※この作品はR-18です。

ツゴウノイイファンタジー   作:アーチ/arech

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129、ツキヨミの聖杖

 神技・プルウィアルーナによる神気の雨が降り続ける中、先手を取ったのは使徒ツキヨミだった。

 

「神秘・疾走する歯車」

 

 ツキヨミが杖を振り払うと同時、虚空に神気の塊が四つ現れた。

 それらは円盤状の刃へと形を変え、ランガたちを狙って空を疾走した。

 

「やはり遠距離戦を仕掛けるか!」

 

 ランガは叫びつつ、迫る円盤状刃を切り弾く。

 使徒ツキヨミの神技は、神気の雨を降らして広範囲に渡り継続攻撃を行うもの。

 そして続いて使った神秘・茨の檻にて対敵の逃走を防ぎ、今使った神秘・疾走する歯車は遠距離攻撃術。

 

 現時点でツキヨミの戦法をランガは理解していた。

 神秘によって敵を足止めし、プルウィアルーナによるダメージを蓄積させる。魔物娘で言うなら、遠距離魔法タイプである。

 ならばランガたちが取る戦法はおのずと決まってくる。

 

「ツキヨミは近接戦が不得手のはずじゃっ! 全員で間合いを詰めるぞ!」

 

 ランガと同じくして疾走する歯車を迎撃したミコトやアイ、クロナは、返事をするまでも無くツキヨミへ向かって駆けていた。

 だが、その先を制するようにツキヨミが聖杖で地面を叩く。

 

「神秘・空より降る福音」

 

 すると全員の頭上に光り輝く槍が次々と現れる。

 神気の雨に隠れるかのように、輝く槍が頭上より降り落ちたのだ。

 

「くぅっ!」

 

 咄嗟に足を止め、横っ飛びで槍を回避するアイ。これは回避不能なプルウィアルーナと違い、当たれば致命的ダメージを喰らうと本能的に察していた。

 他の三人も間合いを詰めるのを止め、回避に全力を注ぐ。

 

 幸いにも全員、空より降る福音による大打撃を避ける事ができた。しかしその歩みは止まり、再度ツキヨミに先手を取られてしまう。

 

「神秘・その身を喰らう蛇」

 

 ツキヨミが聖杖の先端で地面を払う。すると地面に神気の光がこもり、ランガたちの周囲から次々と輝く蛇が生まれ始めた。

 輝く蛇はランガたちへ一気呵成に喰らいつこうとする。

 

「やだっ、何よこれぇっ!」

 

 クロナが悲鳴を上げつつ神気の蛇を扇で切り払う。

 しかし蛇は地面から次々と生まれ、前後左右から切れ間なく喰らいつこうとして来るのだ。

 

「クロナ、気をつけよ!」

 

 クロナの背後に迫る神気の蛇を、ランガが切り払う。そのまま彼女はクロナと背中合わせになり、産まれ続ける神気の蛇を迎撃し始めた。

 やがて一人では処理しきれなくなったアイやミコト姫もランガとクロナの元へ集まり、それぞれが四方の一角を担当し神気の蛇を迎撃していく。

 

「これは……キリがないのでは!?」

 

 神気の蛇が絶えず生まれて攻撃を仕掛けてくるあまり、ミコト姫は思わず叫んだ。

 

「ミコト姫の言う通りです! このままでは全員力尽きますよ、ランガ!」

 

 同調するアイに言われ、ランガは思わず舌打ちを返した。

 

「ええい、分かっておる! じゃが……手を休めれば負けるぞ!」

「でもこのままだと神気の雨で体力を奪われて同じことよ~」

 

 情けなく悲鳴を上げるクロナだが、その意見は的を射ていた。

 ツキヨミは神技を活かすために足止めを仕掛けてくると見切ってはいた。しかし、彼女の力までは見切れてなかったのだ。

 まさかここまで一方的に防戦へと追い込むほどの力を有しているとは……。

 

 このままではまずい。どうにかして近づかなければ……そう、近づけさえすれば。

 ランガは強く息吹を放ち、心の中の焦りを吐きだした。

 

「おおおおおおおッ!」

 

 咆哮一閃。ランガは一刀に魔力を込め、遠方に居るツキヨミ目がけて振り下ろす。

 斬り下ろしと同時に一刀に込められた魔力が刃と化して疾走する。ランガが秘剣、その裏である。

 

