あなたが迎えた最後の戦い。先手を取ったのは、挑戦者であるあなたではなく、あろうことか女神イストワールだった。
すでに彼女は本気となり、あなたを対等の敵と認めている。これはあなたとイストワールの全存在を賭けたラストバトル。イストワールに先手を譲るつもりなど毛頭なかったのだ。
「極光・十二周忌の黄昏!」
イストワールの体に光輝に煌めく神気が集中し、神秘術を超えた極光術が展開される。
あなたは強烈な鬼気を感じ、頭上を見上げた。
天照大全世界の光り輝く空に、強烈な神気を放つ光の槍が無数に浮かんでいる。それらの全てがあなたに切っ先を向け、今にも降り注ごうとしていた。
あなたは内に宿る魔物娘たちの意思から警告を受ける。
魔物娘たちの意思に宿る戦いの記憶をサーチ。それにより、極光・十二周忌の黄昏の真相を把握する。
極光術とは、神秘術を更に強大にさせたもの。女神の使徒ツキヨミは神秘術を得意とし、かつてこの極光術に似た神秘術を発動させて見せた。
その名は、神秘・空より降る福音。極光・十二周忌の黄昏は、まずこの空より降る福音を大規模大威力にしたものと見て問題ない。
ランガたちがツキヨミと戦った際、彼女たちは神秘・空より降る福音による神気の槍を受けたら確実に消滅すると感じていた。
今、空より降る福音をはるか強大にした極光術を前に、あなたも同じ意見を抱いている。
当たればまず確実に消滅する。イストワールが扱う極光術は、そのどれもがあなたを軽々と消し飛ばすに十分な恐るべき術技なのだ。
そんな十二周忌の黄昏による神気の槍が、あなた目がけて一斉に降り注いでくる。
空に浮かぶ無数の槍。逃げ場など、どこにも存在しない。
だが、あなたに焦りはなかった。なぜならばあなたには……魔物娘たちの意思と魔法がついている。
あなたの胸の内に宿るリッチの意思が哄笑する。こんなもの、我が闇の魔法で蹴散らしてみせる。彼女はあなたへそう伝えていた。
リッチの意思に身を託し、あなたは魔力を集中させる。
降り注ぐ神気の槍を前にして、あなたは左足を軽く上げ、踵を強く降ろして神気世界の地面を叩いた。
それと同時にあなたの影が膨れ上がり、周囲へと広がっていく。
この局面を打開する魔法は、当然のごとくリッチが得意とするあの魔法。
闇の魔法――影の魔槍。魔物娘たちから受け継いだ強大な魔力により、影から湧き上がる魔槍はまさしくその名に相応しい形状へと至っていた。
ねじれ狂う漆黒の魔槍。あなたの影から次々と湧き上がる魔槍は、空より降りそそぐ神気の槍目がけて駆け抜ける。
空と地から、光と闇の槍が衝突した。
その結末を見届ける意味など無い。なぜならあなたは、その身に宿る魔物娘たちの意思を信頼していたからだ。
空から降り注ぐ無数の槍が、地の影から生ずる無数の漆黒の魔槍により次々迎撃されていく。
切っ先が衝突するやどちらも瓦解するように砕け散り、光と闇の残滓をまき散らす。それらが数秒の内に無数に起こり、やがて静寂が訪れた。
「――相殺だとっ!?」
イストワールの忌々しげな声があなたの耳に届く。
極光術は完璧だった。確実にあなたを消滅させる運命だった。なのに、あなたはそれを凌いでまだ立っている。
それがイストワールの心胆にわずかな波紋を立て、波紋は広がりわずかな隙となって現れる。
対してあなたに驚愕の念は無い。こうなると信じていた。こうなると確信していた。だから次の手にうつるのはあなたが速かった。
あなたはその身に宿るネコマタの意思に身を任す。
彼女が得意とする雷の魔法により、脚部を電撃でエンチャント。地を蹴り、雷速でイストワールとの距離を詰める。
「ッ!」
イストワールがあなたの次手に気づいた時には、あなたはもう彼女の懐に飛び込んでいた。
