時計の針は午前十時、少し前を指している。外はすっかり蝉時雨の嵐で、今日とて変わらずの真夏日和を迎えているようだ。
「どこいった・・」
隣はもぬけの殻で、シーツに寄せた襞を見遣って独りごちる。
両腕をぐうっと上げて身体を伸ばし、軽く首を回してベッドから降りると、とりあえず歯を磨こうと洗面所へと向かう。ドアノブに手に掛けると同時、中から聞こえる話し声に気づく。
「・・ええ・・そう・・ふふ」
どうやら此処にいたらしい。そのままドアノブを下げ、中へと入るとその背を見つける。片肘に手をすけスマホを耳に当てがった彼女が、ちらりと振り向いた。
お・は・よ・う・・と、唇の動きだけで伝えてくる仕草に胸がドキリとするが、その微笑みにほっと息を吐いた。
「・・ええ・・ええ・・そうね」
相手の話に相槌をうつ彼女。ふと、その格好に目がいく。どこかアンバランスな印象を受けると思えば、俺のTシャツを着ている。いや、着ているというよりは、被っているといった感じ。まるで丈の長いポンチョのように着こなされたその裾からは、スラリと細い生脚が伸びていて、なんつうか・・・・
一言で言えば・・最高だった。
俺は考える間もなく、彼女の背後から首元へ腕を回して抱き寄せる。所謂、あすなろ抱きというやつだ。
彼女の持つ清廉で聡明な趣の中にもふわりと香る、女の子特有の甘い匂いが鼻腔を擽る。
「あっ・・」
『どうかした??』
彼女の髪に額を寄せて、すんすんと鼻を鳴らしていると、受話口からよく知った声が漏れる。
「・・いえ、なんでもないわ」
何事もないように返す彼女に、ちょっとしたイタズラ心が芽生えたのは、俺の大腿に触れている、彼女の尻の感触が妙に生々しいことに気づいたからだ。
この感じ・・ひょっとして・・ひょっとすると、履いてないんじゃないか・・?
思うやいなや、俺はスルリと下げた左手を彼女の尻へとやる。
「・・っ!」
『それでね、あたしは今からいろはちゃんと待ち合わせてるんだけど、ゆきのんも後で来れそう?』
Tシャツ越しにさらりと全体を撫でるが、生地の下には特にショーツらしき引っ掛かりは覚えない。掌に感じるのは、ふにふにとした生尻の柔らかさだけだった。
「・・っ・・そうね、特に予定はないから、大丈夫よ。久しぶりだもの。私も会いたいわ」
その事実は、自然ともう一つの可能性にも思い至る。下を履いていないならば、上は?事の真相を解明するべく、俺は尻へ伸ばした左手を再び戻して、Tシャツ越しに慎ましくもなだらかな膨らみを主張する彼女の胸、その左乳房へと当てがった。
掌に収まる、むにゅっと柔らかい感触。
人差し指と中指の間に触れた突起。
「・・っ!」
『良かった~!ほんと久しぶりだよね!二ヶ月ぶりくらい?』
つまり彼女は裸体にTシャツ一枚。おそらくは、着信で目が覚めて、取り急ぎ手近にあった一枚を着て受話口に出たというとこだろう。洗面所に居たのは、俺を起こさないように。
「・・っそうね、前に会ったのはゴールデンウィークだったかしら」
僅かに身を捩らせつつも、かくも普通に通話を続ける彼女の様子は、俺の内なる嗜虐心をじわりと煽る。
『そうそう、あれ以来だよね!』
そして俺は煽られるままに、彼女を抱き寄せていた右腕も下ろして、脇の下をくぐらせると、両手で双丘をそっと揉み上げる。
「っ!・・っええ、早いものね」
両手の指を立てて、乳房全体に円を描くように這わし、合間で先端へとそれを引っ掻ける。
「・・っっ!」
『それでゆきのん、何時くらいに出てこれそうな感じ?』
ゆっくりと、何度かそれを繰り返し、一瞬手を止め、両乳首を親指と中指できゅっとつまみ上げる。
「っっあ!」
『ゆきのんっ!?どうしたの??』
「い、いえっ!何でもないの・・・・その、紅茶を淹れていたのだけれど、お湯を溢してしまって・・」
『だ、大丈夫!?・・やけどとかしてない??』
「え、ええ・・大丈夫よ。少し、溢しただけだから・・」
つまみ上げた両乳首をくりくりと捻り、先端を人差し指で上下に弾く。
「・・っ!!・・それで、時間なのだけれど・・支度をしていたら、そうね・・っ!・・正午にはなるかしら・・っ」
『ショーゴ・・?って・・・・えっと、誰だっけ?』
