二亜リビングヘル 作:ラスティ
囚われの二亜
「――あ、れ? ここ、は……?」
ひんやりとした肌寒い空気に全身を舐められ、二亜は夢の世界から現実へと引き戻された。
目覚めて最初に感じたのは途方もない倦怠感。全身に重りを付けられて深い海の底に沈められたかの如く身体が重く、上手く動かすことができない。加えて思考がどこかぼんやりとしており、目覚める前の記憶もどこか不明瞭。人間に比べると遥かに強靭な身体を持つ精霊であり、三日連続の徹夜も上等な売れっ子漫画家である二亜にとっては非常に珍しい不調である。
おまけに目蓋を開けて視界に入り込んできたのは、冷たい牢獄を彷彿とさせる造りの石色を帯びた壁と床。素材はコンクリートでも石材でもなさそうなので何かの意図があって外面だけ似せているのだろう。振り返ればそこには重厚な鉄格子が嵌っており、完全にここは牢の中としか思えなかった。
そしてその牢屋のような部屋の中に、何故か一糸纏わぬ姿で閉じ込められている二亜。どう考えても何者かに幽閉されているとしか思えない状況であった。
「酔っぱらってこんな変な場所に迷い込むなんて、あたしってばなかなかのドジっ子属性持ちだね! あっはっはっは――はぁ……」
朗らかにボケてみるもののツッコミ役がいないため虚しくなり、ため息を零してしまう。
尤もため息の理由はボケが不発に終わったことだけではない。幽閉されているこの状況を認識して直前の記憶を思い出したからでもある。DEMの魔術師に襲われ、敗北したという苦い記憶を。
恐らく何らかの目的のために二亜はそのまま捕らえられ、こうして幽閉されているのだろう。身体の不調は顕現装置による拘束か封印の類だと思われる。精霊としての戦闘力はかなり低い方とはいえ一般人を下回るほど身体能力が低下しているあたり、高機能なものを相当数用いているに違いない。
このまま囚われていも幸福な未来が欠片も見出せないため脱出を考える二亜であったが、数秒も経たずに不可能だと悟れてしまう。深く幾重にも顕現装置による妨害と拘束を受けているせいか天使も霊装も顕現できず、隣界に逃げるという最終手段も実行できなかった。この場所が精霊を捕えておくための特別房だとすれば、用意されている顕現装置もまた特別製に違いない。戦闘力のある精霊ならいざ知らず、残念ながらか弱い<シスター>は完全に無力な状態であった。
「いや、これってマジでピンチじゃない? DEMってめっちゃあくどいこと平気でやってる企業っぽいし、そんな奴らがか弱い女の子捕まえてやることって言ったら一つしかないじゃん?」
かつてない焦りを覚えてもう一度夢の世界に逃避したくなる所であったが、現実は常に非情であった。何故なら冷や汗をかき始めた二亜の耳に、幾つもの足音と男たちの声が聞こえてきたから。
近づいてくる音の方向、鉄格子の向こうに恐る恐る視線を向ける。するとそこには最悪の想像が広がっていた。
「あー……あたしの貞操、ここまでかなぁ……」
すなわち、下卑た笑みを浮かべて二亜の裸身を嫌らしく眺める何十人もの男たちが。
この後自分に降りかかるであろう責め苦が容易に想像できてしまい、二亜はただただ乾いた笑いを零すことしかできなかった。