でも普通に辛い。
「ああっ、うぐ…うくっ、あっ…」
部屋に響き渡る肌を打ち付け合う音。
私は彼の力強い腰使いに、ただだらしなく嬌声をあげるしかなかった。
そして、いつもの様にまた泣いてしまう。
「ぐすっ、えぐ…うえっ…」
彼は繋がったまま強く私を抱きしめる。
「今日も駄目だった…」
彼は私から一物を抜いて、上着だけ着ると窓の外に向かって項垂れる。
ああ、またやってしまった。また泣いてしまった。もう4度目になる。
今度こそ泣かないって決めたのに。また泣いてしまった。
「NTR幸子さん…、そんなに彼が忘れられないんですか…」
「ごめんなさい、私…こんなつもりじゃ…」
彼は私の横に座った。
「…僕じゃ、彼を忘れさせる事はできないのかもしれない」
「うぐ…ぐすっ…私は、私はあなたが…」
「こんなにあなたを泣かせるんです!そんな彼の一体どこが…」
彼は言葉を荒げたが、眉間を抑えて首を横に振った。
彼はMOB帯刀さん。1人でヤケ酒していた所を知り合って、家に送ってもらって以降こうして付き合っている。彼は私のベタ惚れで、立場上結婚話を持ち寄られることも多いらしいが断っているらしい。
こんな私のために。
「すみません。ちょっと取り乱してしまいました」
「MOB帯刀さん…」
彼は少ししてポケットから何かを取り出した。指輪ケースだった。
中には3カラットのダイヤモンドの指輪が入っていた。
「…NTR幸子さん、僕は本気です。もしあなたの愛を僕に向けてくれるのなら。…明日の晩、これを左手の薬指にはめて出迎えていただけませんか」
そう言うと、彼はまた足早に家を出て闇夜の中に紛れて行った。
世間から親の七光りと呼ばれ続け、何かと親と比較されてきた彼。
ようやく立ち上げた事業が時代の風に乗りだした所。
そんな彼が、私なんかを愛してくれる。
私も彼と結ばれたい。ずっとそう思ってる。
それなのに、いつも彼との行為で思い出すのは…NTR太郎君の顔だった。
彼にはNTR花子ちゃんがいるのにね…。
この想いが届くことはない。分かっているのに、彼への恋を止められない。
私が、また誰かを不幸にしてしまう。
あの時の親友みたいに。
翌日の朝、私は墓参りに来ていた。
亡くなった親友の前で最近の出来事を話す。
彼女は返事をしてくれないけれど、いつも私の話を聞いてくれている気がして安心できた。
どんな事でも、私を蔑んだりせずありのままの私を受け入れてくれている気がする。
今日の話は…MOB帯刀さんとNTR太郎君の話だった。
「…ねぇ、私どうすればいいかな。わからなくて。君みたいに、また誰かを不幸にしてしまわないか…そう思うと怖いの」
お線香が燃え尽きた。
ああもう、馬鹿だなぁ私は。こんな事聞いたって困惑するだけだろうに。
「いつもいつも、いつもいつも…。NTR幸子は他人の事ばかりだよね」
「えっ!??」
何年経っても忘れない。親友の声がした。
見渡すと、墓石の上にあの日から変わらない友達がいた。
目をこすっても消えない。幻覚?夢??
