<あらすじ>
秋月暁人は母・唯子を三好満司に寝取られ、傷心の日々を送っていた。そんな暁人の目の前に唯子から頼まれたという謎の女性・山本洋子が現れ、暁人の心の傷を癒すため「大人のレッスン」を行うと宣言する。レッスンが進むにつれ、暁人は避けられない母の絶望的な未来を何とか変えたいと願う様になっていた。そんな中、満司の調教によって極限まで追い詰められた唯子は、ついには暁人の意中の人が藤原綾乃であることを漏らしてしまう。母の裏切りによって満司の魔の手が藤原綾乃に迫る中、山本洋子は次のステップとして父と対峙することを暁人に課すのであった。
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---------登場人物---------
秋月 暁人:主人公
秋月 唯子:暁人の母
秋月 暁年:暁人の父
三好 満司:主人公の遠縁(父・暁年の母方の従祖母の孫娘の夫)
三好 聖満:満司の子
三好 良枝:満司の元妻
山本 洋子:謎の娼婦 (「廃神社の巫女https://novel18.syosetu.com/n0812ge/」からのゲストキャラ)
山本 洋魔子:山本洋子の別人格(ダークサイド)(オリジナルキャラ)
藤原 綾乃:暁人の片思いの人(実は両想い) (オリジナルキャラ)
鈴木一之介:鈴木貫太郎探偵事務所・所長・探偵 (オリジナルキャラ)
パタンジャリ・プールナーナンダ:ヨーガ修行僧 (オリジナルキャラ)
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「分かった。見せてあげよう」
そう言うと父は夫婦の寝室に向かって行った。
父が寝室から持ってきたのは木製の黒い漆塗りの手文庫だった。中には沢山の手紙や大事そうな書類が入っていた。その中に一通だけ異彩を放つ便箋が有った。何の飾りもない事務用便せんは、想い出が詰まっているだろう父と母の手文庫の中で、あまりにも簡素すぎてかえって目立っていた。汚いものでも扱うように、父は嫌悪感もあらわにその便箋を僕に渡してくれた。
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<夫婦奴隷契約書>
調教師 三好満司 ご主人様
私こと旧姓・秋月唯子は、マゾ性癖を持った変態であることを隠し、戸籍上の夫・秋月暁年を騙しながら偽りの結婚生活を送ってまいりました。此度、調教師でありご主人様である三好満司様にその性癖を見破られ、ご調教を頂いたことで、牝豚としての本来の自分を見出す事が出来ました。三好満司様に心からの感謝を捧げ、今後は真の妻として三好唯子と名乗り、ご主人様の性奴隷として忠誠をお誓い致します。これに伴い、戸籍上の夫・秋月暁年とともに、ご主人様である三好満司様に以下の契約を締結いたします。
記
一.秋月暁年の戸籍上の妻・秋月唯子は偽りの名前を捨て、今後は三好唯子と名乗ります。
二.三好唯子は三好満司様の所有物として性奴隷となり、身も心も捧げ、いかなる命令にも従います。もし命令に背いた場合はどのような罰を受けても構いません。
三.戸籍上の夫・秋月暁年は、三好満司様の所有物であり性奴隷である三好唯子に性的な要求をしません。もちろん今後二度とセックスは致しません。
四.戸籍上の夫・秋月暁年は、三好満司様の所有物であり性奴隷である三好唯子がどのような男性と付き合い、性的な関係を持っても一切干渉いたしません。
五.戸籍上の夫・秋月暁年は、三好唯子の所有者でありご主人様である三好満司様の許しがない限りに他の女性とお付き合いしたり、性的な関係を一切もちません。
六.秋月暁年・三好唯子は偽りの家庭を維持するため、上記契約に背かない限り、日常的な夫婦生活を許して頂きますが、三好満司様から呼び出しを受けた場合は常にご命令に従います。
七.秋月暁年・三好唯子は偽りの家庭を維持するための三好満司様からの特別な上記のご配慮に感謝し、月額**万円の感謝料をお納めいたします。
八.三好満司様の所有物であり性奴隷である三好唯子が妊娠した場合は、その子種が誰のモノであろうと戸籍上の夫・秋月暁人が必ず認知し、自分の子供として育てます。
