「どうあっても口を開かないつもりか?」
「くどい!我が女帝について答える事などパトリス帝国には無いわ!」
ここはパトリス帝国の地下牢である。
昨夜、捕縛したアトランティカ帝国の黒の部隊のメンバーが今、グリンウッド将軍から詰問を受けている。
そこには交戦した2人の騎士、ジョニーとユーマのライトニング兄弟も同席している。
今は真夜中の23時。
地下牢ではパトリス帝国による黒の部隊への尋問がされている。
ここにはオグス大臣は居ない。彼は専ら兵士の尋問は仕事ではない。それに伴う街への被害や地下水路への被害などを将軍グリンウッドから聞き、修理が必要か、補強が必要かを判断する大臣だ。
だからと言って、剣が不得意な訳ではない。むしろ、剣技は使えて当然。魔法も街角にいるような魔法使い程度の魔力は持っている。
宰相エリオットともなると、魔力こそ宮廷魔導師に一歩譲るが、剣の腕は将軍以上。魔法の腕は宮廷魔導師並。知性に至っては帝国一番の物識りと称えられる。
持ち前の気品とモラルの高さはさすが皇族出身。時に話題に挙がる不思議な色気は彼特有の危険な魅力となり、時に万人を凍て付かせる怒りとして表現される。
今宵の宰相エリオットは、まさに万人を凍て付かせる怒りを持っていた。
故にグリンウッド将軍やジョニー、ユーマは次の皇帝はやはりこの宰相エリオットしか考えられないと思っている。
そんな宰相エリオットが地下牢へと姿を現す。左肩には何時も纏う真紅のマントではなく、漆黒のマントが左肩を覆うように掛けられていた。衣装も黒い衣装だ。
「先程から無駄な口論ばかり聴こえるな。黒の部隊は簡単に口を割らないという訳か」
「ほう…。今度は宰相閣下の登場か。宰相閣下が来ようとも言えない事は話す舌は持たないぞ」
「……。将軍。続けてくれ。頃合いを見て私が尋問をする」
「はい。では女帝の事はこれ位にして、本題に入ろう。首都を襲った目的はなんだ?」
「答える義務はない。我々、黒の部隊が簡単にそれを吐くと思っているのか?」
「そうだな……宰相が来てくれたのなら嫌でも吐かざるを得まい。お忘れかな?ここはパトリス帝国の中心。お前達のルールはここでは通用しないのだよ」
「脅迫か」
「警告だ」
隻眼の将軍は声を少し荒げる。そして目の前にある現実を冷徹に話した。
「このまま永遠に吐かないならそれもいいだろう。お前の身を案じる訳でもない。まあ、後悔はするだろうと思うが、な」
「どういう意味だ?」
「ご苦労、将軍。警告はしたからこれから先は私が引き継ごう」
地下牢の片隅で静かに佇んでいた宰相エリオットは、ここで尋問役を名乗り出る。
将軍が下がり、宰相が腕を組み、椅子に座り込む黒の部隊の兵士の前に立った。
炎の明かりだけが照らす牢屋の一室で、隠れた宰相の闇が牙を剝いた。
「今度は宰相閣下が相手か。本当に銀色の瞳を持っているとは、驚きだな」
「褒められているのか、けなされているのか、わからない言葉だな。吐かないのなら吐かせてやるまで。私をただの宰相だと思うと地獄を見るぞ。世にも恐ろしい地獄をな…」
「恐ろしい地獄…だと?」
「死ぬよりも恐ろしい地獄だ。だが……安心しろ。命は奪わない。しかし、命を奪うよりも恐ろしい事を私はするぞ。何だと思う?」
「何だと言うのだ」
「拷問だ。私のもう一つの特技…」
その言葉と共に地下牢の一室にて何かが準備された。
牢屋には巧みな細工がされていたのだ。隠し部屋みたいな空間が広がっている。
隠し部屋には一通りの拷問道具が置いてあった。きちんと男性用と女性用の拷問道具が置いてある。
「こいつを奥へ案内してやれ」
「ほら。来るんだよ!」
「何をする!?」
「騒いでも無駄な事。可哀想にな。お前、これから酷い目に遭うぞ」
双子騎士のジョニーは呆れた様子で呟いた。言いながら黒の部隊の兵士を貼り付け台に拘束した。両手両足を滅多な事では切れない革のベルトで固定する。
宰相エリオットの手には革製の鞭が握られている。乗馬などで使われる本物の鞭だ。しかもよく撓る。
「相変わらず良い感触だな。この鞭は。さあ……自分自身が何をされるか判ったか?」
「まさか…その鞭で…」
「こういうことだ」
革製鞭の撓る音が響く。風を切る勢いで鞭が兵士の身体を容赦なく打った。しかも股関節に目掛けてだ。
黒の部隊の兵士の悲痛な叫び声が聞こえた。
「吐かないのなら吐くまで鞭で責めるまで」
「一応、聞くが、吐く気になれたか?」
「余りの痛さで答える事が出来ないのかな」
質問攻めと共に鞭で非情な程に責める宰相エリオット。宰相は剣の達人でもある。恐るべき速さで鞭を振るう。
銀色の瞳には殺気が宿り、唇は氷の微笑が浮かぶ。
この光景を見る度に将軍グリンウッドは思う。本当は宰相は聞く気などなく、目の前でもがく人を残酷に楽しむ趣味をしているだけなのでは…と。
隠された残虐性はエリック皇帝などと比べ物にならない程の冷たさがあった。
鞭が撓る事、20回。
一向に口を割らない。
「その根性は何処から来るのか。鞭打ちで吐かないなら屈辱的な事をするか」
「おい。こいつの服を引き裂いてしまえ」
「命令だ。悪く思わないでくれよ?」
ユーマの冷たい言葉が来た。同時に黒の部隊の服が引き裂かれた。
「な…何をする…ウウッ!」
「ほう…責められて興奮しているのか。お前も国では男相手にやってる口か」
まるで侮辱する言葉を吐く宰相エリオット。余りの冷酷さに周囲は凍てつくばかりだ。
「薬を盛って吐かせるのは簡単だ。こちらもすこぶる楽でいい。だがな?それでは私の気が済まないのだよ」
「どうするつもりだ…ウウッ」
「こうするのさ。やれ」
拷問を受ける黒の部隊の兵士の前に木馬が用意される。丁度、すっぽりと穴に収まるように置かれた。
そしていきり立ったモノを穴に無理矢理入れた。
黒の部隊の絶叫が響いた。
「さあ…いい加減、話さないと象徴がもげて取れるかも知れないな。どうする?話すか?」
「何でも話します…。だから…抜かせてください…」
「よし。交渉は成立だな。詳細はグリンウッド将軍に話せ。ジョニーとユーマはこいつの一言一句を全て記録してくれ。詳細をまとめオグス大臣に提出を」
「了解です」
革製鞭を元の置き場に戻すと、宰相エリオットは軽くため息をつき、漆黒のマントを翻して拷問部屋から出て行くのであった。
宰相エリオットが去った後でグリンウッド将軍は詳細を全て聴いた後、思わず出た言葉はこれだった。
「あの銀色の瞳は本当に死を意味するのだろうな……。あそこまで非情になりきるのは俺には無理だよ」