人生に長い冬が訪れた時は、じっとそれを耐え忍ぶしかないのだ。
そう、長く雪に埋もれ春をまつフキノトウの様に。
※本作の登場人物の殆どのメンタルがこの上なく荒んでいます。気分が悪くなった時は読むのをやめてください。また、病んだり気分が落ち込んでる場合も読まない事をお勧めします。
また、本作に出て来るそれっぽい情報はうろ覚えで書いてるソースを提示できない非常に信憑性に欠けるものです。
俺の純潔は守られた。
脱衣所でマウンテンゴリラ先輩にかかって来た電話で、用事ができたためだ。
バイトの事らしい。俺は自販機の牛乳代まで貰って、奴はさっさと出て行った。
…ガラは悪いが、頭で思ってるほど悪いやつじゃないのかもしれない。
あの様子じゃあいつにNTR花子は寝取ってもらえない。
またしてもふりだしに戻った。
「どうしたものか」
「あれ、NTR太郎君?」
その声は…NTR幸子だ。
放置しておこうと思ってたら、こんな形で会う事になるとは。
「あ、お疲れ様です。奇遇ですねこんな所で」
ここ最近はこの言葉ばかり言ってる気がするな。
「うん。ここのマッサージ機を利用しに」
温泉には入らないのね。
俺達は一緒に並んでマッサージチェアーに座って金を入れた。
グゥウウン、グゥウウウン…トトトトトト…フシューッ。
学生の俺でもそれなりに気持ちがいいが、NTR幸子さんぐらいの年齢になると更に気持ちよくなるらしい。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛…」
NTR幸子のだらしない声が聞こえる。俺は思わず笑った。
「笑わないでよ」
「NTR幸子さんって面白いですね」
「人を面白がるもんじゃありません」
そういう所も可愛いんだが。
…ゴウンゴウンゴウンゴウン…。
NTR幸子とはまだロクな恋愛フラグを立てていないが、落とすのは難しい事じゃない。
俺が露骨に彼女を避けている理由は彼女といる間は露骨に俺を誘惑してくるからだ。
今はNTR花子と付き合っている。NTR菊子の時も中々な修羅場だったがとにかくそういった恋愛沙汰は必要ないのだ。
「NTR幸子さん、おっぱい貸してください」
「いいけど、代わりにおち〇ぽ貸してくれる?」
「なあ、NTR幸子」
「なあに、あなた♡」
数か月ほど接触を避けていたので、万が一にも色恋沙汰に巻き込まれていないかチェックしてみたが問題な様だ。やはり寝取られる順番はNTR花子、NTR菊子、NTR幸子の順番で合っている。
ピコーン♪…通知が来た。誰だろう。
マッサージチェアーのチェックが終わったら確認してみるか…。
「…マジでクソ。運営の野郎、何でガーキャンに修正入れやがった。どんだけ私の持ちキャラを下方修正すんだ。もはや空を飛ぶ鉄の棺桶だろアレ」
私はゲーセン帰りですこぶる不機嫌だった。いつも遊んでるゲームで更新通知が来てたのは知ってた。元よりゴミ性能と呼ばれていた持ちキャラが更に下方修正されたと聞き及んでいたが…。対人戦は絶望的な有様で、惨敗を期していた。
大体、性能のいい機体との性能の差が開き過ぎだろ。人気が高いからってガラロー勢の優遇が露骨すぎるだろ。マーケティング必死か??だからキッズが蔓延るんだ。
近くに捨ててあったボロボロのビールケースを蹴飛ばした。
「ああクソ、マジで腹立つ。公式垢にクレーム入れとこ」
そう思ってSNSを開いていると、後ろから自転車のブレーキ音が聞こえた。
「うわっ、危ない!」
「ぎゃ!」
危ない所だった。自転車を運転していた人は私をケガさせまいと急にハンドルを切ったため転倒してしまった。私はスマホを胸ポケットに入れて、転んでる人の所に駆け寄った。まずは自転車を車道の白戦から外側に出して、転倒した人の無事を確認する。
「大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫…君は?」
腕とデコに擦り傷を負っている。…ここは歩道ではない。確かに彼も一応前方不注意という事にはなるのだろうが、元はと言えば私が歩きスマホをしていただからだ。参ったな…。
ハンカチで血を拭って体を起こすのを手伝った。
「ごめんなさい、歩きスマホなんかして…。私は怪我はありません」
「いいんだ。俺も自転車のライトが切れてたから…。君はNTR花子か」
自転車ってライトがついてないと近づかれても気付かないもんだなぁ…。
暗くて分かりづらかったが、そういえば聞き覚えのあるその声と容姿は大五郎先輩だった。
確か、問題行動をよく起こしていて停学処分をもらったり成績の問題から1年留年してる。
噂で聞いていたよりは常識的な対応をしていたし、意外だ。
「大五郎先輩だったんですね。暗くて分かりませんでした」
「にしても、こんな時間までこんな所で何してたんだ?」
「えっと…ウォーキング…?」
「こんな時間に?変わってるな。趣味はいいけど時間を変えた方がいい。変質者に襲われたりしたら危ない」
「…大五郎先輩こそこんな時間まで何やってたんです?」
「まあバイトだな」
「うちの学校、バイト禁止されてますよ」
「バレなきゃいんだよ。へへっ」
そうやって停学処分されたりしてきたんだろうに、懲りないなあ。
自転車は壊れていないようだが、何となく成り行きで帰りの道を一緒に歩いている。
それまで、バイト先にはこんな人がいるとか弟がどんな様子なのかとかそんな事を話していた。