九.もし上記、命令に背いた場合は土地・家屋を含む全財産を三好満司様に譲渡し、どのような罰を受けても構いません。
以上
戸籍上の夫・秋月暁年
戸籍上の妻・秋月唯子こと三好唯子
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あまりのバカバカしさに気が狂いそうだった。声を上げて笑いそうになった。だが、そこには父の名前の処に父の実印が・・・、引き延ばされたタラコのような朱色の二本の筋が三好唯子と書かれた字の上に押されていた。童貞である暁人が、その二本の朱色の筋が何であるかに気づくのにしばらく時間がかかった。
「こっ・・・これって・・・」
「そうだ・・・」
二本の朱色の筋・・・それは母の陰部が転写された・・・小陰唇の卑猥な形が転写された淫靡な刻印だった。暁人は後ほどそれが所謂「マン拓」と呼ばれるものだという事を知るが、その時は知る由もない。
怒りのため、思わず吐き気を催した。
「お父さん・・・これ・・・本気なの?」
そう言うのがやっとだった。
「もちろん、こんなものは何の法的な拘束力も無いただのたわごとだ。満司にとっては単なるアイテムだろう。だが、唯子や私には違う。唯子には目に見えない縄となって、彼女をマゾと言う変態性癖に閉じ込める檻だ。そして日常においても、常に非日常を意識させ、満司の見えない拘束を高め、セックス依存を起こさせる闇の光となっている」
「父さんにとっては何なの?」
「私にとっては、母さんを家庭に、この家に留めておく最後の希望だ・・・」
「もう一つあるよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕のためでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「分かっているなら、君は見なかったことにして忘れなさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「法的な拘束力はないんだよね・・・だったら破り捨てればいい」
<ピシッ>
父がはっとして、僕を改めて見直す。僕は自分を勇気づけるため洋子さんの竹箆をより強く握りしめている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「父さんができないなら、僕がやる」
<ヒュン・・>
空振りだった。便箋を握った僕の手を父が抑える。
「だめだ・・・」
父と睨み合ったのは、生まれて初めてだった。
「これは私たちの問題だ。やるときは私たちでやる。君のやることではない・・駄目だ」
「その女性が言っていたんだ!鞭打てと!これをしない限り、お父さんは・・・お母さんは・・・家族は・・・「本物」にはなれない」
「本物でなくても良い。唯子が壊れないように、お前が闇にとらわれないように・・・これが私の唯一の解答だ」
「そんなことはない。強い愛があれば・・・僕たちが正しければ・・・」
「お前は闇の恐ろしさを知らない!これを破った時、母さんはバランスを失う。私達だけでやってはいけない。やるなら母さんも一緒でなければならない。三人で立ち向かわなければ、魔は堰を切ったようにお母さんを呑み込んでいく。満司が・・・魂の暗部が・・・お母さんに攻め込んでくる。母さんが壊れ・・・闇に呑まれ・・悪に変わる・・・一人の人間では到底耐えられない。それはお前にも言えることだ!」
もみ合いになった。父と喧嘩するなんて初めての事だった。いや父さんが他人と喧嘩するのを見ること自体、生まれて2度目だった。母と満司の関係が発覚した日。父と満司と僕が殴り合いをやったあの日が頭をよぎった。あの日・・・母さんは何て言ったんだっけ・・・。
「もう・・母さんを手放したくないんだ・・あの日・・・父さんは母さんを待ってあげられなかった。まだ取り戻せたかもしれないお母さんを・・・その心を・・・あの瞬間・・・私は手放してしまったんだ!」
