エリック皇帝の寝室には彼の性欲と交わる女性達の色情を駆り立てる為に特別な香炉を焚き付けてある。
甘くほろ苦い誘惑の香り。その香りを嗅ぐものは、少し理性を持つ位の者なら簡単に夜の欲望を発散するべく行動を起こす、かなり強烈な香りだ。
宰相エリオットに呼ばれたエミールを待つのはそんな皇帝の寝室だった。
とりあえずエミールにも特別に見せてやる事にした。普段、エリック皇帝はどんな夜を過ごしているのかを。
微かに開いた居室を隙間から覗くように言われたエミール。
皇帝の前には絶世の美女という触れ込みの今宵の相手が、薄着で迫っている光景が目に入る。
「なんだ。きちんと女性ともやっているじゃん」
絶世の美女はエリック皇帝に言う。
「皇帝陛下。どうぞ、お近づきの印にその覆面をお取りになってくださいまし……」
だが。
彼はそこで拒絶した。
ドン!とその身体を手で跳ね除ける。
女性は慌てて謝罪の言葉を発した。
「申し訳御座いません!陛下!」
「下がれ」
その光景を目の当たりにしたエミールは驚愕した。
(凄い拒絶反応だ。こんな人と夜伽をしろと言うのか?)
「あの女はダメだな。残酷な言葉だが、追放するしかあるまい」
そこにはエリック皇帝の双子の弟、宰相エリオットがいた。呆れたように口を開く。
「いつもあんな調子だよ。見ての通り、陛下は跡取り問題には消極的だ。女が嫌いなのか、それともただ機能しないだけなのか。それを確かめる為に君に来て貰ったのだよ。男が相手なら機能するではないかと思ってな」
「跡取り問題ってそんなに大事な事ですか?」
「大帝国パトリスにとっては大事な問題なのだよ。憂うべき問題なのだ。そんな事より、次は君の出番だぞ。準備を整えておけよ?」
あんな人の夜伽が俺に務まるのか?
でも、そうする事でしかここから出て親父達の下には帰れないし。
だが。身支度をするエミールはふと下半身を見たが、駄目だ。思うようにはならない。
すると宰相エリオットが部屋にノックもしないでいきなり入ってきた。
「お?準備万端そうだな?」
「いきなり部屋に入ってくるなよ!」
「すまないね。陛下の居室に行く前にこれを渡そうと思ってな」
「いざとなったらそれを使え?陛下の居室は今は看守は外している。部屋の外には誰もいないから、何かあったら私を呼べよ」
とエリオットはエミールに小瓶を渡した。
実はこの小瓶には媚薬が入っているが、宰相エリオットはそれを説明せずに渡した。時間がさし迫っているから説明する暇が無いのもあるし、この少年がどう使うかも試してみたいという気持ちもある。
そうして、エミールの出番が回って来た。
相変わらずエリック皇帝の居室には誘惑的な香りが充満している。それはマスクに覆われた布地からも確かに薫っているはずだが、皇帝のテンションは常に冷めていた。
だが。夜伽をしろと言われてここまで連れて来られたならするしかないんだ。
エミールはかなりの薄着でエリック皇帝の前に姿を現した。
「宵も更けたのでお相手をと思い参上致しました…」
「下がれ。気分では無い」
そういう訳にはいかないんだ…!
エミールはエリオットから渡された小瓶の中の媚薬を飲み干す。
そして言った。
「俺はあなたに抱かれるまでこの部屋にいる!居なければならないんだ!」
途端にエミールは身体にある不調を感じる。
何なの!?これ!?!
身体が…熱い…!特に下半身が焼けるように熱い…!力が入らない…!立っていられない…!
エミールの不調を感じるエリック皇帝は傍らに転がる小瓶を見た。
(エリオットの仕業か?)
エミールが倒れると共に燭台も倒れる。甲高い音が響いた。その音を聴いたエリオットは皇帝の居室に駆け込む。
エリック皇帝はエミールを抱き上げる。その胸に抱かせた。
「陛下!大丈夫ですか?!」
「大丈夫。気にするな。エリオット。この子と2人きりにさせてくれ」
「…わかった」
「はあっ…はあっ…僕…一体…何が起きて…」
「陛下…」
エリック皇帝は傍らに置いてあった媚薬の中和剤を口に含む。覆面を外し、中和剤を含むとエミールの口に口で移して効果を和らげようとした。
ほんの少しだけ唇を絡めた。すると…。
「もっと…ちょうだい…陛下…」
エミールは蕩けた顔で皇帝の口を求める。
「やれやれ…世話の焼ける奴だ…」
エリック皇帝はもう一度、中和剤を口に含むと口移しでそれを飲ませた。
だが。まだ媚薬の効果が継続している。
エミールの下半身はいきり立っていた。
「苦しいよ…陛下…」
「今、解放してやるからな」
エリック皇帝はそこを優しく手で包み込むとゆっくりと絶頂に導いた。
「うあっ…ああっ…陛下…!」
ひとしきりの愛を解放する頃には、エミールは脱力感に襲われ、皇帝のベッドに倒れこんでしまっていた。
そんなエミールにエリック皇帝は優しい黄金色の瞳になり、そして大きな温もりのある手を彼の額に当てて、優しく包みこんでくれていた。
「何だろう……とっても温かい……安心できる……」
皇帝はほぼ一晩中、そのまま温かい手を彼の額に当てて見守るように見つめてくれていた。
エミールが気が付くと、そこには宰相エリオットの姿があった。
あの後、どうなっていたのか気になり側にいたのだ。
彼が目覚めると宰相エリオットは少し棘のある文句をつける。
「あのなあ…あの小瓶の中の媚薬は皇帝に使って欲しくて渡したんだ。お前が飲んでどうするんだ?しかも、媚薬の量は皇帝の体格に合わせて調合したんだ。お前の華奢な身体では多過ぎる量なんだよ!」
「アンタがきちんと説明しないのが悪いんだろう?!」
エミールはようやくベッドから起き上がる。あの大きな手の温もりがまだ感じる事が出来る。
宰相エリオットは事もなげに聞く。
「あれからどうだったんだ?結局…」
「……何も出来無かった……と思う」
「思う……ってどういう意味だ」
「別にどうもこうも…」
「私には把握しておかないといけない義務があるんだよ。宰相としてな」
「まあ……ともかく。媚薬作戦も満更失敗では無かったという事かな」
呟き、そして、エミールの休む部屋から出るエリオット。
そこで考えた。
あの媚薬はそうそう早く効果が切らないように作られた薬だ。それこそ、適量ではないと命さえ危険な薬のはず。
だが。エミールは生きている。という事はエリック皇帝は事前に中和剤を用意していたという事か?
中々、感情を表に出さない兄だが、どうやらエミールの事は気に入った様子と見える。
しばらく、エミールを夜伽として兄の側に置いてやる事にするか。
そう思ったエリオットだった。
「あまり期待はして無かったが案外、あのエミールは皇帝の心を開く貴重な存在かも知れないな」