怪我してる箇所は痛むだろうに、元気だなあ。
「NTR太郎とはうまくやってる?」
「ええ、まあ…」
「どこまで行った?」
「先輩には関係ないじゃないですか」
大五郎先輩は笑った。デリカシーのない奴…。
十字路に着いた。ここから私たちの帰り道は分かれる。
悪い奴ではないのだが、何というかあまり相性のよさそうな先輩ではなかった。
「じゃあ、また学校で」
そう言い終える前にいきなりキスされた。自転車が倒れる音が聞こえる。
有無を言わせない、乱暴なキス。私の体は彼の屈強な腕に抱かれて動けない。
彼の右手が尻肉をつかむ。言い様のない嫌悪感と快感が走る。
「うむ、むむむ…」
10秒ほどだったか、私は放された。
「NTR太郎が不満なら、俺の所に来いよ。必ず満足させてやる」
そういうと、倒れていた自転車に乗ってサーッと家路に向かっていった。
私は乱れた服を整える。
…NTR菊子があのザマではNTR太郎を奪ってくれない。
どしたものかと考えていた。
しかし、この期に及んでまさか私を寝取りックスしてくれそうな男と会う事になろうとは。
棚から牡丹餅。この機を逃す手はない。
キスが下手な事と、口臭がものっそい臭い事が欠点だがあの体格だけは褒められたものがある。
あの手の大きさ、指の長さからするにチン長もそれなりに期待できそうだ。
まあ総合的には及第点だが、最初のNTRライフデビューにはまずまずと言ったところ。
唐突にキスをしてくるような奴だ。今後も何か仕掛けてくると考えていいはず。
私はあまり露骨になり過ぎない程度に奴の肩入れをし、寝取られてやろう。
後から、あの時の傷が痛むとでも言って来るぐらいの悪知恵があればいいが…。
私はこれからのNTRライフに胸が躍った。
私はスマホを覗いた。まだ返信はない。スマホの電源を切ってテーブルの上に置いた。
はあ…私なにやってんだろ。
…ゴンゴン!!
部屋を乱暴にノックする音が聞こえた。継母だろう。
「いつまで休んでるつもりなんだい!!学費だってタダじゃないんだよ!!学校に行かないんだったら辞めちまいな!!!」
私は毛布に包まって耳をふさいだ。
うちの両親はお互いにバツ1だった。私は父の娘だ。母とは血がつながってない。
父は数年前に事故で死んだ。スピード違反でパトカーから逃げていた暴走車と衝突した。
何で継母みたいな人が私をこの家においているのか知らない。覚えてない。
前に遺伝性疾患で父方の家系の寿命は短く父の家族は多くないとかそんな話を聞いたのをぼんやり覚えている。
でも、引き取り手が他にいないなんて事は…ないはずと思うけれど。
今はどうでもいい。
学校に行かない。働きもしない。そんな私にこの家での居場所はないんだろう。
私には母の娘の2人の姉がいる。長女は薬剤師で、次女は学生だ。
うちの家はあまり裕福な方ではない。
次女が第一志望校に落ちて私立に行ってるから学費が嵩んでいる。
この家族にとって血のつながらない私はただのお荷物なんだろう。
疎まれるのも無理なかった。父は死んでいるのだから。
もう何度目になるのか分からない涙を流した。
ピコーン♪
スマホの通知だ。私は急いで確認する。
『皆心配してるよ。君の笑顔が見たいって』
NTR太郎だ。私はちょっとニヤついてしまう。
「私は先輩の顔が見たいな」
そう書いて送信する。
それからまたベッドに横になって天井を眺めた。
最近は自分の本当の気持ちが分からなくなった。
NTR花子への復讐のためにNTR太郎を好きなふりをした。
なのに、今じゃまるで本当に彼が好きみたいな気持ちになってる。
演技に熱が入り過ぎて溺れた??
分からない。
頭に思い浮かぶのはあの日、NTR太郎からNTR花子にキスをしていた所。
「そっか……」
ようやく分かってきた。
私は今まで好き勝手に男を女から奪って来た。非常に小さな労力で。
手短に落とす。そのためだけに熱が入った演技で初めてのキスまでしたのだ。犠牲は小さくない。
なのに、NTR太郎はそんな私に気を留めずNTR花子を愛していたのだ。
ポツ…ポツポツポツ…。
雨が降ってきた。今日は曇りだって聞いていたけれど…。
まるで私の心の模様のようだ。
初めて心を奪えなかった。それが私のプライドを強く傷つけた。
よりにもよって、あのブ男から。
私が心のどこかでライバル視していたNTR花子から。
”自身の好意が本物であるのなら、それに背く事はない。恋人と言う関係に甘んじている片割れから交際の権利をはく奪すれば良い”
…NTR太郎があんな事言うなんて思わなかった。
多くの男は私に言い寄ろうとおべっかを使うのだ。
SNSもそう。上辺だけは優しい、腹心の見え透いた甘言を弄する。
彼は違った。
ピコーン♪
『今度、叔父さんと一緒に山に栗拾いに行くんだ。そこのロッジから見える光景がとても綺麗でね。いい気分転換になると思う。来ないか?』
傷心中の私への気遣いが胸に刺さる。嘘から始まった恋が、私の胸に募る。
好き…好き…。私の心の器からあふれ出した感情が目から零れ落ちる。
愛が止まらない。NTR太郎を独り占めにしたい。愛したい。好き。
「今から会いに行くね。旧道のあの公園で待ってる」
私は送信すると、折り畳みナイフだけ持って雨の中を走って出かけた。
ゆっくり休んで心身共に回復してきたので、作風が割と明るくなってしまうのではないかと危惧していたがそんな事はなかった。