父はその場で俯き、悔しそうに背中を震わせている。やはり・・・父もあの日のことを思い出していたのだ。そして酷く後悔していたのだ・・・怒りに任せて・・・許容範囲を超えて・・・・母さんを最悪の男の委ねてしまったことに。そして・・・あの日、母が言っていた言葉を思い出していた。
「お願い・・・待って」
ようやく思い出した。母は僕たちに向かってそう哀願していたのだ・・・・。
「お願い・・・待って」
「ちくしょう!」
破ることができなかった・・・せいぜい床にたたきつける事しかできなかった。勢い余った僕の肘が手箱に当たり、中の手紙が床にこぼれ落ちた。
「あっ・・・」
僕が拾い上げようとするのを制して、父さんはその一つ一つを懐かしむように、慈しむ様に、こぼれ落ちた手紙を大事に拾い上げていった。
「これは母さんが初めてくれたラブレター・・・お見合いだって恋愛はできるんだ。出会いのきっかけなんてものはどうでもいいんだ。要はそれからなんだから・・・」
そう言って拾い集めた手紙をなつかしそうに読み始める。
「これは1泊2日の出張に行った時に送ってきた手紙だ。手紙がホテルに届いたときには父さんは家に帰っていた。父さんが読んだのはうちに転送されてきた後だ。メールでは伝わらない、手書きの良さが感じられる。文字の一つ一つに母さんの優しさや愛情が溢れている」
次に父が手にした手紙・・・その手紙は異様に分厚かった。
「この手紙は、最初に君を授かった時の感想がつづられている。これは、はじめて家族3人で旅行したとき・・・。父さんと母さんは日記のように、節目ごとにラブレターを互いに書いて送ったんだ・・・」
父の声が詰まり・・・手紙を束ねる手が止まる。
「ここにあるのが、本当の母さんだ。母さんの真心だ・・・そんなもの・・・破り捨てる価値もない」
さも汚いものでも見るように、父さんは奴隷契約書を横目で睨みつけていた。その文章を見るだけで目が汚れるかのように・・・僕も二度と見る気がしなくなっていた。ふと手箱を見ると、一番下に和紙で包まれた格別に立派な封筒が入っている。
「これは?」
「これは結婚誓約書だ・・・。僕たちは人前式の結婚式だったから。立会人の前でこの誓約書を読み上げたんだ」
「中を・・見させてもらって良いかな?」
「本当は、お前の嫁さんが決まったら、結婚の時が来たら見せてやろうと思ったのだが・・・いいだろう。この時の気持ちは、今も変わらない。きっと母さんもそうだろう。いいよ・・・私たちと向き合ってくれ」
きっと永遠の愛を誓うとか、一生幸せにするとか、明るい家庭を築いていく・・そんな事だろうと思った。
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誓いの言葉
本日、私たちは、ご列席くださった皆様の前で結婚の誓いをいたします。
私たちは
全ての人々と手をつなぎ、平和を求め
全ての生き物と絆を結び、これを慈しみ
豊かさを求め、豊かさに奢らず
幸せを求め、幸せに奢らず
絶えることのない、人間の命を生み育てることを誓います
未熟なふたりですが、これからも温かく見守っていただければ幸いです。
20○○年○月○日 新郎 秋月暁年、新婦 唯子
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何だこれ?政治家の所信表明演説か・・・どんだけすごい目標なんだ・・・二人の事なんか何も書いてないじゃないか?!僕はいつの間にか声を上げて笑っていた。こんなに心から笑ったのは久しぶりだった。
「どうだ・・・中々いいだろう・・・」
父も満足そうに笑っている。
「ああっ・・・お父さんとお母さんらしいや・・・」
そう思って初めて気が付いた。洋子さんの言っていた契約書って・・・こっちのことだったのかもしれない。
それから父と僕は、母との思い出話をいくつもしていた。手紙を読んで大笑いしながら、時にはしんみりしながら・・・
「うん・・・美味しい。確かに母さんと同じ味だ。きっと良い娘だな。味に虚飾がない。誠実に向き合っている。ああぁ・・綾乃ちゃんが作ったのか・・・えぇ?、もしかして君たち?・・ええええぇ」
綾乃からもらったクッキーを一緒に食べた。好きな人からもらったクッキーだと言って食べてもらった。
