「それで、優はまた碌に寝てねーの? ゲームするにもキリのいいとこで止めとかないと辛いだろ?」
「……正直、眠い。だけど魅力に抗うのは難しいし、反省はしない」
「名残惜しくても次の楽しみって考えてスパッと切るのもアリだと思うぞ。色んな楽しみ方があるし強制は出来ねぇけどな」
朝のホームルームがもう少しで始まる。今はギリギリに登校してきた石上優と共に教室へ向かっている。
石上と森野、そしてほんの数分前まで一緒だった伊井野や大仏とは同じ1年B組である。
石上は隣に歩く人物を見た。視線の高さは自分と余り変わらないが、清潔感を抱かせる黒い短髪に通った鼻と大きく奥二重の目。
気安く、それこそ自分に厭味を見せずに接してくるカラっとした性格。
筋肉質ではないがそれに準ずる恵まれた体格と、ある程度のスポーツはハイレベルでこなせる運動神経。
こうして会話を交わす仲でなければ真っ先に呪う憎たらしい男だった。人形は中学迄で卒業しているので今は作っていない。
「受け取っとくよ。まぁ、機会があれば意識してみる……無理かもしれないけど」
「そうしてくれ。試してくれるだけで重畳。でないと、ミコっちと二人で、いや四宮先輩と──」
「ヒィッ!? それだけは!」
「……お前入学して一月程度で何されたんだよ……?」
怯えるように一歩離れる。顔の前で庇うようにあげた手は震えていた。あ、これガチだわと改めて認識する。
「冗談だよ。だから、冗談で済まされるようにしとけよ」
「……分かったよ。積みゲーやっていいから預かっといてくんない?」
「効き目凄いな。俺にとっちゃ注射レベルだけどお前にとっちゃ電気椅子か」
未だに震える背中を元気づけるように強く叩いた。猫背の石上よりも森野は拳一つほど背が高い。
人望もあるのに、何故悪評に塗れた自分とコミュニケーションを取るのか理解出来なかった。
性格の良さを周囲に見せる打算かと考えたがどうも違う。
それならちやほやしてくれる取り巻きでも作ってそっちを優先するだろう。
だが彼はどのグループにも属していなかった。一人で気ままにやっている姿は素直に羨ましい。
「森野、石上。もうすぐホームルームが始まるわよ。早く教室に行きましょう」
「もうすぐ、先生たちも職員室から出てくるよ。」
廊下をゆっくり歩いていると後ろから伊井野と大仏が並んだ。プリントの束を持っている。律儀に職員室から連絡事項が書かれたプリントを持ってきたのだろう。
「だそうだ。成績向上のために先ずは眠気と戦おうや。ほら、ミコっち半分持つからプリント分けてくれ。こばちの分は石上に頼む」
「……持つよ、大仏」
「こばちゃんだけで私はいいって──あっ、もう。ありがと……」
「気にすんな。これ配っときゃいいのか?」
ホームルーム直前でも教師が来るまでは教室も騒がしい。動画や番組、ネイルやファッションの話題で溢れかえっている。
「おーい! ホームルーム始まるから席に着いといてくれ。後プリント回すから確認もよろしく」
教室の扉を開けて早々に森野が大声を出す。悪態や舌打ちする人間は誰もいない。
石上はクラスで一目置かれてる彼をまた羨んだ。やはり※だ。
仮に、そう例えば自分が発令したとすると……、いや非生産的な考えはやめるべきだ。
まだ一日のスタートすら切っちゃいない。自分から朝一で傷つく必要はないだろう。
素直に従う面々にプリントが行き渡り、全員が着席した。
聞き慣れたチャイムがスピーカーを通して校内に響く。教師が扉をガラリと開いた。
授業は特筆するべきこともなく滞りなく進んだ。珍しく懸命にノートをとる石上が見れたことくらいだろうか。
昼の時間になる。森野は立ち上がり、教室を後にしようとする。
「あ、森野。よかったら一緒にお昼食べない? 少し多いかもしれなくて……」
「いや、悪い。ちょっと先約があるから今日は遠慮しとく。また明日誘ってくれないか?」
「そう……分かった。なら明日は空けといてね」
「あぁ覚えとくよ。だけど作りすぎたって言っても昼休み中に食い切れる量にしといてくれよ」
どういう意味よ! 甲高い怒鳴り声を背に受けて屋上に向かった。
階段を昇る。フェンスで高く囲われた屋上は昼休みだけ開放されている。
ドアを開ける。誰もいない。晴天が広がる解放的な景色を目に収め、ぐるりと周囲を見渡した。
──そこだろう。
貯水タンクの裏。影になるそこは視線を遮る。屋上のドアを閉めて安っぽい鈴を足元に落とした。音で誰が来たか知らせてくれる。
「──早いですね。お昼は食べたんですか?」
「森野くん……」
「名前で呼んでくれないんですか? それとも、忘れちゃったんですか?」
目当ての人物はいた。今日、初めて目があった。
「お願い……もう私に話かけてこないで。あんなことして、私、もうっ」
「ふーん。別にいいけど、無理なんじゃない?」
あっと声をあげる暇もなかった。正面に立つ彼は一歩近づき、手をスカートの中に入れた。
下着を隔てて秘花を触られる感触。薄い布越しにぬめりとした音が聞こえた気がした。
「んんっ、ちょっと何を……!」