「ほぅ、こんな隠し技を持っていたか」

 

 ツキヨミは聖杖に神気を込めて振り払い、迫る魔力の刃を打ち払った。

 ランガ渾身の秘剣も通じず。

 しかし、放たれた魔力の刃によって、ツキヨミへ向かう一直線上の神気の蛇が一掃されていた。

 

「アイ! クロナ! 儂とミコトでツキヨミを討つ! お主たちは補助を頼む!」

 

 ランガに言われ、アイとクロナは一切の間を置かず頷いた。

 

「分かりました、ならば我が見切りの目を渡しましょう」

 

 アイは彼女だけに許された闇の特殊魔法、千の呪眼を発動する。するとアイの周囲に黒い丸い玉が次々浮かび出した。

 黒い玉にはひとすじ亀裂が入り、それは上下に押し広がった。そこから現れるのは目だ。

 

 これこそがアイの魔法、千の呪眼。これは周囲に生み出した呪眼と術者の視神経を魔力によって繋げ、様々な角度から対象を識別する事ができる。

 この魔法は一時的に他者へ視神経を繋げる事ができ、今アイはランガへこの千の呪眼の効果を授けたのだ。

 

 アイの見切りの目はランガをして認めている。一時的とはいえこの見切りの目を宿せば、ツキヨミへの攻撃は万が一にもしくじる事は無いだろう。

 アイの千の呪眼が、ランガの周囲へと集まり漂いだした。それこそがランガと繋がっている証拠でもある。

 

「よし、行くぞミコト! 遅れるなよ!」

 

 ツキヨミへ向かって、ランガが疾走する。ミコト姫はそれに続き、ランガの背を追いかけた。

 

「愚かな」

 

 秘剣月之砂の裏によりツキヨミへ向かう道筋は開いた。しかし、その道筋にまた次々神気の蛇が生まれ始める。

 更に他の蛇もランガの疾走を止めるかのように集まり出し、ツキヨミへ伸びるひとすじの道が狭まりだした。

 だがランガは疾走を止めない。彼女はすでに、信頼する友に後を任せてあるのだ。

 

「行くわよ」

 

 クロナがパンっと扇を開く。

 それと同時に、地面から次々と雷の球が浮かび始めた。

 これこそがクロナの十八番、雷の中級魔法雷鳴球。

 

 クロナは生み出した雷鳴球を操作し、走り続けるランガとミコト姫の周囲へと設置する。

 そしてもう一度扇をパンっと開き、目の前に漂う雷鳴球へと叩きつけた。

 

「召雷陣剛雷光!」

 

 一瞬にして電撃が連鎖し、雷鳴球が爆裂する。落雷にも似た轟音が鳴り響いた時には、ランガたちの周囲に群れ集っていた神気の蛇たちは全て消し飛んでいた。

 この時すでにランガは鋭く踏み込み、ツキヨミとの間合いを深々と縮めていた。一刀の間合いである。

 

 構えは右肩担ぎ。愛刀髪薙を深く振りかぶり、無防備なツキヨミへ向かって斬り下ろそうとする。

 その刹那の時。ランガは驚愕と共に目を見開いていた。

 

 ツキヨミが動く。流水のごとく静かに、ゆっくりと。左足を引き、わずかに前傾となって右肩を下げ、左手に掴む聖杖を腰に構え、右手で聖杖の上部を握る。その動作の間、ランガは振りかぶった体勢のまま一切動けなかった。

 それは決して、ランガの動きが止まってしまったのではない。真実は、ランガが振りかぶって斬り下ろす間に行われた事を意味するのだ。

 

 つまりツキヨミは――神速とも形容できる程に素早く洗練された動作をして見せたのだ。

 まるで時間軸を捻じ曲げられたかのような体験を前に、しかしランガの驚愕はそれだけではなかった。

 構えだ。ツキヨミのその構えの意味は、剣に生きるランガなら、いや、あるいはそれなりに剣の事を知っている者なら、誰でも理解できるものだろう。

 

 ――抜刀の構え。

 

 ランガは思い出す。かつて彼女は聖杖を素材にして勇者の剣を鍛えてみせた。その際、聖杖に施された不思議な仕様に首を傾げ、しかもそれが剣へ加工し直すのに絶好の仕掛けでもあったのだ。

 そう、ランガは知っている。ツキヨミの聖杖が実は……仕込み刀であった事に。

 

