※この作品はR-18です。

ツゴウノイイファンタジー   作:アーチ/arech

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11、リッチ討伐1

 夕方に目を覚ましたあなたは、軽く運動をして体をほぐした後、身支度を整え港の一角へとやってきた。

 ここは昨日、リッチと戦うためにあなたが探し当てた場所だ。夕日が水平線を彩り、黄昏た雰囲気がどこか物悲しい。

 

 あなたはひとまず、ここへ向かう途中で購入した弁当を食べることにした。日が沈み本格的な夜が訪れればリッチがやってくる。今のうちに食事を行い、ステータス補正を得るべきだ。

 冷えていても美味しい料理ばかり詰め込まれた弁当は、あなたの舌を楽しませてくれる。しかし、強敵との戦いを前にした今、どこか味気なく感じてしまう。

 

 あなたが弁当をたいらげた頃には、日はほとんど沈み夜が訪れようとしていた。あなたは剣を抜き、数度素振りをおこなう。素振りを終えた頃には、日は完全に沈んでいた。

 するとこの一帯にあったわずかな光が徐々に失われていく。夜が訪れたにしても尋常ではない暗さだ。おそらくリッチが得意だという光払いの結界が働いたのだろう。

 

「ほう、どうやら今日は私と戦うつもりのようだな、勇者よ」

 

 港の一角に通じる道から、音も気配もなくリッチがやってきた。あなたは緊張から思わず生唾を飲み込む。

 リッチはあなたの覚悟した様子を見て、目を細めた。

 

「気に食わない目をしているな。私に勝とうとする勇者らしい目だ。……何か策でも考えたようだが、勇者よ、私に勝つなど不可能だぞ」

 

 リッチは不敵に笑い、見せつけるように軽く片足をあげた。

 

「見ろ! 初めて会った時のように滑らないよう、今回はブーツを新調してきたのだ! あの時はお気に入りの使いこんだブーツだったから靴底がすり減っていてあんなことになったが、これでもう滑ることはない! さらに!」

 

 あなたが何か言う前に、リッチは続けて言葉を畳みかける。

 

「前はロングスカートのせいで足がもつれることがあったが、今回はミニスカートだ! ミニは足が冷えて好きじゃないからあまり着けたくないのだが、私もお前に勝とうと万全を尽くしてきたぞ! 以前より多少レベルが上がっているようだが、今日の私は万全を期した絶好調! もはや貴様に勝てる道理はない!」

 

 びしっとあなたを指さして、リッチは高らかな勝利宣言を行った。

 おそらくこのリッチは性格上、調子に乗ると失敗するタイプのように思える。なのであなたはあえてリッチの言葉を肯定も否定もしなかった。

 代わりにすでに抜いていた剣をリッチに突きつける。するとリッチは失笑をもらした。

 

「なんだその剣は? くくくく、刀身がべたついているではないか! そんななまくらで私を斬れるとでも……」

 

 リッチが喋っている途中で、あなたは突然剣を振り上げ地面に叩きつける。金切り声にも似た耳に痛い音が響き、リッチは身を竦めた。

 あなたはそんなリッチに構わず、再度地面に剣を叩きつけた。

 

「な、なんだ? 何をしている……?」

 

 突然の奇行を目の当たりにして、リッチは呆気にとられていた。

 

「お、おい、大丈夫か? ……どうしよう、怖がらせすぎて勇者の頭が変になってしまった……」

 

 無論あなたの頭は正常だ。何度も何度も剣を地面に叩きつけて、ようやく暗闇をほのかに明るくさせる火花が散った。

 するとその火花があなたの刀身に付着した油に当たり、一気に燃え広がる。今あなたの剣は、刀身に火を纏わせていた。

 

「な、なにぃっ!?」

 

 リッチの結界によって光が全くなった空間に、火の光が生み出された。リッチは驚愕から一歩後ずさる。

 そう、刀身が油でぬるぬるしているというエンチャント効果は、こうして外的要因で発火させることができる。リッチに効果的な炎を纏った剣はとてもレアなものだが、簡易的に作り出すことに成功した。

 

 今回港近くの湿気た地面だったため火花が思うように出なかったが、ともかくあなたの第一の策はひとまず成功だろう。その証拠に、リッチは苦しげに息を乱している。

 

「まさか……炎の剣だと!? おのれ、私の弱点を把握していたか……!」

 

 先ほどまでの余裕がなくなったリッチは、すでに臨戦態勢に入っていた。彼女の周りに濃い暗闇が集まり、それがゆらゆらと蠢いている。

 リッチはこの暗闇を利用して強力な攻撃をしかけるのが得意だ。しかし、闇を利用した魔法は光の中では弱体化する性質がある。

 リッチの周りに集まる暗闇は、火に照らされて以前ほどのまがまがしい気配が幾分おさまっていた。

 

 とはいえ、リッチのレベルはまだまだあなたよりはるかに上だ。炎の剣でリッチと彼女が操る暗闇を多少光で照らしたとはいえ、地力はあちらが上。まともに戦ってはまず勝てないだろう。

 リッチは冷静にそのことを把握していた。しかし地力が上でも、戦いを妙に長引かせるとあの炎の剣によりこちらが負ける可能性もある。そう判断した彼女は、全力の攻撃を仕掛けるつもりだ。

 

「一撃で仕留めてやるぞ勇者よ! 喰らえ! 我が闇を……あだぁっ!?」

 

 リッチがあなたに指先を向け、凝縮した暗闇を殺到させる。その瞬間、空から火の玉がふってきてリッチの背中に直撃した。

 

