「しかし…おめぇよ、そんなマグナム持ってたってホルスターから抜く前に撃たれちまうよ」
俺は寝返りをうった。
「発砲音は確かに1発なのに弾痕は2発。神速の早撃ち、それが奴だ。お前みたいなガキに倒せるもんかい」
ドタドタドタ…。
部屋まで駆ける足音が聞こえる。
「NTR太郎!」
NTR菊子が部屋にやって来た。あまりにうるさいので目を覚ましてしまい目を開けると、頭に犬耳が、尻に尻尾が生えている彼女がいた。
えっと…。
「まだ夢の中にいるんだな。そうに違いない」
俺はそう言って横になった。NTR菊子は鼻歌を歌いながら俺のズボンのチャックを開いた。
その手を止めさせ俺は起き上がる。
「やめろ!何やってんだ!」
「何って…おはようのフェ○」
頼むから日本語で喋ってくれ。
「これは夢の中なんでしょ?いいから黙って私にされるがままになってよ」
「分かった!分かった!起きた、これは夢じゃないそうだろ?…それで何がどうなってるんだ」
NTR菊子が言うには朝起きたらこうなってたらしい。一応ネットで調べてみたが、そういうジャンルの漫画とかコスプレとかそういう話しかヒットしない。まあ…そうだよな。
NTR菊子は俺の上にのしかかると、胸板の上を頬ずりする。犬耳はペタンと閉じていて、カール状に巻いた尻尾は元気にふりふりしている。どうしよう。可愛い。
「首輪でも買って来るかな」
「可愛いチョーカー買ってくれるの!?」
俺の冗談に食いついて来た。耳と尻尾をピンと上に立てる。
「すみません、勘弁してください」
彼女の考えている首輪は、俺が考えているホームセンターの代物ではないだろう。
この間の買い物で3人の渋沢栄一がATMから飛び去った。これ以上の犠牲者は出せん。
俺はNTR菊子を抱き寄せ頭を撫でながらごまかした。
耳の色は体毛と異なる。でも感情に合わせて立ったり寝たりするようだ。
人間の方の耳も機能してるんだろうか…。俺は息を吹きかけた。
「んっ…」
どうやら機能しているらしい。
「ねえ、今なんで息吹きかけたの?」
いつもの香水の匂いがするので、嗅覚が犬みたいに鋭くなってる事もないらしい。
尻尾は尾てい骨あたりから生えているため、ズボンやスカートを履くときは上まで上げられない。半ケツとまではいかないがこれで外を歩くのは色々と厳しい。
服に穴をあけたりするのは大反対された。
変化があるのは頭に耳が生えている事と尻尾が生えている事だけ…のようだ。他に体毛などの変化はないらしい。
「ちゃんと血が通い、骨も通ってるとは…。リンゴから人間の耳を作ったり、人工的に作った耳を実験用のマウスに移植できたりしてるとは聞くが…。とても自然現象とは思えない。この超常現象はどう説明できたものか…」
「難しく考えすぎだよ。そういうもんだって認めてしまえば気楽なもんだよ」
何で当の本人の方がこんなに楽観できるんだ。もし俺の頭や尾てい骨付近に他の動物の耳や尻尾がはえたなら、メディアに取り上げられてあらゆる好奇心の目を向けられ、プライバシーと言うプライバシーを踏みにじられるのではないかと気が気でならないが。
まぁ、彼女は今は不登校中だし俺は学校休みだしもう少しだけ様子を見よう。
…俺は、しばらく尻尾をふりふりしながらこちらをじっと眺めるNTR菊子に少し好奇心から左手を突き出してみた。
「お手」
「わん!」
右手を差し出し俺の手の上に置いた。
「おかわり」
「わん!」
俺の右手に左手を置いた。
「伏せ」
「わん!」
地面に伏せつつ眼だけ俺を見上げる。
「おち…コホン。なんでもない」
「オチ…?」
そろそろ朝ご飯を食べよう。俺は下の階に降りた。起きた時間も遅いので、両親も既に仕事にでかけている。
朝ごはんは適当に冷蔵庫にある物を使って炒め物を作った。マヨネーズと卵と牛乳がそろそろなくなりそうだ。
