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---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女」からのゲストキャラ)
<廃神社の巫女3 洋子編: https://novel18.syosetu.com/n0812ge/>
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
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「それであなたはどうしたいの?」
「・・・え?」
全てを話し終えて気が付く。そもそも僕は家族をどうすれば良いのかすら分かっていなかった。
「元の家族に戻りたい?それとも今の家族の絆を保ちたいの?」
「・・・・・」
そう、僕を除けば・・・週1度の忌まわしい夜を除けば・・・母は、家族は、元に戻っていた。それはきっと父の努力によって・・・すべてを受け入れる決断をした父によって・・・ギリギリのところで保たれている儚い絆・・・。
「もうすべてが実現しているわ」
それはたぶん父の努力によって・・・
「母を救いたい」
「何から救いたいのかしら?」
「満司から・・・」
「あら?お母様は幸せそうだったって言ったじゃないの?・・・きっと・・・満たされて…幸せそうだったでしょ?満司さんに抱かれるときは・・・」
「でも・・一瞬だけど、いつも悲しそうな顔をするんです。最近は謝ってばかり・・・」
「お母様は満司さんも愛しているのよ!それは分かっている?」
「・・・・・」
「でも・・満司は・・・母を愛していない」
洋子さんの手が再び僕の手を握り締める。
「あなたは三好満司さんがお母様を愛していないとでも?」
「はあ?卑劣な手を使って無理やり犯し、卑猥な写真で脅した挙句に性奴隷に調教し、SMショーで晒しものにするような悪辣な男がですか?!」
「そう。そういう形でしか人を愛せない人がいるの。あなたはそれをまず理解しなさい。それが「大人のために」その1よ」
その目は真剣そのものだった。大人になるためのレッスン・・・こういう事だったのか・・・。
「そして、そういう類の男に調教されてしまったら、それが完遂してしまったら、同類になって行くの。どんなにその女が貞操観念を持っていようが、清純な心を持っていようが関係ない。一度染められたら元に戻ることは出来ない。いい事これが「大人のために」その2・・・」
それは自身の経験なのかもしれない。悲しそうに、異様に膨らんでいる胸に手を当てて吐き出すように言っている。
「「大人のために」その1と2・・・これはあなたが直視しなければならない悲しい現実」
「つまり・・・」
「あなたのお母様は心から三好満司さんを愛してしまっているのよ。そして満司さんも歪な形ではあってもお母様を愛している」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞きたくなかった。耳を覆いたくなった。やめてくれ・・・。
「満司さんが一年、お母様の前から居なくなった、ってあなたは言ったわね。それは満司さんの自信の表れよ。お母様の調教が完遂したことを確認したの。そして、お母様はもう、満司さんから離れられないことを自覚し、あなた達よりも強く満司を愛している事に目覚めてしまったのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やめてくれ・・・やめてくれ・・・。
「きっと今は、あなたや、あなたのお父様よりも、満司さんの事を強く、心から愛してしまっているの。愛の対象はもうあなたや父様には向いていない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やめてくれ・・・やめてくれ・・・やめてくれ・・・
絶対的絶望・・・・洋子さんの言葉が、ザクザクと僕の心に突き刺さる。何も言えなかった。他でもない、一番分かっているだろう人から、一番言って欲しくない事を、はっきりと指摘される・・・やめてくれ・・・やめてくれ・・・やめてくれ・・
「じゃあ・・・どうする事もできないじゃないですか!」
うちのめされたように、僕はフラフラと立ち上がろうとしていた。だが、洋子さんはその手を離してはくれなかった。
「逃げてはダメ」
洋子さんがキッと僕を見据える。
「あなたには愛する人はいるの?一生涯のパートナーとしても良い人はいるの?」
そう聞かれた途端に、再び藤原綾乃の顔が去来する。それはまだ「恋」にすらなっていない。一方的な淡い恋・・・
「いいえ・・・まだ・・・いません」
「あら・・そうなの?あなた女の子にモテそうなのに・・・」
「密かに思っている子はいるけど・・・」
「あら・・・だれ?だれ?だれ?」
「・・・・・・・」
流石にそれは言えない。彼女は僕の事を何と思っているのだろう・・単なる片思い?・・・。
「うふっふっ・・・可愛いわね」
一瞬緩んだ洋子さんの表情が再び険しくなる。
「話を聞く限り・・・適切に対応しないとあなた達家族だけでなく、その思っている人も呑み込まれてしまうわ」
僕は思わず座り直し、洋子さんを正面から見据えていた。もう恥ずかしさも何も感じなかった。
「それって・・・適切な対応があるってことですか?」
この絶対的な絶望から抜け出す術があるとでも?・・・怪訝な僕の視線を受け止めて、洋子さんの目は確信に満ちている。
「あなたやあなたがこれからパートナーとする人にまで被害を及ぼすことを防ぐだけ。それがお母様の希望・・・・」
「父や母はどうなるんですか?」
「それはあなたのお父様とお母様の問題よ。あなたがとやかく言う権利はないわ。もう片が付いているのよ」
それは・・・母を取り巻く絶対的な絶望・・・それからは抜け出せない、と言う事なのか。それとも・・・僕にとっての絶望であって父と母は違うのだろうか?