「もう2年前から母さんは気が付いていたよ。きっとレシピを教えたんじゃないかな・・・僕に隠れて・・・互いにメアドとかLineとか、携帯電話番号を知っているみたいだし・・・」
そして・・・夜が更けていった。けれど母さんはまだ戻ってこなかった。フト・・父が真顔で言った。
「ここにあるのが本当の母さんなんだ。この手紙の中に書かれている言葉こそ母さんの本心だ。母さんは君の心の中にある美しい母さんを汚されたくないんだ。満司によって歪められ、貶められた今の姿と重ねて欲しくないんだ・・・分かってやれ・・・」
「でも・・・」
「あの日・・・忌まわしいショーが終わった後・・・君が「おかえり」と母さんを迎え入れたあの時・・・母さん嬉しそうだっただろ?何でだかわかるか?」
「僕がいつもと変わらなかったから・・・形だけでも平和な家庭が維持できたから」
「違う・・母さんがうれしかったのは、君を見て・・・君の中にいる母さんが、君の中でまだ変わっていないと思ったからだ。君の心を汚さないで済んだと、心からホッとしていたんだ。身も心も満司に捧げていても、母さんはまだ君の事が心配なんだ」
「・・!!・・」
「母さんを追いつめた時・・・君が母親に嫌悪感しか抱けなくなった時・・・母さんは壊れてしまう・・・自分自身が許せなくなって・・・きっと生きていけなくなるだろう」
「そっ・・それって・・まさか・・・自殺・・・」
なぜか良枝さんの顔が浮かんでしまった。母さんの未来の姿・・・・。良枝さんは狂言自殺を図ったのではなく、もしかすると生きていたくなくなったのかもしれない。かといって、このまま満司に母さんを預けてしまっていれば不幸な結果しか待っていない・・・。
「・・・・・」
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だが、父の顔はまだ深く虚空を見つめている。僕の言葉に納得していない。
「もっと酷い事を覚悟しなければならない・・・」
父がポツリと言った。
「もっと酷い事?死ぬことよりも・・・?」
「そうだ、もっと酷い事もある・・・。母さんへの嫌悪感を完全に無くすには、母さんが自ら命を絶つだけでは足りない。私達が居なくならなければ、私たちの抱いた母さんへの嫌悪感はなくならない」
「何を言っているの父さん?」
「その時・・・母さんに残された道は二つしかない。私達家族全員の満司への奴隷化か、全員の死だ。嫌悪感を快感に変えるか、根底から無くしてしまうか・・・」
「そんな・・・母さんがそんな事をするはずがない。そうでしょ?あんな優しい母さんが」
「・・・・人間は誰でも魂の暗黒面を抱えている」
「・・・・・・・・」
「人間は誰でも魂に暗黒面を抱えている。完璧な人間などいない。だから良心がいつも試される。絶対的な正義なんかないんだ。常に考え、常に問い、常に試し、常に錯誤しながら、それでも良心を維持していかなければ人間は前に進めない。だが、満司のような男は、魂の暗黒面をわざと暴き立て、肥大化させ、増強していく」
「何で満司はそんな事を?」
「洋子さんから聞いたかもしれない。人間の体と心を捻じ曲げるのは簡単な事だと。容易に変えられてしまうと。人間の身体は弱い。その心はもっと弱い。調教師と呼ばれる輩はそれを強制的に行い、人間の心と身体を自分の都合の良いように捻じ曲げてしまう。彼らは対象者を肉欲の虜にし、SMの刺激を使って人間を自分好みに変えて行ってしまう。それをSMショーで見せるのは、その変えられてしまった人間こそが彼らの作品だからだ」
「そんな・・・人間が・・人間が作品だなんて・・・」
「もし、自分に変えられない部分が作品に有ったらどうする?簡単だ・・・取り除くほかない。だから、彼らは徹底的に魂の暗部を暴き立て、肥大化させて、自ら放棄し、捧げてしまう様に仕向ける。それが出来なければ、徹底的に良心を痛めつけて魂自体を無くさせてしまう」
「自分のエゴのために・・・人間にそんな事をして・・・そ・・そんな・・・」
「そうだ。どっちにしろ、魂を失った人間は抜け殻だ。自殺するか、操り人形になるしかない」
