※この作品はR-18です。

胸糞クズ野郎の備忘録素材   作:さすらいの炬燵

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とりあえず勢いそのままに続き。
まぁ、僅かなモチベを持続するための、話が展開する可能性を潰さない繋ぎです。


第二話

 目覚まし時計が鳴る五分前の午前三時五十五分。

 

 眼を閉じたまま、手探りで目覚まし時計のライトを点けて時刻を確認した。

 

 いつも通り。不思議なことに目覚まし時計を設定すると十分前には眼を覚ましてしまう。

 

 それでも、寝起きの良い彼はすぐにセミダブルベッドから立ち上がる。

 

 寝相が少し悪い彼にとってシングルベッドは手狭だった。

 

 それに、連れ込むには大き過ぎず小さくないサイズだと都合がいい。

 

 寝室から出て廊下を歩く。無駄に広く、数だけは多い部屋を横切ってキッチンに入る。

 

 昨日の日曜日にまとめてストックしていた冷凍の白米と、味噌汁、更に今日は塩鯖とほうれん草のおひたしをチョイス。

 

 一人暮らしだが、自分でやるべき生活はしっかりしている。

 

 この一軒家には両親がいない。元々政略結婚のような、割り切った結婚だったのだ。

 

 お互い別居しており、親権の押し付け合いで争っているような馬鹿馬鹿しさには呆れてしまい、嗤いが漏れてしまう。

 

 表向きは、そういう設定だ。下手な脚本家だと嘲る。

 

 与えられた6LDKの大きな箱と見せかけの保護者の名義。しかしこの扱いには賛意を開け透けにしている。

 

 問題を起こす方がかえって不都合だし、面倒が増える。

 

 退廃的な性生活とは裏腹にそれ以外の私生活は規律正しい。

 

 食事や睡眠は必ず補って己の不調を許さなかった。

 

 簡素だが最低限の食事を終えた彼は登校の準備をする。

 

 時刻は四時半を回ったばかり。腹もこなれた彼は半袖半ズボンの運動着に着替えた。

 

 まだ暗く街灯が照らす道をスニーカーで踏み出し、ジョギングを始めた。

 

 春を越えると白い息も出ない。ペースはゆっくりと、暖機運転を心掛けて脚を動かす。

 

 十分も走ると、見知った背中が見えた。自転車に乗っている。

 

 「おーい、お早う」

 

 大声をあげずとも閑静な住宅街では声がよく届く。自転車の乾いたブレーキ音。

 

 白雪を思わせる長い髪に隠れた顔が振り向いた。

 

 「……お早うございます。やっぱり来たんですね」

 

 言葉とは裏腹に声は軽い。やんちゃだが、健気な弟を見るように微笑んだ。

 

 恐ろしいほど整った顔が柔らかく見つめる。

 

 「まぁね。それよりも、ジョギングルートの分を渡してくれ」

 

 返事の前に、自転車の前カゴに積まれた新聞紙を手に取る。これもいつものことだ。

 

 了解を得ることも、謝絶の言葉もお互い要らなかった。

 

 「ありがとうございます。なら、私もこっちのエリアで終わりなのでまたここで」

 

 既に幾度と繰り返されたやり取り。年下である彼女とは良い関係が築けていた。

 

 彼女の華奢な背中を見送って分岐点から走る。ざっと二十分程度の道程を早いペースで駆け出した。

 

 程よく暖まった体は新鮮な空気を気持ちよく肺に送った。高い身体能力と内臓機能は地道に作り上げていくものだ。

 

 予定のない日は毎日のように朝から走っていた。継続は力なりとはまさしく正しい。

 

 折返しから残り数少ない顧客先に新聞紙を投函し、ラストスパート。八割ほどの力で駆ける。

 

 合流地点が目前に迫ったところで、今度は先程よりも強く、高いブレーキ音が響いた。

 

 「ふふっ、今日は私の勝ちですね。遅かったんじゃあないですか?」

 

 運動不足ですかね、と煽る少女の顔は少し──

 