「父はなぜ母を許せるんですか?父にとってこれがベストなんですか?」
「じゃあ聞くけど、お母様は何であなたたちと一緒に暮らしているのかしらね?満司さんの方に強く傾倒しているのに・・・」
「・・・・」
三好満司に肉體を許し、いつの間にか心まで許してしまった母・・・でも、家にいる母はかつての母と全く変わらないように見える。
「戻れると思っていたから・・・元の家族に戻れると信じていたから」
「信じている?お笑い種ね・・・SMショーに出ることが条件に入っているのよ・・。そしてSMショーで露出マゾプレイに耽り、家族を罵倒しながら嬌声をあげているのよ?そんなので元の家族と言える?」
「・・・・・・・・・・・・・」
洋子さんのその顔は鬼のように怖かった。母の女の部分を決して許さぬような決然としたものを感じた。
「母や妻としての義務が有るから」
自分を押し殺して家族に尽くそうとしている・・・責任感が強い母なら・・・それが僕の願望に近い回答であった。そうあって欲しかった。
「だったらSMショーなどには決して出ないわ!例えお父様の許しがあってもね」
その声はまるで甘えを許さぬ厳しいものだった。次第に洋子さんは母を容赦なく丸裸にし、遠慮のない事実を、僕の前に突きつけていくい。
「お母様はね、お父様の許しが有るから・・・・三好満司さんと逢瀬を重ねて肉欲を満たしながら、あなた達との見せかけの家庭的な幸せも得ることが出来るの。己の醜い欲望の充足と精神的な安寧の両方が同時に得られる「究極の幸せ」をつかんだのよ」
ちがう!・・・ちがう!・・・そんなんじゃない!・・・なんでそんな酷いことを・・・洋子さん止めてくれ!
「そうすれば、三好さんに捨てられた後もお父様が何とかしてくれる・・・」
洋子さんの口の端が魔女の様につり上がり、僕の顔を見透かしていたようにのぞき込む。
「虫のいいお母様の都合のいい世界の完成~」
それは僕の・・・もっとも聞きたくなかった解答・・・そして・・・僕の本心・・・・。
「それでもお父様は、それを全部承知で、お母様を迎い入れ、許されているのよ!ベストなどでは決してない・・・でも唯一の解答」
「・・・・・・」
「あなたにそれが出来て?」
「・・・・・・」
「だったらあなたは黙っていなさい!二人はそれで満足し、了解している。満司さんへの愛にはかなわないけど、お父様への愛を・・儚い愛を、細くて長い愛を持続している」
絶対的な絶望・・・押しつぶされそうだった・・・・何も出来ないのか?!
(でも・・・・いやだ・・・)
(多分・・・・違う・・・)
(母は救われていない・・・)
僕は未熟で・・何もわからなくて・・・何も理解していなくて・・・でも・・・これは何だか違う・・・。
「それって・・・洋子さんが頼まれたことって・・・僕だけを救えってことなんですか・・・」
「一連の件はあなたには関係ないもの。これはお父様と、お母様と、満司さんとの間の取り決め。そこにあなたはいないの」
母を取り巻く絶対的絶望・・・もう手遅れなのか・・・?!
