※この作品はR-18です。

雨風奇譚   作:はたた

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【 概要 】
 放課後の校庭で 課外授業な愛を知る/相対性理論『地獄先生』


間奏:Ⅵ

「先生、タナトスって何のことか分かる?」

「…どうしたんです、急に。ダーク・ファンタジーでも読みましたか」

 ダーク?

 つまり、タナトスって、怖いものなんだろうか。

「本を読んだんじゃなくて、歌の話なの。

 好きな曲があるんだけど、それを歌ってるアーティストさんがね、インタビューで言ってたんだ。『タナトスの誘惑』って小説を参考にして作った歌なんだって。だから、何のことかな、って」

 自分で調べることもできたけど、先生と話すきっかけが欲しくて、私は恥ずかしげもなく無知をさらしていく。

 先生は少し考えて、やがて慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。

「訊かれたことですから、そのまま答えましょう。

 タナトスとは、…神話における『死神』。そこから転じて、精神分析用語では『死への欲動(ゆうわく)』を意味するようになりました」

「死神…」

 アップテンポでキャッチーなメロディーが好きだったから、「死」なんて、そんなドキッとさせるようなモチーフがあるなんて思いもよらなかった。

「がっかりさせてしまったかな」

 気遣わしげな先生の声に、私は慌ててしまう。

「そんなことないよ!ちょっとびっくりしただけ」

「死にまつわるものだからといって、作品にケチをつける気ではないんですよ。

 数あるテーマの中から選び出し、それを創作物として昇華する営みは、何にせよ素晴らしい。君が好きだと言うなら、魅力ある楽曲なのでしょう。その気持ちこそを大事にしてくださいね」

 何となく、みんな、「死」って話題はタブーな感じだから、こんなふうに、今、雑談の中で扱っていることを不思議に思う。

「死って、いけないことだと思う?」

「…忌避される側面があるのは事実ですよ。

 しかし、『いけないこと』ではないと思います。昔みた映画で『自分がいつか死ぬことを知ってるということは、我々が天から授かった素晴らしい贈り物なのだ』と、そんな台詞がありました。やけに印象に残っている。

 生まれた以上はいつか死ぬことも決まっているわけですが、…だからこそ、どのように生きていくのか考えることはとても大切です。終わりを意識して、今なにをなすべきか思いを巡らせてみることも、時には必要と言えましょう」

「…なんか、…先生が言ってること、難しい」

「あえて難しく話しました。よく考えてください」

 先生は、答えを知っている側の余裕なのか、悪戯っぽい笑顔になって私の反応を楽しんでいる。

「そういえば、…君、知ってますか。

 死神は、それを見る者にとって一番魅力的に感じる姿をしているらしい。…突然、君の目の前に理想の相手が現れたら、ご用心を」

「そうなの?

 だったら、先生、私の死神になっちゃうね」

 

 何でだろう。

 一矢報いた…って、感じ。

 先生はポカンとしてて、それは、なかなか見れないレアな表情だったと思う。

 

「自分が何を言ったのか分かってます?」

「え?」

 失礼なことだったかな。

 死神呼ばわりだもんね。

 謝ろうとしたけど、先生は可笑しそうに目元を緩めていたから、だぶん大丈夫なんだろうと思って、私もつられて、えへへと笑っておく。

「君、随分とおしゃまさんですね」

「何それ。どういうこと?」

「…、…辞書でもひいてみなさい。次の授業は調べ学習で図書室へ行くんでしょう?ちょうどいいじゃないですか」

 

 そのとおり。

 もちょっとお喋りしていたかったけど、そろそろ移動しなきゃ。

 

 私は「またね!」と言って、手を振ってみせる。

 すると、先生も振り返してくれた。「またお話しましょうね」なんて、いつも通り、社交辞令まるわかりのトーンで。

 

 

***

 

 

【おしゃま】

[名・形動]

 子供がませた言動をすること。また、そのさまや、そういう子供。

 多く、女の子についていう。

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