リーシャを抱いてから、あっという間に数日が経っていた。
ランガはすでに新たな剣の鍛造に入っていて、その間あなたは特にする事もない。
なのでこの数日、あの一夜の戦いで荒れてしまったお社の庭園の修復に努めていた。
リッチとリーシャの戦いによって地面に埋もれていた岩石までもが掘り返され、見る影もない様相となった庭園。ヒビは深く、そこかしこに砕けた岩が散乱し、小さな池は土に埋もれてどこに存在していたかも分からない。
これを元の庭園に戻すとなると、はてしない重労働に思える。とてもあなた一人の手には負えないだろう。
だが幸いにも、お社の惨状を直すためにホムラの国の人々が日夜手伝いに来てくれていた。
またあなたも、かつてしもべにしたピクシーたちを呼び出し、協力してもらっていた。
ピクシーたちは戦闘は苦手だが、こういった作業は得意なようだ。荒れていた庭園も日々が経つにつれ、元の美しさを復元しつつあった。
あなた自身も庭園の復元作業に従事し、今は地面に走るヒビを無くすため、土をかぶせる作業を行っていた。
そんな地味な作業をしているあなたの背後に、そっと人影が忍び寄る。
人影はあなたの隙を探るようにしばし息を潜めた後、一気呵成に飛びかかってきた。
「覚悟しろ、勇者よ!」
高らかに叫びながら、その手に持つ大盾によるバッシュで背後から急襲する者。ビキニアーマーを身に着けた美しいその姿は、まさしくパラディンであった。
だがあなたは隙を突かれていながらも、ひらりと身を翻してバッシュを避ける。攻撃をかわすついでにパラディンに足を引っかけておく余裕もあった。
「ぐわぁっ!」
パラディンはそんな大げさな声を出して派手に転んだ。そしてあなたに強気な目線を向ける。
「くっ……見事だ勇者よ。どうやら私の負けのようだな……さあ、私を犯せっ!」
わずかに沈黙が訪れる。パラディンは少し目を泳がせながら、ゆっくり立ち上がった。
「うーん……やはり違うな。もっとこう、限界まで追い詰められたうえで、『犯したいなら犯せばいいっ! だが私の意思までは屈しないぞ!』というようなシチュでないと……」
「あなた、面倒くさい人ね」
ぶつくさと言うパラディンに、冷たい声が投げかけられる。リーシャだ。魔王の呪いが解けた彼女は、自らのせいで荒れた庭園を直すべく、ここ数日あなたと同じように庭園の修復作業を行っていたのだ。
「面倒くさいとはなんだ! いいか、私とて一人の乙女だ。魔王様の呪いを解呪するため、勇者に犯されるのは受け入れよう。だが、ならばせめて理想のシチュエーションで犯されたいと思うのは普通だろう!?」
「それは、まあ……分からないでもないけど」
つい数日前のあなたとの情事を思い出したのか、リーシャは少し頬を染める。
「でも、あなたの場合ちょっと特殊なのよ」
呆れたようにため息をつくリーシャに続き、あなたも頷いた。
そう、パラディンは今、少々面倒くさい。
リーシャを犯して一晩一緒に過ごした後、あなたは当然パラディンも犯して魔王の呪いを解こうとした。
するとパラディンは、敗北したのだから犯されるのは構わない、しかしできれば私の望むシチュエーションでして欲しい、と訴えてきて、その熱意に押されたあなたはそれを受け入れてしまっていたのだ。
そしてパラディンは今日にいたるまで、理想のシチュエーションを求めて苦心していたのだ。先ほどあなたに攻撃を仕掛けてきたのもその一環らしい。
パラディンは、若干厄介な性癖を持っていた。
彼女は……まさかのマゾだったのだ。それも自分の望むように責められたいという、わがままな方の。
「だいたい何なの? その、犯されたくないけど犯されたい、みたいな妙な性癖」
「ふん、リーシャは全く分かってないな。しかたない、教えてやろう」
「あなたの奇妙な頭の中味を理解したいとは思ってないけど」
「いいか、私のような地位と誇りのあるナイトはだな、絶対に負けられない戦いに己の誇りをかけて全力で戦い、その結果敗北。体と誇りを共に汚され、最後には快楽に屈する……というのが古来より定められた王道シチュエーションなのだ」
言いながらゾクゾクと体を震わせるパラディンに、リーシャは白い目を向けていた。
「病気よ病気」
リーシャの冷たい言葉を聞いてないのか、パラディンは続ける。