「あら、こりゃ何でしょうね? 汗にしちゃあちょいと粘りが強いな」
かぁっと顔が熱くなる。思い出したくもない記憶は、しかし何度も頭の中で再生されてしまった。
日曜日、登校中や授業中でもだ。刻み込まれた快感はそれからも疼きに変わって責め立てた。
「まぁ、汗でも何でもいいですよ。結果は変わらないしね」
更に下着の中に手を入れて弄ばれる。ぐちゅぐちゅと音が二人の耳に入る。
体を縮こまらせ目を閉じて耐えるつばめは反応出来なかった。
空いている片手で顎から顔を持ち上げられる。えっ、と思った時には唇を重ねられていた。
「い……あっん、くちゅ。やめ……んちゅ、んんっ!」
舌を吸い上げられる。濡れていただけの秘部は既に淫水を滴らせている。
下着をずらされる感覚。離れようとして、強く引き寄せられた。
驚く間もなく体重を彼に預けてしまう。厚い胸板はビクともしない。
「もうっ……やめっんちゅ……や、うんっ!」
漸く舌を離された。ちゅぽんと間抜けな音が響く。
「濡らしてたってことはずっと我慢してたんじゃないですか? 思い出してなんて相当だな」
「あなたのせいでしょ! あなたが私をあんな風にするから! やめてって……だから……」
「どうぞご随意に。でも、疼いたままじゃ大変でしょ。俺も朝から出してないし、昼休み終わる前に手早くやるね」
左足を抱えられる。思わずバランスを崩して、とっさに貯水塔を支える壁に手をついた。
そして、はっきりと思い出してしまった。
「んんんんんんっ! あっ、いっいい!」
あっという間に挿入される。信じられないほど呆気なくあの時の昂りを再現させられてしまう。
自分のせいなのか……? 本当に、淫乱なのだろうか?
自分に問いかけても必死に否定したいだけだ。──でも、
「やっ、ああぁ! あんっ、だめっ! いや……んっんっ」
結局そうなのかもしれない。そもそも、何でただ泣いていたんだろう。
急いでアフターピルを用意して服用していればよかったのだ。
それよりも、警察に通報すれば辛くてもそれで終わっていた。
「ほら、ここでしょ。一番気持ちいいところはオモチャでも届かないからもどかしくて仕方ないんじゃない?」
「きも、ち、いい! あっあぁっ! もうイ、く」
苦しい体制だというのに何故与えられる快感はこんなに堪らないのだろうか。
そもそも彼と決別するためにここに来たのだ。なのに、なんでこんな。
「もうっだめぇ……いくっ! いくから許して! ああああああああ!」
「おっと締まる締まる。……でも俺まだだからもうちょい頑張ってね」
「う、うそ……もう限界で、あっあっあっあんっ! もうイった! イったからんん、い、いいっ」
ストロークは長く、速い。全てを味わうかのように様々な角度を抉り、狭い肉壺を無理矢理満たしていく。
何も考えられない。後悔も、悲しみも今はない。あるのは無茶苦茶になりたい自己破滅じみた願望だけ。
──もう、どうにでもなりたい。
「うっうむぅ……んちゅ、んっんっんっ!」
また唇を重ねられくぐもった声が漏れ出る。両眼から涙が出る。昂ぶった感情は哀しみか、喜悦か。
そしてまた絶頂を迎えた時に、ピストンが更に速まった。
明らかに入ってきた時よりも大きく、堅い感触。ゴムはつけていなかった。
拒絶の言葉は、出せなかった。
「んっんむっ、あんっんむうううううううううううっっっ!」
また、子宮を灼かれるかのような迸り。精液を膣奥で受けながら無理矢理絶頂を迎えさせられて、クタリと力が抜けた。
「ふうぅぅぅ、気持ち良かった。あぁ、そうだティッシュ」
絶頂の余韻に取り残された身体は無抵抗に彼の奉仕を受ける。
肌に優しく触れられる度に艶めかしい声が出てしまった。
「……この間言った、子どもが出来たら産んで欲しいってのは本音ですよ」
「……え?」
「俺から離れたければ手切れ金を。子どもだけ産みたければ裕福になれる援助を。それか──」
産んで欲しい。その言葉に縋ってしまってよいのだろうか。
だが、考える必要もなかったのかもしれない。
そもそも、何も行動を起こせなかった時点でこの言葉を期待していたのだろう。
「──きっちりと末永く二人で育てませんか? 酷いことばかりして本当にすいません……こういう形になったけど、将来も一緒にいません?」
どこか軽い言葉。でも彼の目を見れば精一杯の虚勢と誠意が見れた。
「信じて……いいんだよね?」
返事は微笑みと、誤魔化すように唇を落とされた。
二人は別々に屋上から午後の授業へと向かう。
交わされた約束は二つ。
ずっと一緒にいること。
そして、この関係を許可なく誰にも話さないこと。
子どもを身籠れば隠せなくなるかもしれないが、それまでは、だ。
彼も風評で不安になってしまうのかもしれない。二つ年上の自分は早い時期に大学さえ受かれば卒業まで余裕があるが、彼の高校生活はまだ長い。
目立たないよう隠せば何とか……それに、どこか弱々しく感じる彼を守りたくなってしまった。
こうして、甘い毒に侵されきっているとは思いもせず、受け入れてしまった。
明るく振る舞い誰かのためだけなら強い彼女も、自分のことだけは脆かった。