「だから、あなたには・・・ううん・・あなたこそが・・わずかに残ったお父様とお母様の希望・・・あなたにはまっすぐ、すうっと伸びてほしい。3人の、不道徳で、ただれた、歪な関係から抜け出してほしいの・・・それがお母様の願い」
僕だけが・・・救われる?・・・違う・・・何か・・・理性では理解していても・・・理屈ではわかっていても・・・心が・・・胸の奥が・・・僕の魂が・・・痛い・・・。
「でも、それがお父様とお母様の結論なの。多分あなたのことを一番に考えて出した結論。だから、そっとしておいてあげなさい・・・。それが「大人のために」その3よ・・・」
そう・・・多分それが大人ってことなのだろう。大人になるには何かを失って、何かをあきらめて、何かに目をつぶって、捨て去っていくことなのだろう。でも、でも、・・・僕は嫌だった。こんなことが良いはずがない。それは理屈じゃない。胸が張り裂けそうに辛い。
「違う・・・」
「ぇ?・・・何?…聞こえないわ?」
「違う・・・・違うって言っているんです!」
洋子さんはジッと僕を見つめている。その目は何かを期待している様にも、何かを恐れている様にも見えた。
「僕は未熟で、何も知らなくて、父のように器が大きくなくて、夫婦のことも、男女の仲も、なにもよく分かっていなくて・・・でも胸が・・・痛いんです・・・心の声が叫ぶんです・・・魂が・・・違うって言ってるんです!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕も洋子さんの手をいつの間にか強く握り返していた。強くその瞳を見返していた。はたから見たら相思相愛の年の差カップルに見えたかもしれない。洋子さんの身体が一瞬「ビクッン」と震えたような気がした。
「よく分からない・・・けど・・・父と母が出した結論・・・こんな幸せ「本物」ではない。僕は本当の幸せを取り戻したい。それは僕だけの幸せであってはならない。母や、父や、家族みんなの幸せでなくてはならない。多分それが僕の魂の叫びです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
洋子さんの目が大きく見開かれる。恐れている言葉を聞かされたような驚愕の目。しかしそれも一瞬だった。視線をそらしたかと思うと、あきらめたようにため息をつく。
「ふっ・・・分かったわ。その3は撤回する。でも、それはあなたやあなたの思っている人にまで満司の被害が及ぶ可能性が出るってことよ。その覚悟ができて。その時あなたはお父様と同じ決断をしなければならなくなる。未熟なあなたにそれが出来て?」
心なしか洋子さんの体が震えているような気がした。握られていた手にじっとりと汗がにじんでいる。
「構いません」
「ふふっ・・・良い目になってきたわ。あなたの様な男性のそんな目が好きよ」
羨望とも嘱望ともいえぬ視線を受けながら、僕は再び気恥ずかしさから下を向いてしまう。握られていた洋子さんの手がやっと離される。改めて洋子さんを見ると、心なしか呼吸が早くなっているようだ。
「その言葉を彼からも聞きたかったわ・・・」
洋子さんから鬼の形相が消えていた。母親のような優しい目をしている。
「あなたさっき「魂」って言ったわね。あなたにとっての「魂」って何?」
僕は急に聞かれて、言葉に詰まった。霊魂とか、死後の世界とか・・・そんな意味で「魂」という言葉を使ったつもりはない。でも、単なる「心」とは違うつもりだった。何か人の中核をなす何か・・・。うまく言葉に出して言えない。
「魂はね・・・ここにあるの」
洋子さんはそう言って僕の手を取り、自分の胸に押し当てた。とても柔らかな感触が、ピッタリと張り付いたような薄手の生地からじかに伝わってくる。
「魂はね・・心の入れ物。魂には、その人につながる全ての人の「思い」で形作られ、詰まっている。あなたを生んだ人、育てた人、教えた人・・・あらゆる人の「思い」であなたは生まれ、育てられ、生かされている。あなたのお母様、お父様、お婆様、お爺様・・・あなたの先生、あなたの友人、あなたがすんでいる社会、そしてあなたを好きに思っている人・・・あなたに関わっているすべての人の「思い」で形作られている心の入れ物・・・それが魂よ」
