※この作品はR-18です。

己を慈しめ   作:三白眼

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四千文字とか短いなぁ、と思ってましたが、これ原稿用紙10枚分なんですよ。私の時は小学生の頃は一時間で二枚。三枚書ければ上出来でしたから、結構頑張ったんじゃないですかねぇ(自画自賛)。他人がどうだったかは知りません。


妄執の残り香

目覚ましの音も無く目が覚める。部屋を出て、階段を登って、外に出て、周囲の背の低い建物からギリギリ見える、見慣れた角度の太陽を見ると背伸びする。

 

 「ん〜」

 

 やる事をリストアップすると軽くランニングを始める。最初の一つ以外を全て忘れる様に走る事だけに集中する。

 過去から運動をしていたせいか、代謝が良く、汗がどんどん出てくる。着ていたスウェットとジャージが体に張り付く程に。

 決まった道を走り終え、シャワーを浴びる序でに洗顔と保湿、日焼け止めを済ませ、軽く髪を後ろに縛るとカレーを弱火で温めてのんびりと家事を始めた。  

 

 カレーが温まったのを見計らって家事を切り上げ、一枚皿を取り出そうとした所で、眠たげな様子の紺が現れた。

 

 「話は楽しかったかよ?」

 

 背中を向けて問いかけるも返事はない。二枚目の皿を取り、両方に白米をよそい、じゅ、と少し焦げ付かせた音を立てて掻き混ぜられたカレーをたっぷりとかける。振り向いて所在なさげに、バツの悪そうに立ち竦む紺に少しして自分の失態を悟った。食卓に着く様に、優し気に声を掛け直して二人で食卓を囲んだ。

 

 「「いただきます」」

 

 黙々と二人でカレーライスを口にする。

 

 「すまねぇな」

 

 「…?」

 

 「オレの語調が荒くて」

 

 「…いや、紺は飯生様の任務も果たせない、悪い子だから…」

 

 少し驚いた次に自分を卑下する紺の様子には当て先のない感情が渦巻く思いがした。

 不用意だ、無用だと心中言っておきながら、自分の過去の行為に対して疑問を覚えずにはいられなかった。このまま口をつぐんで事態は進展するのか、と。この子は一人で自分の人生を勝手に生き辛くしている、と、事あるごとに周りのモラルに反する自分を責め立てて自身を追い詰めていきやしないだろうか、と。

 

 「紺。オマエが良い子か、悪い子か。オレはしらねぇ。でもな、そのままのオマエを受け入れてくれるヤツがきっと何処かにいる」

 

 はなから信じていない様子の紺。これは仕方ない。知識で知っていても会わなければ到底信じられないものだから。

 

 「迷惑なんてのは生きてりゃ必ず何処かにかかるもんだ。だから、それでも、一緒に生きてくれる奴を探せ。助け合える様な奴なら尚更良い。人生変わるぜ」

 

 盛大に気恥ずかしくなって「冷めるだろ、食べな」手を止めていた紺に食べる様促した。

 痰を吐く様な声が寝室の方から聞こえてきた。心臓がどきりと跳ねる。織が姿を現した。

 

 「か〜ァッ。くっっっせ、く〜〜〜〜っせ」

 

 「テメェ。いつから聞いてやがった…」

 

 裏声と芝居がかった身振り手振りで此方の羞恥心を最大限に刺激してくる織。してやったりと言う表情の彼は良い弄り種を手に入れた、と言わんばかりだ。

 コイツは最高のいじめっ子になるな。

 

 「下衆野郎が。訓練する時になったらテメェのケツに火ぃ点けてやるからな」

 

 「やれるもんならやってみな。デカパイチビ女」

 

 「…じゃあ、隠神の野郎を文字通り中に火が通るまでじっくり炙って殺すのはどうだ」

 

 少し怯んだ様子の織が、しかし咄嗟に言い返してきた。

 

 「はっ、冗談だろ。もっとましな嘘吐きな」

 

 頭はこの年で随分と回るらしい。

 威嚇がてら、地下を突き抜けてバーの床を壊しかねないほどに、体を巨大な妖狐のものへと見せつける様に変化させる。

 「ぎし」地下の天井が軋みを上げて埃が辺りに落ちる。固唾を飲んで意識のとられている織を片手で掴む。すっぽりと体は収まり。頭だけが握った掌から見える。片手で火を宙に浮く彼の足元に焚いてやる。

 

 「何でオレがここにいるか分かるか」

 

 「…」

 