そのままネコマタお得意の蹴り技を放つ。
右足によるハイキック。蹴り抜いた勢いのままくるりと身を捻った回し蹴り。左右からの前蹴り、左ロー、右ミドル。電撃を纏った蹴り技はどれも雷の速度で閃き、落雷にも似た衝撃と轟音を纏っている。
だがイストワールは虚をつかれながらも機敏に対応した。最初のハイキックと回し蹴りは手にする聖槍の柄で器用に受け、一歩身を引いて神気を脚部に集中。使徒クルスククスが装着していたのに似た意匠の具足を纏い、同じく蹴り技で対抗する。
かたや雷撃の蹴りと、かたや神気の蹴り。互いが蹴りを放ち足を交差させるたび、紫電と白光が飛び散って果てる。
そして驚くべきことに、最初こそあなたと互角だったイストワールの脚撃の速度が、徐々に上がっていくのだ。
雷速を凌駕する神速の蹴りの応酬。気がつけば、先に攻めていたあなたが防戦一方に追い込まれていた。
「遅い! 体術でなら勝機があると思ったか!? 笑わせてくれる! 我が世界において、貴様の力などしょせん塵芥に過ぎんのだ!」
あなたはたまらず飛び下がり、イストワールから距離を取った。
イストワールは侮蔑するように鼻息一つ見送り、聖槍の切っ先をあなたへ向けて翻した。
だが、こうして距離を取るのもあなたの手の内の中。イストワールが手にする槍と、あなたが手にするファリシアの魔剣では、リーチはあちらが上だ。それでもなお間合いを離したのは、今やあなたには魔法という手札があるからである。
左手に雷の魔力を集中すると同時、イストワールに向かって突きだす。
あなたの中に宿るネコマタの意思が吼える――電撃を喰らいな!
ネコマタが得意とする雷の魔法、雷撃を発動したのだ。イストワールの頭上から雷撃が舞い落ちる。
「見切れぬと思ったか!」
イストワールは当然のように左へステップを踏み、雷撃を回避。全て見通している。彼女の冷徹な眼がまざまざとそう告げていた。
だが、あなたもこうなる事を見通していた。だからあなたは雷撃を放つと同時に、イストワールに向かって跳び込むように間合いを詰めていたのだ。
蹴りの間合いから槍と魔法の間合いを経て、ついに剣の間合いとなる。
この間合い。イストワールに対して攻撃を仕掛けるとなると、当然彼女の技法の出番となる。
あなたの胸の内に宿るパイレーツの意思が自負する。我が三段突き、見切れぬ者など無し。
パイレーツの意思に身を任せ、ファリシアの魔剣を閃かせる。パイレーツがスキル、三段突き。
イストワール目がけて三つの刺突が花開く。間合い、タイミング、共に完璧。イストワールにこれを凌ぐ事は出来ない。
しかし、三段突きを放った直後、あなたは異変を感じた。
三段突きを放って刺突が閃く一瞬を何分割にもした凍った瞬間。誰も動くことができない刹那すら分断した時間の隙間で、なぜかイストワールだけが動いていた。
凍てついた時間の中で一人動くイストワールは、放たれる三段突きの刺突に聖槍の切っ先を合わせたのだ。
凍った時が動き出す。三段突きの刺突が煌めく。イストワールの聖槍による刺突が同時に三つ放たれ、戛然(かつぜん)と響き渡る。それは刺突を刺突で跳ねのけた硬質の音だった。
あなたは時間軸がねじ曲がり、決して回避も迎撃も出来ない三段突きが凌がれた事を察した。
これがイストワールを守護する運命と言う名の結界。天照大全世界において、イストワールが不利になる事象が発生しないというルール。
極光・天照大全世界。通称イストワールの世界を攻略するには、このルールを打ち破る圧倒的な力が必要なのだ。
必殺の一撃を凌がれて、今度はあなたに驚愕が訪れていた。その隙を狙って、イストワールが体に神気を集中させる。極光を発動するつもりだ。
