※この作品はR-18です。

ツゴウノイイファンタジー   作:アーチ/arech

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114、魔女の剣

 斬った。確かな手ごたえをあなたは抱いていた。

 剣に込められた魔物娘たちの魔力を完全解放して斬り下ろしと共に放つ、フォルティアロクス。あなたのこれまでの軌跡が生み出した一剣は、魔性星もろともファリシアを斬り裂いた。

 

 魔力障壁すらを突破した一撃は魔性星を崩壊させ、それによる魔力暴走の破壊現象にファリシアの姿は飲みこまれる。

 赤黒い魔力が渦巻き、大聖堂の廃墟が見る間に破壊されていく。あなたの居る場所までは影響がないが、肌を震わす魔力の波濤を感じていた。まさに圧巻の威力である。

 

 グリュイエール、アルメリア、ランガの三人もまた、ファリシアと共にこの崩壊現象に巻き込まれていた。彼女たちの気配はもうここにはない。すでに限界だった体力が尽きて、召喚が解除されたのだろう。

 

 終わった。あなたは勝利の確信をその手に抱く。フォルティアロクスの一撃に加え、この魔力暴走による崩壊現象に飲みこまれては、ファリシアも無事では済むまい。勝ったのはあなたなのだ。

 これで、勇者であるあなたの役目も終わりだ。魔王ファリシアを倒し、あなたの物語は終わりを告げる……。

 

 そんな感慨にふけっていたあなたは、魔力暴走が収まるにつれて視界が晴れていく中、徐々に表情をひきつらせていった。

 暴走していた魔力が完全に霧散し、破壊され尽くした廃墟が粉塵となって漂う。その中で、あなたは人影を見たのだ。

 

 緩やかな風にさらわれて、ゆっくりと煙が晴れていく。人影の輪郭が次第にはっきりとしていき、やがてそれは完全にあなたの目に晒された。

 小柄な体躯にハーフパンツを着用した、どことなくボーイッシュなその姿。後頭部で纏め上げた美しい金髪はほどけ、艶やかな長髪が風に流れている。

 

 黄金色の瞳が輝く魔王ファリシアが、今なお静かに佇んでいたのだ。まるで、周囲の時が止まったかのようだ。

 

 唖然とするあなたは、我知らず一歩退いた。

 なぜまだ平然と立っていられる。まさか……あれほどの一撃を与えてなお、彼女は無傷なのか。

 そんなあなたの驚愕が伝わったのか、ファリシアはくすりと笑う。

 

「無傷などと……とんでもない。見事な一撃でした。魔性星どころか魔力障壁まで破壊して私に一撃を浴びせるなど、想像もしていませんでしたよ。あなたの剣により、すでに私の体力も半ば以上尽きています。ここまで追い詰められたのは初めてですよ」

 

 あなたの剣による一撃、フォルティアロクスは、確かにファリシアに通じていた。しかし通じてなお彼女の体力を半分余り削り取っただけ。おそらくは魔力障壁の防御により威力が減少し、彼女を一撃で倒すまでには至らなかったのだ。

 

 だが、その事実はあなたに希望をもたらしてくれる。もう一度あの剣を喰らわせれば、いかにファリシアといえど倒せるはずなのだ。

 ならば、今再び剣の魔力を解放し、フォルティアロクスを放とう。

 

 あなたは剣に込められた魔力を解放する。刃が強大な魔力を纏い、赤黒い輝きを放ち始めた。

 だがそれと同時に、ファリシアが左手をあなたに向けていた。

 

「勇者よ、ここからは私も必死です。はたしてその刃がもう一度私の体を穿てるかどうか……我が全力の魔法を突破し、見事刃を届かせてみなさい」

 

 ファリシアの左手に強大な魔力が集まる。ぞわり、とあなたの全身が震えた。

 何かがくる。何か、恐ろしいものが。

 

「――パラダイムシフト」

 

 ファリシアが艶やかに唇を動かした瞬間、あなたの予感は現実となって現れた。

 地面が割れ、隆起が始まる。あなたの足元まで地面が割れたかと思えば、次の瞬間には突如岩が突き上げてきた。

 これは……魔法だ。おそらくは土の魔法。ファリシアはここにきて、ついにウィッチの本領を発揮したのだ。

 