いや、こっちが聞きてぇよ・・誰だよショーゴ・・。安定のボケを放つ通話相手に思わず手が止められてしまう。
「・・・・ショーゴではなく、しょうご。つまりは午後0時、お昼の事よ。由比ヶ浜さん」
『え・・あ!・・わ、わかってるし!ちょ、ちょっと聞き違えただけっ』
「はぁ・・大丈夫かしら」
『だ、だいじょうぶだからっ!心配しないで!』
「・・ほどほどにお願いよ」
まあとりあえず、通話相手の相変わらずのおバカ振りに妙な安心感を覚えたところで、俺は再び手を動かす。むにゅりむにゅりと乳房を揉み上げ、くりくりと乳首を転がしてやる。
『うー・・じゃあ、しょうごくらいに渋谷のカフェで合流しよっ!』
「・・っ!え、ええ。わかったわ。あの・・前と同じお店でいいのかしら?」
『うん!そうそうっ』
膝を落とし、彼女の首筋を舌先でなぞり、耳を噛むと、びくりっと肩を震わせる。
「っんん!」
『ゆきのん??・・もしかして体調悪い?』
「いえっ・・ごめんなさい、大丈夫よ。実はまだ起き抜けで・・少し喉の調子が悪いの」
『そう・・?夏風邪とかなら、無理しないでね?』
「ええ、ありがとう。本当に、大丈夫だから」
気を取り直したのか、はっきりとした口調で言う彼女。そんな彼女に対し、俺はこの辺りで暴挙に出る事にする。
右手を下ろし、彼女の尻まで隠したTシャツの裾をたくしあげ、自らのパンツから既に膨張し切っているものを捲り出して、彼女の腿の隙間へするりと差し入れる。反り上がった先端をそのまま恥部へと当てがった瞬間、ぬるりとした感触と共に、自分のものが滴るような水気にまみれたのが分かった。
いや、それは尋常じゃなく・・すげえ濡れてる。とくとくと溢れるそれが、俺のものを伝い落ちていく。
ゆきのん・・びしょびしょじゃないですか。これは・・何つーか・・まるで、涎みたいだ。ちょっと、エロ過ぎるんじゃないですかね・・。濡れ易い体質である事は既に知るところだったが・・それでも、これはすごい事になっている。
こいつ・・この短時間でこんなに濡らして、こんな状態で通話してるのか。彼女の有り様をふと冷静に捉えると、ゾクゾクした感覚を覚える。
今、どんな顔してるんだ?気になって洗面台の鏡越しにその表情を窺い見ると、その頬を上気させ、切な気な瞳を揺らす彼女と目が合った。下唇を浅く噛み、ふるふると素早く首を振って、何かを訴えている。
まあ、アレだな。ダメと言っているんだろう。わかる。
俺は彼女の必死なまでの訴えを汲み取り、こくりと頷いて見せると、そのまま腰を屈め・・・・にゅるりと入れてしまう。
「っ!!!・・っ!・・っっ!!」
『もしもし、ゆきのん?』
両腕で彼女を抱きかかえ、音を立てないよう、膝を使い、ゆっくり腰を上下させる。中はもうとろとろで、温かくて、俺のものさえも融解されていまいそうな感覚になる。
「・・・・っ由比ヶ浜さん」
『あ、うん。なに??』
「・・っ・・あの、ごめんなさい、うっかり一つ用事を忘れていたの。時間が、押してしまうから・・っ急いで支度を始めるわ」
『あっ、うん!そだね、あたしもそろそろ出なきゃだし!えっと、じゃあまた後でねっ』
「ええ・・っまた後で・・」
言って通話を切った彼女は、そのままスマホを胸元で握りしめ、ゆっくり後ろへ首を傾ける。
「・・・・ひ・・比企谷くん」
「おはようさん」
努めて爽やかに言ったつもりだったが、彼女は上目遣いにも不服そうな、精一杯のジト目を向けている。
「おはようさん・・じゃ、ないわ・・・・まさか通話中に、こんな・・・・んっ」
「駄目だったか?」
「・・駄目に決まって・・っいるでしょう・・っ・・よりによって由比ヶ浜さんに・・・・気づかれたら・・っ」
「だけどお前、めちゃくちゃ濡れてたんだが」
「っ!!!・・・・それはっ・・・」
「由比ヶ浜と話しながら、あんなに感じてたのか?」
「っ!!・・・・・・だって・・」
「だって?」
「・・・・仕方ないじゃない」
言い訳のしようも無いのだろう。その表情を隠すように俯いた彼女がぽしょりと漏らす。
「そうか。なら、俺も仕方ないんだよ・・っ」
パンッ!っと腰を打ちつける。
「っあ!!・・っは・・・・っあ・・あなたの・・何が仕方ないのよ・・っ」