 「オレがヤツの寝首を掻いてやる為だ。ソレがオレの大事な人への手向けになるからだ」

 

 彼の足元でちりちり、ぱちぱちと音が立つと、彼の顔を登る影が揺らめいた。生きた心地のしてなさそうな十三歳児の顔を見て言葉を連ねた。

 

 「隠神がこんな目にあったら嫌か?」

 

 懸命に動かそうとしていても、唇が震えて声がはっきりとしたものとして出てこない。織のその様子に変化をといて彼を解放した。

 宙で突然解放されて、倒れ込み、浅く乱れた呼吸を整えることに必死な彼の顔を覗き込む。

 

 「隠神が「誰か」に殴られたらアイツは痛がるだろうな。オマエはソレが嫌じゃ無いのか」

 

 「…っざけんなよ。隠神さんにそんなことしてみろ…」

 

 汗水流した青い顔にも関わらず、射殺す様な目線。虚勢で啖呵を切ってる訳でもなく。続く言葉が無くとも本当に怒ってその感情を吐き出している。

 コイツ十三歳か?本当に?

 

 「オマエはオレを傷つけた。同じ様にオレは隠神を傷付けたい。大切な人が傷付けられたらオマエは嫌じゃないのか」

 

 「嫌に決まってんだろ!」

 

 「じゃあ、隠神が嫌なことを積極的にするのは止めるんだな。アイツだって言われたら嫌なことの一つや二つあるだろうぜ」

 

 隠神の寝床と化していた長ソファ。その背もたれから銃口を此方に向けていた彼に言葉をかけた。

 

 「随分と慕われてるじゃねぇか。たらしめ」

 

 「もうちょい穏便な方法を考えてくれよ…」

 

 「すまねぇ。アンタが嫌がる言葉が想像できなかった」

 

 何もなかったかの様に織から離れ、隠神から背を向けて皿を追加で二枚出すと、隠神は呆れ顔で銃口を上げ、虚実入り混じった銃は水に落ちたインクの様に消えていった。

 

 飯を食べてから早々に引っ込んだ子供二人。

 オレが洗った食器を隠神が片付ける。

 その最中に彼が口を開いた。

 

 「さっきのあれホントか…?」

 

 「どれのことだよ」

 

 「まだ俺を殺したいか?」

 

 食器を洗う手は止まらず、何度も繰り返されたルーチンは恙無く進む。

 

 「殺したいね。でもしない」

 

 「…」

 

 作業が終わって、捻り忘れた蛇口から水がとめどなく流れ落ちていく。

 

 「感謝は出来ねぇ。でもオレ達はあのままだったらどこかで必ず破綻を迎えてた。だから、あれは仕方の無い事だったんだよ」

 

 隠神のパソコンに映る依頼の文面を代わりに目を通したことがある。

 

 「物騒で怪物絡みの悲劇が転がる世の中だ。何気なく生きてても恨みの一つや二つ買うことぐらいあるだろうさ。だから、もうアンタにあたったりはしねぇよ。辛そうだったしな」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 バァン‼︎

 

 寝室の扉を蹴破って喝を入れた。

 

 「テメェら!買い物の時間だァ!」

 

 敷布団とカバーに掛け布団。加えて食材を買いに外へ出歩く。取り敢えず鍋に献立を決めて食材の買い出しに出向いた。

 化粧水に保湿、日焼け止めもばっちりな晶の事はそう言うヤツなのだと受け止める事にした。清潔感は大事だしな。

 

 「日向何したの?織がスッゴい怯えてたんだけど」

 

 「野郎、デカパイチビ女とか抜かしやがったからな。お尻丸出し火炙りの刑に処した」

 

 「…嘘だよね」

 

 「オレは見て悟った。あいつのケツには良いぼんじりになる素質がある」

 

 「絶対嬉しくないよそんなの…」

 

 加減をミスったか。火の粉が織の寝巻きの尻部分に大きな穴を開けていた。

 

 「…狸と狐、そんなに仲悪いの?」

 

 「テメーが体験した事のない過去の恨みを一方的に引き摺ってるのが毛嫌いしてるヤツらの多くさ」

 

 「日向もそうなの?」

 

 「オレは極めて個人的な事情だ」

 

 「ふーん…そう言えばさ、日向の好きなもの、聞いてなかったよね」

 

 「ファッションとコスメだな。最近はあんまりだけどよ」

 

 「じゃあ、他には無いの」

 

 「大河ドラマとかだな」

 

 「…任侠モノとか好きそうだよね、日向」

 