「土の最上級魔法、クラックゼスト」

 

 それは広範囲の地面を割り砕いて隆起を起こし、対象の身動きを取れなくしたうえで岩の槍で突き上げる魔法である。

 地面が絶えずひび割れ、隆起を繰り返し、大地が崩壊しながら岩の槍を突き上げていく。

 

 突如足場が不確かとなったことで、あなたは剣を構えることができなくなった。これではフォルティアロクスを放つことができない。どうにかして体勢を整えなければ。

 だが、ほんの一秒にも満たぬ間に、新たな魔法が発動される。

 

 隆起した地面に足を取られながらも次々突き上げてくる岩の槍をかわしていたあなたは、突然強烈な熱波を感じた。

 だが今どこにも炎は存在しない。なのにこの強烈な熱波はなぜ。いったいどこから放たれている。

 

 はたしてその正体はすぐにあなたの目の前に現れた。割れて隆起した地面の隙間から、炎が吹きだしてきたのだ。

 割れた地面の隙間から次々と吹きだす炎の柱。さながら間欠泉の勢いで吹きだす炎は、うねりながら火炎を周囲に放っていく。

 

「火の最上級魔法、イグニスフレア」

 

 もはや体勢を整えるどころではない。隆起する地面に突き上げてくる岩の槍に加えて、この熱量。飛び散る火炎。息も苦しくなるほどの熱波があなたを襲い、容易に体力を奪っていく。

 

 しかもこの火の魔法による影響はそれだけではない。あろうことか、圧倒的な熱により隆起する地面が高熱を持ち、ドロドロと溶けていくのだ。

 そのせいであなたは熱波を放つ泥と化した地面に足を取られ、突き上げてくる岩の槍に次々と打ち据えられる。

 

 これは……ファリシアがパラダイムシフトと呼んだこの魔法は、まさか。

 あなたの脳裏によぎったのは、あの日の夜の戦い。並み居る魔物娘たちを容易に打倒した、ファリシアの連鎖反応魔法。

 

「水の最上級魔法、アクアパレス」

 

 あなたの脳裏を過ぎ去る過去の光景。その一秒にも満たぬ間に、ファリシアが次の魔法を放つ。

 突如水のドームが現れ、あなたを中心とした広範囲を包みだす。それと同時、ドーム状の水のバリアから水弾が放たれ、あなたの体を打ち抜いた。

 

 水の最上級魔法アクアパレスは、対象から広範囲の周囲を水のドームで覆って逃げ場を無くし、豪雨さながらの水弾をドーム内に放つ魔法である。

 だが今この状況で恐ろしいのは、水弾の威力ではない。

 猛烈に盛る火炎流にめまぐるしい速度で放たれる水弾が接触し、次々と蒸発していくのだ。

 

 これは……まずい。あなたが思い出すのは、グリュイエールとフェンリルの戦い。フェンリルの氷を炎の投擲槍で勢いよく溶かし、水蒸気爆発が起きたあの光景。

 このままでは水のドーム内で次々と爆発が巻き起こってしまう。

 だが、火炎により溶けた地面に足を取られる中、どう抗えというのか。

 これほどの広範囲に渡って行われる連鎖反応魔法に、対処するすべなど無いのだ。

 

 水弾の豪雨が放たれてからほんの一秒も断たず、轟音と衝撃が次々と巻き起こり、あなたの周囲を水蒸気爆発が包み込んだ。

 これがファリシアの最大最強の魔法、パラダイムシフト。その正体は、超広範囲に渡る最上級連鎖反応魔法なのだ。

 

 放たれたが最後、抗うすべは無し。回避不可能な魔法の連鎖は、あなたの体力を見る間に奪っていく。

 このままでは後数秒も持たない。持していれば敗北を迎えるのが必然であるならば、状況を打開するため最善を尽くさなければいけなかった。

 

 地面が絶えず隆起し、しかも火炎によって溶けていく今、体勢を整える事もままならない。更に言えば、火炎と水弾、そして絶え間なく繰り返される水蒸気爆発によって視界は悪化の一途をたどっている。つまり、遠距離の対象を斬り裂けるフォルティアロクスは封じられたも同然だ。