「ねえねえ、オチって何?」
「起承転結における結の所だな。しかし、そこに何を持ってくるかが問題だ。オチのない話はつまらない。奇をてらったオチで笑いを狙うのもアリだが、予想できるオチを用意して笑いを取る方法もある。例えば…」
「おちん◯ん?」
俺は眉間のあたりを抑えた。
「分かってるなら言わないでくれ。言葉の綾だ」
「おちん◯ん!」
「やめないか、はしたない…」
俺達は一緒にご飯を食べた。
それからは一緒に室内でできる運動やストレッチを行った。せっかくの運動やストレッチも、間違ったやり方だと徒に体を痛めたりする事もある。
その点について正しいやり方をレクチャーした。俺もネットの動画とか見たり、温泉に行った際に指導の人に教わったりしながらの素人覚えだが何も知らないよりはきっと良いはずだ。
NTR菊子は物覚えが早く、俺よりも体は柔軟だ。ただ体力があまりない。
全て終わって汗をかくと、シャワーを浴びた。
それから一緒にソファに座っていると、彼女は俺にもたれかかって来る。
何気ない日常が、何気ない仕草が、何気ない表情が愛おしかった。
俺にもたれかかったままの彼女の頭を撫でるとまた尻尾が揺れ動く。
捉えどころがなく、気分屋で我がままで。そんな彼女の感情が、こうも見たままの反応をしてるとは思わなかった。
心なしか、今日のNTR菊子はいつもより甘えん坊だった。
朝。俺は毛布を蹴飛ばした。
「…シリンダーからを弾を抜いておいたんだよ、間抜け」
寝返りを撃つと俺はベッドから落ちた。
「いでっ!…なんだ、夢か」
ドタドタドタドタ…。
また駆けてくる足音が聞こえる。NTR菊子だろう。
「大変だー!」
案の定のNTR菊子が部屋に入って来ると、俺の上にまたがって襟をつかみ揺らす。
朝から俺の脳が激しい揺れを感知してすさまじく気分が悪くなった。
やや泣き目になってるNTR菊子。見ると犬耳が消えている。尻尾もだ。
「良かったな、治ったのか」
「全然よくない!私のチャームポイントが減った!」
あのな…。
「それに、アレがないとNTR太郎は私の事甘やかしれくれないもん」
そう言って俺を静かに抱きしめる。ああ…そうか。昨日は何故か感じなかったが、俺は元々スキンシップが嫌いなものであんな風に触れ合った事はあまりなかった。
しかし、どうしてなんだろう。どうして触れる事に嫌悪感がなかったんだろう。…想像してみても分からない。
不思議と今もそうだった。NTR菊子に触れられても特に何ともない。
俺は静かにNTR菊子のデコにキスをした。
「犬耳がなくても、尻尾がなくてもNTR菊子はNTR菊子だよ」
「…そっか」
屈託のない笑顔を見せてくれた。抱き合い、全身でNTR菊子を感じる。もうそろそろ学校に行く支度をしなければならないが、今しばらくは離れたくなかった。
すみません、言い訳させてください。
本編を放置して前置きとしてはもう十分であるはずのNTR菊子エピソードを挟んでまで2話分閑話をやりましたが訳がございまして…。
大まかなラストまでの構想を進めていた所、NTR太郎がNTR菊子に刺殺されたり、逃げてる途中で10tトラックに撥ねられたり、NTR菊子が完堕ち未遂で失踪するなどジャンルのレギュレーション的にまるでダメなエンドを迎えてしまったため構想の再走に追われておりました。
(ちなみにNTR花子のルートも、NTR太郎とNTR花子で心中したり殺し合いになって相打ちになったりして再走してました)
20mシャトルランの様な再走を経てようやくまともなルートが発掘できたので次からは本編を書けそうです。
しばらくは閑話を挟まず進められそうですが、また閑話が来た時は「また何かやらかしたな」と生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。