自分より少し背丈の低い男の子に手慣れた動きで車椅子から支えられ、僕…柊ねむはベッドの上に横たえられる。
「……ありがとう、まーくんは力持ちだね」
「別に…こんなの普通だし」
「前より筋力が上がってきたんじゃないかな?」
「…そうかも」
「いいよ、おいで」
「ん…」
準備の完了を意味する笑みを浮かべ、僕は手を広げて弟を促す。
弟は気まずそうに目を泳がせながら僕の上に覆い被さり、きゅっと抱きついてきた。
「今日はお母さんの帰りが遅くなるようだから、ゆっくりできるよ」
弟の頭を撫でながら耳元で呟くと、「わかってる」と返され、僕の首筋に唇を這わせ、吸い付いてくる。
その息遣いは次第に激しくなり、小さな手が僕の乳房を撫で、小さな口が乳首を包み込む。
快感に身を震わせながら、僕は弟の頭を抱え、撫で続けた。
弟と今のような関係になってもう数ヶ月が経つ。
きっかけは、両親がいない時に下の世話を頼んでいた弟が僕の身体に興味を持ち始めたこと。
介護で僕のパンツを脱がせ便座に座らせる時の弟の顔の紅潮や手の動きが、回を増すごとに情欲を含むものになっていくことに僕は気付いていた。
実の弟が自分に対して劣情を抱いているのだから、普通なら嫌悪して然るべきなのかもしれない。
でも僕の頭に浮かんだのは嫌悪とは違った感情だった。
魔法少女になる前の、入院していた頃から家族に対して疎外感を覚えていた僕は、邪な気持ちとはいえ家族が自分を見てくれていることに喜びを感じてしまっていた。
もっと僕を見てほしい……自分の中の子供らしい欲望に負け、僕は実の弟を受け入れ、誘惑した。
それからというもの、僕たちは両親がいない時を見計らって互いを求め合うようになった。
「んぁ…、はっ……、お姉…ちゃん…」
「もっと力を抜いたほうがいいよ」
弟の小さな陰茎を手のひらで包み込み、優しく上下に動かす。
時折亀頭や裏筋を弄って緩急をつけると、弟は声を漏らして僕の身体にしなだれかかってきた。
僕はこの瞬間が堪らなく愛おしい。
普段僕に対して他人のように振る舞っている弟が、すべてを晒して僕に甘えてくれるから。
この瞬間だけ、僕たちは普通の姉弟でいられるような気がしていた。
気分が高揚した僕は、おもむろに弟の陰茎に顔を近付けようとする。
「え、ちょっ…、何するの…?」
「むふっ、これはね、フェラチオっていうんだよ」
「ふぇ…ふぇらち…?」
「相手の男性器を口や舌で刺激するオーラルセックスの一種だよ。僕も実際に経験するのは初めてだけど…」
「それって…これをお姉ちゃんの口に入れるってこと…?」
「そうなるかな。やり方は事前に調べてきたから、まーくんは何も心配しなくていいよ」
そう弟に微笑みかけ、僕は弟の陰茎に向き直る。
「…やらなくていい」
弟の制止も耳に入らず、僕は口を開け弟の陰茎を口に含もうとする。その時……
「いいって!!」
突如上げられた弟の叫びに威圧され、僕は弟から離れた。
「あ…、お姉ちゃんごめ…」
「…いいよ、僕のほうこそごめんね。いきなりのことで怖かったよね」
「…っ」
弟に拒否された僕は、どこか物悲しさを覚えながらも弟を労り、抱きしめる。
しばらく抱き合っていた後、僕は静かに呟いた。
「…そろそろ、する?」
「…うん」
弟に手伝ってもらって再び仰向けになった僕。
その上に弟がまたがり、いつもように僕の股を拡げ、そこに陰茎を挟ませる。
いわゆる素股の体勢だ。
「ねえ、挿れなくていいの?」
「…いい」
いつもこれだ。
最後の行為に差し掛かる時、僕はいつも心に虚しさを感じていた。
弟は、決して僕の性器に挿入しようとしない。
それは弟自身が未知なる行為に恐怖心を抱いているからなのか、それとも僕の身体を気遣ってくれているからか。
その両方とも正解なんだろう。
