<あらすじ>
秋月暁人は母・唯子を三好満司に寝取られ、傷心の日々を送っていた。そんな暁人の目の前に唯子から頼まれたという謎の女性・山本洋子が現れ、暁人の心の傷を癒すための「大人のレッスン」が開始された。暁人は父・暁年とともにとともに三回目のレッスンに臨み、洋子が語った「大人のために」は唯子に絶対的な絶望しかもたらさないことを思い知らされる。そこには洋子の死をかけた洋魔子との壮絶な内面の戦いが隠されていた。そして、洋魔子の意識が洋子を凌駕し始めた時、暁年がとった行動は・・・。
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---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女https://novel18.syosetu.com/n0812ge/」からのゲストキャラ)
山本 洋魔子:山本洋子の別人格(ダークサイド)(オリジナルキャラ)
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
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「びりっびりっびりっ」
俯いていた洋子さんが驚いたように顔を上げる。そして父が奴隷契約書を破り捨てたのを見た瞬間、その顔は今までの鬼のような形相から一変していた。泣き笑い・・・少しはにかんだような笑顔には、うっすらと涙が浮かんでいた。母とそっくりな笑い顔だった。
「教えてください。妻の・・唯子の取り返し方を・・・満司に勝つ方法を」
父の顔にもう迷いはなかった。
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「びりっびりっびりっ」
私は最後の力を振り絞っていた。もしこのまま洋魔子になってしまえば暁人と暁年さんは簡単に飲み込まれてしまう。まだ駄目・・・洋魔子になる訳にはいかない・・・。まだ・・・あと少し・・・絶対的絶望のその先を見せなければならない・・・。そのとき・・・暁年さんの壮絶な結論が・・頼もしい解決が・・びりびりと奴隷契約書を破り捨てる音が・・・私をぎりぎり踏みとどまらせていた。
「びりっびりっびりっ」
暁年さんの決意が・・・魂の雄叫びが・・・私の魂に響いて、力を与えてくれていた。
『もし、このまま私を締め出そうとしたら・・・私はこの場で自害する。暁人を、暁年さんを・・・ううん・・倭男さんに酷い目を合わせるくらいなら・・・この場で死ぬ。まだ身体のコントロールは私にも残っている。さあ、私の意識から出て行きなさい!死にたくなかったら、出てきなさい!』
【何を血迷っているの?この身体は、お前だけではない。次に目覚めたときは身体のコントロールも奪ってやる・・・無駄よ・・・そうすればどうせ・・・・やめろ・・・】
『もう二度とこんな不幸は許さない・・死ぬの・・・あなたと私・・罪を償うの・・・』
【違う・・・お前の・・・本心は・・・お前も死にたくないはず・・やっ・・だめ・・・お前も・・・・・】
「・・・・・・」
何とか洋魔子を押せつけることが出来た。二重人格が進行している・・・最終段階になっている・・・多分これが、今が・・・私の最後の意識・・・きっと次はない。意識を失った時、私は死んだのと同じになる。次に目覚めることはない。今しかない・・・暁人に全てを伝えなければならない。洋魔子や満司に負けない‥愛の本質を伝えなければならない・・・。私にできるだろうか?
