本作品はhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14325348にも掲載されています。
---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女」からのゲストキャラ)
<廃神社の巫女3 洋子編: https://novel18.syosetu.com/n0812ge/>
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵(オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧(オリジナルキャラ)
--------------------------
父と母の関係を、僕は多分・・本当には理解していない。いや、事の真相を知った今、到底理解できるものではなかった。二人は・・・父と母は・・・まるで今までの悪夢のような出来事がなかったように・・・そして、SMクラブで行われる母と三好との忌まわしい夜が存在しないかのように、見かけ上の平穏を取り戻していた。
三好に調教され、奴隷にされ、雌豚に変えられてしまった母を、父はそのまま受け入れ、ただただ母と共にありたいと純粋に請い願っているだけだった。僕は人間としての父の器の大きさに圧倒されながらも、ざわざわとした心の痛みを抑えることはできなかった。
家族の絆とはいったい何なのだろうか?
これが本当に「幸せ」なのだろうか?
これが本当に「本物」なのだろうか?
強固で、永遠だと思っていた母との絆は、脆くて儚いものでしかない事を三好と言う悪魔によってとことん思い知らされていた。一度肉體を交えれば、卑劣な男にすら靡き、情愛に溺れていく母・・・・。僕は父のように母を受け入れ、絆を保っていくことが出来るのだろうか?もしかすると僕たちは懸命に家族を演じ続けているだけで、仮初めの安寧に身を任せているだけなのではないか?土台から腐り始めた大木に、ただ未練がましくしがみ付いているだけなのではないのだろうか?
・・・・・これで本当にいいのだろうか?
このような危うい関係が長く続くとは到底思えなかった。人を奴隷にし、尊厳を奪い、所有物にするような男が、僕たち家族をこのまま許すだろうか?僕達家族の行きつく先は・・・その結果は・・・どうなるのだろうか?
僕は一人で自問自答しているだけで、内に抱えた心の痛みを打ち明け、相談できる人を持ちえなかった。当事者である父や母はもちろん・・・こんな不道徳で、異常で、歪な関係を相談できる相手など決して現れないのだと悟っていた。どうする事も出来ずに、僕は無為の日々を送っていた。
そんなある日、僕は一人の女性と出会った。
それはあの忌まわしい夜から数週間が過ぎたある日のことだ。日常に戻った僕には1年後に控えた大学受験という大きな壁が待っていた。大きな痼を抱えたまま、僕は再び進学塾に通い始めていた。僕が通う進学塾は大きな繁華街の入り口、駅に近い一等地に開塾されている。塾から駅までの間、否が応にも風俗に関係していそうな派手な外見をした人々とすれ違うこともある。母にあのような事が起こらなければ、僕はこれらの人々とは無縁の生活で、全くの別世界の人々として意識にすら上らなかったに違いない。しかし、現実を知った今、すれ違う母の様な年格好の風俗系の女性が時々異様に気にかかるようになっていた。そして、その女性と偶然目が合った。その女性の目が見開かれる。
「あら。あなた暁人君ね・・・。そうでしょ・・・?」
きっと僕がその女性を無意識に見つめてしまっていたからかもしれない・・突然声をかけられた。僕は思わずうなずいていた。
「前に唯子さんから写真をね・・・見せてもらっていたの・・・」
「母から・・・」
その女性が母と何処であったのか、どんな種類の仕事をしているのか、すぐに分かった。身体にピッタリと張り付いたような男好きのする極端に体の線が浮き出る服装、派手なメーク、大きすぎる胸部にくびれた腰、極端に凹凸が強調された不自然な肢体・・・。