 「勝った割には、走った俺より息が荒いじゃないか。顔だって火照ってるぞ」

 

 からかうように笑う。その指摘に思わず少女は自分の頬に手を触れた。確かに少し熱いが……、そこでしまったと思って彼を見た。

 

 わざとらしく腹を抱えるように笑っている。短く刈り上げられた健康的な黒髪が小憎らしく感じた。

 

 「も、もうからかわないでください! ともかく、私の勝ちですからね!」

 

 開き直るようにスレンダーな身体を反らせ胸を張る。お互いに軽口を言い合うような関係が堪らなくこそばゆく、心地よかった。

 

 「わかったわかった。大人な俺は大人しく負けを認めるよ。……砂糖の塊に少しだけコーヒーを垂らしたので勘弁してくれるか?」

 

 「やっぱりからかってる! それに、そんなお子さまでもないです!」

 

 ブラックコーヒー。背伸びする少女は飲めやしないが頑なに見栄を張った。

 

 「まぁ、運動や頭を使った後は糖分の摂取が望ましいぞ。働き者の圭ちゃんにはこっちを飲んで欲しいかな?」

 

 圭と呼ばれた少女は僅かに含まらせた頬を緩める。それは妥協出来るが──

 

 「ちゃん、じゃなくて、圭と呼んでください。それか名字でお願いします」

 

 拗ねるような声。突き放すように言った。

 

 「ごめんごめん白銀さん。気をつけるよ」

 

 「──っ、それでいいです。終わったんで帰りますよ!」

 

 身体を翻して自転車のペダルに体重をかける。直後に背中から慌てたように、しかし柔らかく包まれる。

 

 少しだけだが不愉快ではない汗の匂いと熱い体温にドキリと身体を強張らせた。

 

 「ごめんごめんって! 俺が悪かったから許してくれ圭!」

 

 鼓動が伝わる。同時に急に高鳴りだした自分の心音が自覚出来た。

 

 「……むぅ、別に名字呼びは気にしてませんよ。気にしてませんが、謝罪を受け取りましょう」

 

 「本当に悪かったよ。からかったお詫びに、誠意を込めて美味しいコーヒーをご馳走させてくれ」

 

 ゆっくりと包まれていた身体から彼が離れる。相手に高鳴る鼓動を聞かれない安堵と、そのまま近くにいて欲しい欲求がぶつかる。

 

 名残惜しさを隠して、自転車から降りた。

 

 「もう、今回限りですよ。コーヒーは……今は時間がないので放課後に生徒会室に伺います。その時にとびきり美味しいのを用意してくださいね」

 

 「ああ、今日は特に会議や予定も無いからいつでも来てくれ。……甘えて来ても構わんぞ?」

 

 「甘えません! 子ども扱いするなら許しませんよ!」

 

 「いや、悪い悪い。それじゃもう六時近いし、帰るとするか」

 

 「また誤魔化して……新聞、ありがとうございました。後で生徒会室に行きますね」

 

 そうして、お互いに帰路についた。彼が家についた頃は六時を少しばかり過ぎた頃。

 

 牛乳とプロテインをシェイカーに入れて混ぜる。運動直後のタンパク質補給だ。

 

 飲み終えてすぐにシャワーを浴びた。手早く身支度を整え、シンクの洗い物を片して家を出た。

 

 学校から距離は近い。一キロもないのでほんの十分程度で校門が見える。

 

 校門の脇に小柄な少女が見えた。朝早くから登校する生徒たちに大きな声で挨拶をしている。

 

 「あっ、森野遅い! 二分の遅刻よ!」

 

 落ち着いた暗めの茶髪に長い髪を左右でお下げに垂らし、きっちりとスカート丈などの校則を遵守している少女は伊井野ミコといった。

 

 良くも悪くも、否。彼女の名は融通の効かなさからよく知れ渡っている。

 

 肩を怒らせる伊井野に小走りで駆け寄った。

 

 「悪い悪い。でも聞いてた時間よりまだ少しばかり余裕あるぞ」

 

 シンプルな造りの腕時計を見た。しかし、刻んであるロゴは普通車が買えるほどの物であることを示している。

 