「い、今のは炎の魔法……? いったいどこから……?」

 

 突然の奇襲に混乱したリッチは、きょろきょろと辺りを見回した。そして視線が空に向かうと、彼女は驚愕に顔を歪めた。

 暗闇に彩られる空から、火の玉が次々とこちらに向かってふり注いできたのだ。

 

「な、な、な、なんだこれはぁっ!」

 

 あっという間にあなたとリッチは炎の雨に包まれた。

 これもあなたの策である。炎の魔法、ファイアーボール。これは手の平より小さい炎を生み出して撃ちだすという簡単な魔法であり、魔法使いではない一般人でも訓練しだいで使える様になる初級魔法である。

 

 あなたは昨日、酒場の冒険者たちに対リッチ用の策を伝えて協力を要請していた。

 ファイアーボールを使える魔法使いと訓練しだいで使えそうな冒険者たちに、この町で一番高い教会の上から港の一角に向かって何度も撃ちこんでもらい、リッチを弱体化させる。それがあなたの策だ。

 

 魔法使いやその他冒険者たちと共にリッチと戦うということも考えたのだが、港町に常駐する並みの冒険者にリッチと直接相対する実力はない。魔法を使う前に簡単に蹴散らされてしまうだろう。しかしこうして遠距離から魔法を撃ちこめば、リッチは為すすべないのだ。

 

 港の一角とはいえ、遠距離から正確に狙いをつけるには目印が必要である。今炎を纏うあなたの剣は、対リッチ用の武器でもあり暗闇に映える目印でもあった。

 冒険者たちはあなたの協力要請に応え、あなたの剣が炎を纏ったのを合図にしてファイアーボールを次々撃ちこんでくる。

 いかんせん一般人でも使える初級の魔法ということで、一発一発のダメージはそんなに高くはない。しかし炎の魔法と言うことでリッチを弱体化させることは可能である。

 

 ファイアーボールを一撃食らわせた所でリッチの弱体化は微々たるもの。しかしそれが雨のように降り注げば話しは別だ。いかにリッチといえど弱体化が積み重なっていくだろう。

 そして事実、リッチは炎の雨に打たれて苦しそうにしていた。

 

「き、貴様……! なんてひどいことを考え付く! じ、自分もダメージを喰らうというのに、こんなめちゃくちゃな策を!」

 

 追い詰められたリッチはあなたに攻撃をしかけて来た。リッチの周りを漂う暗闇があなたに向かってくる。

 しかしそれは炎の雨とその光に照らされ、威力が大きく減退していた。あなたはここが好機ととらえ、リッチにカウンターをしかけた。

 あなたはリッチ目がけて剣を振り下ろす。同時にリッチの暗黒魔法があなたに直撃していた。

 

「ぐうぅぅっ!」

 

 リッチのうめく声が聞こえる。あなたの炎の剣による一撃は、リッチに大ダメージを与えたようだ。

 しかしあなたもかなり大きなダメージをくらっていた。威力は減退しているが、もともとのレベルと攻撃力の高さはやはり侮れない。

 今のような一撃をもう一度くらえば敗北する。しかし、もう一度リッチに攻撃をくらわせれば、勝つのはあなただ。

 

 あなたは畳みかけるように果敢に攻撃をしかけた。全力の斬り下ろしをリッチ目がけて放つ。

 

「わ、私を舐めるなよ!」

 

 リッチは暗闇をまるで剣のような形に凝縮し、それを握ってあなたの一撃を食い止めた。

 鍔ぜりあうような形になり、リッチがにやりと笑う。

 

「勝負あったな勇者よ! この体勢でも私は暗黒魔法を使えるぞ!」

 

 リッチはその体に集う暗闇を全て剣にしたのではなく、あなたを倒せるほどの威力を持つ暗黒魔法を放てる余裕を残していたらしい。

 リッチの足元から闇が噴き出す。それは獰猛にあなたの体を撃ち抜こうと向かってきた。

 しかし、あなたにもこの体勢で使える一つの魔法があった。

 それは契約した魔物娘を呼び出す召喚魔法。ネコマタの召喚である。

 リッチの背後に眩い光が発生し、それと共にネコマタがあらわれる。

 

「なっ……!?」

 

 突然背後にあらわれた気配に驚いたリッチ。しかし彼女が背後を見ることはかなわない。

 ネコマタは召喚されると同時に右手を引いて、魔法を使う体勢に入っていた。目の前のリッチの姿を確認した彼女は、迷うことなく魔法を発動する。

 

「落雷をくらいな!」

 

 リッチの頭上から雷が落ちる。それは直撃したものを痺れさせる落雷の魔法。

 これがあなたが最後に用意した策である。召喚すると同時に落雷の魔法を撃って欲しいとネコマタにお願いしていたのだ。

 

「あ……そ、そんな……!」

 

 落雷をくらって体が痺れたリッチは集中力を乱し、操っていた暗闇が霧散した。

 今、リッチはどうしようもなく無防備である。

 あなたは勝負を決定づける一撃を放った。

 

「こ、この私が……負けるだとぉ……!?」

 

 リッチは迫りくる炎の剣を前にして、悔しげにうめくことしかできなかった。

 あなたの一撃がリッチをとらえる。その一撃はリッチの体力を全て奪い、あなたは勝利を納めた。

 

 はるか格上である強敵との戦い。それを制したあなたは、勝利の余韻を味わうよりも、ここまであなたを苦しめたリッチを一刻も早く辱め屈服させたい気持ちでいっぱいだった。

 あなたは体力を失って悔しげな表情をするリッチの体に手を伸ばした。

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