その気持ちこそを大事にしてくださいね」
何となく、みんな、「死」って話題はタブーな感じだから、こんなふうに、今、雑談の中で扱っていることを不思議に思う。
「死って、いけないことだと思う?」
「…忌避される側面があるのは事実ですよ。
しかし、『いけないこと』ではないと思います。昔みた映画で『自分がいつか死ぬことを知ってるということは、我々が天から授かった素晴らしい贈り物なのだ』と、そんな台詞がありました。やけに印象に残っている。
生まれた以上はいつか死ぬことも決まっているわけですが、…だからこそ、どのように生きていくのか考えることはとても大切です。終わりを意識して、今なにをなすべきか思いを巡らせてみることも、時には必要と言えましょう」
「…なんか、…先生が言ってること、難しい」
「あえて難しく話しました。よく考えてください」
先生は、答えを知っている側の余裕なのか、悪戯っぽい笑顔になって私の反応を楽しんでいる。
「そういえば、…君、知ってますか。
死神は、それを見る者にとって一番魅力的に感じる姿をしているらしい。…突然、君の目の前に理想の相手が現れたら、ご用心を」
「そうなの?
だったら、先生、私の死神になっちゃうね」
何でだろう。
一矢報いた…って、感じ。
先生はポカンとしてて、それは、なかなか見れないレアな表情だったと思う。
「自分が何を言ったのか分かってます?」
「え?」
失礼なことだったかな。
死神呼ばわりだもんね。
謝ろうとしたけど、先生は可笑しそうに目元を緩めていたから、だぶん大丈夫なんだろうと思って、私もつられて、えへへと笑っておく。
「君、随分とおしゃまさんですね」
「何それ。どういうこと?」
「…、…辞書でもひいてみなさい。次の授業は調べ学習で図書室へ行くんでしょう?ちょうどいいじゃないですか」
そのとおり。
もちょっとお喋りしていたかったけど、そろそろ移動しなきゃ。
私は「またね!」と言って、手を振ってみせる。
すると、先生も振り返してくれた。「またお話しましょうね」なんて、いつも通り、社交辞令まるわかりのトーンで。
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【おしゃま】
[名・形動]
子供がませた言動をすること。また、そのさまや、そういう子供。
多く、女の子についていう。