逆に、何をやっても上手く行く時がある。
今がその時の様だ。俺の人生の春が来た。
最初はそう思ってたんだがな。
※本作の登場人物の殆どのメンタルがこの上なく荒んでいます。気分が悪くなった時は読むのをやめてください。また、病んだり気分が落ち込んでる場合も読まない事をお勧めします。
また、本作に出て来るそれっぽい情報はうろ覚えで書いてるソースを提示できない非常に信憑性に欠けるものです。
「すん、すんすん……」
私は部屋で鼻を啜って泣いていた。また枕が涙で濡れる。
やっちまった。マジでやっちまった。
演技に熱が入るあまり、勢い余ってキスなんかしてしまった。
ふざけんな、私のファーストキスがあんな顔面ブラクラ野郎なんかに捧げられる事になるだなんて…。
手短に落とすつもりだったが、他に方法はあったはずだ。
なのにどうしてキスなんか…。
「……………………」
そうだ。あれはノーカンだ。そうに決まってる。
奴とのキスがファーストに数えられるのであれば、人間の大半のファーストキスはママのおっぱいか哺乳瓶か、親指だと言っていい。あんな奴との口づけが私のファーストキスであるはずがない。
いやそもそもNTR太郎は人間じゃない。クラミドモナスとかゴルジ体とか、そんなアレだ。
そう、私の純潔は未だに健在だ。
私の辞書に自己責任と言う言葉はない。
とにもかくにもこの屈辱は晴らさねばならない。
必ずやNTR太郎をNTR花子から奪い、その上で惨めに捨ててやる。
「可愛いワッペンをてめえのデコに縫い付けてやろうかクソがぁ!!」
私はベッドから落ちた。何だ、夢か。
しまった、昨日はアラームを設定せずに寝てしまった。時計を見て安心する。
今日はいつもより少し遅れてNTR太郎の元へ向かわなければならない。
スマホを覗いて着信を確認する。NTR太郎から返信が来てる。
『ヒナちん可愛いよね。フォークリフトを乗り回す所とか』
…ヒナちんがフォークリフトを乗り回すのは二次創作ネタで、原作にはないぞ。NTR太郎がアニメ好きって言うんでちゃんとあいつの見てるって言うアニメを見て話題作りに協力してやってんのに、本当にアニメ見てんのか。
まるでネットのニガゴリ大百科を斜め読みして勘違いしつつ把握したつもりでいるんじゃないかと思ってしまう程に話が食い違うんだが。まあいいや。私はパソコンをつけて音楽再生機にMP3形式の音楽ファイルをいくつか転送した。
そしてポケットにそれを入れると歯磨きと顔洗いをするとせかせかと制服を着てスクールバッグを持って玄関に向かう。
「朝ご飯は食べていかないの?」
お母さんだ。
「毎日言ってるけど朝は食欲ないんだってば」
「そんな事言って…、授業に集中できないでしょ」
「気持ちはありがたいけどこれでちゃんと成績を出してるんだから放っておいてよ」
「もう…気を付けてね。最近は物騒だから。寄り道しちゃダメだし、変な人について行かないようにね!」
「はいはい。いってきます」
私はさっさと家を出た。時計を確認する。少しゆっくりし過ぎたか。
少し急ぎ足でNTR太郎の家に向かった。
いつもは私の方が先に到着してインターホンを鳴らして出てきてもらうので、あいつが玄関で待ってる姿を見るのは珍しい体験だ。いたいた。
奴は魂の抜けた土偶の様な腑抜けた顔で、視線をあらぬ方向に向けていた。
頼むから何かあった時は私の枕元でその顔で立つなよ。マジでビビるから。
「おはよう、NTR太郎。ごめん、待った?」
「NTR花子おはよう。今ここに立ったばかりだよ」
2人で通学路を一緒に歩く。
「ねぇ、手をつないで歩かない?」
「ああ、いいね」
手をつないで、揺すって歩く。これまで頑なにスキンシップを拒んできたのでようやくだ。
せっかくNTRを楽しむのだから、ある程度はこういう恋人らしい行為を積んでおかねば面白味に欠けるというもの。
私は腕時計で時間を確認する。そろそろだな。
「私たちがもっと子供だった頃、こんな関係になるだなんて思いもしなかったよね」
「ああ。ずっとただの友達だと思ってた。これまでの様に、これからも」
私が立ち止まると、NTR太郎も立ち止まった。
「ねぇ…、私達恋人…なんだよね?もっと恋人らしいコト…したいな」
「……バスフィッシング?」
え?
こいつの頭の中では妙齢のカップルは皆、手を繋いだ次にやる事がバスフィッシングなの?いい感じになった所で釣りに行くの?自前の竿は中折れしてんの?馬鹿なの?
「ち、違うよ!キスだよキス」
「ああ、キスね」
リアクション薄っ!!
えぇ…何なのこいつ。そっち系なの?あるいはプラトニック・ラブ?
ショックでかい…こっちは一生懸命に恋人ムーヴしてんのに…。
そう思っていると、私の背中と後頭部を両腕で抱き寄せて力強いキスをしてきた。
「!!?!?」
いやいやいや、心の準備できてねえし!
