「うわああああああ、やめてくれ、やめてくれ!!!」
「NTR太郎君、NTR太郎君!?しっかりして、起きて!」
「うあああああ!??ああ、ああ…。なんだ夢か」
酷い悪夢を見た。俺は眉間を指で押さえて心を落ち着かせる。
辺りを見渡す。まるで豆腐の3Dモデルの内側にいるような白い死角の部屋。
俺の寝ている下に大きな天井付きのダブルベッドがあり、離れた場所にドアがあった。
上にでかでかと【セックスしないと出られない部屋】と書かれている。
「酷くうなされてたね。どんな夢を見てたの?」
「店で買ったドーナツが箱を破って出たんだ。それには目、足が生えて成人男性ほどの大きさになった。それがズイズイと俺に迫り『食べてくれ』とせがむんだ」
「なにそれこわい」
「1個を3分の1まで食べたんだが、もう食べきれないって言っても聞く耳を持たない。やがて自分をちぎって俺の口にねじ込んでくるんだ」
起きた今ならふざけた夢だと思う。でも、見てる間は本当に怖かった。ねじ込まれたドーナツで呼吸ができず死ぬかと思った。
NTR花子は俺の背中を撫でてくれた。
俺はやがて落ち着きを取り戻す。
「ありがとう。もう大丈夫だ。ところで、ここは?」
「…私にも分からない。気が付いたらここにいたの」
誘拐でもされたんだろうか。
いつ誰が、何のために?想像もつかない。思い当たりもない。
部屋の中を念入りに探してみるが、棚の中にアダルトグッズが入ってた以外は何もなかった。扉は鍵がかかっている。
いよいよ、あの扉の上に書かれたメッセージが無視できなくなって来た。
「なあ、扉の上にあるあの文字…。見たか?」
「ええ、まあ…」
お互いに長い間沈黙する。
俺達を誘拐した人物の考えている事は分からないが、とにかく俺達に性行為をさせたい事だけは確かだ。
俺が起きる前に起きていたNTR花子もこの部屋からの脱出方法が分からないらしい。
親切にもコンドームが見つかった。
「俺達が攫われたのは夜だ。もう7、8時間ぐらい経つだろう。もう少し経てば俺達の誘拐に気付いた家族が警察に知らせるはずだ。助けは必ず来る。犯人の言いなりになる必要はない。出られる保証もない。今しばらく待とう」
「うん…そうだね」
時間経過を示す道具がなければ、後は体内時計に頼るしかない。
かなりの時間が経過したものと思われるが…俺達には食欲も排泄欲も湧かなかった。
そればかりか、水も飲まないのに喉も渇かない。
「俺達は一体どうしてしまったんだ…」
ベッドに戻って頭を押さえる。こんな事、あってはならない。
俺達は超人にでもされたんだろうか。
だとするならこの状況は陰謀的な何かによるものなのか…?
生物兵器、化学兵器…。戦後からかなりの年数が経ち、もしや派手にドンパチするのも時代遅れになってきつつあるんだろうかと思っていたが。強化人間の開発の目的で考えられそうな事と言えば、破壊工作員か?
ひょっとすると異能者同士で戦う的なアレに巻き込まれたのかもしれない。
「スーパーヒーロー着地とかできないぞ俺」
「え、何?」
「俺達は強化人間にされたんだ。生理的欲求が取り払われている。誘拐目的と、この改造手術について考察をしていた。…現代における強化人間の活用、戦争以外に考えれば破壊工作員と睨んでいたが考えれば自爆テロにも有用かもしれないと思ってな。俺たちはそのために人質と兼ねてテロ行為に利用されようとしてるのかもしれない」
「ちょっと何言ってるか分からない」
俺達は実験されているのか??考えてみても分からない。
「犯人はどうして俺達に生殖行為を要求するのか。そこに何かあるのかもしれない」
「NTR太郎君、こんな事言うのもなんだけど所謂ご都合空間だと思う」
「詳しく聞かせてくれ」
NTR花子は俺に色々と推測を聞かせてくれた。まず俺達が架空の登場人物である事、これは本編には関係ない物語である事、俺達にセックスささせる他に目的のない空間である事。
考えてみればそんな気がしてきたので、俺は諦めてこの部屋の目的に付き合うことにした。
俺達は全裸で向かい合う。この部屋にエアコンはないが気温は程よいのでこうして長らく見つめ合っていても寒くはない。もうどれくらいこうしていたか…。
「なぁ、NTR花子さん。大変申し訳ない事を言っていいか」
「何?」
「やり方が分からない。基本的に性行為は他人がやるものだと思っていたから、いざ自身がやるとなると具体的に何をどうすればいいのかさっぱり分からん」
NTR花子は顎下に手を置いて考える。
「擦って揉んでドライブイン…?」
なるほど、分からん。
「…任せて、NTR太郎。私がやる」
頼もしい。俺は言葉に甘え、彼女に身を任せる事にした。俺はベッドに横になると、彼女は床に膝立ちになって俺の一物を握り上下に擦る。なるほど、まずはこいつを立たせねば始まらないか。
しばらくぐにぐにと一物を揉んだり擦ったりしていたが、首を傾げる。
「勃たない…」
我慢は特にしてないが、特に何も感じない。
気持ちよくない、と言うよりは興奮できない。
NTR菊子が刃物を持って、自分の全裸に俺が興奮しないと首を傾げてたアレと似たようなものだ。
それもそうだ。こんなムードもへったくれもないで興奮するわけがない。
「ううう、NTR菊子の時は上手く行ったのに…。私じゃダメなのか…」
「厳密に言えばあいつは既に勃ってる一物に悪戯しただけで、何ら手段を用いて勃起させた訳じゃない。そう落ち込まないでくれ」
「そうなんだ」
少し安心した顔をする。…そうか、とにかく勃起すればいいのか。
俺はNTR花子に離れる様に言うと、呼吸を止めて下腹部に力を込める。
ギュオン!俺の一物は膨れ上がり頭を上げた。
「わぁ…良く分からんけど凄い」
この隠し芸が役に立つのは2度目だな。
「後は…そうだな。ローションとHow to sex本が欲しいな」
この部屋にはないので、大声で叫んで要求したが支給されない。
全く、不親切な事この上ない。俺達にさせようというのであればそれに応じて不便ない様な用意をするのが当然なんじゃないのか?
