年の差なんて関係ない。そう言ってしまえばそれまでだ。
私はいい。でも彼は?
同年代の子とか、若い子が好きかもしれない。
愛はどちらか一方的な物じゃなくて、お互いに通い合う物。血液の様に。
だから彼への好意が許されるものか自信なくて。
笑ったり、冗談の様に言えばどんな失言も誤魔化せて。
心は本気で彼を求めているのに、ずっとこうして気のいい大人のお姉さんを演じてる。
今、彼はどうしているだろうか。そんな事ばかりが気になってしまう。
彼は糸の切れた凧。何に囚われる事無く突然現れて、突然消えてしまう。
NTR太郎君、私はね…。
俺はすぐにDVDを再生した。我ながら節操がないと思う。
DVDに映し出されたNTR菊子が片手にハンディカメラ持ちながら俺に手を振った。
全身鏡をバックに見たことない部屋が映っている。
『やっほー。君のゴミ箱は妊娠何か月目に入ったかな?』
やがて生まれる。…と言うような冗談を言う心の余裕もない。
『えっとね…。ここ、私の部屋なんだ。君に贈るDVDの撮影時間って朝か夜しかないから…とっても眠いです。今朝何時だと思う?まあ後で撮影時間を確認してみてよ。それで何だっけ、ああ、君との初体験のレビューだったね』
目をぱちぱちと瞬かせ、目をこする。眠いからってあまり目をこすっちゃ駄目だ。あまりやると瞼が伸びて、年を取った時に弛んでくる。…なんて気にしてる俺をプラスチックバットで撲殺したい。
もう俺の恋人じゃなくなったけれど、やっぱりNTR菊子はNTR菊子で。どこか抜けていて可愛い。
『硬さはバッキバキで良かったよ。太さも…まあ良かった。問題は長さだね。18㎝は欲しかった。惜しかったね。君のは何㎝かなぁ…。13.5?14㎝かな。もう何でもいいや。測って送ってよ』
正解は15㎝だ。興味本位で測ったことがある。
…短いと短小短小と罵ってもらえるばかりならず、洋式トイレに座って用を足す時に前の便座カバーに亀頭をぶつけずに済むというメリットがある。身長もそうだが、長いばかりがいい事づくめでもない。座る位置の問題かもしれないが。
『後ね、もうちょっと自分で動こうよ。君鍛えててるでしょ??セックスって意外と体力使うし。…まぁもう君の一物が女性のアソコとつながる事はないだろうから、別に何のアドバイスにもならないんだけどさ』
動かなかったんじゃない。動けなかったんだ。
叔父さんサイズに拡張されてなかったら、アレよりやばかったかもしれない。
画面のNTR菊子は腕を組んで体をゆすって何か考え事をしている。今までのDVDでは立て板に水と言わんばかりにしゃべっていたが、今は話す間に意図的でない間があって考えながら話してる様子だ。だからと言って何かという訳じゃないが。
『ああ…もういいや。君のレビューおしまい。もっと罵っても良かったけど、君にならご褒美になるだけだしね。でも君にオカズを提供するって言っちゃったし、今から3分だけここに突っ立ってるから今のうちに自慰でもすれば?』
画面の中の彼女はスマホでアラームを設定すると、近くの机に置いた。
NTR菊子が立ってるだけなのに、それでも俺は一物をしごく。
あっという間だった。もう射精して画面に白濁液を飛ばしてしまう。
向こうからアラーム音が鳴った。3分も経ってない気がする。
『君ならもっと早くイケそうだったから2分に設定してた。ごめんね』
何だか画面越しに本当に見られている気分になって、また射精してしまう。
『……それじゃ、これで本当にさようなら。バイバイ』
再生終了した。撮影日はまさに彼女との初体験の翌日の朝5時頃。
終わった。今度こそ本当に終わったんだ。俺の人生目標の3分の2は達成された。次はNTR幸子だ。
「ああ、くそ…。何でこんなに辛いんだ…」
明日まで休みだ。今のうちにNTR幸子を恋人にすべく行動に移る必要があるというのに。
心を劈く痛みが体中に刺さって、標本にでも縫い留められたように動けない。
俺の一物は力なく項垂れ、吐き終えた精子といつまでも糸引いて繋がっていた。
「寝取られるって辛いな」
俺はNTR花子にメールを送った。
『欲を言えばそれ、私の時にも言って欲しかった』
カフェ店で言ってた気がする。寝取られた直後の事か?