あなたは慌ててイストワールから距離を取った。どのような極光術を使われるかは分からないが、近間では対応できない可能性があった。
「極光・運命の車輪!」
イストワールが極光術を発動すると、彼女の背後におびただしい数の光り輝く車輪が次々と現れ出した。
空中に浮かび静止していた神気の車輪は、突然あなた目がけて疾走する。その数三十をゆうに超えている。しかも車輪一つ一つに満ちる力は、十二周忌の黄昏による無数の神気の槍に込められていた神気とはまた比べ物にならない。
これに対抗するには力がいる。圧倒的で純然な力が。
あなたに宿るミズハの意思が凛々しく歌う。暴虐的な悪夢をお見せしましょう。
ミズハの意思にあなたは身を任せ、闇の魔法による大鎌を生成。魔剣を握る右手とは別に、空いた左手で大鎌の柄を掴みとる。
運命の車輪は、どれもが一直線にあなたを狙って疾走している。軌道は単純。これならば何も問題ない。あなたは深く身を捻り、左手一本で大鎌を振り払った。
大気を蹴散らすような轟音が鳴り響き、圧倒的暴威と威圧を兼ね揃えた大鎌の一撃が虚空を切り裂く。あなたの身に迫る運命の車輪を悉く打ち砕いた。
運命の車輪は大鎌の一撃の前に砕け散り、光り輝く破片を周囲に飛ばした。しかし、破壊した車輪はなぜかとどまり続け、込められた神気が霧散する気配が無い。
それを見ていたあなたの脳内に警鐘が鳴り響く。それは正しく、飛び散った車輪の破片は形を変え、見る間に新しい運命の車輪へと変貌したのだ。
「無駄だ。運命の車輪は定められた運命の道を疾走する。貴様が敗北する未来が訪れない限り、どのような攻撃を加えたところで運命の車輪が消滅する事は無い!」
つまり、運命の車輪に攻撃を加えて破壊しても、その疾走は止まらないのだ。それどころか、砕け散った破片すら新たな車輪となり、無限にあなたを狙い疾走し続ける。
発動されたが最後、対抗策は無し。運命という名の道を疾走して定められた結果をもたらす。それが運命の車輪である。
車輪一つ一つを砕いて威力をある程度損なわせる事が出来ても、その疾走は止まらない。やがてあなたは疲れにより力尽き、そこを運命の車輪が穿つだろう。
単純な攻撃ではダメだ。それでは運命の車輪を攻略できない。だがどうすればいい? どうすれば定めの道を突破できる?
あなたの胸に宿るリュミスの意思が進言する。疾走し続けるのなら、止めてしまえばよいのではないでしょうか。
あなたはリュミスの意思に身を任せ、大鎌を消して毒の魔法を発動。左手に毒針を生み出した。
迫りくる運命の車輪を前に、身を捻り、横っ飛びをし、転げ回るように回避しつつ、毒針を次々打ち込んでいく。
リュミスの毒針は、打ちこめば当然弱体毒が流れるものだが、無生物である車輪に打ちこんだところで毒の効果は無い。
だがもとより、あなたが期待しているのは弱体毒の効果などでは無かった。あなたの左手の指と打ちこんだ毒針は毒の糸で繋がっており、今や五十を超す運命の車輪全てに糸で繋がる毒針を打ちこんでいたのだ。
あなたは左手を捻り、毒糸を一気に巻き取るよう伸縮させる。
すると毒糸は車輪へと巻き付き、ねじれにねじれて決して抜け出せぬ迷路のように複数の車輪へと絡みついた。
そう、疾走し続けるのなら、糸で巻き付けて動きを止めればいい。今や五十を超える運命の車輪は、繋がる毒糸が複雑怪奇に巻き付き合い、一か所へ集められてまるで毛玉のようになって地へ落とされていた。
すると運命の車輪が淡く輝きだし、ゆっくりと消え去っていく。定められた運命の道を常に疾走し続ける車輪。その歩みを強制的に止められた事で矛盾を起こし、存在概念が崩壊してしまったのだ。