「・・起きたら、お前が居ないせいだろ」
差し込んだ先端を奥へと当て込むように、ぐりぐりと腰を押しつける。
「ぁあっ!・・っあ・・んんっん!・・わ、私が・・・・居なかった・・せい・・?」
「・・・・何処いったんだって、思うだろ」
言って、彼女の細い肩へと頭を預ける。
「・・っ?・・・・比企谷くん・・もしかして・・・・寂しかったの・・かしら?」
「・・・・」
思わぬ彼女の問いかけに、不意な羞恥を覚えた。いや・・自覚はあったが、いざその感情を言葉にされてしまうと、思いの外に恥ずかしさが込み上げたのだ。それ以上答えられず口を閉ざした俺に、機を得たりと言わんばかりに彼女は続ける。
「・・沈黙は肯定と見なすわよ?」
「・・・・」
やばい。恥ずかしい・・何だこれ、俺がすげえ甘えてるみたいじゃねぇか。いや・・まあ、そうなんだけど。身悶えしそうな状況に手を余していると、そっと・・俺の右の頬へ、彼女の右手が触れた。
「ごめんなさい・・」
彼女は言って、その左手も抱き締める俺の腕へと添える。
「・・別に、謝ることじゃねえよ。でも・・まあ、アレだ・・起きて居なくなってると、アレだから・・まあ、その・・・・出来るだけ居てくれ」
「・・ええ、わかったわ」
何かを噛み締めるような、穏やかではっきりとした彼女の返事に、胸にじわりと暖かいものが滲み、すぅっと心が満たされていくのがわかる。
そして俺はそっと、彼女の中に入れていたものを抜き出した。
「あ・・っ」と声を漏らして振り返る彼女を余所に、手早くそれをしまい込む。
「出掛けるんだろ?」
「・・ええ、でも・・・・まだ、少しなら・・」
明らかに名残惜しそうな彼女が、俺のやせ我慢に揺さぶりをかけるが、ここはぐっと堪えて抱き寄せると、耳元で言ってやる。
「隣にいなかった罰ってことで」
「っ!・・・・・・酷い罰ね」
俺の胸元でぽしょりと物悲しそうに呟く彼女が、少し可笑しくて、可愛くて、つい口を突いて出た。
「お前、本当にエロくなったよな」
「な・・っ」
瞬間、目を見開き、ジロリとこちらを睨む彼女だが、全然、昔ほどの迫力は無かった。もう顔が真っ赤な時点で駄目だ。超可愛いから。もうかつてのゆきのんは今やデレのんであり、氷の女王はすっかりエロの・・
「比企谷くん?」
げふんげふんっ・・いや、心を読むスキルは相変わらず絶対の感度を誇る現役バリバリのようで・・はい、なんでもありません・・・・なんでもないので、その冴え冴えと澄み渡る瞳を細めた氷の微笑をやめて!怖いから!
「ま・・まぁ、アレだ。そろそろ準備した方がいいんじゃねぇの?」
恐る恐る言うも、暫くそのまま氷の女王に睨まれたヒキガエル状態は膠着していたが、ふっと彼女は嘆息する。
「そうね。でも・・いいの?」
「ん、なにがだ?」
問われた意味がわからず、はて?と首を傾げた俺に、彼女はにこりとイタズラな微笑みを湛えていた。
「あなたが寂しくないかしら?」
「ばっ、おまっ・・何言ってんの?平気だっつの・・」
ほんと、何言ってんの。こいつ。さっきのアレはアレで、アレだから。ほんと、ただのアレだから。もうアレがアレ過ぎてアレレのおじさんレベル。知ってる?知らねーか。
気恥ずかしさから思わず顔を反らしてしまった俺を「ふふっ」と笑う彼女。さっきまでの凍てつくような微笑みとはうって代わる暖かな笑み、そのギャップにどぎまぎして、胸が鳴り、翻弄される。
いたたまれなくなった俺はそっと彼女の身体を離し、洗面台へと進み出る。こうなってしまっては、もう俺に勝ち目などない。戦略的撤退、そう、引き際が肝心だ。
「じゃあ俺、歯磨くから・・」
言って歯ブラシを手にした俺の背に、彼女はぴとりと身を寄せた。
「比企谷くん」
「・・なんだよ」
「・・私も、大好きだから」
「・・俺、何も言ってねぇだろ」
「じゃあ・・あなたは好きじゃない?」
「・・・・・・なるだけ、早く帰ってきてくれ」
「・・ふふっ。ええ、そうするつもりよ」
「でも、アレだ・・久々なんだ。ちゃんと、ゆっくりしてこいよ」
「・・そうね。ありがとう・・・・ねえ、こっち向いて?」
「・・・・まだ歯磨いてねぇよ」
「いいから・・」