打ち砕く。彼の恋人は私だけなのだと思い知らせてやるのだ。
NTR菊子は復学した。辛い時はいつでも俺の家に来ていい事に、家にも帰った。相変わらず家族とは仲が悪い様でいつも愚痴を聞かされるが、毎日一緒に過ごしている。
通学路も変え、朝はいつも迎えに行っている。
NTR花子の時に比べてあっちが積極的なもので、初々しい恋人関係からの寝取りというわけにはいかない。まあ、マンネリも避けたいしそれはいいか。
この間はバイトも兼ねて叔父さんの仕事の手伝いをしに一緒に山にでかけた。あまりに俺とNTR菊子の関係が良好なもので、自然な具合に間男を挟むのは難しそうだと考えていたが…。その時を折にどうもNTR菊子の様子がおかしい。
この間、飲み屋にいた金持ちの息子が相手が見つかったというのでどうにか工作して破談に持って行ったが危ない所だった。NTR菊子への間男役には奴が必要だ。そう思っていたのに、これはどうした事か一体誰に…。
叔父さんか。
まさか間男役として躍り出たのが親族から現れようとは思わなんだ。親父に彼女が寝取られるというシチュエーションはフィクションならまだしも現実ではちょっときついなと思っていたが、叔父さんならちょうどいい。
NTR幸子を寝取る予定の枠が開いていたので、あの息子にはそっちの役として登場してもらおう。
あんなにも熱く俺とベタベタだったNTR菊子が俺に余所余所しい態度を取る様子は、期待に胸を膨らませながらも少し寂しいものがあった。
外の気温も冷えてきて、もう冬に入って来たという頃だ。NTR花子の方から急に連絡が来た。
メッセージにはこう書いてある。
『会えない?』
もしかしたらプレイの一環として俺が呼ばれたのではないか。俺はワックワクノドッキドキ、ウキウキとしていたが集まる場所がカフェ店と聞いて項垂れながら向かった。マウンテンゴリラ先輩の家とかじゃないのか…。
中はジャズが流れていて、NTR花子は先に来ていた。
「よお」
もう今更彼女に付き合っていた頃の自分として接する必要はない。
ありのままの自分を出して向かいに座る。
「それで、話ってなんじゃらほい」
「…NTR太郎君、キャラ変わった?」
分かり切った事ではあるが、改めて君付けされて既に終わった関係なのだと再確認された。そうだ。もう、お互いにそれほど親しい関係ではなくなった。俺も前の様に間違えた呼び方をしない様に気を付けなければ。
「まあな。いるだろ付き合う相手に応じて自分を変える奴って。アレだよアレ」
なるほど、と彼女は妙に納得してくれた。
俺はメニューからアイスコーヒーを選んだ。NTR花子はカフェモカを頼む。
店の奥からやって来たのは…マウンテンゴリラ先輩!??
マジか、あいつが!??
「先輩、そういうプレイですか!??」
「どういうプレイだよ…」
軽く困惑された。いや、お前が俺に困惑するのは違う思うんですけどね。
あんな事があった後では十分に考えられる事態だと思うんですけどね。
むしろそれを期待してたんですけどね。
先輩に注文を伝える。
「言っていただければいつでも来ましたのに」
「バイト先を変えたんだよ。ちょっと色々あってな。元居たバイト先は肉体労働がきつかったけど、個人的には気に入ってた職場だった。…似合わないとか言うなよな」
似合ってますよと言っても怒られそうなのでとりあえず笑って流した。彼は店の奥に戻った。
NTR花子が言うには、人身事故があったらしい。それで亡くなったのが社長で、業務上過失致死傷罪に問われたのが息子で…とかまあとにかくドタバタした末の事なんだそうだ。あの先輩も苦労してるんだな。
それにしても、自分の女がよりによって元カレの俺と一緒にお茶する事を許すとは…、器が広いね!
