<あらすじ>
秋月暁人は母・唯子を三好満司に寝取られ、傷心の日々を送っていた。そんな暁人の目の前に唯子から頼まれたという謎の女性・山本洋子が現れ、暁人の心の傷を癒すため「大人のレッスン」を行うと宣言する。洋子のアドバイスにより満司の元妻・三好良枝に会った暁人は、その異常な行動と変わり果てた姿を目の当たりにして、母・唯子の絶望的な未来を予感する。そんな暁人は誕生日を迎え18歳になっていた。その誕生日翌日の長い1日が始まる。
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---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公(高校3年生)
秋月 唯子:暁人の母(満司に寝取られている)
秋月 暁年:暁人の父(某商社・開発部勤務)
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子(満司とともに唯子を寝取っている)
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女https://novel18.syosetu.com/n0812ge/」からのゲストキャラ)
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
及川:一之介の部下・秋月家担当探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
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あれは何だったのだろう・・・洋子さんは何で僕に三好良枝に会えと言ったのだろう。塾に向かう電車の中で僕は必死でその意味を考えていた。確かに良枝さんは強く満司を求め、そして、認めたくないことに満司を深く愛していた。喘ぎながら「幸せ」と何度も言っていた。でも、彼女の状態はどう考えても「幸せ」とは思えなかった。明らかに精神を病んでいて、人生を歪ませてしまっていた。そして、酷く傷つき、苦しんでいる。絶頂に達しながら、流している涙を見て僕は人間の不可解さを痛感していた。
もし良枝さんが満司と出会わなかったら・・・。
もし、母が満司に犯されていなかったら・・・。
僕の心の中で母と良枝さんが何度も重なった・・・。母の未来の姿が良枝さん?・・・。そしてハタと気が付いてしまった・・・良枝さんも最初は被害者だったのではないかと・・・満司に無理やり犯されていたのではないかと・・・。僕は急いで鈴木貫太郎探偵事務所に電話を入れると担当探偵の及川さんに繋いでもらっていた。
「あの・・もしかして、良枝さんは・・・三好良枝さんは満司と結婚するときに、親戚筋と随分と揉めませんでしたか?」
「えっ・・・気が付いちゃったの・・・所長が見込んだだけあるね・・・でもな~・・・個人情報だからな~・・」
「これは僕の従叔父や従叔母の事でもあるので、聞く権利がありますよね?ぎり6親等ですよ」
「う~ん・・・そこをつかれると弱いな・・・」
ごそごそと、資料をあさる音が聞こえ始める。
「そう・・・その通りさ・・・大反対・・・それを君のお父さんの叔祖母・・・君の関係から言うと・・・あれ・・・遠縁過ぎてよく分からないけど・・・が丸く収めたらしい。それも曰(いわ)く付きさ・・・」
「その方が満司と肉体関係があった・・・てことですよね?」
「その通り・・・流石だね・・・呆れたことに満司は妻とその祖母、両方に肉体関係を持っていたんだ・・・君、本当に童貞かい?」
「なっ・・誰がそんなことを・・・」
「一応、所長の業務中の会話は全部モニターされているんだ。公園の会話はみんな知っているよ。こっちの女性職員での君の人気は鰻登りさ・・・」
僕は思わず絶句してしまう。ええっ・・・全部聞かれていた?一之介さん、やっぱり食えない人だ。せっかくカッコいいと思いかけていたのに・・・。
「それだけではないでしょ?親戚筋の反対の原因は、二人の馴れ初めが異常だったから・・・いわば加害者と被害者の関係だったからですよね」
「おいおい・・・君は千里眼かい?・・・そう、君の推理通りだ。そして、その関係は良枝・大叔母・満司の三角関係にとどまらない。手あたり次第・・・君の親戚筋の妙齢な女性達は多かれ少なかれ酷い目にあった上で財産をかなり吸い取られていたようだ・・・満司って男に・・・」
満司が母を犯し、しばらく家に留まっていた事を父に隠させたのはそのためだったのか・・・。すべてにおいて手馴れていてそつがない。良枝との事に味を占めていたのかもしれない。どっちにしろ、あいつの狡猾さや悪辣さは筋金入りだったってことか・・・。
