<あらすじ>
秋月暁人は母・唯子を三好満司に寝取られ、傷心の日々を送っていた。そんな暁人の目の前に唯子から頼まれたという謎の女性・山本洋子が現れ、暁人の心の傷を癒すため「大人のレッスン」を行うと宣言する。レッスンが進むにつれ、暁人は避けられない母の絶望的な未来を何とか変えたいと願う様になっていた。そんな中、満司の調教によって極限まで追い詰められた唯子は、ついには暁人の意中の人が藤原綾乃であることを漏らしてしまう。母の裏切りによって満司の魔の手が藤原綾乃に迫る中、山本洋子は次のステップとして父と対峙することを暁人に課すのであった。
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---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女https://novel18.syosetu.com/n0812ge/」からのゲストキャラ)
山本 洋魔子:山本洋子の別人格(ダークサイド)(オリジナルキャラ)
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
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駅から自宅まで歩く間、暁人はヒリヒリと痛む手の甲を摩りながら、香ばしいクッキーの香りに包まれて幸せな気分に浸っていた。綾乃のはにかんだような笑い顔を思い出していた。母の笑顔と同じだった。その母さんも確実に明るさを取り戻しているような気がした。以前の家族思いの母に戻りつつあるように感じていた。暖かな家庭が・・・つい一年前まで当たり前だと思っていた家族の団欒が・・・少しずつ戻ってきている。洋子さんの言っている事は心配のし過ぎで、単にワーストケースを強調しているだけにすぎない・・・そう感じ始めていた。。
このまま・・・このままいけば・・・もしかすると元に戻れるかもしれない。
母はやがて満司に飽き、あの忌まわしいショーに出る事など無くなると・・・。まだ幼い僕は、何も知らない僕は、淡い期待を込めてそう感じ始めていた。幸せは・・・家族は・・元に戻りつつあると。
久しぶりに幸せな気分に包まれながら、僕はボッっと藤原綾乃の事を考えていた。理系の僕と文系の彼女・・・大学が違ってしまう可能性が高かった。たとえ同じ大学に入れたとしても・・総合大学ではキャンパスが違ってきてしまう。
(今のうちに胸の内を・・・)
そう考えながら歩いているといつの間にか玄関の前まで来てしまっていた。
「只今~」
家の中は、母さんの手料理の匂いでいっぱいだった。なつかしい香り・・・。隠し味に大蒜を入れた唐揚げ、何日も前から煮込んでいる絶品のスープカレー、エスニックなバーニャカウダーの香り・・・どれも手の込んだものばかり・・・そして僕の好物ばかりだった。
「暁人、お帰り・・」
明るい母の声がそう答えてくれる・・・はずだった。
「お誕生日おめでとう」
にっこりと幸せそうな笑顔を向けてくれる人がいるはずだった・・・・。
だが、家の中はしんと静まりかえって何の反応もない。嫌な予感がよぎる。急いで居間に向かう。
「ああっ・・暁人か・・・お帰り」
居間の食卓では、父が一人でビールを飲んでいた。
「あれ?母さんは?」
「うん・・・ちょっと急用ができて・・・誕生会は明日にしよう・・・」
食卓の上には、唐揚げだけが乗っていた。500mlのビールの空き缶が父の手元に3本も転がっている。父にしては酒量が多かった。
「母さんの急用って?」
僕の怪訝な顔に赤ら顔の父が視線を外しながら答える。
「あれだ・・・あの・・・友達の付き添い・・・入院・・そう入院したらしんだ・・・」
「友達って誰?・・・どこの病院?」
「あっ・・・あれだ・・・その・・・えっと・・誰だったかな・・・・ええとっ・・・・」
「さっき電話した時は「まってる」って言っていたけど?」
「・・・か・・母さんと電話したのか?」
その時初めて気が付いた。綾乃にクッキーをもらってはしゃぎすぎ、母の様子まで気にかけていなかった。確かに様子が変だった・・・以前・・・同じようなことが・・・僕の電話に出た母の様子がおかしかった時のことを・・・思い出していた。満司の影がちらついた。
「母さんは今どこ?」
父が目をそらす。
「父さん!教えてくれ」
「・・・・・・・・」
「まっ・・・まさか・・・満司と・・・」
「・・・・・・・・」
洋子さんの言葉が、呪いのように頭の中を駆け巡る。
「お母様はもう、満司さんから離れられないことを自覚し、あなた達よりも強く満司を愛している事に目覚めてしまったのよ。きっと今は、あなたや、あなたのお父様よりも、満司さんの事を強く、心から愛してしまっているの。愛の対象はもうあなたや父様には向いていない」
僕が甘かった。このままいけばもしかすると元に戻れるかもしれない・・・そう思ったことを僕は恥じていた。僕はまだ子どもだった。
「・・・・・・・・」