「それで、何の用なんだ?」
「別に。用事と言った用事はないけどね。原因は私達にあるし、当然なんだけれど…。あの後からじっくり話す機会がなかったから少し話したくて」
まあ、そうだったな。
俺はお冷を飲んで少し外を眺める。
「怒ってる?」
「いや、全然」
今度はNTR花子もしばらく喋らず一緒に外を眺める。
そうしていると注文した飲み物がそれぞれ来て、テーブルの上に置かれた。
時間が来たようで、マウンテンゴリラ先輩も上がるらしい。
扉からひょっこり顔をだしてNTR花子に伝える。
「じゃ、俺帰るな。今日は来てくれてありがと2人とも」
俺達は手を振って見送った。
「もうそろそろ就活の事気にしなくて大丈夫か聞いたんだけど、あの様子でね」
「あの人のバイタリティならどこでも上手くやってけるよ」
2人して笑った。
「先輩はいなくなった。本当は何か俺に言いたい事、あるいは聞きたい事があったんじゃないか?」
NTR花子はしばらく黙っていたが、やがてカフェモカを少し口に含んでからうなずいた。
「私はね、NTR太郎君。寝取られるのが好きなんだ。そういう性癖でね」
唐突なカミングアウトに面食らったが、まあ前にNTR菊子が俺に聞かせるために敢えてスピーカーに切り替えて話していたのでその時に聞いた。今更そのことについて言うのもアレなので、初めて聞いたようなリアクションを取ったが。
その性癖のためだけに俺と付き合いだした事、寝取られた時の興奮を高めるためだけに恋人らしいことをしていた事、その裏で俺が他の女に寝取られたり、あるいは自身が他の男に寝取られるためにあれこれと画策していた事。
マウンテンゴリラ…、大五郎先輩が自身に好意を持っている事と俺から奪うために強硬手段に出る可能性を知った時に非常に喜んでいた事や、次第に請われゆくハリボテだったはずの俺との関係に不安を感じていた事。
「私の事嫌いになった?」
「別に」
「嘘言わなくていいよ」
俺もそのために利用していたのだから、それを出し抜かれたぐらいで特に怒る事はない。
むしろ作戦が上手く行かず悩んでいたので好都合だった。
「私達の関係が終わった時、私はあなたに謝りたくて電話した」
「出たのはNTR菊子だった」
お互いに長く沈黙する。
「俺もNTR花子さんに言っておきたい事がある」
「何?」
「俺も恋人を誰かに寝取られるのが好きだ」
しばらくして急に噴き出したNTR花子。今まで見た事のない笑い方だった。
周りに客は殆どいないが、それなりに声を殺してケタケタと笑っている。
同じ性癖の人間と言う事もあり、俺ももう隠す理由もないので話した。自身もその性癖のためだけに恋人であるNTR花子を利用した事を。まあ実際はまるで上手く行かなかったが。
それから、ついでにNTR菊子が電話に出るまでのおよその経緯も。
「ああね…。あの子のやりそうな事だわ」
お互いにカップを傾け口に含み飲み切った。
「寝取られてくれてありがとう」
「お礼を言われるとは思ってなかった。…遅れたけど、こんな私と付き合ってくれてありがとう」
恋人としての関係は終わってしまったが、同じ性癖の人間として今度は友達になりたい。そう切り出せば、彼女もそれに同意し関係は友達になった。今後は相談が来るだろうし、こちらからする事にもなるだろう。
店員を呼んで俺は杏仁豆腐を、NTR花子は枝豆を頼んだ。
「…もしかして、NTR菊子を……」
俺はうなずいた。
「ああ。寝取ってもらう。いい相手も見つかった」
彼女はフフッと笑う。
私はあの日、戦慄した。
これから起こるであろう事態を避けるべくあらゆる手を尽くし考えを巡らせていた。
彼の叔父と3人で山に栗拾いに行くまでの日々を遡ろう。
NTR太郎の性癖が知りたい。それが始まりだった。純粋な興味関心もあるが、恋人になりたい相手の性癖が分からないというのは少し怖い。
更に、日頃から何を考えているのかさっぱり分からない。部屋は探ってみたが、それらしい本をまるで見られない。恐るべしミニマリスト。デジタルに違いない。そう考えた。
私は彼の部屋にあるパソコンに目を付けた。あれだ。
NTR太郎や彼の家族には黙っていたが、やはり自分の部屋にある貴重品などは必要なもので継母にバレない様に何とか姉と手引きして私物を持ち出したりしていた。
そうして、私は指紋採取キットとマイナスドライバーをゲットできた。
彼が返って来た時、私が彼の部屋にいるぐらいはそこまで言われない。
だが、プライバシーに関する事だけは非常に繊細な彼だ。パソコンを勝手に弄っていたなどとあってはどんな目に遭わされたか分かったものではない。
