「思うんだが」
寮の食堂で小梅さん、飛鳥さん、ありすさんとお昼を食べていた時のことです。不意に飛鳥さんが言いました。
食堂はボクたち以外に食事をする人はおらず、しんとしていました。飛鳥さんが口を開くまで、それぞれが箸を動かす音しか聞こえなかったくらいです。誰かがしゃべれば、嫌でもそちらに注目が集まります。
「美玲たちを殺した犯人は、ボクらにとって身近な人間かもしれない」
確かに、ボクは飛鳥さんの右隣の席に座っています。
「あ、飛鳥さん……その話は……」
ボクの左斜め向かいに座るありすさんが、気まずそうに声を抑えて言います。ボクたちのほかに聞いている人なんていないのですから、これ以上声を潜めることもないはずなのですが。
けれどありすさんの視線は台詞と違って飛鳥さんに向いておらず、その右隣の席の小梅さんに注がれているのでした。
その小梅さんはというと、顔をテーブルの上に向けたまま、黙々と箸を動かしています。落ち込んでいるようにも見えましたし、いつも通りの物静かな調子に捉えられなくもありません。
「けど、あれから一週間経つのにまるで捜査が進展しないじゃないか」
「まだ一週間ですよ……それに、そういうことは警察の仕事であって……」
「ありすは気にならないのか? ボクらの仲間を、あんな目に遭わせた犯人が、どんな奴なのか」
「けど、警察が捜査して見つからないんじゃ、私たちがどうこうしようとしたって……」
「いいかい」
飛鳥さんがぱち、と音を立てて箸をテーブルに置きました。ボクもありすさんも小梅さんも、彼女に視線を集めます。そこに浮かんでいた面持ちは、単なる興味本位に拠らない、確かな決意があることを窺わせるようでした。
「六人が殺されたのは、いずれも寮の中だ。外はともかく、プライバシーの問題から内部には防犯カメラが設置されていない。人目さえくぐれれば、手がかりを残さず犯行に及ぶことができるんだ」
「そ、それが何だって言うんですか」
「寮に出入りするアイドルの中に、犯人がいるってことだよね……?」
その言葉の内容よりも、だんまりだった小梅さんが言葉を発したことに驚いたように、ありすさんは目を丸くしていました。
「それも人目につきにくい時間を知っていて、被害者たちと自然に接触できる関係にあった者だ。絞られてきそうなものだけどね」
「け、けど私たちも含めて、みんな警察から事情聴取を受けたじゃないですか。それでアリバイも証明されてるわけですし……」
「全員がシロと決まったわけじゃない。少なくとも事件当日に事務所にいた人間は、容疑者候補から逃れられないわけさ。『やってない』ことを証明するのが、各々の証言しかないんだからね」
そう言う飛鳥さんですが、彼女自身あの日は寮の自室にいたという話を聞いています。
つまり暗に自分が容疑者かもしれないと告白しているわけです。
もちろんあり得ない話なのですが、しかしありすさんはそれを真に受けてしまったように、深刻な面持ちを隠せないでいます。思い出したように視線を落とし、飛鳥さんの姿を視界から遠ざけようとしているかのような素振りを見せます。
「ありすは学校に行っていたんだったね? 埒外じゃないか」
「……やめてください、そんな言い方。私にだって関係あります。飛鳥さんが、いえ小梅さんも幸子さんだって、私は犯人だと思いません。ほかの誰のことも、疑いたくありません」
「それは」
「だって、仲間じゃないですか、私たち。どうして仲間が人殺しかもしれないなんて想像、できるんですか。仲間が、仲間に殺されたかもしれない、だなん、て……」
ありすさんの台詞は、終わりの方になると涙で震えてかすんだようにして聞こえなくなります。箸を持ったままの右手を目にあてて、俯いてしまいます。
隣の小梅さんは、気まずそうにボクと飛鳥さんとを交互に見つめましたが、やがて諦めたようにまた視線を自身の食事へと落として、箸を動かすことに努めるのでした。ボクも倣ってみると、それは気を紛らわすためというより、食事を早く終えることでこの重苦しい空間から脱出するための行為なのだと気付かされました。
「……仲間だからこそさ」
飛鳥さんだけが、箸を持たずなおも話を続けようという姿勢でいます。両肘をついて、指と指を絡め、口元にあてがい、誰に向けてでもなく宣言します。
「ボクらのかけがえのない仲間を、あんなにも惨たらしく殺した奴。そいつが今も『仲間』の皮をかぶってのさばっているのなら。それが誰かわかったとして、そいつを素直に警察に任せようという気になれるか」
ふと見ると、飛鳥さんの目は憎悪の色をべったりを塗りたくったようにして輝いていました。その憤怒がボクに向けられることがあるかと想像するだけで、蛇に睨まれた蛙の気分にさせられます。
「ボクは絶対そいつを許さない」
蛇に睨まれた蛙のようなボク。けろけろげろっぱ、カワイイボク。