不意打ちは…。
あれ、こいつ無駄にキス上手い。頭がぼーっとして来た。
何で本来は生涯披露する機会がないであろうキスの才能持ってんのこいつ。
と言うかキス長い。このままじゃ遅刻……してもいいや。
悔しいけどこんな奴のキスにドキドキしてる。
熱を加えられたバターの様に蕩けていると、遠くでバッグを落とす音が聞こえた。
私を抱いた腕を放してくれた。まだ思考が正常に働いていない。
ああ、えっと…向こうで私達を眺めているのはNTR菊子だ。
「あ…。お、おはよう先輩」
「おはようNTR菊子ちゃん。…通学路はこっちじゃないよね?」
「あ、うん…」
ケケケケ!動揺しちまって声も出ないみたいだな!
ああそうさ。今日、少し遅れて出かけた理由もこのため…。
あいつの通学路が工事中だから、私達の通学路を通ると予想した上での事よ!
どうよ!こんなに目の前でイチャコラされちゃあ癪だよな!私から恋人を奪いたくなるよな!
これで私の作戦行動は終了!後は果報を寝て待つだけ!
さあさあ、お得意の上目遣いをするなりスキンシップをするなり、スカートをめくって見せるなり何なりして寝取ってみろよぉ!クケケケケケ!!
「あれ、何でかな…あは、あはは」
「NTR菊子さん?」
んあ?
あれ、NTR菊子泣いてる。なんで?お前が泣く道理ある???
ああ涙を落して男を落とす作戦ね。いいねそれ。
「あは、あはは!私忘れ物しちゃった!」
NTR菊子はバッグを拾うと自宅に向かって走って行った。途中で足がもつれて転んだ。
「NTR菊子!大丈夫か!?」
NTR太郎の差し伸べる手を振り払って、「大丈夫だから」と繰り返し言いながら走って行った。
うわ、マジ泣きしてる…。なんで?なんでなん???
いやその反応、本命が寝取られた側がする反応じゃん???
その感じだとまるで私がNTR菊子から恋人奪ったみたいじゃん????
は?????
マジ意味わからないんだけど…。まあいいか。もう登校しなきゃ遅刻するし。
「NTR菊子ちゃんは大丈夫だって言ってるし、そろそろ登校しようか」
「そうだな」
NTR太郎も納得してくれたので一緒に手をつないで学校へ向かった。
「んんーっ、疲れた体にお湯が染みるぜ」
俺は久しぶりに温泉に来ていた。それもそのはず。俺は今、超絶上機嫌なのだ。
あの脳筋マウンテンゴリラに無事に目を付けられ、俺と付き合ってる美人のNTR花子に興味を抱くようになった。俺の事が好きだったNTR菊子は俺から恋人にキスをするという偶然の現場に居合わせたせいでショックから不登校になっちまった。
おかげでじっくりとNTR花子を寝取らせつつNTR菊子をキープしておく事ができるというわけだ。フヒヒ。
ああ、そういえば最近はNTR幸子に構ってないな…。まあ今しばらくは放置しておこう。
さあ、マウンテンゴリラ先輩…さっさと寝取ってくれよ…。
「おう、NTR太郎じゃないか」
噂をすればか。こっちは伸び伸びと寛いでいたというのに、仕方がない。いつものおどおどした感じで接するとするか。
「あ、先輩…。どもです」
「こんな所で居合わせるとは偶然だな。俺もちょうどここに漬かりに来たかったんだ」
腕を俺の肩に回してきた。俺は男女問わずスキンシップが大嫌いだ。
腹は立つがここは我慢だ。こいつに恋人を寝取ってもらうためにも。
「…お前、着やせしてんのな。意外に体づくりがしっかりしてる」
「あ、はい」
【あ】という言葉を冒頭にワンクッション置く事で、コミュニケーションが苦手な人アピールができる。これは便利よな。
それにしても、ベタベタ触り過ぎなんじゃないか?
俺の肩を揉んでくる。
「それに焼けてないないからか肌は白っぽくて…色っぽい」
全身に鳥肌が立った。さっきから何言ってんだこいつ…。
それに運動部ほどじゃないだけでそれなりに肌は焼けてるぞ。
嫌な予感がする。体中の毛穴と言う毛穴が総立ちしている。
なんだこの嫌な予感は…。今すぐにここから離れろと本能が警告している。
奴は俺の耳元で囁く。
「なぁ…NTR太郎、俺のモンになれよ…」
ひえええええええっ!!!!?!?!????!!?
ち、違う…こいつの狙いはNTR花子じゃなかった!!俺だ!!!俺を狙ってやがった!!!!
震えが止まらない。歯をカチカチとさせて隣にいるマウンテンゴリラ先輩に恐怖する。
俺を今までそんな目で見てたのか…!
「さあ、あがろう。俺の家、近いんだ。寄っていけよ」
「あああ、あの、俺そんな趣味…」
先輩の笑顔が怖かった。どうなるの俺…。