これは大人のためのレッスンなんかじゃない。もっと大事なことを伝えようとしているに違いない。洋子さんの胸の奥にあるものを感じようと目をつぶった。ドクドクと言う心臓の音。小刻みな呼気・・・そのたびに胸が上下しとても温かい・・・。とても温かい・・・。僕は顔を真っ赤にしながら、柔らかくふくよかな胸から手を離した。洋子さんの目を見つめ返す。慈愛に満ちた瞳・・・とてもきれいだ。
「あなたにそのことが理解できて?これがわからない限り、この先には進めない」
そして、再び強く睨みつけられる。だが、叱責でも罵倒でもなく、強い意志と強固な決意に満ちていた。僕は強くうなずいていた。まだ柔らかく温かい感触が手に残っていた・・・。
「そう。じゃあ教えてあげる。本当の事を・・・これを聞けばあなたはパンドラの箱を開けることになる。せっかく閉じかけた箱を・・・後悔しても知らないわよ」
そう言って、確認するように僕を見つめ返した。僕は再び強く頷く。
「「大人のためにその3」・・・あなたのお母様があなたたち家族といる本当の理由・・・それはね「義務」でも「都合のいい世界」でも「究極の幸せ」でも何でもない。あなたも、あなたのお父様も、すべて間違っている。いえ、勘違いさせられている」
「勘違いさせられている?」
「そう‥狡猾な男に。あなた達は善良すぎる。本当に扱いやすい。はっきり言って馬鹿!この状況がお母さんの意思?全然違うわ」
僕は呆然としながら洋子さんを凝視していた。
「全て満司の策略よ」
「さっ・・・策略?・・・」
「そう・・・永遠にお母様を苦しめる檻。言ったでしょ?満司さんはそういう事でしか人を愛せないの。彼は天才的なサイコパスよ。お母様からあなたたちへの愛が絶対に消えないのをちゃんと理解しているの。あなたのお母さんは、あなたたちを愛しているから、苦しむの・・・一番苦しんでいるのはあなたでもお父様でもない、唯子さん自身なの。満司さんはその檻に、絶対に抜けられない檻に、唯子さんを閉じ込めて苦しめることで、唯子さんから愛を勝ち得ているの!」
僕たちを愛しているがゆえに僕たちから苦しめられ、僕たちへの愛ゆえに卑劣な男に傾倒していく・・・絶対的な絶望・・・無限の苦しみを与えられる愛の檻・・・。
「母も苦しめられている?!」
それでも母は、僕たちとの愛を愛おしみ、儚い絆に縋り付いているのだ。母の幸せそうな瞳の奥にある悲しみの意味を悟った時、僕は恐怖の結論にたどり着いた。
「それって・・・母を助けるためには・・・僕たちと一緒に暮らしてはいけないってことですか?母への愛を忘れろ・・ってことですか?母から僕らへの愛を失わせろ・・ってことですか?」
「本当に馬鹿ね。それが満司の最終目的でしょうが・・・。あなたのお母様にとって一番大事なものは何?・・そう・・・あなた達一家。では、お母様が感じる最大で究極の苦痛は何?そう・・・あなたたち一家の破滅・・・・」
僕は自分が恥ずかしくなっていた・・・母は・・・多分父も・・・ずっと前に気が付いていたに違いない・・・でも・・僕がいたから・・・あえて檻に・・・
「でもそれは満司にとってももろ刃の剣。お母様の満司への愛はあなたたちがいなければ成立しない。きっとその時はお母様も壊れてしまう。満司はそれを知っている。だから、お母様をあなた達に戻して、少しづつ愛を奪っているの。一気に殺さないで少しづつ生き血をすすっているの。でもこの行為は次第にエスカレートする。いつか・・あなた達一家は押しつぶされる。満司はずっとそれを繰り返してきている。サイコパスな彼は何の良心の呵責も無く人を苦しめぬいて、最後はつぶしてしまうの。そして新たなターゲットを常に探している。きっと彼はあなたに牙を向けるわ・・・。家族の次に・・・ううん家族の一部として・・・唯子を最も効果的に苦しめられるから。だから今度はあなたから愛を奪う・・・。あなたの彼女も例外じゃない。あなたのお母様はそれを予見して私に頼んだの」
「でも・・僕は・・・どうすれば良いんですか?・・・「愛」が母を苦しめているとすれば、愛を失わずに、どうすれば僕たちは本当の幸せを手に入れることができるのですか?」
「それはね・・・・」
そう言いかけた時、再び洋子さんの身体が「ピクン」とはねた・・。
