裏切られた"僕"は絶望して逃げたが、入れ替わった"俺“はその後の人生を謳歌する。 作:美味しく食べよう
絶望の始まり
「もうね、私との婚約は無かったことにしてほしいの。ただの農民の貴方との婚約なんて、他の貴族が知ったら弱みになってしまうから。」
「そういうことだよ、下民くん。彼女は、君よりも僕の愛に応えてくれたんだ。知ってるかい?夜の彼女は、それはそれはもう…こちらが疲れるくらいにね…君の年齢ならこの言葉の意味、分かるだろう?」
最初に喋った方の女性は僕の幼馴染、後に喋った方の男性は勇者様。
「な、なんで?え?」
目の前の二人から言われたことに、脳が理解を拒んでいる。
「だ〜か〜ら〜!私は彼と結婚するの!分かる!?私は勇者様の妻になるのよ!分かった!?」
「そういうことだよ、下民くん。しっかし、君は頭が悪いなぁ〜。ここまで直接言われないと分からないのかな?」
いや、本当は理解していた。しかし、これはただの悪夢で、現実では無いと必死に現実逃避していたのだ。
「本当はね、貴方と婚約していたっていう忌々しい過去を消すために、貴方を最初から無かったことにしようとも思ったのよ?でもね、勇者様が貴方のような農民に慈悲をかけてくださったんだから。勇者様に感謝しないよね。」
「いや、それは彼に悪いよ。だって僕と君が浮気したんだもん。本当のところは。はっはっは!だから、これぐらいの優しさは見せないと。」
「まぁでも、誰かに言ったりしたら、その首、刎ねるから。」
静かな声の中に、冷酷な殺意を滲ませて、彼女は左に帯びている剣の柄に手を伸ばす。
「ひっ?!」
それを見た僕は咄嗟に頭を腕で庇い、地面に蹲る。
それを見た二人は、
「はっは!貴方みたいな農民の血で、私の剣を汚すわけないでしょう!?」
「ぶっふぅ!彼、『ひっ?!』だって!ダッサ!本気で面白いんだけど!」
「「あっはっはっは!!」」
どうやら、僕の知ってる彼女はもういないらしい。
それに、話で聞いていた勇者様とやらも、相当な俗物らしい。
はぁ....二年前はあんなに相思相愛だったのに...。
思えば、転機は二年前のお告げだったのかもしれない。
王国の教会の使者を名乗る屈強な男が、突然村にやってきた。
当時、まだ僕たちが15歳の時だ。
「民よ!聞くがいい!この村に強い女剣士が生まれたとな!これは神からのお告げである!勇者様のお供とするため!すぐに連れてこい!」
当時から剣を持って辺りの警備をしていた彼女は、すぐに見つけられ、連れて行かれた。
「いやだ!行きたくない!」
「でも!君が行くしかないんだ!」
「でも!」
「愛してるよ、エリス!」
これが僕と彼女の最後に交わした言葉となった。
それからは、手紙でお互いの近況を報告しあっていた。
流石に王国の人達も、不憫に思ったのだろう。
手紙のやり取りは許してくれたらしい。
最初の頃は『会いたい』『愛してる』とかだった。
でも一年経つ頃には勇者のことを書き始めて、一年半経つ頃には手紙もくれなくなった。
それで二年ぶりにやってきた彼女と勇者様は、僕に会うなりこんなことを言ってきた。
「じゃ、そういうことだ。じゃあな。下民くん。」
「そうね。もう一生会うことはないでしょう。じゃあね。農民。」
二人はそう言って立ち去っていった。
そこには、取り残された僕がポツンと立っていた。
こっちメインかも。