「父はそのことを?」
「今回の一件で初めて知ったようだ。お父さんのお父さん・・・君のお爺様は本家筋じゃないから・・・あまり評判の良くない男・・っていうくらいの認識だっただろうな。もちろん、身内の恥を分家筋に知られたくなかった・・・ってのもあるだろう」
そうかもしれない・・・父はそう言ったことに人一倍疎いのだ。人が良い・・・と言えば聞こえがいいが、人間の悪の側面を知らなすぎる。本家筋が隠したとなればなおさらだ。胸がキリッと痛んだ。あの時、母さんに口止めされても、僕がちゃんと父に伝えておけば・・・。
「それにしては今回の・・・満司の行動は不可解ですね・・・いくらでも君のお父さんから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっ・・・何ですか・・・良く聞こえないんですが・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
電波が途絶えてしまったようだ。電話をかけ直そうと思って時計を見ると、もう塾が始まる直前だった。
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「もう・・・遅い!何やってんのよ!」
急いで塾の校舎に入ると、理系クラスの教室の前には、なぜかプンスカと膨れっ面の藤原綾乃が立っていた。
「これ・・・家で焼きすぎちゃったから・・よかったら後で食べて」
心なしか顔を赤らめているように見える。
「えっ・・・ああぁ・・ありがとう」
綾乃は押し付けるようにパステル調の可愛い紙袋を手渡すと、プィと文系クラスの教室に駆けて行ってしまった。渡された紙袋から甘く香ばしい香りが漂っている。クッキーのような洋菓子の焼けた匂い。どんなお菓子が入っているのだろう・・・と思っているところで始業のチャイムが鳴り始めた。
暁人は不可解な綾乃の行動の意味も分からず理系クラスの教室に急いで駆け込んでいた。
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「どうだった?ちゃんと渡せた?」
真っ赤な顔をして戻ってきた綾乃に向かって、隣席に座った佐藤陽菜が興味津々の顔で聞いてくる。
「うん」
だがその顔はあまり芳しくない結果を物語っている。
「何て言っていた?」
「えっ?」
「受け取った時。彼氏なんて言っていた?」
「焼きすぎたから上げるって・・言っちゃった・・・だから何も言わなかった」
「はぁ?あんなに苦労して作ったんだよ?あんた何言ってんの?」
「なんだか調子狂っちゃって・・・最近・・・あいつ・・ずっと居なくなっていたから」
「だったら早く告っちゃいなよ。暁人・・・割合とライバル多いよ。あんたがいるからみんな手を出さないだけだからね・・・」
「うん・・・」
暁人とは物心ついた時からの腐れ縁だった。小・中・高校と同じ学校に通っている。それが昨年度1年間、暁人は遠く離れた地方都市にある特別な高校に通うことになったのだ。SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)・・・未来の研究者や高度技術者を養成するために全国の優秀な高校生を集めて行われる1年間限定の特別講座を開講する国内留学制度だ。政府が鳴り物入りで設立した国内外から優秀な学生を集める特別な高校だった。全寮制で1年間みっちりと科学技術の教育プログラムが様々な実験・実習とともに24時間体制で実施される。秋月暁人は県内でも数名しか選ばれないそのSSHへの国内留学生に選ばれたのだ。その知らせを聞いた時、綾乃も自分の事のように嬉しかった。しかし、やがて寂しい現実に突き当たる。
(1年間も会えなくなる)
今までは、毎日当たり前のように会っていた。秋月家と藤原家の距離が近いせいもあり、同い年の一人っ子同士、兄妹のように家族ぐるみのお付き合いをしてきていた。互いの両親も仲が良く、4人の親に見守られて本当の兄妹のようだとよく言われた。旅行やキャンプ、買い物や着るものまで、制服を着るようになる中学まで一緒だった。小学3年生の時、母が癌で亡くなった時も暁人はずっと傍にいて、泣きじゃくる私を慰めてくれていた。それからは暁人のお母さんが・・唯子さんが・・綾乃のママになっていた。それ以来、暁人のママは綾乃にとって「唯ママ」になっていた。
そして・・・暁人がいなくなって・・・初めて気が付いた。暁人への思いが兄妹の様なものではないことに・・・。
(暁人はどう思っているのかしら?)