 ランガの脳内に警鐘が鳴り響く。その時にはすでに、ツキヨミの右手が動いていた。

 踏み込みは見せず、腕と腰の回転だけで仕込み刀を引き抜き、ランガの胴体目がけて刀身が疾走する。流麗華美な抜刀術。

 

「ぐっ!」

 

 本来なら無防備な胴体を切り裂いていたであろう神速の抜刀を、だがランガの鍛えられた肉体が無意識下で反応していた。

 彼女は右肩担ぎで振りかぶった体勢のまま、右足を軸にして鋭く回転。ツキヨミに背を見せ、背に担ぐほど深く振りかぶった髪薙の刀身にて抜刀術を受けたのだ。

 

 髪薙と聖杖の刀身が鋭く噛みあい、火花を散らす。だが急激な体勢変化によりランガの足腰は不安定であり、聖杖による抜刀術の威力に耐えられなかった。

 

「ぐあぁっ!」

 

 ランガはそのまま、愛刀髪薙ぎごと体を弾き飛ばされ、すぐ後ろを追っていたミコト姫を巻き込みながら地面を転がった。

 

「――」

 

 一連の攻防を見ていたアイやクロナは、ただ言葉を失っていた。

 ツキヨミの聖杖が仕込み刀だったのも意外ではあるが、あのランガがあろうことか剣の勝負で一歩先を行かれたという事実が、何よりも彼女たちの心を騒がしていたのだ。

 

 ランガと付き合いの深い彼女たちだからこそ分かる。今見せたツキヨミの抜刀術は、明らかにランガの剣速を凌いでいた。

 最速を極める流派石火の剣の、更にその上を。

 

「――見事。よくぞ反応した」

 

 抜刀からの薙ぎ払いを放った体勢のまま、ツキヨミは称賛の声をそそぐ。

 聖杖から抜き放たれた仕込み刀の刀身は、空より降り落ちる神気の雨に照らされ、乱反射するように光り輝いていた。

 

「これぞ妾が秘奥の太刀、抜き打ち先の先。最速を極める抜刀術を出させたのも見事であれば、この剣を前に一命を取りとめた手妻も見事だ。褒めてやろう、剣に生きる魔物娘、ランガよ」

 

 ツキヨミは流麗な動きで仕込み刀を納刀する。その動作もまた、意識してなければ見落としてしまいそうなほど自然な物だった。

 

「……神秘に長けた使徒かと思えば、お主の本質は神速の抜刀術であったか」

 

 ミコト姫と共に立ち上がったランガは、頬を濡らす冷や汗をぬぐった。

 回避不能な神技に、足止めに長けた神秘、そして間合いに踏み込めば神速の抜刀術にて迎撃する。

 

 強い。低く見積もっていたつもりはランガに無かったが、それでもなお評価を改めてしまうほどの強さをツキヨミは持っていた。

 だが、ランガの心胆は今、かがり火のように燃え始めていた。

 ランガは愛刀髪薙を一度振るった。風を切る鋭い音が流れる。

 

「抜き打ち先の先……最速を極める抜刀術か。じゃがな、先の先を極める剣は儂も同じじゃ」

「おお……何という戦意だ。これほどの力の差を知ってもなお、妾に挑むのか」

「当然じゃ。お主が儂と同じ剣理を持っていると分かった以上、剣の誇りにかけて決して負けるわけにはいかぬ」

「剣の誇りか……ミコト姫も先ほど似たような事を言っておったな。だが、下らぬ。剣とは誇る物ではなく、納める物と知れ。剣とは納め、静め、その身に秘める物なり。そなたと妾の剣理は技においては同じでも、心においては真逆である」

 

 ツキヨミは左足を引き、抜刀の構えを取ってみせた。

 

「剣と剣の勝負が所望とあらば、そなたらとは真逆の剣理を宿す以上、妾に是非はなし。良いだろう、来い、愚かなる魔物娘よ。ホムラの姫よ。そなたらの誇り共々、妾の一刀にて切り断ってくれる」

 

 ツキヨミの聖杖に神気が集まっていく。彼女は言葉通り、ランガと剣の勝負をするつもりだ。

 今聖杖に集まる神気は神秘を発動するための物ではなく、神速の抜刀術、抜き打ち先の先の威力を高めるための物。

 つまりは次に放たれる時こそが、ツキヨミ全力の秘剣なのだ。

 