まあもう過ぎた事なので仕方がないが。
「ごめん」
『赦す』
NTR花子は付き合っていた頃と印象が異なり、かなりサバサバしている。
ドライというか何というか…俺にとってはありがたかった。
NTRと言う性癖は変わらないが、フィクション内だけで楽しむ事にした彼女はあれから大五郎先輩と上手くいっているようだ。
この間はどこへ行っただとか、されて嬉しかった事とか。そんな惚気話をしていた。他人の惚気話なんてどうでもいいと思っていたが、彼女が嬉しそうにしていると何だか俺も嬉しい気持ちになってずっと聞いていた。
『…NTR菊子の事、辛かったね。もうリアルにNTRを求めるのはやめようよ。快楽より、辛い苦痛が待ってるだけだって…』
「痛みもいつかは思い出になる。風化されたり、美化されたり。時が過ぎ去れば出来事はただの記憶でしかない。その頃にはいいオカズにでもなるさ」
俺がNTR性癖に目覚めたのも、初恋の人を奪われた時のトラウマが原因であるように。
『君も懲りないね。ちょっと羨ましいよ』
あのDVDはダビングして、データをパソコンと外付けHDに入れておいた。破損に対する対策はばっちりだ。未だに黙ってるNTR花子の大五郎先輩との性行為の動画も同じファイルに保存している。
後はNTR幸子だけなんだ。俺はここで止まれない。
「…でも今だけはその痛みに耐えれなくなって、君に頼ってしまってる」
『痛みは分かち合うもの。同じ性癖だもの。君は私に頼ってくれていい。……本気で辛い時は、胸を貸してあげる。私の胸の中で思い切り泣いていい。代わりに、もし私が辛い時は…』
「俺が君の涙の受け皿になろう」
俺はベッドに寝転がる。
SNSでNTR菊子へのメッセージ欄を開いた。
本当、最近は何気ない事でずっと会話していたのに…。
通知は途絶えてしまった。
今は痛みを癒したい。19時。NTR幸子は必ず自宅にいる。連絡をして、会おう。
それまでは休んでいよう。
そうだな、旧道の公園でしばらくぼんやりしていよう。
俺はNTR幸子に連絡しながら、歩いて旧道に向かった。
あれは今から5年前の、夜の埠頭。
NTR太郎君との出会いはそこから始まった。
風が吹き抜けて寒い。自分の体を縮こめて海の向こうを眺めた。
雲が月を浚い、空はどこまでも暗かった。
あの海に映るのは親友の顔。
親友は自宅で首つり自殺をした。
昨日まであんなに元気だったのに。私と笑いあったのに。
大丈夫だって、また一から頑張ればいいって言いあったのに。
あの日、一緒にいたら良かった。
そしたら止められてたかもしれない。
彼女の理論は間違ってなかった。
間違ってたのは、彼女から指示された内容を誤解して行った実験の私の手順だった。
私が殺したも同然だ。私がもっと注意深くちゃんと理解してた準通りにやっていたなら、親友は死なずに済んだのだ。
…親友に謝りたい。あなたの研究は正しかったと言いたい。
私は靴をそろえ、遺書とおもりを置いて深呼吸をする。
「今から会いに行くね…」
ザッパァーン…。
飛び込んだ。波が、私を遠い所へ連れて行ってくれる。
…しばらくして、息が苦しくなって来た。
あんなに死にたかったのに、いざ死にそうになると見苦しくも生きたくなるもので。
空気を求めて私は海面に向かって手足をばたつかせる。
そしたら、足が攣った。はは、馬鹿みたい…。
ああ、もう駄目だ。浮上するより沈む方が早い。
ザッパァーン…、バシャバシャバシャ…。
遠くで飛び込む音が聞こえた。
その人はすぐに私をつかみ上げると海面に向かって浮上する。
「ぷはっ、ぜえ、ぜえ…」
私は必死に呼吸した。
「た、助け…」
浮き沈みして呼吸がままならない。
「落ち着いてください、とにかく!」
足の攣りも少しずつマシになってきて、彼に力を借りながら何とか海面から上に顔をあげられる様になって来た。彼は私の手を離さないでいる。
それから一緒に近くの梯子に捕まった。彼が先に上り、私は引っ張ってもらった。
一緒にコンクリートの地面の上に横たわり空を仰ぐ。
「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?」
「ええ、ええ…。大丈夫、です」
私はせき込んだ。肺には入ってないが、さっき海水が気管に入った。
「びっくりしましたよ…。急に飛び込んでしまうもので。靴に、遺書まで置いてあって…」
「あはは、海水浴って言い訳するには時間が遅すぎましたかね」
「…冗談きついですよ」
その時助けてくれた彼が、NTR太郎君だった。
私がここに引っ越して来た時、今よりずっと幼くて子供だったのに。
お母さんの後ろに隠れながら、おどおどとしていたあの子供が。
今じゃこんなに力持ちで、情けない私を引っ張ってくれた。
「立てますか?家まで送りますよ」
彼は立ち上がると、私に手を差し伸べた。
空に月明かりが戻って来る。彼の顔が見えた。
お世辞にも、イケメンとは言えないが。
その時の彼のカッコいい笑顔は永遠に私の網膜に焼き付けられた。
青春の全てを研究に注いで費やした私に訪れた、遅すぎる春の到来だった。
この辺からラストスパートに入るので一気に書き込んだ。
さすがに今日は投稿しないと思うけど…大方の物語は今日中に書ききるかもしれない。
まだ分からないけど、後日談は書くかも。NTRモノとしては良くない蛇足なので、最終回で消化不良とかいまいちパッとしないラストだったと思う人だけ読んで欲しい。
後2、3話はあるかもしれないから今書くことじゃない気もするけど←
それにしてもNTR幸子の話にようやく移れた…。
話も今の所は上手く進行してるのでこの勢いに乗りたい。