「大丈夫、私に任せて。まずは濡らさなきゃ。えっと…フェ○…するよ」
「NTR花子さん、性器は口に含む物じゃない。抽送を円滑にする方法…」
あまり言いたくないが、リードを任せて上手く行くようには思えない。ここは俺が何とかリードして、この場をやり過ごそう。
まずベッドに俺が深く腰をかけ、その目の前に座るようにNTR花子に座ってもらう。衣類を着衣したまま後ろから胸部の乳頭や乳輪を、股間の陰核や陰部を指先の爪で優しく搔く様にして刺激する。
緩急をつけ、一定時間ごとにパターンを変えて刺激に慣れさせない様にして…。
「ちょ…、まっ……」
甘い息を漏らし、体をくねらせるNTR花子。俺は手を止めた。
「分かった」
「え?」
「いや、待って欲しいと言われたから…」
NTR花子はしばらく困惑した様子であれこれ考え事をしていたが、やがて意を決したようにこちらを振り向いて行った。
「じゃ、続けて」
俺は再び同じことをする。胸は左の方が感じているようだ。股間部への刺激の方法もなぞる方へ変更する。
「んっ…く、やめっ…あっ」
「分かった」
俺は手を止めた。
「何でいちいち手を止めるのさ!」
「だって、やめろって…」
NTR花子の顔が次第に赤くなる。それで何も言わなくなったので、俺は少し笑った。
後ろからお腹に腕を回し、少し強く抱きしめた。
「ちょっと意地悪し過ぎた。ごめん。いつも頼りにしてたから、こういう一面をもっと見ていたいって思ったんだ」
「バカ!アホ!…もう知らない」
拗ねてしまった。ああ…畜生、可愛いなぁ。
正直、性行為なんてどうでもいい。付き合ってた時にできなかったこういう恋人らしい瞬間をもう少しだけ続けたかった。離れたくなくて、しばらく抱き合ったままどちらも動かなかった。NTR花子もそうだったなら嬉しい。
「あーあ…。私がNTR性癖になんか目覚めなければな…」
「…俺達がお互いにNTR性癖に目覚めなかったなら、そもそも付き合ってなかったかもしれない」
お互いに笑った。
俺達を引き裂いた性癖もNTRだが、俺達を結び付けた性癖もNTR。
とても奇妙な気分だった。
何だかやる気が失せて、お互いにただ裸で横になる。
「何だか眠くなって来ちゃった」
「俺もだ」
仰向けの状態から、お互いに向かい合って話す。
NTR花子は俺の手をギュッと握った。
「勝手なのは分かってる。でも…今だけ、今この瞬間だけ…恋人に戻っていいかな?」
俺は我慢できずに彼女を思いきり抱き締める。少しきついぐらい強く。
もう許されないだろう最後の口づけを交わす。
彼女の体はとてもポカポカで、温かかった。
「NTR花子…、ずっとこのままだったらいいのに…」
「ごめん…、ごめんねNTR太郎…」
涙が伝ってお互いの体に落ちる。
ただ肉欲に任せて交わる事さえできない不器用な俺達だったが、涙だけは溶け合って共に流れていった。俺達の愛はこれでいいのかもしれない。
セックスさえしなければ出なくて済む。それもいいのかもしれない。
まどろみの中そう考えていたが、今度は俺達を包む眠気がこの関係を割いて行った。
本編でキャラの掘り下げが足りなかった気がしたので、休憩も兼ねてNTR花子のとNTR太郎の話を書いてみた。
寝取られる前の恋人とのいちゃいちゃシーンってどのぐらいの塩梅で入れれば程よいか分からない。長すぎれば間延びになるし、短すぎるとそれはそれでシチュ的に味気ない。
ミステリー物でいうなら死体発見までの時間の長さ的な。まあミステリーは冒頭から殺害シーンでもいいんだけれども←
NTR花子が寝取られるにあたってこう…キャラの掘り下げが十分じゃなかった気がしたので少しだけ補足(?)してみた。まぁ雰囲気だけでも感じていただければ…