父は俯いたまま何も言わない。僕も返す言葉が見つからなかった。気まずい沈黙が流れた。父は耐えられなくなったように、ビール缶をグィッとあおると飲みかけのビールを一気に飲み干していた。
「暁人・・・すまん・・・」
そう言ったきりだった。
『お父様と向き合いなさい』
洋子さんの声が聞こえたような気がした。なぜかその言葉がふと思い出された。多分、今がその時だ。でも、こんな状況で、何を、どう向き合えばいいのだろう。何を話せば・・・・その時・・・ふと疑問が浮かんだ・・・
「お父さん・・・お母さんと・・・なんで結婚したの?」
虚を突かれたからだろう・・・キョトンとした顔で父が僕を見返す。実はかなり不思議に思っていた。理系で、技術肌で、その上控えめで目立たない・・・女性にあまり縁のないタイプの父と、眉目秀麗、開放的で常にニコニコと明るく振舞っていて・・・学生時代は多分かなりモテていただろう母とでは、接点からして在りえない。
「あれ?言ってなかったかな・・お見合い結婚だよ。今の時代はそんなに多くないかもしれないけど、昔はよくあったんだ。」
「・・・・・・・」
一気に萎えた・・・。
そこに何か壮大な物語が有れば・・・大恋愛とか・・・親の反対とか・・・強力なライバルとか・・・何か父と母の特別な繋がりが・・・父と向き合える感動的な何かが有ると思ったのに。肩透かしだった・・・・。もっとも父が、目の前の優しそうな人が、ライバルを押しのけて、母の愛を勝ち得るほど世の中は甘くないだろう。
僕のガッカリした顔に気が付いたのだろう。父は懐かしそうな顔をしながら、ぽつりぽつりと付け足すように話し始めた。
「会ってすぐに思った・・・なんて清々しい女性なんだろうって・・・こんな清楚な印象の女性は初めてだった。お母さんの、おまえも知っている・・はにかむような笑顔・・・あれに参ってしまった。大恋愛でも何でもない・・」
僕の心の中で「清々しい」「清楚な」・・・その一言一言に、今の母の淫らな様子がフィードバックしはじめる。
「清楚な?・・・」
思わず聞き返していた。
「そうさ今でも変わらないな」
最初は、父は皮肉を言っているのだと思った。きっと僕は皮肉交じりな、苦笑いを向けていたに違いない。だが、父はのん気な顔でそう言い切ったのだ。
「えっ?」
「母さんは今でも謙虚なふるまいをし、慎ましい美しい身のこなしができる人だ。出しゃばったり自慢したりするようなことがなく、他人の話をよく聞き、いつでも学ぶ姿勢がある」
「そして・・うまくいかないときは「自分」を変えてしまう人なんだ」
「人は思い通りにならない時、他人を変えようとしたり、自分の望む方向に誘導しようとしがちだ。だが母さんは、他人の言動から学ぶ、尊重し、感謝する事を知っている。清々しく清楚な人なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
思わず父を見返していた。それは、・・・いや・・・だからこそ・・・
「だからこそ・・・満司に・・・あいつに・・・好きなように・・・お父さん・・それで良いの?・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
父は少し逡巡したようだったが、意を決したように話し始めていた。
「母さんがね・・・何で僕とのお見合いにOKをだしたのか教えてくれたことがあるんだ・・・母さんだったらもっといい条件の相手がいただろうに・・・」
「僕の運転していた車から降ろされたからだそうだ」
「はぁ?」
「初めてのデートの時だ。お父さんのために、友人が自動車を貸してくれたんだ。それもスポーツカー。マツダのロードスター・・・ライトスポーツモデルだ。急に雨が降ってきた。借りものだから幌を出すのに手間取ったが、あまり濡れないで出すことができた。さあ、走らせようとしたところに・・一人の老人が倒れていた・・あたりは降りしきる雨だ。急いで救急車を呼んだが、混雑で到着まで時間がかかると言われた。郊外の一本道で雨宿りするような建物は辺りに無かった。ツーシータだから、乗せるわけにもいかない・・・」
「まさか・・・デート中に母さんを降ろしてその老人を・・・」
「そう・・・流石のお母さんもプクッてふくれていたっけ・・・てっきり振られたと思っていたよ」
「病院に老人を届けて、急いで帰ってくると、可哀想に母さんは濡れネズミになって、その場でぶるぶる震えていた・・・・・・それで父さんを見つけると「ぱっ」って明るい笑顔を浮かべて、愁いなど何一つない笑顔で言ってくれたんだ・・・「お帰りなさい」って・」
そのとき・・・急に思い出した。同じ質問を母さんにしていたのだ。あの時・・・母さんは何て言っていたんだっけ・・・・
「頼もしい人だなと思ったの」
あの大好きなちょっとはにかんだ笑顔を浮かべて、確かそう言っていた。まさかこんな状況だったなんて・・・。こんな状況でまあ・・・何が頼もしいんだ?・・・。思い出せ・・・思いだせ・・・
「お父さんはね・・・人が不幸になるのが許せないの。ヒトの幸せを自分の幸せのように感じ、人の不幸を自分の不幸のように感じてしまう人なの。大きな器を持った強い人でなければできない・・・頼もしい人だと感じたの。大きな川の流れの様なゆったりした大きな人だって。ここでね・・・」