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(綾乃は何を考えているのだろう?)
授業が終わり改めて渡された紙袋の中を見てびっくりしていた。
(「あまりもの」などではない・・・)
紙袋の中にはきれいなリボンがかけられ小分けされた色とりどりのクッキーが入っていた。とても手の込んだ美味しそうなクッキーだった。多分、綾乃の手作りだ。そのリボンに「Happy Birthday ! Akito From A.F.」と書かれたメッセージカードが挟まっていた。
(僕の誕生日のこと覚えていたのか・・・でも、なんで余りものみたいなことを言ったのかな?)
残り物を押し付けられたのかと思い、生返事に近いお礼しか言っていない。酷く後悔していた。その日の授業は、あまりにも強烈な体験の後だったのでほとんど頭に入ってこなかった。良枝の顔と母の顔が何度もオーバーラップし、なぜかとても綾乃と会いたくなっていた。授業が終わって、文系クラスを覗いてみたがどうやら先に終わってしまったようで、綾乃と会う事はできなかった。理系クラスは、文系クラスに比べて授業時間も多く、最近は学校でもほとんど別行動になっていた。ただでさえ1年間会えなかったのに・・・。成績やスポーツは暁人の方が上だったが、彼女の芸術的な才能は群を抜いていた。そして彼女の清潔な正義感は、かつての母を思わせるようで、いつも清々しく暁人は好ましく感じていた。
そして暁人の1年間の国内留学は二人にとってお互いを考えるいい機会になっていた。母の事があったからかもしれない。そして、暁人は藤原綾乃の事を異性として意識していることを、初めて悟っていた。
そして、もう一度さっきの綾乃の様子を思い出していた。綾乃が気づく前に暁人は塾の教室の前にたたずむ綾乃の姿に気が付いていた。怒ったような様子をする直前・・・綾乃はそわそわと、あたりを控えめに伺うような、不安と期待の入り混じった表情を浮かべ、とても寂しそうだった。それが・・・暁人を見つけたとき一瞬で、安心したような、嬉しそうな表情を顔一面に浮かべていたのだ。そして急に、取り繕う様に怒っているような表情を浮かべ、ハニカミながらプレゼントを渡してくれた・・・。
(ちゃんと誕生日プレゼントって言ってくれればいいのに・・・)
暁人は、そのコロコロと変わる綾乃の豊かな表情が大好きだった。そして何より、顔一面に浮かぶ笑顔が宝物の様に感じられた。顔の作りは似ていないのに、なぜか表情が母に似ていた・・・。何を考えているかよく分からないことが多かったが、幼馴染の暁人には綾乃のちょっとした仕草や表情で綾乃の思いや雰囲気を感じることが出来た。1年以上合わなかったからだろうか、その直感は最近すれ違い気味だ。今日は授業が引けても暁人を待っているものと思っていた。あいつの事だから、すぐにまず一個食べろと迫り、感想を聞きたがるはずだ。そして「美味い」というまで許してくれない。それも心の底から言わないと、ずっと不愉快なのだ。暁人は小分けされたクッキーを一つまみすると口の中に放り込んでみた。
「うん・・・うまい」
その味はどことなく母さんの味に似ていた。甘さ控えめの素材重視・・・。母さんを思い出した途端に・・・現実に引き戻されてしまっていた。そろそろ約束の時間だ・・・・。そして急に思い至った。綾乃の寂しそうな顔があの時の寂しそうな母の顔と同じだったのだ・・・。
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