 「五分前行動は基本でしょ。それに、いつもそうやってきてるじゃない?」

 

 「まぁな、悪かったよ。鞄、校門の脇に置いてくるわ」

 

 「あっ、ちょっと待って」

 

 慌てて呼び止める。カッターシャツの襟が不自然に立っていた。

 

 「もう、生徒会なんだからちゃんとしないと」

 

 背の高い彼の首元に背伸びして腕を伸ばす。自然、顔が近づく。それでも今更照れはなかった。

 

 「はい出来た。急いでね」

 

 お礼を一言。それから鞄を置いて戻った。伊井野の傍で同じように挨拶をかける女生徒が声をかける。

 

 「相変わらずだね。ミコちゃんの良妻っぷり」

 

 「愛されてるだろ。顔を近くで見たいから着崩して来てるんだよ」

 

 伊井野とは似たように黒髪をお下げ一つで束ねた少女。瓶底眼鏡のような大きく丸いレンズでスカート丈もきっちりしている。

 

 時代から逆行したかのような姿は制服よりも和服の方が似合うだろう。

 

 名字も珍しく、大仏と書いておさらぎと読む。名前もこばち、と余り被らない名前で、記憶に残りやすかった。

 

 この三人は中学からよく知った中だ。お互いに気の置けない仲と言えた。

 

 「もう、そんなこと言ってると怒られるよ。純也くんも早く戻らないと──」

 

 「ちょっと! いつまで時間潰してるの!」

 

 「──ほらね。早く行ってあげて」

 

 「そうするよ。こばち、また後でな」

 

 駆け足で戻ると通りすがる生徒たちに目もくれずこちらを睨む。

 

 小柄な体躯が大きく視えた。

 

 「もーりーのー。遅れた上にさぼるなんていい度胸じゃない?」

 

 「いや、こばちから少し言われてな。それで少しばかりね……」

 

 「何を言われたってのよ。どうせ遅刻した言い訳でもしたんでしょ」

 

 「それならよかったんだが、さっき俺の制服を整えてくれたろ? ラブラブな夫婦のワンシーンご馳走様ってからかわれたんだよ」

 

 「んなっ、こばちゃん!? そういうのじゃないからね!」

 

 否定の声は彼女に届いたが、首をかしげられた。

 

 すぐに思い至り、視線を戻した。

 

 「おはようございまーす。靴の踵は踏まずに歩いてくださいね。おはようございまーす」

 

 わざとらしく挨拶をする馬鹿の姿。内心歯軋りしながら仕事に戻る。覚えてなさい、と鼻を一つだけ鳴らしてしまったが。

 

 時間が経つにつれ人も多くなってきた。比較的背の高い彼の視線はよく届く。顔を俯かせて歩く一人の女生徒を見つけた。

 

 子安つばめ。よく知っている。誰よりも、だ。

 

 こちらの声と姿は認めている筈なのに視線は下げたままだ。

 

 彼が立つ校門の対角、遠くを通ろうとしていた。

 

 「あ、そこの貴方。止まってください」

 

 「──!?」

 

 体に緊張が走り記憶が呼び起こされる。だが声をかけられたのは目の前の男子生徒で、鞄の目立つアクセサリーを注意されていた。

 

 彼から離れるように反対側を歩くのは不自然極まりない。歩みを止めているのも同様だ。

 

 覚悟を決めて、視線だけは下げたまま脇を通った。

 

 「昼休みに、屋上で」

 

 自分だけに聞こえる声量。振り向いた先には挨拶に戻る彼の姿が映った。

 

 もう、こちらを見てもいなかった。

 

 「おはようございまーす! 会長、まだ余裕あるんでそんなに急がなくても大丈夫ですよ?」

 

 「本当か森野庶務!? あれ、じゃあこの腕時計……?」

 

 「どんまい会長。電池交換出来るタイプなら後で診ますよ」

 

 声から逃げるように足早で下駄箱へ向かった。




短いけど導入。割とご都合主義で進める予定。
色々めんどいし。
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