「しかしだな、もはや私では勇者とまともな勝負にならないのは明白。さっき確信したのだが、それだけ実力差がついていると……負けても燃えないのだ。困ったな」
「困ってるのはあなたの妙な性癖に付き合わされている方よ」
リーシャの指摘に深々と頷くあなた。本当に困った。リーシャのように分かりやすいシチュエーションならば話は早いのに。
「結局、あなたはどうされたいのよ」
「……それをはっきり言わせる気か?」
「私だって聞きたい訳じゃないけど……協力できる可能性もあるでしょう?」
「……ふむ、なるほど」
パラディンは考え込むように顎に手を当てた。
「そうだな……やはり、そう、嫌だけど感じてしまうというのが良い。先ほど言ったシチュエーションも、感じるなどありえないのに感じてしまい、ついに誇りが快楽に屈する、というのが魅力的なのだ」
「何聞かされてるのかしら、私。でも、そうね、そういう感じなら、何らかの魔法で実現できるんじゃないかしら」
リーシャは腰にさげていたポーチを開き、中から一冊の本を取り出した。
あなたも見覚えのある禍々しい装丁の本は、間違いない、ファリシアが以前からリーシャに貸しているミスコリデ変異書だ。
リーシャはパラパラと本をめくりながら、あなたへちらっと視線をうつす。
「呪いは解けたけど、この本ずっと借りっぱなしなのよね。返す機会が無いから当たり前なんだけど……まあ、返して欲しかったら魔王様の方からやってくるでしょ。それまで活用させてもらうわ」
もちろん悪用はしないけどね、とイタズラっぽく笑う。
「で、このミスコリデ変異書には闇の魔法、それも呪いに類する魔法が多く記載されているわ。魔王様が私たちにかけた呪い、カース・テスタメントからも分かるように、呪いは本人の意思とは無関係に作用する効果が多いの」
「……つまりどういうことだ? 私は魔法の事はさっぱり分からん」
「ようするに、あなたが言ってた嫌なのに感じてしまう、ってシチュエーションを実現するような呪いも探せばあるかもしれないって事よ」
「なるほどな、それはいい。もし勇者の事を心底嫌えるような呪いがあれば、一発で解決だなっ。勇者の事を心の底から軽蔑できれば、強引に犯されるだけで私の望むシチュエーションは完成だ!」
「……本当、あなたの頭の中って理解できないわ」
本をめくるリーシャの目はやがて、一つのページに止まる。
「これは……うん、結構いいかもね。この呪い」
「なんだ? 何か見つけたのか?」
パラディンが覗き込もうとすると、リーシャはとっさに本を閉じた。
「ダメよ、呪いの内容を知ったら心の準備をしちゃうでしょ。どんな呪いをかけられたか分からない方が、あなたも興奮するんじゃない?」
「……確かにそうだな。ふっ、リーシャもマゾの心が分かってきたようじゃないか」
「やめてよ……」
リーシャは頭痛に襲われたかのように頭を抑える。
「じゃあ私、魔法を発動できるよう集中してくるわ。人間だと魔物娘とは違って、魔法を使うのに時間がかかるのよね。しかもこれほど高度な魔法になると大変だわ。多分夜までには呪いをかけられると思うわよ」
「そうか。期待しているぞ、リーシャ」
あなたも期待しているとリーシャに伝える。これが上手くいけば、パラディンの理想のシチュエーション探しにこれ以上付き合わされる必要もなくなるのだ。
それに、リーシャがかけた呪いによって、パラディンとどのようなセックスができるかも興味があった。
あなたとパラディン二人の期待を背負ったリーシャは、ため息をつきつつ庭園から縁側へとあがった。
「じゃあ、パラディンは私の代わりに庭園の修復作業しておいて」
「ああ、力仕事は任せろ。お前は私の最高のシチュエーションのために呪いをがんばれ!」
パラディンの期待に満ちた瞳を受け止め、リーシャはまた深くため息をついた。それもすごく肩を落として。
「本当変な人……」
そう言い残し、リーシャは去っていく。おそらく客間で一人、魔法を使う集中をするつもりなのだろう。
そうして残されたあなたとパラディンは、一瞬視線をかわす。
「……で、私はなにをすればいいのだ?」
いまだ魔王の呪いが解けていないパラディンと、荒れた庭園を直す作業を行う。
それは今まであなたが過ごした時間の中で、一番変な物だった。