 「あぁ?罰でもエンコ詰めさせるとか、嫌だぜ、オレは。あんな惨い事出来るかよ」

 

 時代という強大な敵に一人の、どうしようもなく非力な人間らしく、哀れな程に翻弄されながらも抗おうとする様は、泣かずにはいられない。そこで人情が絡んで来れば、もうメイクがぐちゃぐちゃになる。人間の文化の中でもあれは良いものだ。

 最近は見てなかったな。

 違うな。コスメもファッションも、整った容貌を飾り立てるのが好きだったアイツに背伸びして並ぼうとした頃を意識させるから、オレは避けてるだけなんだろう。

 それが分かったところで自分を矯正するつもりも、罵る事もないが。

 そろそろ、新しい趣味を始めてみるのも良いだろう。

 

 「買い物が終わったら、二人でスイーツ行こうぜ。他の奴らには内緒だ、オレの奢りだからな」

 

 「ホント!?じゃぁ、ここ行こうよ、ここ」

 

 「原宿か?また随分と可愛いヤツを選ぶな」

 

 「でしょでしょ?ボク可愛いものにはいつもアンテナ張ってるからね〜」 

 

 買い物をして荷物を事務所に置くと、形だけ秘密の体だったが二人でスフレパンケーキを食べに行った。  パンケーキに乗っかる、丸い輪切りのバナナかと思ったソレを丸ごと口に運ぶと、口内に濃厚な脂味が広がると共にそれはバターだと晶に大笑いされた。

 平和なアクシデントを経て事務所に帰る最中、彼の話す内容に驚くものがあった。

 

 「オマエその年齢で働いてんのか」

 

 「うん…?そうだけど」

 

 今自分が置かれている状況について晶は何も疑問に思ってない。しかし、金銭事情を思えば仕方ないのかもしれないが。とは言え、隠神サンの事だ。倫理観が抜け落ちている癖に共感性があり、権謀術数を可能に出来る頭脳がありながら、損とも言える程に利他的に行動する事の多い彼だ。何かしらの配慮や措置はあるのだろう。楽天家ではなく腹芸の点においてオレの知る中では誰よりも狸らしく、しかし、同時に身を預けるにはこれ程安心できるヤツも他にいないだろう。

 

 「なにか不自由してたりはねぇか?」

 

 「特に無いかな。あ、でもお金がもっと欲しいんだよね。二万も三万もする服を何着も買っちゃうとすぐすっからかんになっちゃうの」

 

 「そりゃそうだろうよ」

 

 オレの懸念とは真逆だ。財布の紐をキツくするどころか、子供への羽振りが良過ぎて自分の首を絞めてないか隠神サンの事が少し心配になってきた。

 

 「隠神サンの事務作業とか手伝った方が良いかもな…」

 

 「あ、それね。ボクがしてるの」

 

 「オマエがか?」

 

 「そうだよ。最近はね、隠神さんのパソコンを可愛く飾り立てるのが流行りなんだ〜」

 

 趣味だろうが、頑張りたい事だろうが、仕事だろうが、遊び心は何事において長ずるにも大事である。

 少し滑稽な想像図に笑い声が唇から漏れだした。

 

 「おーおー、良いじゃねぇか。隠神サンも助かってるだろうぜ」

 

 拳一つ分オレよりも背の高い晶の頭を撫でる。不思議そうな顔しやがって。

 

 「自分よりも小さな奴に頭撫でられるのは嫌か?」

 

 「そういうんじゃないよ…うぅん、なんて言うか…こう言った事をする人が近くにいなくて」

 

 国によっては頭を撫でるのは犬と同じ扱いだからと忌避する人間もいる。

 そう考えたところで、色素の薄い髪色に、赤色ではなく、晶の透き通る様な水色の瞳が目についた。完全に純正の人間ではないだろう。

 

 「…オマエ、珍しい目の色だよな。どこ生まれよ」

 

 





火ぃちゃんの説教は織君に意図した通り伝わりませんでした。その場で即座に適当な方法が思い浮かばなかったんですね。
将来を計画するけど基本は行き当たりばったりで生きる存在に、完璧に計画通りの行動を取らせるの、何か避けちゃいますよ〜。

雪女(?)一族は怪物と人間の境界線を曖昧にしてきます。女性は狩猟民族で不思議パワーは使わないですし…。でも晶を見る限り、怪物の血は引いてそうなんですよね。
とは言え、ヤシマーの姫と姫パパを比べると血に意味があるのかは疑問です。魂に関係があるのかな?
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