「メリークリスマース!!」
クラッカーから放たれた色とりどりのテープが部屋を彩り、歓声が湧き起こる。
机の上にはケーキやチキンを始めとした料理の数々。
先ほどクラッカーを鳴らした茶髪の小柄な少女と、黒髪の人の良さそうな少年は共に笑い合い、もう一人の桃色の髪のどこか気だるげな少女もまた、彼女らを見て嬉しそうに微笑んでいる。
12月24日…この日、由良蛍と真井あかり、そして二階堂陽斗の三人は、二階堂家でささやかなクリスマスパーティーを開いていた。
「ん、このパエリア美味しいね」
「でしょ?キッチンを借りて蛍と二人で作ったの!」
陽斗の感想にあかりが嬉しそうに答える。
「私はほとんど寝てたからぁ~…実質あかりが一人で作ったんだよねぇ…」
「へぇ~、あかりもすっかり料理上手だね」
蛍の言葉に陽斗が関心すると、あかりが照れくさそうに「えへへ~…」と笑みをこぼす。
ケーキとチキンは店で購入したものだが、一部の料理はあかりと蛍が二階堂家のキッチンを借りて作ったもの。
この日、陽斗の両親は仕事で出払っており、その間二人は家の設備を貸してもらっているのだ。
「ふふ…」
あかりと陽斗の微笑ましいやりとりに蛍の頬が緩む。
そんな彼女に気付いて、陽斗はこっそり耳打ちする。
「蛍さんも」
「ん…?」
「本当はあかりが怪我しないように見ててくれたんだよね。ありがとう」
胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる蛍。
陽斗と過ごす日々、その中で随所に感じる彼の優しさは、その度に蛍の心に温かな充足感を与えてくれていた。
「…沢山あるからいっぱい食べてねぇ…」
パーティーの喧騒も落ち着いてきた頃。
机上の皿は大半が空になり、部屋にはあかりと陽斗の話し声と、二人の話が途切れた時に聞こえる蛍の小さな寝息だけ。
「…それにしても、蛍ってほんとに気持ちよさそうに眠るわね…」
あかりの呆れたような関心したような呟きに陽斗も「ホントだね…」と相槌を打つ。
「こんなに寝て、夜に目が覚めたりしないのかしら…えいっ」
あかりが不意に蛍の頬を指で突っつくと、蛍は少し悩ましげに息を吐いたあと、またすぅすぅと規則正しい寝息を立てる。
その様子に苦笑する陽斗。
「全然起きないね、蛍さん」
ひとしきり笑ったあと、陽斗ははぁっ…と息を付き、頬を緩ませながら愛おしそうに蛍の寝顔を見つめる。
幸せそうに眠る蛍と、それを優しく見守る陽斗。
どう見てもお似合いとしか思えない二人の様子を、あかりはどこか寂しそうに眺めたあと、ぽつりと呟いた。
「本当は…蛍と二人っきりのほうがよかった…?」
「え?」
不意を突かれたような陽斗の声を聞いて、一瞬口に出したことを後悔してしまったが、あかりは意を決して続けた。
「…だって、二人付き合ってるんだし…クリスマスは恋人と二人っきりで過ごすものなんでしょ?だったら…」
きっと、私はここにいないほうがいい…
そう続けようとしたあかりを陽斗が遮る。
「ううん、そんなことないよ。あかりがいてくれて嬉しい。それに、蛍さんも同じ気持ちだと思うよ」
「そう…?」
「きっとそうだよ。だって今日は結構長い間起きてたよ?蛍さん」
「……あっ」
ハッとして今日のことを思い出す。
思い返してみれば、確かに今日の蛍は気だるげながらもずっと私たちの話を聴いて微笑んでいた。
微々たる違いだが、彼女と付き合いの深いあかりと陽斗からすると大きな違いだった。
「……ホントだ…蛍って、いつもはごはん食べながら寝ちゃうぐらいめんどくさがりなのに…」
蛍の寝顔を見る。蛍は、あかりの心配などよそに気持ち良さそうに眠っている。
「…ふふっ、そんなに楽しかった?」
「ん~…むにゃ…」
そんな蛍を見ていると、あかりは不思議と自分の中のモヤモヤがすっと消えていくような思いがした。
「あかり」
陽斗が穏やかな表情で語りかける。
「僕も蛍さんも、あかりのことを大切に思ってる。だからあかりも遠慮しなくていいんだよ?僕達はあかりが邪魔だなんてこれっぽっちも思ってないんだから」
陽斗の言葉があかりの胸の中に溶けていく。
「…うん。ありがと、お兄さん」
「蛍!起きなさい!もう帰るわよ!」
パーティーの後片付けが終わり、未だ眠り続けている蛍を起こすあかり。
「んん~…ここで寝ちゃだめ~…?」
「絶対ダメ!」
「あはは…ほら蛍さん立って、鞄も持ってください」
「…え~ん…陽斗くんが厳しぃ~…」
「はあ…いつか愛想尽かされるわよ…」
蛍のだらしなさに呆れながらもなんとか立たせ、二人は陽斗に見送られながら帰路につく。
来る前に降っていた雪は止み、道路の脇にうっすらと雪が積もっていた。
踏むとシャクシャクと音が鳴り、それがなんだか楽しい。
「はぁ~、楽しかった~」
「そうだねぇ~…今日も気持ち良く眠れたなぁ…」
「もう、またぐうたらなことばっかり……いいわよ、そうやって蛍が寝てる間に陽斗お兄さん盗っちゃうから」
「ん~…あかりが意地悪するぅ……今度陽斗くんに慰めてもらお~…」
「くっ…、コイツ…」
蛍と陽斗が付き合いだしてから定番となった小競り合い。
きっとこのやりとりをするのも今年最後になるだろう。
来年はどんな年になるのだろう。
願わくは、来年もまた今のような関係が続いてほしい。
そんなことを思いながら、二人は…
蛍「…来年もよろしくねぇ~、あかり」
あかり「…はぁ、仕方ないから来年もお世話してあげるわ、蛍」
そんな、クリスマスイブ。
おわり