「でも・・・洋子さんは、満司にも愛があるって・・・」
「確かに、満司にとっても唯子は愛の対象だ。だが、彼は母さんの事を自分の所有物だとも言っている。歪な愛だと洋子さんは言ったらしいが、どこが歪なのかな?」
「そ・・・それは・・・奴隷とすることの比喩だと・・・思っていました」
「違う。本心だ。母さんは作品なんだ。彼の母さんへの愛は自分の作品に対する愛だ。けっして人間への愛などではない」
「そんな・・・そんなことがあって良いの・・・」
「彼の・・・いや・・彼らの目的はこの人間を変えること自体にある。「人間の魂からの解放」を訴えている」
「そんな・・・それが正義なの?・・・それを許していいの?」
「魂の暗黒面を利用する彼らが、その魂を取り去ることを希求し、魂の暗黒面を常に問題視する我々が、魂を大事にしようとしている。私には分からない・・・ただ・・・人間を信じている。人間の魂の暗黒面の本質は悪ではない。むしろ暗黒面は良心を試すための安全装置だとさえ思う」
「でも、とうさん・・・どうしたらいいの?・・・」
「母さんは・・・私たちのために・・・私たちの存在があるからこそ、母さんは自分の魂を失わずに済んでいる。大事にしている。だがもう限界だと思う。暗黒面に耐え兼ね、満司に魂を渡してしまう直前だ。操り人形になった唯子はやがてその牙を、私たちという存在そのものに向けてくるだろう。だが、それを恐れるな。それは唯子の良心のなせる業なのだ。立ち向かって、魂を奪い返すのみだ。それまで待つほかない・・・」
「ただ待つほかはないの?」
「君は正しく真っすぐにすっと伸びてきた。まだ人間の闇を知らなすぎる。お母さんと同じで純粋で無垢で清すぎる。その上聡明で、頭も良い。理性が常に本能に打ち勝っている。だから魂の暗部に触れていない。悪の誘惑の恐ろしさを知らない。早すぎる。君が魂の暗部に立ち向かうには人生経験がなさすぎる。ダークサイドに堕ちる可能性は、実は君の方にこそある。唯子よりも・・・」
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父はもっと先の、もっと悲惨な結論を見つめているような気がした。その父さんの顔は真剣で悲しそうだった。八方塞がりだった。どうしても父を説得できない。向き合えば向き合おう程、真実を知れば知る程、僕たちは何もできないことを痛感してしまう。満司という絶対的な悪の前では、善良なだけの僕たちはただ成すすべもなく蹂躙され続けるほかなないのだろうか。
「父に思い出させる「強い愛」ってこのことなのだろうか?」
分からなかった。でもきっと違う。なぜかそう思った。
<ピシッ>
手の甲がひりりと痛んだ。洋子さんの悲しそうな、それでいて苦しそうな、決然とした顔が目に浮かんだ。最後の希望は洋子さんしかいない。
「おとうさん・・その女性・・・レクチャーをしてくれている女性に会って欲しいんだ・・・その女性が、言っていたんだ。父さんに「強い愛」を思い出さられなかったら、連れて来いと」
「おいおい・・・なんだい「強い愛」って・・・娼婦の客引きを手伝うことになるだけだよ。うまく乗せられているだけじゃないのか?」
「あの人は多分そんなものじゃないと思う・・・」
「いや・・・遠慮しておくよ・・・むしろ君も合わないほうが良い。余計なトラブルに巻き込まれる可能性が高い。今は受験に専念しなさい」
確かに・・・洋子さんの行動は不可解なところが多い。服装や化粧、そして手首から覗いている刺青・・・絶対に堅気の人ではない。でも、あの人の目や、表情は慈愛に満ち、真剣に母さんや僕の事を何とかしようと・・・導いてくれようとしている。
「「一番愛していた人の恩人の息子が、あなただから・・・」って言っていたんだ。知ってるかな・・・父さんに恩義を感じている人の奥さん・・・山本洋子・・ていう人なんだけど・・・」
「な・・なんだって・・・洋子さん!山本洋子さんなのか!?」
「し・・知っているの?」