「クツッ・・・もって・・・まだ・・・もう少し・・・」
やはり・・洋子さんは調子が良くないようだ。呼吸がさらに早くなっている。
「それは・・・次会うときまでの・・・宿題にしましょ・・う。宿題は・・・「三好良枝」よ・・・彼女は何で息子の・・・実の子の聖満と・・・暮らしていないか・・・考えて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
洋子さんの身体が次第に大きく震え始める。呼吸も荒くなり始め、明らかに苦しそうだ。
「きょ・・きょうは・・・これまでにしましょう・・・宿題・・・必ずよく考えて・・・「本当の幸せ」を掴み・・・ましょゃ・・ひぃ」
そういうが早いか、そそくさと帰り支度を始めている。気が付くと洋子さんと会ってから3時間以上も経過していた。
「あの・・・どうしたらまた会えるのですか?あの・・・いつ宿題の答えを教えてくれるのですか?・・・「大人のレッスン」を続けるには・・・あの・・その・・・メアドとか・・・その・・・携帯の電話番号を・・・」
「うふふっ・・・ナンパ?・・・教えてあげたいけど・・・あなたが私に連絡を入れた時点であなたに迷惑がかかる。それがメールだろうとLineだろうと電話だろうと・・・」
僕が洋子さんの言葉の意味を吟味している時間はなかった。洋子さんは顔を紅潮させ、肩で息をしているようだ。
「そうね・・・来週のこの時間、この場所にまた来てくれるかしら・・・クツッ・・・もう少しだけもって・・・もし・・その時・・・私の様子が変だったら・・・今の私とは違う感じがしたら・・・私に・・・声をかけないで・・・そのまま通り過ぎて頂戴・・・その時は再来週まで延期よ・・・いい?・・・あなたなら・・・分かるわ・・・外観ではなく・・・内面を見通して・・・私・・・・もう行くわ・・・・」
言っている事の半分も分からなかった。とりあえず出会ったあの場所に、同じ時間に、来週くればいいのだろう。そう思っている間にも、洋子さんは急いで二人分のコーヒー代置いていくと、そそくさとドアの方に駆け出していく。
「何であなたは僕にそこまでしてくれるんですか?いくら母の同僚だったからって言ったって」
フラフラとした足取りの洋子さんに向かって、僕はどうしても聞かなければならないことを聞いていた。
「私の一番大事だった人・・・一番愛していた人の恩人の息子が、あなただから・・・あなたが息子のようだから・・・」
苦し気に眉毛を寄せ、脂汗を浮かべながら、それでも必至で正気を保とうとする麻薬患者のように洋子さんは努力しながらそう言っていた。そして、
「それから・・・宿題のヒントを教えてあげるわ・・・三好良枝に会いなさい・・・そうしなければ・・・あなたの目で見て・・・心で判断しな・・ければよ・クッ・・分かるぁぁなぁぃ・・・」
コーヒー代くらいは自分で出そうとポケットの財布を探っている間に、洋子さんはそう言い残したままドアから消えていた。
「洋子さん?」
急いでドアまで駆けて行ったが、すっかり暗くなり派手なネオンサインが瞬く歓楽街を見渡しても、洋子さんは風のようにいなくなっていた。あとには麝香の香りがまだ強く漂っていた。
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これ以上はもたない・・・お願いもって・・・もって・・・邪淫に肉體が乗っ取られる前に・・・邪な意識が立ち上ってくる前に・・・悪の手先に戻る前に・・・・。逃げるように暁人君と分かれた私は、暁人君に見とがめられずに何とか路地裏の暗がりに隠れるように入りこむことが出来た。そして、人目を憚りながらも先ほどから疼きっぱなしの股間に急いで手を這わせ始めていた。もともとタイトなボディスーツの股間には下着などつけていない。紐のようなT字ベルトが股間に食い込んでいるだけだった。ディルドを咥え込んだ秘部からはべっとりと愛液が溢れ出し、ボディスーツの太ももを伝って流れ出している。ぐちゃぐちゃに濡れそぼった紐のような股間部分を横にずらすと、肥大しきったクリトリスをパンティストッキングのように薄い布地の上から掻きむしるように擦り上げていく。
「はぁあんぁ」