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「御免なさい・・・私・・・こんな事をするつもりじゃなかったのに・・・本当にごめんなさい・・・」
洋子さんは店員さんから渡されたおしぼりを、僕の頬にあててくれていた。父も冷たいおしぼりを寮頬にあてて細切れになった奴隷契約書を唖然と見つめていた。僕の頬もきっとかなり腫れていたに違いない。父の顔を見ればすぐにすぐに自分の顔も類推できる。
「でもお父さん・・どういう事?満司に勝つって?」
腫れている父の顔を見てもその表情はよく分からなかった。
「しょれ・・はな・・あうっ・・痛てっ」
少し喋りづらそうだ。しかも口の中を切っているようで、おしぼりの端が薄っすらとピンク色になっている。
「本当にごめんなさい・・。私から説明するわね・・・」
見かねた洋子さんが解説を引き受けてくれる。きっと父よりもうまく教えてくれるはずだ。
「唯子さんを取り戻す・・・満司さんから・・・お父様はそう言っているのよ。でも、お父さんはそれを逡巡していた。なぜかしら?」
洋子さんがおしぼりを僕の頬にあてながら、すぐ僕の目の前で尋ねる。顔を赤らめ俯くすぐ目の前に肉感的な洋子さんの乳房が迫っていた。僕はどぎまぎとしながら、それでも何とか囁くように答えることが出来た。
「SMショーをやっていた秘密クラブのマスターが父に向かって言っているのを聞いてしまいました。『旦那さん・・・一度果てのない牝の燃焼を覚えちまった女はアンタじゃ手に負えないよ・・・』確かこんなようなことを・・・」
「お父さんが男として満司にかなわないと?」
多分、人間の器の大きさで言えば父以上の男を見たことがない。満司に関していえば、月と鼈だろう。しかし・・・
「あの・・具体的な、方策が分からなかったから・・・その・・・セック・・女性の喜ばせ方で満司に勝つ方法が・・・」
「ウフフッそうね・・・それもとても大事だけど・・・他には?」
「え・・・?・・・」
違うのだろうか?父は何を考えて?
「じゃあ何で・・・父は?」
「お母様を取り返すってことはお父様のエゴになるから・・・。もしあなたが、お母様を救い出そうとお母様と無理やり連れ戻したら、それはお母様の恋を、新たな愛を、踏みにじることになるかもしれない」
「そっ・・・」
「満司さんと同じことを、あなたはやろうとしているのかもしれない・・手段は違っても本質的には満司さんと変わらないわよ!」
「そ・・・それは・・・」
二の句が継げなかった。その通りかもしれない。母は今の状態でも確かに幸せそうに見える。満司へ深く傾倒し、依存し、愛している事を息子である僕ですら感じてしまう。きっと父はもっとはっきりと、強く、酷く、残酷に・・・感じている。だから手を出せないんだ。でも・・嫌だった。それは何か違うような気がした・・・。それでは母は心置きなく満司だけを愛すればいいだけだ。
「でも・・・それでも・・・僕は・・僕は・・・」
「そうね・・お父様もさっきまでそう考えていたの」
「結局は満司と同じではないかと・・・」
僕は思わず父に振り返っていた。苦悩の表情が父に浮かび上がっている。そういう事か・・・父は、自分を裏切っている母を、苦悩の中で受け入れ、それでも「裏切っている母ごと全て」を愛し続けているのか・・・。洋子さんが再び父の方に向かう。
「そう・・・でもそれは大きな間違い。あなたの優しさが、あなたの奥様をダメにしていくの。あなたがすべてを受け入れ、すべて許している間は、唯子さんは不幸になるだけ」
唯子さんはそう言うと、父の手を取って立つように促す。
「あなたはそれにさっきやっと気が付いた・・・そうね」
洋子さんが確認するように父の手を強く握りしめる。父はそれにこたえるようにゆっくりとソファーから立ち上がった。
「あなたが唯子さんを幸せにするのは、あなたが「強い愛」に目覚めた時だけ。彼女にとって「受け入れがたい愛」を渡す事。満司に傾倒し、惹かれ、愛している唯子さんに、あなたの「強い愛」を受け入れさせること。この事態に真正面から向き合い、満司と戦い、唯子さんを奪い返すほか、唯子さんに「強い愛」を渡せない・・・唯子さんに本当の幸せを掴ませることが出来ない」
