ぴんぽーん。
「来ましたよ来ましたよ」
今日は日曜日。学校は休みですし、たまたま仕事もオフなので山梨の自宅にいました。ちょうど通販で買った荷物が届くのを心待ちにしていたボクは、インターホンを聞いて玄関へと飛んでいきました。
「ありがとうございます! フフーン!」
宅配のお兄さんにもサービスの笑顔を忘れません。ファンだとは限らないのにサービス? いいえ、こうすることでまた一人ファンを増やすのです。アイドルの人気は日頃の所作にも気を遣う地道な努力の上に成り立っているものですよ。
受け取った荷物をさっそく自室で開封しました。刃渡り二十七センチのマチェットナイフです! マチェットというのはほら、探検隊なんかがジャングルを進む時に使ってるあれです。山刀という呼び方もあり、頑強な作りのためキャンプなどのアウトドアで重宝するといいます。
刀身は黒を基調とし、刃先だけ細い銀色のラインが走っています。重厚な見た目に反し意外と軽く、これなら前の斧より振り回してもそれほど疲れなさそうでした。
そういえば以前、小梅さんに無理やり見せられたホラー映画で、これを得物にする殺人鬼がいたような。映画の殺人鬼も太鼓判を押しているわけです。
人が殺せて、キャンプにも使えて、こんなに頑丈なのに、お値段は送料込みでなんと一万円もしませんでした。おまけに収納用のカバーも付いています。いい買い物をしたものです。
改めてその刃を覗き込むと、そこにボクの顔が映り込んでいました。鏡に使うには像が歪んで見づらいものの、ボクのカワイさを確認するのには十分なほど磨き込まれています。
ああ、それにしてもボクは今日もカワイイですねぇ!
人を殺したくなってきましたよ!
と思った矢先、机に置いたスマホが鳴動しました。誰かからの電話です。マチェットを右手に握ったまま、空いた左手でそれを手に取ります。
小梅さんからの着信でした。
「もしもし?」
『あ、幸子ちゃん……ごめんね、急に……』
「いえいえ。今日はオフでしたから、家にいるところです。何かご用ですか?」
『えっとね……私、今日は午前中にレッスンがあるだけ、だから……その……』
スピーカーから聞こえる小梅さんの声は、どこか申し訳なさそうな音色をしています。
『もしよかったら、お昼くらいに会って、遊ばない……? どこかで……』
それから紡がれた話の内容に、ボクはきょとんとしました。何もかしこまって言うほどのことではなかったからです。ボクと小梅さんが遊ぶくらい、何てこともないはず。
「ええ、いいですよ。そしたら、事務所で落ち合いましょうか?」
『う、うん。私も、十二時半ぐらいには出て来れると思うから……』
「わかりました。ふふん、カワイイボクを半日貸し切りにできるのを楽しみに、レッスン頑張ってくださいね!」
『ご、ごめんね……急に……』
「とんでもないです! ではボクも電車の時間がありますので、これで」
小梅さんが始終おずおずとしていたのが少し引っかかりましたが、口にした通り山梨から東京までかかる時間を考えるとすぐ出た方がいいのでそそくさと通話を終えました。
もちろんおめかしは忘れません。急なお出かけだろうと三十秒フラットで済みます。早い、カワイイ、お手軽。いえ違います、最後のは訂正しましょう。これじゃ牛丼屋みたいです。人を殺しましょう。
鞄にマチェットを差し込んで、ボクは家を出ました。