僕はこのような女性にかつて一度だけ会ったことがある。母が三好親子とともに1年間失踪している時だった。偶然見てしまった、あのSMクラブのスチール写真に写っていた女性・・・。自分の事を「紗夜子」と名乗っていた。あえて苗字は聞かなかった。ボクはすがるような思いで、紗夜子さんに母の事を訪ねていた。紗夜子さんは顔を赤らめながら、それでも正直に自分の気持ちを打ち明けてくれていた。
「私も唯子さんと一緒・・・」
「変わっていくの・・抱かれていく内に・・・夫とは全然違う荒々しいセックスに依存していく・・・この人無しでは・・・もう生きていけないって・・愛おしい男性だって・・思うようになってしまうの。たとえその男が、どんなに卑劣で、悪賢く、自分勝手で、強欲な最低の男でも・・・・」
「以前は何より夫が・・息子が大切だって思っていたけど・・今はもう息子のことも・・・ 強く思わなくなったわ・・」
「愛の対象が・・変わってしまったの・・・」
「唯子さんも きっと 今自覚がなくても・・・いずれ気づくわ・・」
「調教されるって・・・そういうことよ・・っ♡」
そう言っていた紗夜子さんは一見とても幸せそうだった。自分で聞いておきながら、正直に話してくれる紗夜子さんを、僕は一瞬強く憎く思った。そして、気が付いてしまった。母の表情と紗夜子さんの表情があまりにも似ていることに。その瞳の奥に悲しみの陰りが宿っていることに・・・・。変えられてしまった自分の欲望に抗えず、卑劣な男の言うままに自ら愛するものを裏切っていく・・・・。他者ではなく他ならぬ自らの意思で、意にそぐわない快楽の虜になって、身も心もその男になびき、愛してしまう・・・。母の居場所が聞けるかもしれないと、紗夜子さんと話してしまったことをボクはひどく後悔していた。
(それでは誰も母を救えないではないか・・・)
残ったのは絶対的絶望だった。
だから、再びそのような女性にあった時、きっと僕はその女性に険しい眼ざしを向けていたに違いない。だが、その女性は優しく微笑んでいた。悲しげで、それでいて、まぶしいモノでも見るように細められたな暖かな瞳。かつての母の微笑み・・・・。あの時会った女性・紗夜子さんとはまた違った慈愛に満ちた表情・・・。娼婦の様な外見をした女性とは思えぬ意外な表情に、僕は思わず見入ってしまっていた。
僕は声を掛けられるままに、歓楽街にあるうらぶれた喫茶店の中に入っていた。
「やっと暁人君に会えたわ♡」
そう言いながら顔を赤らめ、その女性は「山本洋子」と自ら名乗った。
「暁人君はいくつ?17歳?ふーん」
興味津々のその顔はまさに「ママ友」を思わせる人懐こい、なつかしい表情だった。
「実はね・・唯子さんとは半年前、同じところで働いていたの・・・」
きっと満司が1年間失踪していた時のことだろう。洋子さんの格好から見て、風俗関連であることはまず間違いない。何処で・・・と聞くのは無粋なのだろう。洋子さんの表情も「それ以上は聞かないでね・・・」と物語っていた。
「あなたのことよく聞かされたの。とてもいい子だって・・・。うふっ・・・その通りね。私もあなたのような子供が欲しかったな・・・」
まぶしそうに僕の顔を見つめる洋子さんの顔は、とても寂しそうだった。
「お子さんはいらっしゃらないのですか?」
「そう・・・何度も流産してしまったから・・・もう無理ね・・・」
しまった・・・僕は聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ・・・申し訳なさに思わず俯いてしまっていた。その時、洋子さんから意外なことを聞かされた。
「実はね、あなたのお母様‥唯子さんに頼まれたの。もしあなたに出会うようなことが有ったら、そして、あなたが途方に暮れていたら「大人のレッスン」をして欲しいって。母親ではできない「大人のレッスン」・・・・」
「なっ・・・何ですか・・・その「大人のレッスン」って?」