父も洋子さんの手を強く握り返し、大きくうなずく。
「でもそれは・・・僕たちの・・・父の・・・エゴですよね?・・・誰も聖人には成れないし、魂に従う義務もない。己の幸せを、自分の幸せだけを、追求している人はいっぱい居る・・・」
僕も思わず立ち上がってしまっていた。洋子さんに聞かずにはおれなかった。満司と同じようなレベルになりたくなかった。
「エゴの何が悪いの?」
「ぇえ?」
洋子さんは不思議そうに僕に聞き返す。確かに・・愛を語るとき合理的な説明などできない。
「分かりません・・」
正直に答えていた。未熟な僕には、父や洋子さんが考えていることの半分も分からない。
「ふふっ・・・それでいいのよ。教えてあげる・・・「愛は戦いである」これが「おとなのために その8」よ」
『愛は平和ではない、愛は戦いである。武器の代わりが誠実であるだけで、それは地上における最も激しい、厳しい、自らを捨ててかからねばならぬ戦いである』
「『愛と誠』っていう漫画のセリフよ。元インド首相ネルーの言葉とされている。でも私は好きだわ。もともと愛ってエゴなものなの。ううんエゴそのもの。常に戦い、試され、模索し、適者生存が行われ、それでも前へ進めなければならない。そうしないと生き残れない。それが種の保存につながっていく。だから・・・男だったら・・・戦ってそれを奪い返せばいいの!逡巡などせず、心おきなく戦って奪い返しなさい!「永遠の愛を誓う」とは互いに、永遠に、戦い続ける事への宣戦布告なのよ」
その言葉は僕ではなく、父に向けられていた。父は力強く頷くとにっこりと洋子さんを見つめ返していた。僕はあの時見せてもらった結婚誓約書を思い出していた。
全ての人々と手をつなぎ、平和を求め
全ての生き物と絆を結び、これを慈しみ
豊かさを求め、豊かさに奢らず
幸せを求め、幸せに奢らず
絶えることのない、人間の命を生み育てることを誓います
主語は「二人」だった。
父と母は、この世の人々の不幸に、この世の人日の貧困に、戦いを宣言しながら結婚していたのだ。そういう夫婦なのだ・・・。そして・・・そして・・・僕を生み育ててくれた・・・・。
「お父さん・・・頼もしい人だと感じたの」
母の言葉が再び脳裏をよぎった。僕もそう感じていた。いつもより父が大きく見えた。満司よりも大きく逞しく見えていた。だが、その途端・・・洋子さんの身体が大きく仰け反る。
「はうぅっ!」
倒れ込みそうになる洋子さんを父が危うく支えていた。父の腕の中に抱きかかえられている洋子さんの身体が再び痙攣し始める。
「洋子さん!大丈夫ですか?洋子さん」
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痙攣はすぐに収まった。顔を真っ赤にしながら洋子さんが父から離れる。
「すみません・・・大丈夫・・ちょっと気を許しただけ・・」
名残惜しそうに父から目を離すと、洋子さんは再び僕に向き直った。
「でもそれはお父様の役目・・あなたは如何にお母様を乗り越えるか・・問題の本質がまるっきり違っているの。だからお父様に今日来ていただいた。少し荒療治だったけど、もう、お父様に関して言う事は無いわ。お父様はきっと満司を打ち負かす・・・でも、唯子さんには時間が残されていない。多分もうぎりぎりのはず。このままでは踏み外してしまう。悪の手先にしては・・・手遅れにしてはだめ。急いでね」
そう言った洋子さんの顔は火照って、どことなく辛そうだった。よく考えれば、今日の洋子さんは最初から調子が悪そうだった。でも、僕にはさっぱり分からない。聞かずにはおれなかった。
「待ってください。僕はどうやって母に向き直り、どうやって乗り越えればいいんですか?満司にのめり込んでいる母に、向き直ることすら出来ないかもしれません」
辛そうな洋子さんの顔に、初めて会った時のあの慈愛に満ちた笑顔が浮かびあがっていた。
「それはあなた自身で考え、行動しなくてはならないこと。あなたが自分の力でしなければ意味がない事なの・・・それが大人になるってこと・・・母親を乗り越えるってことなのよ」
それでも、困ったような顔をしているボクに気が付いて、洋子さんは僕の胸をその細い指で押していた。