「知っているなんてもんじゃない。洋子さんはともかく、旦那さんの山本倭男君こそ・・・わが社の一子会社でしかなかったNP食品を世界的な企業に押し上げた立役者だ。とても優秀な技術者だった。遺伝子組み換えの分野ではノーベル賞級の発明を幾つもしている。彼がピンチに立たされそうになった時、何度かお世話をさせてもらったことがある。・・・それが半年前・・・奥さんとともに謎の失踪をしてしまったんだ・・・そうか・・・奥様の洋子さんか・・」
「・・・・でも・・・僕が会った洋子さんは・・・どう見ても・・・」
「ああっ・・・確かにおかしいな・・・そんな風なことになるような夫婦ではなかった。とても幸せそうで、互いに尊重しあい、愛し合っているのがよく分かった。絵にかいたような円満な夫婦だった・・・」
それは・・・僕の目から見れば秋月家と同じだった。父さんも母さんもそうだった・・・もしかすると・・・洋子さん夫婦も、同じような目に合っているのかもしれない。きっと父さんもそう思ったようだ。
「会ってみよう・・・いや・・会わなければならない・・・困っているなら・・・救ってあげなければ」
やっぱりこの人は、人の不幸を許せない人なのだ・・・父は自分の事を棚に上げて、洋子さんを何とかしてあげようと考えているのだ。
「ピンポーン」
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。
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「ピンポーン」
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。多分母さんが帰ってきたのだ・・・。もう深夜の1時を回っていた。終電で帰ってきたに違いない。ガチャリと鍵が開けられる音が聞こえる。父と思わず目配せをしていた。
(奴隷契約書を見せたことは黙っていてくれ・・・)
父は小声でそう言うと、急いで手文庫を寝室に戻しに行った。しかし、しばらくしても母は居間に現れなかった。おかしい・・・僕は急いで玄関に向かう。
「ほんとうにごめんなさい・・・暁人・・・」
玄関には土下座の体制で平伏している母さんの姿が有った。
「おかえりなさい・・・お母さん」
僕は思わずそう言っていた。母はまるで洋子さんのような格好をしていた。きっと洋子さんと出会っていなかったら、母への嫌悪感を募らせていたかもしれない。しかし、洋子さんを知った今、僕はその恰好の別の意味を知っている。
「あなたの誕生日祝いにだったのに・・・綾ちゃんの・・・・」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
母の身体からは洋子さんよりもはるかに強烈な獣の匂い・・・もし僕が童貞でなかったらそれが性交の名残の匂いであることをすぐに気が付いたかもしれない・・・を芬々(フンプン)と立ち昇らせていた。きっと満司の嫌がらせに違いなかった。
「もういいよ・・母さん・・もう‥謝らないで・・・」
母の目の焦点はぼんやりと定まらず、その目には涙が溢れている。僕は思わず母を抱きしめていた。
「綾ちゃんの・・・こと・・・あっ・・やっ・・・」
そう言ったキリ、母も僕の背中をきつく抱きしめ返してくれた。綾乃のプレゼントの事を嬉しく思ってくれているのだろう。
「ああっ・・綾乃も早く母さんに会いたがっていたよ。あいつには何も知らせていないから・・・実家の用事で、しばらく家にいなかったとだけしか伝えていないから・・・あとでプレゼントのクッキーを一緒に食べよう・・・」
「ああっ・・綾乃ちゃん・・・ごめんなさい・・・」
父が玄関に現れる事には、母もだいぶ落ち着きを取り戻したようだ。父に寄り掛かる様にバスルームに連れていかれると、1時間以上も入っていたらしい。僕は安心して自分の部屋に帰ると、いろいろな出来事が起こった長い一日にへとへとになり、倒れるように寝てしまった。
〇感想や何らかのコメントを頂くと嬉しいです。よろしくお願いします。
〇本小説の登場人物のうち「山本洋子」に関しては以下のサイトで書かれている小説の登場人物になります。ご興味があればご一読ください。
https://novel18.syosetu.com/n0812ge/