風俗嬢のような格好をした洋子さんから「大人のレッスン」って聞かされて焦らない男はいない・・・。それも極度に肉感的な外観で、蠱惑的な化粧を施した女性から受ける「レッスン」って!!!ドギマギして・・・変な事を期待して・・・思わず声が裏返ってしまう。
「あら?そんなこと決まっているじゃない?」
洋子さんの目が一瞬妖しく光ったような気がした。
「あなたに性の手ほどきをする事よ♡」
洋子さんはそう言いながら席を立つと、僕のすぐ隣に座り直していた。麝香を思わせる強い香水の匂いが濃厚に漂う。ボクはそれを嗅いだだけで頭がくらくらし始める。多分、僕は顔が真っ赤になっていたに違いない。ドキドキが収まらない・・・。もう洋子さんを直視する事など到底できなかった。体を強張らせてただただ俯いていた。
「そう・・・あなたのお母様と三好満司さんとの極端な例を見せつけられて、あなたが間違った性の概念に陥らないように・・・そしてお母様のような間違いを犯さないようにして欲しい・・・そう頼まれたの・・・」
そういう事か・・・。何となく僕には母の気持ちが分かるような気がした。母は、無理やり植え付けられてしまった性癖を・・・自分の変態性癖を・・・息子に見せてしまったことを悔い、恥じているのだ。そして、自分の息子に同じような眼に合わせたくないと切に願っているのだ。
「でも・・・これって・・・その・・・既にすごく異常な事じゃないですか?」
喉がカラカラだった。かすれた声で僕は何とかそう聞き返すのがやっとだった。
「あら、そんな事はないわ。アメリカや北欧では専門のセックスカウンセラーがバージンの男性にセックスの指導をするのはよくあることなの。パートナーとのセックスの前に、相手との性交渉がうまくいくように指導する事があるのよ。時には実技指導をすることも有るわよ。でもね、ほとんどは性被害にあった子供たちや、何らかのDVに有ってトラウマを抱えた子供たちが対象よ。これをしておかないと大人になった時、同じことを繰り返す可能性が有るの。そのための予防処置でもあるわ。その時はカウンセリングだけで良いと言われている」
洋子さんはじっと探るような目で僕を見つめていた。
「唯子さんの話を聞く限り、あなたも三好満司の被害者なのよ!自覚している?」
「・・・・・」
図星だった。理解しているつもりで、全く自覚していなかった。もしこのままの状態でいたら、僕はこれからの恋愛をうまくこなしていけるだろうか?父と母の事が脳裏をよぎらないだろうか?ふと、同級生の藤原綾乃の顔が浮かんだ・・・。何でこんな時にあいつの顔を?・・・。僕は思わず頭を振っていた。
「安心して・・・実技指導をするようなことは、あなたやあなたのパートナーの同意がなければしないわ。まずはあなたの悩みを聞かせて」
愁いを帯びてキラキラと輝くその瞳はとても美しかった。妖艶に思えた目の奥の煌めきは、暖かな慈愛に満ちていた。
その瞳に吸い寄せられるように、気付くと僕は一気に今までの事を洗いざらい、何も隠さずに全て洋子さんに話していた。その道の人だから言える・・・他の人だったら絶対に話せない・・・不道徳で、卑猥で、ねじ曲がり、異常で、ゆがんだ世界。こんな話を聞いてくれる人がこの人以外には考えられなかった。
まくしたてるように僕が放つ言葉を、洋子さんは「うんうん」と何も言わずに受け止め、しっかりと聞いてくれていた。
「よく正直に話してくれたわね。辛かったわね」
すべてを言い終わり、洋子さんがそう言ったのを聞いた途端、僕は涙が止まらなかった。洋子さんが手を握ってくれていた。オドロオドロしい刺青が施されたその手は、意外なほど暖かく、細く、白かった。
「それであなたはどうしたいの?」
〇感想や何らかのコメントを頂くと嬉しいです。よろしくお願いします。
〇本小説の登場人物のうち「山本洋子」に関しては以下のサイトで書かれている小説の登場人物になります。ご興味があればご一読ください。
https://novel18.syosetu.com/n0812ge/