 神気の雨が降りしきる中、息も詰まりそうな沈黙が訪れる。

 ツキヨミの神速の抜刀術と多種多様な神気がある以上、全員で攻撃を仕掛けても迎撃される可能性が非常に高い。

 

 もはやツキヨミを打倒するには、ランガが剣での勝負を制するしかない。ツキヨミが神秘を使う気の無い今この時しか勝機は無いのだ。

 ランガは、右肩担ぎに愛刀髪薙を構えた。

 

「――ミコト、アイ、クロナ、後は任せたぞ」

 

 それだけを言って、ランガは姿勢を低くして一歩踏み出し、疾走した。

 ミコトたちがはっと目を見開いてランガの背を視線で追う。その言葉の意味を、彼女たちは真に理解していた。

 

「行くぞ、ツキヨミ!」

「……来い」

 

 ランガとツキヨミの間合いが狭まる。一刀一殺の間合い。

 ランガの石火の剣が先に閃くか、あるいはツキヨミの抜き打ちが先に輝くか。

 息を飲む刹那の時、ランガの周囲に千の呪眼が浮かび上がる。アイの魔法により、ランガに至高の見切りの目が宿った。

 

 瞬間、弾かれたようにツキヨミが動いた。

 神速の抜刀術、抜き打ち先の先がランガへ向けて放たれる。輝く刀身は光の軌跡をわずかに残しながら疾走する。

 ランガはツキヨミが抜刀すると同時に跳んだ。

 

「おお――」

 

 最速を極める抜刀術を前に、地を蹴り跳び空へと舞う事で回避する。その期をしかと捕えられるように、アイの見切りの目が必要だった。

 ランガは空中に跳んだ勢いのままくるりと反転。逆さまになり、足元に砂の足場を生み出して踏み抜いた。

 

 これぞランガが秘剣――月之砂。

 だが。

 

「惜しいな、剣に生きる魔物娘よ。それでは一歩、妾に届かぬ」

 

 声など届くはずがない一秒を分割した世界の中、確かにランガはツキヨミの声を聞いていた。

 ツキヨミが動く。圧縮された時の流れの中で、ただ一人泳ぐかのように。

 抜刀から振り切ったはずの刀身が、その時翻った。

 

 ツキヨミはランガが飛ぶと同時に手首を返し、空へと逃れた彼女の姿を追っていたのだ。

 抜き打ちの薙ぎ払いは切り上げへと変化し、ランガを襲う。極められた抜刀術とは抜刀の一手だけで相手を仕留めるのではない。不測の事態に応じる後手を隠してあるのだ。

 すなわち空に逃れたランガすらも、いまだツキヨミの手の内の中。

 

 これぞツキヨミが二つ目の秘剣。抜き打ち先の先の後手に隠したツバメ返し。神速の抜刀から続く神速の切り返しである。

 神速の抜刀からの切り上げがランガを襲う。その胸元を深々と切り上げる……かに見えた。

 

「――なにっ?」

 

 驚愕の声はツキヨミの物。確実に仕留められるはずだった。確実にランガの対応は手の内の中であった。

 なのに、なぜ、今この刀身が阻まれている。

 

 ランガは秘剣月之砂の体勢になりながら、しかし愛刀髪薙を盾代わりにして前面を防御していた。まるで、最初からツキヨミの剣筋の変化を捉えていたかのように。

 

「……目。あの魔物娘の、眼か――」

 

 ツキヨミはようやく事態を把握した。

 

 ランガをして己の上を行くと認めるアイの見切りの目。今それを千の呪眼で宿した彼女は、ツキヨミの微細な剣筋の変化をしかと捉えていたのだ。

 ランガだけでは、きっと見切れなかったはずの微かな変化。しかしアイの眼は、それを見逃さなかったのだ。

 

 聖杖の刀身と髪薙の刀身が空中で噛みあう。火花がわずかに散る。ツキヨミはその時、更なる事態の変化に気づいた。

 気がつけば、ツキヨミの懐にミコト姫が入り込んでいたのだ。

 いったい、いつの間に。ツキヨミの思考は、すぐに解答へとたどり着く。

 

 最初からだ。ランガが後は任せると言った時にはもう、この魔物娘たちとホムラの姫はこうなるように動きだしていた。

 ただあれだけの言葉だけで意思疎通できるほど、彼女たちの間には絆があったのだ。

 

