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<あらすじ>
秋月唯子を寝取った三好満司の最終目的は唯子を寝取るだけではなく、秋月家全員を奴隷化し、地獄の底に突き落とすことだった。秋月暁人と暁人の恋人・藤原綾乃は謎の女・山本洋魔子と満司が仕掛けた罠にはまり、完全に洗脳状態になった唯子を使った二人を奴隷化する悪魔の調教の餌食になりかけた。だが、暁人は洋子から受けた「大人のレッスン」のお陰で唯子の洗脳を解くことに成功し、満司の悪事を未然に打ち砕くことに成功する。
しかし、ひょんなことから謎の老人に代わって工事現場に居座ることになった秋月暁年は、家族の協力が得られないまま孤立無援の戦いを強いられていた。
---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父(M商事・開発部・課長←オリジナル設定)
三好 満司:主人公の遠縁(暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女https://novel18.syosetu.com/n0812ge/」からのゲストキャラ)
山本 洋魔子:山本洋子の別人格(ダークサイド)(オリジナルキャラ)
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
大河原:M商事・企画開発本部長 兼 開発部・部長 (オリジナルキャラ)
金本:M商事・企画部・部長 (オリジナルキャラ)
張本:M商事・企画部・課長補佐 (オリジナルキャラ)
木下:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・所長 (オリジナルキャラ)
来栖:M商事/金田興産JV・**市ショッピングモール建設現場・監督 (オリジナルキャラ)
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ついに恐れていた雨が降り始めた。秋月暁年は着の身着のままで現場に来てしまった事をいまさらながら後悔していた。雨が降り始めると急に気温が下がり、5月中頃とは言え芯から冷え込んでくる。仲のいい現場作業員から借りた雨合羽は、雨風は何とかしのげても身体を温めておくには十分ではなかった。夕方5時を過ぎると物見高い作業員も三々五々と帰っていき、困った顔の現場監督の来栖と二人きりになっていた。
「例の老人・・・中々帰って来ないね」
老人が立ち去った方向を見ながら、来栖がそう独り言ちる。先ほどまでひっきりなしに鳴いていた雛も寝てしまったのかあまり鳴かなくなった。
「今だったらまだ間に合うんじゃないかい?」
来栖がそう言って暁年を覗き込む。「何が?」と聞き返すまでもない。張本とかいう小うるさい男がやってきて「早くこの場を去れ」と再三、注意をしていたからだ。
「すべて報告させてもらうからな。減給どころじゃすまないぜ」
どうせ金本がよこしたに違いない。
「企画部がとやかく言う事ではない」
と追い返したが、本社風を吹きまくって現場をいいように仕切り始めたようだ。
「悪いんだが、俺ももう秋さんに近づけない。張本が詰め所にカメラを設置して、秋さんとの接触者を記録するそうだ。「奴に協力する奴は懲戒だ」とわめいていやがる。工事の遅れの調整など端から念頭にないようだ。全く何をしに来たのやら・・・本社は余程暇なんだな?」
「工事の遅れに関しては申し訳ない」
「3日とハッキリわかれば調整は可能だ。むしろその点がはっきりして助かった。環境団体の目もあるから、老人を強制退去させる訳にもいかなかった。今回の事は秋さんの功績だ。感謝こそすれ、懲戒などと・・・本社の連中は何でそんな事すら理解できないんだ?」
「だから私が居るんだよ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・辞めさせられるなよ」
来栖はそう言ったものの、力なく笑う暁年を見て、まず間違いなく飛ばされることは確実だと見ていた。現場サイドの状況を全く顧みない張本は言うに及ばず、JVを組んでいる金田興産は胡散臭い連中が多くて、今後も似たような問題が山積しそうだ。秋さんが居なくなった現場を考えると、空恐ろしかった。
「じゃあ・・・行かないと。最後に・・・何か必要なものは無いか?こっそりと届けてもらうが・・・」
「大丈夫・・・家内が持ってきてくれることになっている」
「ああっ例の・・よくできた奥さんだって評判だったね」
「ああ。いい嫁を貰った」
「また秋さんのお惚気(のろけ)が始まった・・・」
ニヤニヤとしながら現場詰所に戻っていく来栖を見ながら、暁年の脳裏に一抹の不安がよぎる。唯子に電話してから既に3時間が経過していた。家からこの現場まで小1時間・・・到着が遅い。
「まさか満司が・・・・」
奴隷契約書を破り捨てたことを唯子にはまだ話していない。何かあったら今の唯子ではひとたまりもない・・・。
(私は何をやっている?・・・)
唯子が心配なら、今すぐ家に帰れば良い。なのに今この瞬間、私はなぜこの場にとどまっている?会社のため?社員のため?違う・・・たった2羽の雛と、2個の卵のために、再び家族を崩壊の危機に晒している。誰も望まぬ、誰も得をしない、たった2羽の雛と、2個の卵のために・・・。私の我儘のために・・・。
(私は何をやっている?・・・)