でも、きっと一番の理由は……僕が嫌いだから。
入院していた時から、弟にとって僕はただの他人で、たまにお母さんと会いに行く病弱な女の子でしかないことは自覚していた。
そんな子がある日突然退院して家に入ってきたと思ったら、今度は足が動かなくなって家族全員で介護をさせられる。
こんなの嫌いになって当然だ。
仕方なく性処理の道具にはできても弟は僕の粘膜になんて触れたくない。
本当は僕そのものにだって触れたくもないんだろう。
こみ上げるものを我慢し、僕は弟に努めて優しく言葉を掛ける。
「……うん、わかった。こっちは準備完了だからいつでも動いていいよ」
「うん…」
「それと、僕の足のことは何も気にしなくていいからね。だって…」
「僕の足はもう何の痛みも感じないから」
そう呟いた瞬間、部屋の空気がピリッとひりつく感覚がした。
暫しの沈黙の後、弟が声を震わせながら言葉を発した。
「なんでそんなこと言うんだよ…」
「え…?」
僕の頬に水滴が滴る。
弟は、唇をぎゅっと結んで泣いていた……
ずっとお姉ちゃんが嫌いだった
俺から親の注目をぜんぶ奪っていくお姉ちゃんが嫌いだった
国語のテストで90点を取った時も、跳び箱の6段を飛べた時も、褒めてくれたのは一瞬だけ
残りの時間は全部お姉ちゃんのこと
「どうやったら病院のねむが元気になってくれるか」とか「仕事でしばらく病院に行けてなくて寂しがってないだろうか」とか
両親の頭の中にはいつもお姉ちゃんのことしか無かった
お姉ちゃんと話す時間が嫌いだった
たまに病院に顔を出すと、気恥ずかしくて何も言えない俺に優しく声を掛けてくれる
本当は寂しくて堪らないのに、それを隠して俺やお母さんと楽しげに話して
でも帰り際、お母さんが病室の扉を閉める一瞬にだけ、ちょっぴり寂しそうな顔を見せるお姉ちゃんが嫌いだった
家にいるお姉ちゃんが嫌いだった
退院したと思ったら毎日門限ギリギリまでどこかに出掛けてて
それなのに俺とお母さんが仲良く話してるところを見るとふっと哀しそうな顔をする
そんな面倒くさいお姉ちゃんが嫌いだった
車椅子のお姉ちゃんが嫌いだった
退院してやっと外の世界で元気に走り回れるっていうのに、今度はその足が動かない
まだ退院してちょっとしか経ってないのに、これからなのに
そんな理不尽なお姉ちゃんの身体が嫌いだった
両親に介護してもらう時の申し訳なさそうな顔が、俺が介護を手伝う時の一層悲しそうな顔が、嫌いで堪らなかった
ある頃から、お姉ちゃんの介護をしているうちに、自分の中によくわからない気持ちが芽生えるようになった
あんなに嫌いだったお姉ちゃんに触れたい…、その気持ちはどんどん大きくなっていった
ふと、お姉ちゃんと目が合った
お姉ちゃんは、俺のすべてを見抜いたような目をしていた
怒られる…思わず身をすくめた俺に、お姉ちゃんは意外な反応を見せた
お姉ちゃんは少し気恥ずかしそうに、でもすごく嬉しそうで、何かに救われたような、そんな顔で俺に微笑みかけてくれた
その笑顔を見た瞬間、俺は嫌いなはずのお姉ちゃんを、初めて守ってやりたいと思った――
「なんでそんなこと言うんだよ…」
「え…?」
「姉ちゃんいっつもそうじゃんか!いっつも人のことばっか心配してさ!自分の身体なんかどうでもいいみたいに言ってさ!」
「まー…くん…?」
「オレのことばっか考えんなよ!もっと自分のこと考えろよ!」
「……」
弟は、嫌いなはずの私のために泣いていた。
「まーくん、僕のこと嫌いじゃないの…?」
「っ…!…嫌いだったら…っ、こんなことしないよ…!」
あぁ、僕は馬鹿だ。
勝手な妄想で勝手に傷付いて、弟のことをちゃんと見ようともしなかった。
弟は、まーくんは、こんなにも僕のことを見てくれていたのに。
涙で目が滲む。
「うん…そうだよね…。ごめんね、僕まーくんの気持ち何も分かってなかった…」
