「「かんぱーい!」」
「んくっ…んく……ぷはーっ!あーっ、うまいっ!最高!」
「ふふっ、レナちゃん、おじさんみたい…」
お祝い事の日に飲むビールは格別だ、と言わんばかりに喉に流し込むレナちゃん。
私はそれに苦笑しながら、ちびちびと口に運び、独特の苦味を楽しむ。
「いろはもビールイケるようになったのね。前は甘いチューハイしか飲めなかったのに」
「前は苦くて飲めなかったけど、最近は美味しいって思えるようになったんだよね」
「いいじゃない。これでいろはも大人の仲間入りね」
「えへへ…今日はビールに合うお料理を作ってみたの。枝豆のペペロンチーノ風」
「…んっ、美味しい!これはビールに合うわ…」
レナちゃんの太鼓判に安心して、私はレナちゃんが担当したカルボナーラを口に運ぶ。
「ん~っ、このカルボナーラ、味はしっかりしてるのに食べやすくて美味しい!」
「でしょ?この前会社の人に作り方教えてもらったのよ。頼んで正解だったわ」
今日は私たちの記念日。
なんの記念日かというと…
七年前、神浜市立大学に進学した私。
大学で右も左も分からずオロオロしてた私を助けてくれたのは、同じく大学へ進学したレナちゃんだった。
元々、中学高校でも同じクラスでそこそこ仲が良かった私たちは、大学生活のなかでさらに急速に距離を縮めていった。
私とレナちゃんって、人見知りなところとか、意外と頑固なところとかが似ていて、結構話が合うんだよね。
それから時間は進んで大学四年生の頃、就職も決まってそろそろ私たちも自立して住む場所を探さないと…って話をしていたら、レナちゃんが…
「…あのさ、この部屋……二人で借りたら安く済むと思うんだけど…」
「え?…二人って…?」
「…だから、レナといろはでこの部屋借りたらさ、安く済むんじゃないかなって…思うんだけど…」
「……!!」
「…やっぱ今のナシ!忘れて!」
「ううん、待って!それってルームシェアするってこと…!?」
「…んーと……レナたち大学で結構仲良くやってきたじゃない?二人でなら、この先も楽しくやってけるかなって思っただけ…もちろん、いろはがダメなら全然…」
「…! ダメじゃない!全然いいよっ!私もレナちゃんとルームシェアしたい!」
こうして私たちは大学卒業と同時にルームシェアを始めて、今日でちょうど三年目。
今日は二人のルームシェア記念日なんだ!
「最近みかづき荘のメンバーとは連絡取ってるの?」
テーブルの料理をつつきながらレナちゃんが質問を投げ掛けてきた。
「うん、みんな元気にやってるみたいだよ。鶴乃ちゃんとフェリシアちゃんは万々歳で新メニューの開発中、さなちゃんは那由他ちゃんのお父さんに助けてもらいながら絵本を描いてて、やちよさんは今度イタリアの有名デザイナーとコラボするんだって」
「へえ~、みんな色々頑張ってんのね」
「またみんなで集まりたいなあ……あっ、レナちゃん…これ知ってる…?」
「ん?なになに?」
レナちゃんの驚く顔を想像しながら小声で囁く。
「私たちの弟妹が、今度結婚するみたいです」
「…ウッソ!?マジで!?」
予想通りのびっくり顔に苦笑しながら話を続ける。
「この前私の実家に二人が挨拶に来てね。その時に聞いたの」
「…アイツ、私には何にも言ってこないのに…」
「『姉ちゃんに言うとうるさいから伝えるのはもうちょっと後でいいかな』だって。たぶん恥ずかしがってるだけだと思うよ」
「はあ…なんで姉のレナよりあんたのほうが弟に詳しいのよ…」
「あはは…」
「まあ、弟とういちゃんが幸せならぁ?レナはそれでいいけどぉ?…はあ…しかし二人が結婚ねえ…」
そして話は鉄板の恋バナへ…
「な~んでレナたちには浮いた話の一つもないのよ!」
「あはは…長く続かないよね、私たち…」
私もレナちゃんも、男の人とのお付き合いはこれまでに何度か経験してる。
でも、私たちは二人とも我の強いところがあって、最初は良いけどだんだん相手の人が疲れてきて愛想を尽かされちゃう…っていうのが定番のパターンなんだよね…。
「かえでは結婚、ももこも初恋だった人と順調だって言うのにさぁ」
「かえでちゃんは結婚早かったよね」
レナちゃん、かえでちゃん、ももこさんは今でもたまに3人で集まるくらいの仲良しらしい。
レナちゃんとかえでちゃんは今でもたまに喧嘩をするけど、いつも最後はかえでちゃんに
「ふゆぅ…だからレナちゃんは彼氏と長続きしないんだよ」って言われてレナちゃんが言い返せなくなって終わるんだって。
だからレナちゃんも対抗意識を燃やしてるのかな…
でも…
「でもね…私は別に結婚できなくてもいいかなって思うんだ」
「なんでよ」
「だって、結婚したらルームシェアが終わっちゃうでしょ?」
「…んまあ、それはね…」
私とレナちゃんはお互いにちょっと我の強いところがあるけど、二人でいると凸と凸が削れ合って丸くなる。
私たちは相性が良いんだ。
「はあー…、結局今の生活が心地よすぎて本気になれないだけなのかもね、レナたち」
「うん、だから焦らないで、今ある幸せを噛みしめて生きていけばいいんじゃないかな?」
