※この作品はR-18です。

ツゴウノイイファンタジー   作:アーチ/arech

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111、聖都カテドラル

 聖都カテドラル。そこは女神への信仰が最も厚く、女神を称える大聖堂を中心にした国だった。

 住まう人々の実に九割以上が女神を深く信仰していた敬虔な地は、だがかつて昔の話。

 

 ファリシアが女神を封印し、女神の影響力が途絶えて長い現在、かつての聖都は今や見る影もない。

 女神の存在は失われ、彼女の事を忘れ去ってしまった人々は徐々に聖都から離れ、散り散りになったと言う。

 かつての聖都は風雨に晒されて崩れ去り、今や廃墟と化していた。

 

 故郷を出発したあなたがこの聖都に到着したのは、昼を少し過ぎたくらいだった。

 長時間歩き続けていたが、体調は悪くない。この世界の人々を抱いてレベルを極限まで上げ、更にランガと共に鍛錬をして鍛え上げた肉体は、この程度の労苦をものともしないのだ。

 

 これならば魔王ファリシアと戦うに当たって、何ら問題はないだろう。

 だが、肝心のファリシアの姿はどこにもない。ここに滞在しているとの事だったが、今も彼女がここを根城にしているかは分からない。

 それでも、あの魔王の事だ。あなたがここに居る事を察してやってくるのに、そう長い時間はかからないだろう。

 

 あなたは人の気配が一つもしないかつての聖都に踏み込み、当てもなく歩いてみた。

 崩れ去った建物が続き、大聖堂だったらしい廃墟後を発見する。

 

 風化しつつある廃墟は、わずかな風にさらわれてゆっくりと消え去っていくのだ。それが女神の威光を失ったこの国の現在である。

 ここが、あなたの終着点。物悲しい光景は、しかし魔王を倒す旅の終わりとしてはある意味相応しいのかもしれない。

 

「……ここがなぜ聖都と呼ばれていたか知っていますか?」

 

 背後から響いた声に驚き、あなたは振り向いた。その声音は聞き間違いようがない。あの魔王の物だ。

 はたして、いつからそこにいたのか、魔王ファリシアは廃墟の中でぽつんと物寂しげに立ちすくんでいた。

 彼女はわずかに首を上げ、空を眺める。

 

「かつてここには、神界の階段が降りていたのです。神界とは女神が座する場であり、そこから地上へと降りる階段はすなわち、神界と地上を繋ぐ道。神界に続く階段から流れ込む強力な神気はこの地を満たし、住まう人々を最も敬虔な信徒にさせたのです」

 

 ……。あなたは無言を返した。

 あなたがここに来たのは魔王ファリシアを倒すためであり、彼女もそれを知っている。世間話に付き合う道理はないのだ。

 しかしあなたの反応など最初から期待していなかったのか、ファリシアは言葉を続ける。

 

「女神とは、この世界の管理者。この世界における運命という名の結果は、彼女が定めるもの。そう、この世界においてすでに結果とは定められ、抗うことができない……それでも、私はただ運命に従うのは好みません」

 

 空を眺めていたファリシアが、ようやくあなたを見た。彼女はなぜか、嬉しげに微笑している。

 

「よくぞそこまで強くなりました。今のあなたが相手なら、私も全力で戦わなければ危険そうですね。では、いつでもどうぞ。先手は譲ってあげますよ」

 

 戯れるような声音に、あなたは少しばかり動揺する。

 ファリシアからは戦意がいっさい感じられない。事ここに至って、いまだあなたを敵とみなしていないかのようだ。

 だが、うろたえているわけにはいかない。彼女が心身共に隙だらけというのなら、それはこの上ない好機でもある。

 

 あなたは迷わず行動を選択した。この場に魔物娘を召喚するのである。

 当然、この状況で呼び出す魔物娘は決まっている。

 あなたの目の前に三つの光が眩く輝き、その中から魔物娘がゆっくりと現れる。

 

 一人は周囲に灼熱を宿し、炎でできた際どい衣服で肌をかろうじて隠す魔物娘。火竜グリュイエール。

 一人は強大な風を身に纏い、スリット入りのロングスカートをひらりと舞わせる魔物娘。ダークフェアリー、アルメリア。

 そして最後の一人。幼い肢体に額から生えた二本角。背には身の丈ほどもある刀を背負ったオーガの魔物娘、ランガ。

 

 かつて魔界の覇を争い、そしてファリシアの前に敗れ去った魔物娘たち。

 ファリシアと戦うにあたって、これほど相応しく心強い魔物娘は他にはいない。

 

「ファリシアよ、まずは妾たちが相手をしてやろう」

「勇者が出るまでもないわ。あなたを倒すのはこの私よ」

「……我らにとって何よりの宿敵はお主じゃ。勇者と戦いたくば、まずは儂らを退けてみせよ」

 

 彼女たちからしても、ファリシアに一矢報いるのは切望してやまないことである。かつてないほどに戦意に満ちていた。

 だがファリシアは、そんな三人を見て小さくため息をついた。

 

「やれやれ……ここに及んであなたたちが相手をするというのですか。まあ、楽しみを最後に取っておくというのも悪くありません。いいでしょう。そう長くかかりませんし、あなた方の気が済むまで付き合ってあげますよ」

 

 グリュイエールたちの顔色が変わる。彼女たちを明らかに軽視するファリシアの物言いに、激昂を覚えたのだ。

 しかし彼女たちは憎々しげに歯を剥くだけで、激情にかられるまま特攻などはしなかった。

 

 彼女たちとて知っている。ファリシアには勝てない。あの魔術、暗黒天体・魔性星を前にして、魔物娘に抗う術はないのだ。

 なぜならば魔性星は周囲の魔力を奪い、破壊現象を引き起こす魔術。魔力を糧に力を発揮する魔物娘にとっては致命的な魔術となる。

 

 ゆえにファリシアは魔王なのだ。魔物娘の王にして、魔力を統べる王。どのような魔物娘も決して彼女に勝つことはできない。

 それが分かっていてなお、あなたは彼女たちをここに召喚していた。

 

 剣が完成した後、ホムラの国を出発するまでのわずかな間に、あなたは魔物娘たちと共に対ファリシアの作戦を練っていたのだ。

 そう、これは全て策のうち。グリュイエールたちも全てを承知の上での戦いである。

 

 忘れてはならない。あなたは魔物娘たちをしもべとし、彼女たちの力を借りてここまでやってきた。

 勇者としての最後の戦いもまた、彼女たちと共に戦い、その力を貸してもらおう。そして勝利しよう。

 

「アルメリア、ランガ、行くぞ」

 

 グリュイエールの号令をもって、魔物娘三人はファリシア目がけて駆ける。

 最後の戦いはついに始まった。今あなたにできることは、彼女たちを信じることだけである。

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