唯子を一人、家に置いたまま契約書の事を説明もせずに3日も家を空けることになる。唯子があんなに不安定なこの時に・・・・。私を最も必要としているのは、唯子のはずなのに・・・。謎の老人との約束のために・・・
(私は何をやっている?・・・)
みんな私の我儘に他ならない。唯子をあんな風にしたのは満司ではない。他ならぬ私なのだ。私たちにとって最悪の瞬間・・・満司と唯子の情事を最初に目の当たりにしてしまったあの瞬間・・・満司をかばう様にしていた唯子に、私は嫉妬してしまっていた。私はただただ嫉妬に駆られていただけだった。そして私は唯子を手放してしまった・・・満司と言う最悪の男に、唯子を委ねてしまった。
(私は何をやっている?・・・)
気が付くと常夜灯を残して工事現場内の全ての照明が落とされていた。都心の真ん中だというのに私の周りは真っ暗で、足元に番(つがい)の親鳥の残留思念がうっすらと光を放って見えている。楡の木の幹に体を預け、私は結婚したての頃から暁年が生まれ育つまでの思い出に浸っていた。
全ての人々と手をつなぎ、平和を求め
全ての生き物と絆を結び、これを慈しみ
豊かさを求め、豊かさに奢らず
幸せを求め、幸せに奢らず
絶えることのない、人間の命を生み育てることを誓います
洋子という女が言っていた「強い愛」・・・私はすっかり忘れていた。そうだ・・・私はそのためにここにいる。そして、唯子はそのために雨の中、一人で私を待ってくれていた。私と唯子との結婚生活はそういうものだった。すっかり忘れてしまっていた。豊かさや幸せに奢ってしまっていた。私が「強い愛」に従って生きていれば・・・、私たちが「強い愛」を忘れていなければ・・・満司と言う男が入り込む余地などなかったのだ。
(唯子・・・すまない・・・)
小雨だった雨は本格的に降り始め、雨合羽の中まで雨が忍び込んでき始めていた。身体が芯から冷え、ブルブルと震え始めていた。あの時の唯子のようだ。まるで雨に濡れた子猫のようにブルブルと震えている唯子に、私は心の底から恋をしていた。
【男だったら・・・戦ってそれを奪い返せばいいの!逡巡などせず、心おきなく戦って奪い返しなさい!】
あの時の洋子と言う女の声が、稲妻のように私の心を貫いていった。とても清々しかった。あの人は、洋子さんは二重人格者で精神に異常をきたしている。だが、暁人の見立て通りだった。だからこそ、彼女は達観し得る。真実に近づいていける。
そして、その具体的な手段を言わなかった意味も今なら理解できる。それは私たち二人で解決しなければいけない事。私一人ではなく、二人で解決していかなければいけない事なのだ。もし私が一人でカウンセリングを受けたら、満司と同じ轍を踏んだことだろう。独りよがりの、自分勝手なセックスしか出来なくなっていただろう。今までの私の様に・・・
(唯子に・・・暁人に・・・会いたい)
しみじみとそう思っていた。
(私は何をやっている?)
その時、楡の木がそよと揺らいだような気がした。凍える身体に、この木は優しく包み込むような暖かいオーラを送ってくれている。すべてを包み込むような優し気なオーラ・・・。この木は確かに大地とつながっている。深く根を張ったその先には、太古からの英知とゆるぎない経験が広がっている。楡の木の幹に身を預けながら、私は大地と一体になるような不思議な感覚を味わっていた。
そして・・・遠くから話し声が聞こえてくる。最初は微かでよく聞き取れなかった。しかし、暗闇から聞こえるその声はとても暖かく楽しげだった。全く不幸を感じさせない、屈託のない笑い声は、幸せそのもののように感じられた。
「でね・・・」
「うふふっっ・・・それはね・・・」
「・・・えっ・・・・違うよ・・・」
ワイワイ・・・ガヤガヤと・・・途切れ途切れでよく聞き取れなかったが、その声の主が誰なのか、私にもようやく分かり始めた。とても懐かしく尊い声・・・。明るい少女と落ち着いた女性の声・・・そして朗らかな青年の声が続く・・・。
「その時・・・暁人ったら・・・私の事しか見てなかったんですよ」
「綾ちゃん、それは暁人の事を綾ちゃんがずっと見ていないと分からないんじゃなくて?」
「えっ・・・ヤダーッ・・・」
「ねえ・・そろそろ・・・現場監督さんが言っていた場所じゃない?」
「ここら辺になると真っ暗だね・・・懐中電灯・・・どこだっけ?」
こころなしか番(つがい)の親鳥の輪郭がはっきりと、明るく見えるような気がする。その親鳥のすぐ向こうに、3人の人影が浮かび上がる。
「あっ・・あなた!」
「お父さん!」
「暁パパ!」
楡の木の梢が、フッと風に震え、迎え入れるようにそよぎ、大きな雨だれが私たちに降りかかる。
「ひゃ・・・つめたい」
「あははははっ」
「抱きつくなって」
そして三人で私の足元を不思議そうに見つめる。
「小鳥がいるわね・・」
「番(つがい)かしら?」
「ホオジロじゃないか?」
そして、その小鳥たちをよけるように回り込むと、私の前に三人仲良く並んでいた。
「おかえりなさい」
唯子から差し出された傘を受け取りながら、私はそう応えていた。ちょっとはにかんだ笑顔が目の前にあった。
「ただいま・・・っ」
暁人編_大人のレッスン_完
〇本「続・月下香の檻」にはさらなる続編「続・続・月下香の檻」があります。
〇ご感想やご評価が合わせて10件(違う方から10人)以上寄せられた段階で
引き続きハーメルンにアップさせていただきます。
(今(2021年7月18日)のところたったお二人からしか頂いていません)
〇是非、感想や評価を頂ければと存じます。