この間、部屋でベッドの下を調べているのを目撃されてしまった。彼は怒った様子で何故か山月記を朗読するように言ってきて、3時間かけて繰り返し音読させられた。彼なりのペナルティなのか分からないが、何故音読なのか。何故山月記なのか。そこに私へのペナルティとの関連性がまるで見つけられず地味に怖かった。
なので、予期せぬ帰宅に困る事のない様に学校行事や日程などかなりしっかり調査して事前準備を進めた。
彼が帰ってくるまでに調査する。
朝が来ると、私は確かに彼が学校へ向かったのを確認してから彼の部屋に向かう。まずテンキー付近をエアダスターで吹き埃を払って、パソコンのキーボードのUSBコードを外し、家にあったビニル手袋をしてマイナスドライバーでテンキーの数字のキーだけ外した。
それから食品用ラップフィルムを私の部屋(仮)にある机に少し広めに敷いてキーを並べ、アルミパウダーとハケなどを使って指紋採取した。やり方かキットの品質か精度が悪くハッキリした指紋は取れなかったが、重要だとなのはどのキーに触れているかだ。
彼のパソコンのアカウントは4桁のナンバーロックがかかっている。彼がパソコンを使ってる間は部屋に入れてくれないが、何とかそれだけは目視できた。その4桁さえ割り出せれば…。
1、2、6、8…。
被りはない。この4つだ。
全通りは試せない。私はこれを西暦と仮定して毎日少しずつためした。結果は上手くいった。1862…。1862年?理由はなんだろう。
とにかくログインできた。
デスクトップ画面は寂しかった。白地の背景に十数個のアイコンが並んでいる。マイドキュメントを開き、隠しフォルダの表示を行い探っていくがこれと言ったものが見つからない。
「何故なんだ…」
デコを抑えて参っていたが、ゲームの入ったフォルダがあったのでそこを調べてみた。
区別するために作られた新しいフォルダはどれも決まって「ああああ」とか「あいうえ」とか「団子」とか内容に関係ない名前になっている。病んでる??
やっと見つけたかと思えば、何故かネットで拾い集めたらしきハムスター の写真が108枚収納されたフォルダも見つかった。いや、可愛いけどどうしてこんな大事にしまってるんだ…?
結局、Cドライブの中に目的の物を見つける事ができなかった。
「やばたにえん」
時間は3時を回っている。テンキーはしっかり取り付けたし後は元の様にスリープにして戻るだけでいいが、顔射事件みたいに走りながら戻ってこないとも限らない。
今日は諦めるべきか。そう思った時にデスクトップに複数の検索エンジンがある事を思い出した。
どれをメインで使っているのか…。
ブックマークの数が多いものをメインと仮定し、SNSを探る。
ようやく見つけた複数のSNSのアカウントは名前もidもアイコンも背景もまるで個性の感じられないほぼ初期設定のままのROM専垢ばかりだった。
おそらく趣味趣向が異なるので、意味ないとはわかっていたがやはり自分が知ってるアダルトサイトもダメだった。
やがて4時を回る。後で履歴も消さなければならないのでもう時間がない。
ブクマになかったので、イチかバチかの賭けでイラストコミュニケーションサイトを覗いたらようやく彼の趣味を調べられるかもしれないアカウントを見つけた。
静かにガッツポーズを取りながら、ブクマを調べる。よし、今度こそちゃんと18禁タグがついたものがある。傾向は…。
人人人_
> NTR <
 ̄Y^Y^Y^ ̄
嘘だと言ってよ…。
私は履歴を消してパソコンをスリープにすると、すぐに部屋に戻って何でもない風を装った。
これは大事だ。ここ最近は何か彼に何か強い違和感を感じていたがようやくその正体が分かった。
1つはNTR花子と別れた時期とあの顔射事件。あの時期が被った事。
1つは最近までは殆ど許していなかったスキンシップに寛容的になった事。
1つはやたらと恋人ムーヴが増えた事。
嬉しくはあったが、感じた違和感の正体はあの接し方がNTR花子に対する態度と同じになって来ているという事だ。
NTR花子と別れた時、喜んでいた理由が分からなかった。別れた理由も。
それが彼の言動と性癖に一致するのであれば、予想は容易い。
奴は自身の性癖を満たすために私を誰かに寝取らせようとしている…。
何食わぬ顔でとんでもない事を考えていた。最近、怖いほど優しいと思えばまさかそんな事を考えていただなんて…。私はNTR太郎が好きだ。愛してる。きっかけは不純かもしれないが、その想いは不動だ。
何が何でも阻止してみせる。NTR太郎の恋人は私だけなのであると、思い知らせてやろう。私の心に点いた執念の炎は、骨をも焼き焦がす程にメラメラと燃え盛っていた。
1862に深い意味はないです