「あまりに見てられないんで、来てあげたんだ」
「MOB頼子…!私、えっと…何から話せばいいんだろ」
「ああ、待った待った!懺悔はナシ!もう嫌と言うほど聞いたからもういいよ!私は死んでるし、大事なのは今。そうでしょ?」
「え、あ…うん」
嬉しくて涙が出てきた。あはは、私は泣いてばかりだな。
MOB頼子はため息をついて私の隣にやって来る。
近くのベンチまで歩いて、そこに座った。
「誰かを傷つけるかもしれない。誰かを不幸にするかもしれない。私が自殺してからのあなたの人生はそればっか。君はどうなるの?NTR幸子の幸せはどうなるの?」
「私の事なんかどうでもいい。もうこれ以上誰も傷つけたくない」
「君は本当、驚くほど馬鹿だなぁ。生きてる間は、意識的にも無意識的にも誰かを傷つけてしまうものなの。この世に、生殺与奪に関与しない生き物がいると思う??」
「そりゃそうだけど…」
MOB頼子はため息をついて空を眺める。
理屈は分かってる。でも心がそれを受け入れてくれない。
こうして結果を出す事を怖がり引きずっていても、同じ事なのに。
「君はNTR太郎君が好きなんでしょ?素直になれば?」
「でも、MOB帯刀さんが…」
「誰があなたを好きかじゃない。あなたが誰を好きかでしょ!?あんたの生半可な義理人情が、徒に人を傷つけてるのよ。分からない?」
私は唇を噛んだ。久しぶりに会ったMOB頼子はやっぱり辛辣で、私の心に容赦なく言葉を突き刺してくる。でも…今はその痛みが心地よかった。
スマホを取り出して、NTR太郎君の写真を眺める。真正面から撮った写真がない。いつも横顔だ。でも、私はこの顔を眺めてるだけで幸せになれた。
「MOB頼子、今度の墓参りは果物持ってこようと思うの。何が欲しい?」
「んぇ?…何で急に。そうだなあ、メロンがいい」
「うふふ、MOB頼子ってそればっか」
前から大のメロン好きだった。彼女が研究所で私よりも缶詰め状態になってる時、買って来るものを聞いたら必ずメロンを頼んでいた。私も一緒に食べてたけど、彼女がいつも私にも分けるもので食べ飽きてた。懐かしいなぁ。
たまにはリンゴとか、ミカンとかも食べればいいのに。
お互いに何も言わず空を眺める。
「私、やっぱりNTR太郎君の事が好き」
「でしょ?じゃあ――」
私は首を横に振った。
「…彼には、愛する人がいるもの。それは私じゃない。だから…私は自分の意思でMOB帯刀さんの事を好きになろうと思う。NTR太郎君より。彼を愛して、過去を振り切りたい」
ハンドバッグに入れてた指輪ケースを取り出すと、左手の薬指にはめた。
さよなら、私の愛した人。あなたはきっと、愛する人と幸せになってね。
私は思い切り深呼吸をして背伸びした。
立ち上がり、ずっと遠くを眺める。
MOB頼子も立ち上がり、私の背中を叩いた。
感覚はあまりなかったけど。
「あんたが決めたならそれでいいんじゃない?…好きだった人を忘れるのは大変だよ~?」
「わかってる。でも私、決めたから。恋に溺れるんじゃない。手で水を掻き、足をばたつかせ泳いで見せる。私は幸せになるって決めたの」
振り返ると、MOB頼子はいなくなっていた。
『頑張んなさいね。もう過去に囚われちゃ駄目だよ』
…ありがとう、MOB頼子。私の親友だった人。
私は墓場を後にした。
…夜の防波堤は風に心地いい。
俺はミュージックプレイヤーの音楽を爆音で鳴らしていた。
人生目標の3分の3、NTR幸子は…俺がアタックする前に婚約してた。
家を訪ねた時、既に指輪をしてて。
何なら部屋の向こうから相手の男らしい声がして。
びっくりした。現れたのは飲み屋でのあの金持ちの息子じゃないか。
ちょっと話に花が咲いて、NTR幸子は俺達が知り合いな事に驚いてた。まあそうだろうな。
世間は狭いな…。
俺が家を買える時、家の電気が消えたので色々と察したが…興奮はできなかったな。
NTRジャンル派生、僕が先に好きだったのにことBSSを達成できたので(?)妥協点と言ったところか。
「あーあ…。目標を達成できたはいいが終わってみるとつまらないもんだな」
そういえば、NTR幸子が入水自殺しようとしていたのはこの場所だったか。
NTR花子も、NTR菊子も、NTR幸子も。皆、もう俺の一生知る事のない明日に行ってしまった。
卒業すれば、今よりもっと関係は希薄になって…まさしく思い出になるんだろう。
この痛みが、これからずっと先この俺の心を苛む事を望んで止まない。
「あーーー…。くそっ、こうなったら運動だ!俺は泳ぐぞ!」
俺は乱暴に服を脱ぎ捨て、その辺に捨て置いてパンツ一丁になった。
そしてストレッチもせずに助走をつけて海に向かって走った。
「ちくしょぉぉぉおおおお好きだぁぁぁぁあぁわぶしっ!!!」
海に小さな飛沫が上がった。
タイトル回収できませんでした←
一応、後日談があります。これまでもちゃんとNTR物してたか自信ありませんが後日談では特にNTR物としては色々と台無しな感じの蛇足にしてあるのでNTR好きなら続きは読まない方がいいと思います。
「もうちょっとこう…何かあるだろ!」的な、消化不良というかそんな感じの人は是非後日談まで読んでいただければと思います。
ここまでご愛読ありがとうございました。
追記
後日談、7800文字に到達しました。指が痛いです。
それでなお終わらないので、前編と後編に分けます。
それでも終わらなかった日には…ナオキです。