 

 ならば、魔力を完全解放した刃を直接ファリシアに叩きつけるしかない。

 あなたは走りだした。隆起しながらひび割れる地面を一歩一歩踏みしめ、火炎と水が渦巻き爆破が繰り返されるパラダイムシフトの中を駆ける。

 

 目指すはファリシア。この体力が尽きる前に彼女の元へたどり着き、決着の一撃を叩きつけるのだ。

 燃えながら溶けゆく地面に足を取られながら、水弾に打ちのめされながら、ただひたすらに、ファリシアの元を目指す。

 

「氷の最上級魔法、グレイシア」

 

 また新たな魔法が発動された。氷の最上級魔法グレイシアは、対象から広範囲に渡って冷気を生み出し、継続的に体力を奪う。

 しかし今、グレイシアによる圧倒的冷気はあなただけでなく火炎や水弾、蒸発した水蒸気に溶けゆく地面すらを凍り付かせていく。

 

 凍り付いた火炎や水弾は瓦解し、あなたの周囲に降りしきる。きらきらと輝くダイヤモンドダストは、その美しさとは裏腹に凶器を纏った。

 ファリシアの魔力に反応し、降りしきる氷の結晶が膨張。見る間に氷柱と化し、あなた目がけて突き刺さる。

 

 それでもなお、あなたは疾走を止めない。ここで止まれば、それは敗北を認めたも同然だ。

 まだだ、まだ終われない。氷柱の雨が降り続ける中、急激に体力が低下していく。しかしそれでもまだ戦いを諦めはしない。

 

 あなたの剣に込められた魔力から、魔物娘たちの意思を感じる。これまでの旅路と出会ってきた魔物娘たちの顔を思い出す。

 彼女たち魔物娘との戦いで、どれほど窮地に立たされてきたことだろう。それでもあなたは戦いを諦めず、勝利を遂げてきた。

 

 今もまた、あなたはひたすらに勝利の道を駆け抜ける。

 

「雷の最上級魔法、ナハトブリッツ」

 

 耳をつんざく雷鳴が響き、空に広がった魔力の雷雲から雷撃が放たれる。

 瞬く間に放たれた雷撃は、氷柱の雨を容易に砕き、氷の欠片の中を疾走した。

 あなたの周囲に雷撃がおびただしく駆け抜ける。砕けた氷を媒体に反射し続ける雷撃は帯電を起こし、続く落雷の威力を増幅させるのだ。

 

 氷柱と電撃の雨の中、あなたはただひたすらファリシアを目指す。どうせ避けられないのなら、どのような攻撃をされようと同じこと。

 はるか正面に居るファリシアを見据えながら、最上級連鎖反応魔法パラダイムシフトの中を走り抜け――ついにあなたは、ファリシアの元へとたどり着く。

 

 度重なる魔法を喰らい、すでに全身の力が無くなっている。それでもなお勝負を諦めないのは、きっとその手に多くの意思を握っているからだろう。

 ファリシアを倒したいと切望するグリュイエールたち。あなたを慕い、勝利へ導かんとする魔物娘たち。あなたの勝利を願う、エルフィーネ、エファナ、リーシャ、ミコト姫。

 

 勇者として、決して負けられない魔王との戦い。今、その決着をつけるため――あなたは剣を振り被った。

 剣に込められた魔力が完全解放され、歪な光が刃に満ちる。ファリシアの矮躯へ向け、渾身の斬り下ろしを叩きこむ。

 

 それとほぼ同時に。

 

「魔技――魔女の剣」

 

 ファリシアの右手が閃いていた。

 

 右手に持つのは、魔水晶の剣。彼女が最後に頼ったのは、奇しくもあなたと同一の技。

 剣に込められた魔力を解放して叩きつける、魔技・魔女の剣。

 あなたとファリシアの視線が絡み合う。右肩担ぎから閃くあなたの斬り下ろしと、右片手で放たれる薙ぎ払い。

 

 同時に閃いた二つの剣は、ついにこの戦いに決着を告げた。

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