「…うん、いろはの言うとおりね………って、いやいや、ダメ!あんたそんな心持ちじゃ女として枯れちゃうわよ!」
「ふぇっ!?枯れる…?」
「よし、明日は化粧品を買いに行きましょ!まだまだ枯れてないんだから、レナたち!」
「えぇ…」
レナちゃんに小さな危機感を抱かされながら、やっぱり二人でいるのが一番楽しいなと再確認させられる、そんなパーティーでした…。
パーティーの後片付けが終わって、同じベッドに横になる。
普段は別々に寝るんだけど、今日は記念日だからって一緒に寝ることにしたんだ。
「…いろは、もう寝た?」
「…ううん、まだ起きてるよ」
まだまだ話し足りない私たちの目は冴えていた。
「魔法少女の周知、上手く行ってないみたいね」
「…うん、話が荒唐無稽すぎて付いていけない人が多いんだって」
魔法少女の周知…
キモチの石を巡る戦いのなかでいつしかみんなの目標になっていたその活動は、未だ道半ばで止まっている。
「いっそのこと、みんなの前で生変身でもしちゃえばいいのに」
「あー…それ、私も思ったんだけどね?」
「私がマギアレコードに行くか行かないかって話があった頃にね、ういと二人でお父さんとお母さんに魔法少女のことを話して、実際に二人の目の前で変身してみたんだ」
「へえ~…それで?」
「そしたらお母さん、『そんな早着替えどこで覚えたの?』…だって」
「早着替え…そっか、普通の人にはあれがマジックに見えるんだ」
「実際に私たちとまったく同じ速さで早着替えできるマジシャンの人たちもいてね……結局、十年経った今でもお母さんたちが信じてくれてるのかそうじゃないのか、よく分からないんだ…」
「ふーん…」
魔法と同等に発達した現代技術に自分たちの存在が搔き消される。
少しの寂しさを胸に秘めながら、私たちは今日を生きている。
「ていうか、そのマジシャンも全員魔法少女なんじゃないの?魔法少女の存在を知られたくない側がマジシャンに変装してごまかしてるの」
「あはは…男の人のマジシャンも沢山いるよ?」
「男みたいな魔法少女なのよ、そいつら」
「えー?ふふっ…」
レナちゃんのぶっきらぼうな冗談に少し心が軽くなる。
「…ねえ、前から気になってたんだけど…いろははどうやってマギアレコードから戻ってこれたの?」
「…うーん…私もよく分からなくて…」
十年前、みんなと別れたあと、私とうい、灯花ちゃん、ねむちゃんは、マギアレコードの中でみんなを見守り続けていた。
……はずだったんだけど…
急にマギアレコードの本が光りだして、その光に包まれた私たちは、気がつくと万年桜の樹の下で手を繋いで眠ってたんだ。
そのあとは大変で、お母さんたちにまた会いに行ったり、竜真館で他の街の魔法少女たちも集まっての大々的なパーティーが開かれたり…。
「今でも謎のままなのね…」
「うん…」
「…あのね、これは私の想像なんだけど…」
「うん」
「この世界にはね、ものすごく優しい神様がいてね、実はその神様も魔法少女なんだ」
「神様の…魔法少女?」
「うん、それでね、その神様が私たちの頑張ってる姿を見て、助けてあげたいなーって思ったの」
「うん」
「でね、神様の魔法で私たちを助けてくれて、私たちがいなくてもマギアレコードが活動できるようにしてくれたんだ」
「うん」
「その神様は今でも私たちのことを見守ってくれてるの。私たちが優しい世界を作るところを、すっごく優しい神様が、ずっとずっと見守り続けてくれてるんだ…」
「…イイヤツね、その神様」
レナちゃんは私の想像を笑わずにずっと聴いてくれていた。
「…っていう私の想像。うぅ…なんかめちゃくちゃだね…ごめんね変なこと言って。これ、灯花ちゃんとねむちゃんには聴かれたくないな…」
「ほんと。あの二人なら『理屈も伏線もなにもない、荒唐無稽なご都合主義だよ』とか言いそう」
「あはは…辛辣だなあ…」
「でもいいじゃない。あんたはその『ご都合主義』をずっと貫いて、みんなを救ってきたんだから」
「…!!」
「誰よりもみんなのために頑張ってきたヤツが…レナが誰よりも幸せになってほしいと思ったヤツが…神様に認められて帰ってこられたんだもん。レナに言わせれば、これが一番のハッピーエンド、大名作の物語ってもんよ」
…不思議と涙が込み上げてくる。
電気が点いてなくてよかった…。私は嗚咽を噛み殺して言葉を返す。
「ありがと、レナちゃん……私、戻ってこられて、本当によかった…」
「あんたは神様なんて器じゃないんだから、ここに居ればいいのよ。レナと、みんなと一緒に生きていくのが、いろはにはお似合いなんだから」
「うん…、うん…っ」
レナちゃんに優しく抱きしめられる。
その腕のなかで、私は泣いて、泣いて、そのまま眠りについた。
「いろはー!早く行くわよ!」
「うぅ~…待って、まだお化粧が…」
「もう、そんな時間掛けても変わらないわよ……ってダメダメ!そんな心持ちじゃ枯れちゃう!そのために化粧品買いに行くんだから!」
「…お待たせっ!」
「よーし終わったわね。さ、行きましょ」
「あっ、レナちゃん!」
「なに?」
「私、今すっごく幸せだよ!」
おわり
ありがとう、マギアレコード