「オレじゃなくて姉ちゃんの気持ち考えろよ…」
「むふっ…確かにその通りだね……、これからはそうさせてもらうよ…」
涙を拭い、弟をまっすぐ見つめる。
「じゃあ…これからは目一杯動いていいよ。まーくんに気持ちよくなってもらうことが、僕にとっての至上の幸福だからね」
「ぐすっ…わかった。姉ちゃんも苦しかったら言えよな…」
愛情の確認をしあった後、弟が私の上でゆっくりと動きだす。
互いの性器が擦れ、粘膜の跳ねる音が部屋に響く。
腰の動きは徐々に速度を上げ、そこから生じる快感が僕たちの脳内を犯す。
弟が僕の上で喘ぐ。その声を聞いて僕は満たされ、弟の背中に両手を回し、悦びを伝えるかのように目一杯抱きしめる。
今にも快楽が頂点に達しようという時、僕は弟の耳元で甘く囁く。
「まーくん…っ、お願い、聞いてもらえるかな…」
「はぁ、はぁ、なに…?」
「まーくんと一緒に絶頂したい…」
「ん…いいよ……はぁっ…、姉ちゃん…好き…」
「僕も好きだよ……ずーっと昔からね……」
固く抱きしめ合った僕たちの身体がガクガクと震える。
これまでの行為とは比べ物にならないほどの快楽が身体中に満ちる。
この日、僕たちは初めて本当の意味で繋がれた気がした――
「まーくんが僕の中に挿入しないのって、僕に気を使ってるからでしょ」
「え…」
並んでベッドの上に寝転びながら、僕はかねてからの疑問を口にする。
弟と心を通わせた今なら、弟が何を心配していたかはっきりと分かる。
「挿入したら僕が痛がるって思ってるんじゃないの?」
「うん…だってあんなのアソコに入れるなんて姉ちゃん絶対痛いに決まってるし、入れたら赤ちゃんできるかもしれないんでしょ?」
不安がる弟に、僕は諭すように言葉を紡ぐ。
「個人差もあるけど、痛いのは最初の数回だけで慣れると普通に触れるよりも強い快感を得ることができるんだよ。それに、まーくんはまだ精通してないから赤ちゃんはできないよ」
「え?そうなの?」
「むふっ、もう少し保健体育の勉強をしたほうがいいね」
「それに……僕もまーくんと繋がりたいから、挿入してくれると…嬉しいかな」
「…っ! うん…じゃあ、今度ね」
「うん、今度ね」
照れる弟が愛おしい。
そんな弟を見ていると、急に弟がモジモジしながら、こう呟いた。
「姉ちゃん……ちゅー、してもいい?」
弟がモジモジしながら聞いてきた。
そういえば、今までキスはしたことがなかったな。
てっきり僕とはしたくないのかと思ってたけど…。
「うん、いいよ」
身体を軽く起こし、瞳を閉じる。
少しの間があって、僕の唇に柔らかい感触がした。
「んっ…、…へへっ」
唇を離した弟が恥ずかしそうに笑う。
そんな弟を見ていると、僕の中の情欲が再び沸き上がってきた。
もっとまーくんに触れたい…
「それだけでいいの?」
「え?…んんっ!」
不意を突いて弟に口付けし、舌を侵入させる。
驚いて引こうとする弟の肩を掴み、弟の口腔で夢中になって舌を暴れさせる。
テクニックなんて何もない、がっつくようなキス。
唇を離すと、目をぱちくりさせて僕を凝視する弟。
その光景を見て、僕は自分の顔が真っ赤になるのを自覚しながら、照れ笑いをし、呟いた。
「今度は……ちゅーの勉強もしないとね…」
呟いた言葉の恥ずかしさに気付き僕はさらに顔を赤らめ、それにつられて弟の顔も真っ赤に染まる。
茹でダコのようになった自分たちがなんだかとてもおかしくて、二人して吹き出した。
あぁ、僕は孤独なんかじゃなかった。
こんなにも僕のことを気にかけて、慕ってくれる弟がいる。
足は動かなくなったけど、これだけで今の僕には充分すぎる幸福だよ…
弟の笑顔を見てしみじみとそう想いながら、夕陽が優しく差し込むベッドの中で、僕たち二人はいつまでも笑いあっていた。