鋼国の首無し兵団 作:フリッシュヤードチップス
女の子が好き。
最初からそうだった。女の子が好き。
女の子の、カラダが好き。
生まれた村は大陸南西端のフリッシュヤード。海に面し、漁業の盛んな村。筋骨隆々な漁師たちと、それを支える気丈な女性の集う、少々暑苦しい村だ。
姉が二人いた。上の姉は私が生まれた時には成人していて、下の姉も15を数える頃。近くに同い年と呼べるような子は居らず、二人の姉は私を大層可愛がってくれた。彼女らの目には眩しく映ったのだろう。弱く儚い命など、フリッシュヤードには私くらいしかいなかったから。
それが多分、要因の一つ。
姉達はよく家に友達を連れてきた。姉達と同じくらいの年頃の女の子。女性。それらが私をちやほやしてくれる。
時折男性らが覗きに来る事はあれど、彼らは漁に忙しく、何より女の子達の壁が厚かった。
ほぼ毎日と言っていい程女の子達に囲まれて齢10を数えるまでを過ごした。
これもまた、要因の一つだろう。
でも、やっぱり、最初から。
私は女の子が好き。私は、女の子のカラダが好き。
だから、ごめんなさいとだけ零した。
突然の謝罪に周囲が困惑する中で──私は、ソレを解き放った。
ソレ。
魔法。
前世より保有する、私を代表する魔法の一つ。
シン・アマイン。
これより私は、私だけの国を造る。
女の子だけの国。
女の子の──カラダだけの、国。
おはよう世界。
一緒にきもちいいことをしよう?
「あ──」
でろん、と放り出された舌。ぐりんと剥かれた瞳。口の端からは涎がだらだら出ていて、元の綺麗な顔が台無しと言えるほどの呆け面を晒していた。
そんな彼女の側頭、こめかみの部分をぐい、と押す。
「あひ、ぇ」
「──!」
おかしな声を出す
キレイなカラダだった。傷一つ無いカラダ。汗に濡れ、火照り照る肌はなんとも扇情的で、舐め回したくなる。
屹立した乳首。クリトリス。どろどろと汁を垂れ流す膣。肛門はヒクヒクと開閉を繰り返し、それらをこちらに見せつけるかのように腕や足が胴体を仰け反らせる。
そして、その首から上は──存在しない。
断面もしっかり見えている。それはこちらの手元にある頭部も同じ。
そう、頭部だ。目の前で跳ねているのは彼女のカラダ。
私の手元にあるのは彼女のアタマ。
「ひぃ、ぃぃいっ」
「──!!」
中指で額を圧す。小指で頭頂を撫でる。
それら動作の一つ一つで、びくんびくんと身体が跳ねる。どろどろと涎と涙が滴り落ちる。
「気持ちいい?
「ぁ──」
話しかけても返ってくるのは言葉にならぬ音だけだ。
死んでいるとか、脳が壊れているとか、そういう事ではない。単純に
姉。姉だ。
下の姉。フリッシュヤードの女の子には珍しく、王都へ出て学問を学ぼうとしていた彼女は今、知性の欠片も感じられない顔を晒している。
そんな汚い頭部とは裏腹に、カラダの如何に美しい事か。
「キレイ……。カデレナお姉ちゃんも、そう思うよね?」
「……はい」
問う。
問い先は──鳥かご。
天井より釣られた鋼鉄の鳥かごの中に、恐怖に怯えた表情の頭部があった。
上の姉、カデレナだ。
他にも10個ほどの鳥かごがこの部屋には飾られていて、その一つ一つに、悍ましい物を見るような視線を向ける頭部が入っている。
あの時、私を可愛がってくれていた少女たち。
あの時、私の魔法を受けた女性たち。
上下の姉を含めて、私の大事な大事なコレクションである。
「それじゃあ、カデレナお姉ちゃん」
「……」
「ご所望の、キレイなカラダだよ」
言う。
暗がり、彼女の鳥かごのすぐそばに
彼女は。
カデレナお姉ちゃんは──キレイなカラダが欲しいと、願った。
一度でも、気の迷いでも、願った。
だから、交換して上げる。
「……っ」
ニルフィお姉ちゃんの頭を置いて、カデレナお姉ちゃんの入った鳥かごへ手招きをする。すると鳥かごは自ら鎖を外れ、ふよふよと浮きながら私の手元にまでやってきた。そのかごを開き、カデレナお姉ちゃんの頭部をそっと取り出す。
それを左手に持ち、今度は先ほど置いたニルフィお姉ちゃんの頭部を再度掴んだ。
「ひぁっ!?」
少しばかり油断していたのだろう、唐突の快感にビクンと大きく仰け反るその体を、無理矢理立たせる。だらしなくさらけ出された舌が痙攣し、あ、え、あ、と言葉にならぬ音を発し続けるニルフィお姉ちゃん。対照的にカラダはすんなりと私の方へ来て、跪いた。たとえ膣からどばどばと汁を迸らせていようと、小ぶりであってもカタチの良い乳房の中心で屹立した乳首が存在を主張していようとも、彼女のカラダはまるで騎士のように見事な忠誠姿勢を取る。