「おのれ……」

 

 最初からはめられていた事をツキヨミは理解する。

 ランガは剣の勝負に執着しているかのように見せかけ、ツキヨミはそれにまんまと乗ってしまったのだ。

 

 まさか剣に誇りを掲げ至高の抜刀術に挑むこの魔物娘が、仲間の力を借りて一矢報いようとするとは思いもしていなかった。

 剣とは誇る物ではなく納める物。皮肉にも、ツキヨミが言ったその言葉通り、ランガは剣の誇りを納めていたのだ。

 

 そうだ、彼女たちの目的は、女神イストワール。

 使徒ツキヨミなど、しょせんはただの通過点にすぎない。

 己が抱く誇りよりもなお、大切な物の為に彼女たちは戦う決意を固めたのだ。

 勇者と共に、この世界を女神イストワールから解放する為に。

 

 間合いに踏み込んだミコト姫が剣を振るう。

 その先を制するように、ツキヨミは神気を体に集中。神秘を発動する。

 

「神秘・疾走する歯車」

 

 ツキヨミの背後に円盤状の刃が浮かび、ミコト姫目がけて駆け抜けた。

 

「ダメダメ、させないわ」

 

 その時、パンっ、と扇を開く音が聞こえたと思えば、ツキヨミの周囲が紫電の光に包まれる。

 召雷陣剛雷光。疾走する電撃は、ツキヨミの神秘を打ち砕く。

 

「――」

 

 その時、これまで常に閉じられていたツキヨミの瞳が、驚愕と共に初めて開けられる。

 全て手の内だった。ツキヨミはようやくそれを自覚し、目の前に迫る燐光のように燃える焔の剣を目にした。

 

「燐火剣・不知火!」

 

 青白く燃える焔の剣が、ツキヨミの肩口から深々と斬り下ろされる。

 更に地面へ着地したランガが振り向きざまに、ツキヨミの背へ一刀を振るった。

 渾身の竜鳴気を纏い、解除すると同時に魔力の波濤を剣に乗せて放つ、秘剣月之砂の裏。

 

 正面から燐火剣・不知火の斬り下ろしが、背後から秘剣月之砂の切り上げが、同時にツキヨミの体を深々と穿った。

 ……誰も言葉は無かった。ただ、しとしとと神気の雨が降り注いでいた。

 だが、神気の雨はやがて勢力を失い、空が晴れ渡っていく。

 

 太陽の光が、わずかに差した。

 

「――見事、よくぞ我が抜刀術を見切った。よくぞ妾を制した」

 

 ツキヨミの体が光り輝いていく。ランガとミコト姫の渾身の剣撃は、彼女に致命的なダメージを与えたのだ。

 

「だが、悲しいかな、そなたたちの運命は定まっている。我らが女神イストワール様にかなう事など、決してありえないのだ……イストワール様に消し去られる時、せめて妾の称賛を思い出して心の慰めとするが良い」

 

 ツキヨミの体が一際強く輝いたかと思えば、彼女の体は光の残滓と化して空へと舞いあがっていった。

 また一人、女神の使徒を倒し、ホムラの国から立ち上る光の柱が消える。

 そしてそれはまた一つ、女神イストワールが力を取り戻したとも言えた。

 

「……ふん、称賛を心の慰めにせよとは、大きなお世話じゃな。儂らは負けぬよ」

 

 ランガは遠く、聖都カテドラルから立ち上る光の柱を睨んだ。

 ここでの戦いは終わった。聖都に居るセフィリアも、そろそろファリシアが倒す頃だろう。ランガはファリシアが負ける可能性など考えてもいなかった。

 後は勇者の元へと集い、女神イストワールとの決戦を残すのみ。

 

「よし、アイ、クロナ、勇者の元へと急ぐぞ」

 

 そう言った後、ランガはミコト姫に目を向ける。ミコト姫は全て了解しているとばかりに頷いた。

 

「……ここから先の戦いは、もはや私の領分を超えた物です。私はここで勇者様とあなたの勝利を願いましょう」

「……うむ、では行ってくる。息災でな、ミコト」

 

 アイが操る闇の魔法テレポートによる黒い影が、ランガの体を包み込んでいく。あっという間に彼女たちの姿はミコト姫の前から消え去ってしまった。

 

「ランガ、勇者様。……ご武運を」

 

 ミコト姫は、ただ空を見上げてそう呟いた。

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