「ここよ!頭で考えなくていいの。ここで感じなさい」
そして僕の両手をそっと取ると、この前のように自分の胸に強く押し抱いてくれた。
「前にも言ったわね。あなたは目の前に居る赤ん坊が椅子から落ちそうになったら放っておける?隣の人が急に倒れたら放っておける?何も考えずに手を差し伸べてしまうはず。そこにどれだけの理屈が必要なの?愛はエゴで、どうしようもなく自分勝手で、時には醜い・・・・。身体と心はいつでもあなたを裏切り続ける!でも・・あなたのここは、私のここは・・・」
洋子さんはフラフラとしながら、それでも強い意志を感じさせる強烈なまなざしで、僕の胸と自分の胸を指さした。
「真実の愛は、自分の魂の叫びを無視することはできないの!以前こうしながら言ったわよね。魂は心の入れ物だって。人々の「思い」を詰めた魂と心が齟齬をきたした状態では本当の幸せではないの。自分だけの幸せなんて実はないのよ。本当の幸せはすべての人の幸せ以外ありえないの」
そう言うとその場で身体をくの字に曲げ、辛そうに屈みこんでしまう。洋子さんのふくよかな乳房にギュっと手が包み込まれていく。なんの抵抗もなく、手がすっぽりと乳房の中にのめり込んでいく。僕はこの時初めて女性の乳房の柔らかさを知った。
「洋子さん・・・洋子さん!」
僕は洋子さんに巻き込まれながら、そのまま洋子さんに覆いかぶさるように身体を支えていた。洋子さんの顔が僕のすぐ目の前にあった。
「それが「大人のために その9」よ・・・「本当の幸せとは心と魂が一致すること」つまり自分の心といろいろな人々の思い「魂」をしっかりと協調させ、共有することが本当の幸せなの。母親離れする事とは、家族という狭い世界から離れ、より広い視野に立って愛を見つめ直す事なの。あなたの魂の声に従って行動すれば・・・自ずと道が開ける。自分で、自分ひとりで、立ち向かって」
ほとんど顔がくっつきそうだった。玉のような汗が洋子さんの額に浮かんでいる。息が苦しそうだ。しかし、その目は澄んでいて、透明で、吸い込まれそうなほど美しかった。
「たかが満司ごときに一年間調教を受けただけで、あなたのお母様の本質が変わってしまうと思って?ううん・・たとえ何年かかっても・・・例え身や心は変えられても・・・・ここは違うの!誰も変えることなどできないのよ!」
僕はその目に涙が浮かんでいることに気が付いた。洋子さんは必死で、まるで遺言のように僕に訴えかけている。
「身や心が変わっても・・・ここは・・・「魂」は・・・絶対に変えられない。理性で納得させられても・・・身体が淫らに変えられても・・・心が邪に変えられても・・・魂だけは絶対に変えられない!それが母親なの!それが家族なの!それが人間なの!」
「洋子さん・・・もういい・・・休んで・・・ゆっくりしてから、じっくりと聞かせて・・これじゃまるで・・」
遺言じゃないか・・・まるで死んでしまうようじゃないか・・・
「心はころころと変わってしまう。あなたのお母様の様に・・・。でも魂は違う・・心の入れ物は違う。あなたの魂には、あなたにつながる全ての人の「思い」が詰まっている。あらゆる人の「思い」であなたは生まれ、育てられ、生かされている」
気が付くと僕の目からも涙が零れ落ちていた。絶対的絶望から・・・悪魔の迷宮から・・・何となく光が・・・とても弱弱しいが、確かに一条の光が・・・見えたような気がした。
「最後に見るのがあなたのその顔でよかったわ。大丈夫、あなたならうまくやれる。きっとあなた方親子は幸せを掴む。あなたは・・もう・・私の息子でもあるわ・・・暁人・・・」
洋子さんの身体が大きくビクンと震える。美しかった瞳が閉じられ、一条の涙が頬を伝って流れていく。
「洋子さん?」
洋子さんの震えが止まった。呼吸が止まったように感じられた・・・・。
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〇本小説の登場人物のうち「山本洋子」に関しては以下のサイトで書かれている小説の登場人物になります。ご興味があればご一読ください。
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