私は、そこに。
その断面のある首に──カデレナお姉ちゃんの首を、乗せた。
変化は一瞬だった。
ニルフィお姉ちゃんの頭が一瞬だけ「あ」という音を発し、完全に気絶する。赤らんでいた顔からは熱が一気に引いていき、そのまますやすやと寝息を立て始めた。
反対にカデレナお姉ちゃんの頭部は目を見開き、口を開け、舌をだらんと落とし──。
「あぁ、ぁぁあああぁっ、ァァアアァアアアアア!?」
姿勢を崩し、のたうち回り、叫び、喘ぎ、イき苦しむ。
股から大量の汁を吐き出しては大声を上げる。床に乳首を、クリトリスを擦り付け、自らの指で膣を掻きまわし、「イく」とか、「来る」とか、普段のカデレナお姉ちゃんからは想像もできない痴態を晒す。
「どれだけ叫んでも大丈夫だよ、カデレナお姉ちゃん。結界は万全に機能してる」
「ああ、嫌、あああっ、こんな、イ、いきたく、ぁあっ!!」
そして、先ほどまでと違うのは、十全に言葉を操る事が出来ている点だろう。
喉が足りるから。
多少の発声方法の差違はあれど、同じ血縁のカラダだ。馴染みも早い。
「それじゃあ、あとはごゆっくり」
ニルフィお姉ちゃんの頭をカデレナお姉ちゃんの頭が入っていた鳥かごへと仕舞う。気絶したニルフィお姉ちゃんの頭の入った鳥かごは自ら鎖のある場所へと戻り、インテリアの一つとなった。
未だ絶頂に苦しむカデレナお姉ちゃんに名残惜しさを残しながら、よいしょ、とベッドを降りる。
10歳の少女が使う部屋など、そう広くはない。その中に所狭しと並んでいる鳥かごを掻き分けて、部屋を出る。
部屋を出て、家を出る。
そこには──女の子のカラダだけがふらふらと動く、かつてのフリッシュヤードが広がっていた。
「デュラハーン討伐、ねぇ」
「何か不満が?」
「いんや。……なんでそんな上級魔物が、大陸最西端なんて辺鄙な場所に出たのか気になっただけさ」
ミオとレア。
共に猫の血混じる獣人であり、王都ではそこそこ名の通った二人組の冒険者だ。
所謂A級と呼ばれる*1パーティであり、依頼達成数は上々。その見た目の麗しさもあってか、男どもには人気のある存在である。
そんな彼女らが此度受けた依頼。ギルドからの討伐依頼の内容は、フリッシュヤードという村に現れた首の無い人影についての調査、及びその退治、であった。
ギルドから直々に出される討伐依頼は、王都民が依頼を出すものとは別に、地域の安全や災害の対処といった治安維持のものである事が多い。それら依頼は報酬の羽振りが良く、しかし難度の高いものである事が多い。自らの力量を見誤った冒険者がそれを受け、返らぬ人となる、などは往々にしてあることだ。
デュラハーン。
上級魔物であり、死の国や廃の国といった陰気な場所に出現する、頭部の無い騎士の魔物。本来頭部を吹き飛ばされたら動かなくなるはずのリビングデッドが、強すぎる肉体、あるいはなんらかの魔法によって生き永らえ、首の無い状態で動き回る不死者。
頭部という弱点が存在しないため、聖水などの対処装備を持っていない場合は逃走する以外にない。
今回フリッシュヤードに現れたという首の無い人影がデュラハーンであると決まったわけではないが、首の無い人影などほぼ100でデュラハーンだ。故に聖水をふんだんに塗った装備と、聖水そのものをいくらか用意し、万全の準備を整えてミオとレアは出立した。
その道すがらの疑問であった。
「確かに。フリッシュヤードは漁業の盛んな村。一度訪れた事がありますが、多少の塩は気になるものの、風通しの良いからっとした村でした。陰気とは程遠い場所でしたね」
「まぁ、デュラハーンの討伐、って話になってないってことは、見間違いの可能性もある。何もないであの報酬を貰えるんなら万々歳だ。ただ、油断はするなよ、レア」
「わかっています。そしてそれは貴女もですよ、ミオ」
既に7年を共にする相棒。
ミオとレアは互いに頷き、あと少しの距離にあるフリッシュヤードへと急ごうとして──それを見つけた。
「ミオ、あれ……」
「子供?」
子供。少女だ。
未だ親に庇護されるべき年齢の少女が一人、周囲に大人も見えぬ状況で村の外を歩いている。
危ない。