息子のように思っていた男性と目を合わせ、恋人のように手をつないだ途端、洋子に潜む女の部分に火がついてしまっていた。これからは気を付けなければ。洋子としての人格を保つ許容範囲をはるかに超えていた・・・。路地裏とは言え、人が来ない訳ではない。
(人に見られたらどうしよう)
そのスリルが快感に変わっていく。擦り上げる指が止められない。いつの間にかもう片方の手が乳房に伸び、醜く伸びきった乳首を極薄の布地の上から捩じり上げる。
「ああああぁぁん」
いつ見られるとも分からぬ露出の快感が全身に広がり、ガクガクと肉體が打ち震えるような背徳感に満たされる。快感の波が押し寄せるたびに「洋子」としての意識が薄れていく・・・。まだ駄目・・・暁人君と会った記憶を、私の脳裏から消し去らないと・・・知られてしまう。息子にしたいような素晴らしい青年と話して、そしてその青年を救おうとして、つい嬉しくなって・・・洋子に潜む「魔」の出現を抑え込む許容範囲を超えてしまっていた。だめ、・・・急がないと・・・いつものように・・・記憶を・・・彼と会ったことの記憶を・・・私から・・・私の意識から・・・取り除くの・・・もう一人の私に・・・「洋魔子(よまこ)」に・・・知られてはいけない・・・。もし知られたら・・・彼を不幸にしてしまう。これは私の賭けなの・・・唯子さんと倭男さんのために・・・彼を救いたい・・・・それには「洋魔子」に気付かれてはならない・・・・
「ブ・・ブブッ・・ブブブブッ」
何でこんな時に・・・ディルドが・・・振動し始めるの・・・だめ・・・これ凄い・・・意識が・・・だめ・・・らめ・・・ひぃああああああぁ・・・まにひゃわない・・・ひぃいいいいい・・・・・・・
洋子は身体を大きくのけぞらせたかと思うと、叫び声を上げながらその場に突っ伏すように失神していた。
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一人の娼婦が繁華街の路地裏の暗がりでひっそりと倒れていた。だが、都会の喧騒の片隅で倒れている娼婦に誰も気が付かないようだった。その娼婦は露出度の高い服装をし、その股間には卑猥な装置が装着され「ブブブブブ」とくぐもった振動音を発している。娼婦はしばらく身体をぴくぴくと震わせていたが、突然、何事もなかったように、むくりと起き上がっていた。太ももはお漏らししたようにドロドロと濡れそぼっていたが、一向に気にする様子は見られない。倒れ込む前のその娼婦の表情と、起き上がった表情を見比べることが出来る者がいたら、きっと別人と思ったに違いない。穏やかで優しげだった表情は、鋭く冷たげな表情に変わっている。
「淫欲が高まった時にディルドが作動するように仕掛けておいてよかったわ。ふふふっ・・・思った通り・・・間に合わなかったようね・・・・お前が隠そうとしていた記憶・・・たっぷりと残っているじゃない・・・」
金賢姫の執拗な調教により、山本洋子は重度の二重人格症に陥っていた。それは山本洋子の良心のなせる業だったのかもしれない。夫をマゾ豚に突き堕とした洋子は、その良心の逃げ場として「洋魔子(よまこ)」を作り出していた。洋子は淫らな欲望が高まると・・・賢姫に悪事の命令を与えられると・・・良心の呵責に堪えられなくなり「洋魔子」に変わってしまう。すべては洋魔子がやったこと、そう思うことで何とか良心の均衡を保つことが出来た。特徴的だったのは、洋子と洋魔子の記憶は共有する部分と、互いの人格が現れた時だけ覚えている記憶とに三分裂したことだ。人格が切り替わった時、自分が何をしていたのか戸惑わないように積極的に記憶を残そうと洋子が努力したためだ。しかし、その努力はやがて裏目になっていく。サディスティックな人格の洋魔子は、人格が切り替わった時に洋子が困るよう、わざと記憶を残さないようにし始めたのだ。こうして、それぞれの意志で記憶の共有を操作することを互いの人格が学習し始めていた。そのため、洋子は記憶を渡すことが得意で、洋魔子は記憶を見せないことが得意になっていた。
「ふぅん・・秋月暁人・・・なかなか男前じゃない・・・あははっ・・お笑い種ね・・洋子・・・お前、秋月暁人を男として・・・見てしまっているじゃない・・・何がレッスンよ・・・しっかりと、発情しているじゃない・・・・あははっぁぁぁっ」