そう言って胸を押さえていた。竹箆を掴もうとしたとき、触れてしまった洋子さんの柔らかくて暖かい胸の感触が手に戻っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつの間にか僕も胸を押さえていた。お父さんに向き合う・・・それはやはり、隠し事が有ってはダメだ。きっと父は僕に対しても向き合ってくれる。そろそろ僕も本当のことを言うべきだ。
「僕は今、ある女性にレッスンを受けています。その女性は母さんから頼まれたと言っていました。多分、風俗関係で知り合った女性です」
怪訝な顔で僕を見返した父は「母さんから頼まれた」「風俗関係」と聞くに及んでその険しさの度合いを増していった。父の顔はもうほとんど酔っていないようだった。いや・・いくら飲んでも酔えない人のようだった。
「その女性から「大人のレッスン」を受けろと言われました」
「大人のレッスン?・・・」
「そう・・・レッスンを通じてその女性から、お母さんが一番苦しんでいると言われました。家庭の檻に入れられ、僕という根源的な苦しみを背負い、二重の苦しみを追っていると言われました」
「・・・・・・・・・・」
「父さん・・・母さんは自動車を降ろされているだけなんですよね?・・・」
「・・・・・・・・・・」
「その女性から言われたんです・・・「真実に向き合え」と・・・そして「お父さんに強い愛を思い出させろ」と・・・」
「本当の事を教えてください」
「この胸が・・・ざわつくんです。魂がずっと悲鳴を上げ続けているんです。今の母さんは幸せそうに見えない。SMショーに出演している時「幸せ」って叫んで知るけど・・・僕には地獄で叫んでいる様にしか聞こえませんでした。母さんは性のアリ地獄に落とされているだけです。そして、その始まりはお父さんに事実を伝えないときにはじまったんです。僕たちに本当の事が言えなくなった時に「アリ地獄」にはまったんです。僕は母に口止めをされて、その片棒を担いでしまった・・・」
「父さん、僕を車から降ろしてください。僕を信じて、僕にも立ち向かわせてください」
「本当の事を教えてください」
「・・・・・・・・・・」
いつの間にか・・・僕は洋子さんが置いていった竹箆をお守りの様にずっと握っていた。
「ヒントは契約書」
洋子さんのヒント・・・それはヒントなどではない・・・何を指すことなのか、何を意味することなのか僕もうすうす分かっていた・・・今まで聞くのが怖かっただけだった・・・洋子さんは僕を後押ししている。これを聞かなければきっと向き合う事などできないと・・・最後の鞭をくれたのだ。
「満司との契約書を見せてください。有るんですよね?」
<ピシッ>
僕は心の中で父さんの手の甲に竹箆を振るっていた。息子からの意外な一言に驚き、父さんはとても戸惑っているようだった。
「母さんには絶対に見せるなって言われている・・・もちろん私もそう思う・・・・・」
「契約書を見せてください」
<ピシッ>
竹箆を思わず強く握りしめてしまう。父の顔は困惑から苦悩の表情に変わっている。
「それでも君は見るべきだと思うんだね」
「見せてください」
<ピシッ>
ぎゅっと竹箆を握る掌に汗が滲み始める。父は苦しそうな表情に、寂しそうな表情を重ねていた。悩みながら、一言一言を噛んで含めるように話し始める。
「これを見れば・・・君は母親を乗り越えない限り闇に囚われる。大人になることとは・・・君が心の中の母親と決別することだ・・・親離れすることだ・・・大人のレッスン・・・これは私からだ・・・親離れとは君の心の中の母さんを殺すことだ!できるかね?」
「それで母さんが救われるなら。僕は心の中の母さんを殺します」
<ピシッ>
竹箆をお守りのようにして、僕はまっすぐ父を見返した。父の目が見開かれる。寂しそうな、苦しげで悲しそうな顔・・・父は最後の抵抗を試みるようにもう一つ聞き返した。
「君はこれから、人生の伴侶となる素晴らしい女性を見つけ、共に生きていかなければならない。その時、この契約書が・・・お母さんの痴態が・・・影を落とす。永久のトラウマになって君やパートナーに悪影響をもたらす」
「もう十分になっています。それを乗り越えるためにはきっとここで向き直っておかなければならない。僕の中の満司をしっかりと殺さなければいけない」
<ピシッ>
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「分かった。見せてあげよう」
そう言うと父は夫婦の寝室に向かって行った。
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〇本小説の登場人物のうち「山本洋子」に関しては以下のサイトで書かれている小説の登場人物になります。ご興味があればご一読ください。
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