当然の思考だ。魔物と言うのはどこにでも存在し、それが上級であれ下級であれ、少なくとも子供に倒せるような存在ではない。中には子供を好んで攫う魔物や人間を母体とする魔物も在り、どうあれ、子供一人を外に歩かせるなど正気の沙汰ではないと言えた。
少女の視界に映る前に、二人はフードを被った。
ミオとレアは獣人である。種族の差別というものはあまり存在しないが、それは王都の話。ここまで田舎であるとそもそも獣人がいない事の方が多く、漁業の盛んな村であれば学業に疎い可能性もある。なれば出生よりこれまで獣人を見た事の無い子供に自らたちがどう映るか、など。
そして、二人は子供に近づいた。
「そこのお嬢さん」
「一人は危ないぜ」
「……あ」
子供。年の頃は15くらいだろうか。
だぼっとした服は首元までを覆い隠し、覚束ない足取りが浮浪児を思わせる。
けれど同時にその表情には知性があったし、何より二人に向けた視線がその懇願を物語っていた。
「助け、て」
言って──倒れる少女。
ミオが抱き留めると、少女はだらんと四肢を投げ出した。気絶したらしい。
「……どう思う?」
「少なくともフリッシュヤードで何事かが起きている、というのは間違いないでしょうね」
「そうじゃなくて、コレ」
コレ。
気絶した少女の首元。覆われていたそこをぐい、と下げれば、ソレがあった。
「これは」
「……僅かだが、途中から……肌の色が違う。どう思う?」
「少なくともこの子は生きています。そして私達に助けを求めてきた。問い返しますが、どうしますか?」
「そりゃ、決まってる」
助けるだろ、冒険者なら。
パチパチと焚火が火の粉を飛ばしている。
既に太陽は落ちていて、辺りは暗闇。たとえ日光が届かずとも光り輝く聖水とそれを塗った武器が目立つが、互いの顔は余り見えない程度。ただ焚火の灯りだけが三人を照らしている。
「他人の身体、ね……」
「……むごい。それに、なんと……悍ましい」
少女は名をシルフィアと名乗った。
フリッシュヤード出身で、齢は22。この時点で少女とは言い難いが、その体は15歳であるという。
15歳の、近所に住まう少女のものであるというのだ。
「たった三ヶ月前。フリッシュヤードは……あの子の支配下に置かれました。あの子の魔法が身体に触れた途端、意識を失い……気が付けば鳥かごの中。そして無造作に置かれた自身の身体が、目の前にあった」
「成程。依頼にあった首の無い人影ってのはそれだな」
「首の無い状態で、自律すると?」
「はい。規定された行動を取り続ける身体と、あの子によって直接操作される身体の二種類がありますが、どちらも首を必要としません。逆に、私の様に……首を挿げ替えられた者は、その体を自分のものとして扱えるようになる、ようです」
自らの──自らのものでない両肩を掻き抱いて、シルフィアは言う。
「……ソイツの目的は? 他人の頭を交換する事だけ、ってことはないだろう」
「わかりません。ただ、首を取られた者達の中で、大半の者は首を返されぬまま村で日常を過ごしています。そしてそれらが痩せ細る様子もない」
「何らかの方法で栄養の供給はしている、という事ですね。言い換えれば殺す気がないという事でもあります。そうなると、ますます目的がわかりませんが……」
「そもそも他人の頭を交換する意味がわからねえな。そいつらが苦しむのを見たいだけ、か?」
「それは……」
何か、思い当たる事があるような様子で、下唇を強く噛むシルフィア。
震えが止まらない。夜とはいえ風の防ぎ得る場所で、焚火も焚いている。寒さではない。
「思い出したくない事があるんなら思い出さなくていいぞ。自分の頭が取られて、他人に挿げ替えられるなんざ……想像しただけでトラウマだ。ま、安心しろ。首の無い奴らがデュラハーンでなく、被害者だってわかったのは上々さ。魔法であるなら、諸悪の根源を殺せば止まるだろう」
「……問題は、首を取られた方々や、シルフィアさんのように挿げ替えられた方々が……魔法使いの死亡で、元通りになるかどうか、です。元の身体にある状態でなければ、そのまま死亡する可能性もある」
「じゃあ殺すんじゃなく、拷問で行けばいい。シルフィア、ソイツの名は?」
シルフィアは──シルフィアは、口を開く。
「アニス……。アニス・レーゲ」
「アニスだな。よし、じゃあレア。シルフィアを王都へ送ってやって、」
「またの名を──シン・アマイン」
その名を。
その、魔法を。
「いただくわ、そのカラダ」
ヘッドスワッピング、流行れ