起き上がった貞淑そうなその女の顔には似合わない妖艶で淫らな表情が、その顔に浮かび上がっている。そして「ブブブッ」という振動音が漏れる股間のファスナーを下すと手を差し入れ、平然とディルドの上から擦り上げ始める。恥じらいを含んだお淑やかで上品だった佇まいは姿を消し、躊躇がなく大胆な自淫の動きは下品さを通り越し、蠱惑的で妖艶な振る舞いに変わっている。その仕草はまるでストリッパーが卑猥な踊りを見せつけるように、艶っぽく不思議な色香を放っている。
「あああんんぁ・・・気持ちいいわよ!洋子!・・・よほど嬉しかったのね・・・息子にしたいような子?・・・クフフッ・・・ウソウソ・・違うわよね・・・中々美味しそうな子じゃない・・・本当は食べたいんでしょ・・・あんぁんぁ♡んあん♡ぁんんぁあぁぁんん♡♡♡」
身体を弓なりにそらし、絶頂を極めるように無心に股間を擦り上げる。たまらずに胸のファスナーも下し醜く伸びきった乳首を捻り潰すように抓り上げている。
「はあああっっっんんんっっ・・・・・」
アクメを迎え、気をやったその女にはついさっきまで滲み出ていた母性を感じさせる慈愛など到底感じられない。魔女のような残忍な気配が溢れ、その目には暗黒の光が宿っている。
「この情報たっぷりと利用させてもらうわ・・・お前の善意を全て裏目に変えてあげる・・・うふふっ・・・秋月暁人・・・息子のような子が破滅していく様を目の前で見てなさい・・・・」
ディルドの動きも止まり、肉体の疼きを癒した洋魔子は、バックを漁ると携帯電話を取り出した。
「AJK代行サービスです・・・ええ・・たった今、エージェントがターゲットとの接触に成功しました。はい・・・唯子の事を持ち出した途端に、しっかりと餌に噛みついてきましたわ。はい・・・もちろん・・・ターゲットは何の疑いも抱いていません。お客様のご依頼であることも気づかれていません。はい・・・・なぜなら、エージェントにもお客様のご依頼であることは伝えていませんから・・・」
淫らな肉體に変えられ、発情している時間が長くなるにつれ洋魔子の人格は洋子の人格よりも長く発現するようになっていた。主従が逆転し始めた途端、洋魔子は洋子に残す記憶を都合よく操作し始めていた。目的を伝えずに部分的な記憶を洋子に伝えることで、洋子を目的に沿って操作できることが分かり始めたためだ。今回は、秋月暁人に出会うための場所と時間をさりげなく記憶に残し、AJK団が行う犯罪代行業に自分が一枚噛んでいることなどは、一切、記憶に残さなかった。案の定、人のいい洋子は、かつての同僚で仲の良かった唯子の息子と近づきになり、親身な相談に乗り始めた・・・。洋子の善意は洋魔子の邪悪な目的のために利用され、犠牲者に何の疑いも抱かせずに犯罪行為に及ぶ事を可能にしていた。
「ええ・・・エージェントにはお客様のご依頼内容すら伝えていません」
「それで大丈夫か?・・・ご安心ください。優秀なエージェントですよ。懸案事項だった暁人の弱点・・・重要な情報の一つを入手しました。ご推察の通り、暁人には意中の人が居るようです。正式契約いただければ、次回にもその恋人を必ず聞き出し、特定いたしますわ」
「ええっ・・もちろん・・・その少女の調教はお客様にお任せします。お楽しみは取っておきますからご安心ください」
ニヤリと口の端を上げてほくそ笑むその表情には、どぎついメークがかえって映え、妖艶な印象が何倍にも増している。魔が洋子を飲み込もうとしていた。山本洋魔子が誕生するのも時間の問題だった・・・。洋子はそのことにまだ気が付いていない。
「はい、ご入金後は秋月暁人のマゾ豚への調教を開始します・・・・・ご安心ください・・・場合によっては私自身が赴きます。・・・はい・・はい・・かしこまりました・・・それでは正式契約ということで・・・毎度有難うございます・・・三好満司様」
〇感想や何らかのコメントを頂くと嬉しいです。よろしくお願いします。
〇本小説の登場人物のうち「山本洋子」に関しては以下のサイトで書かれている小説の登場人物になります。ご興味があればご一読ください。
https://novel18.syosetu.com/n0812ge/