運命を逆手に取り極光術を攻略する。皮肉めいた結果に、だがイストワールは何ら反応を示さなかった。
むしろ彼女はこうなるとでも知っていたのか、すでに体に神気を集め、更なる極光術を発動しようとしていた。
そう、イストワールはすでにあなたを敵と認めている。一度目ならばまだしも、二度目の驚愕は無い。もはや極光術を一つ二つ攻略される程度意にも返さない。全力であなたを叩き潰すつもりなのだ。
ようやく二つ目の極光術を攻略したというのに、反撃の隙間さえ与えられない。本気になったイストワールを前に、あなたは防戦を強いられる。それほどまでに力の差があるのだ。
「極光・輪廻の檻!」
イストワールが三つ目の極光術を発動する。
するとあなたを中心にして、広い範囲を包み込むような神気のドームが現れた。ドームを構成する神気はツタのような形状をしており、絡み合うようにして逃げ場を無くしていたのだ。
だが極光・輪廻の檻の恐るべき所はそれだけではない。輪廻の檻の内部に、魔法陣に似た幾何学的紋様が次々浮かび出す。それはいわば、神気による魔法陣であった。
その魔方陣から、白い光が一直線に放たれる。輪廻の檻の内部が、白色光線で瞬く間に彩られた。
極光・輪廻の檻。これは対敵を神気の檻で囲み、その中に神秘による魔法陣を設置し、そこから放たれる複雑に交差する神気の光芒によって消滅させる、恐るべき極光術なのである。
輪廻の檻内部に放たれるいくつもの光芒。ひとすじの光。それはゆっくりとだが動いており、あなたをつけ狙うように、あなたの回避位置を封じるように、じわりじわりと追い詰めていく。
このままではまずい。前後左右を囲むように複雑に動く光芒は非常に見切り辛く、このままでは容易く逃げ場を無くし追い詰められてしまう。
だが、あなたは知っている。この局面を打開し得る見切りの目を持つ魔物娘を。
あなたの中に宿るアイの意思が見開く。いかなる艱難辛苦も我が目で見切ってくれましょう。
あなたはアイの意思に身を任せ、彼女しか操れない闇の特殊魔法、千の呪眼を発動する。
あなたの周囲に黒い眼球が次々浮かび出す。それらはあなたと魔力の視神経で繋がり、アイの見切りの目をあなたに与えてくれるのだ。
しかも千の呪眼ならば、左右や背後などあなたの二つの目だけでは捉えられない死角も補える。もはや輪廻の檻はアイの目に捕えられたも同然だった。
だがこれだけでは輪廻の檻を攻略するのは不可能である。檻内部に放たれる光芒はゆっくりではあるが動いており、その動きを見切っても回避行動が間に合わなければやはり追い詰められるのだ。
つまり速度が居る。この無数の光芒が瞬く輪廻の檻を駆け抜ける速度が。
あなたの内に宿るフェンリルの意思が毛を逆立てる。全力、出してもいいよ。
あなたはフェンリルの意思に身を任せ、氷の魔法を発動。するとあなたの周囲に氷の結晶が浮かび上がり、冷気が溢れ出す。
これぞフェンリルが本気を出す時に用いる魔法、氷のエンチャントである。今あなたはフェンリルの機敏な速度を有し、輪廻の檻を攻略するに足る手札が全て揃ったのだ。
複雑怪奇に交わる白色光芒の輝線をアイの呪眼にて見切り、逃げ場を失わないようフェンリルの速度で先んじて回避。
真正面から向かってくる光芒を鋭い旋回にて避け、真横から薙ぎ払うように迫りくる光芒を身を屈め回避。そのまま低い姿勢のまま走り抜け、交差する四つの光芒の中へと飛び込んだ。
格子状に交差する光芒を避けるには、その中心部分の穴へ飛び込むしかない。アイの見切りの目とフェンリルの速度を有したあなたにとって、それは決して難しい事ではなかった。
交差光芒の中心を縫うように通り抜けて着地。すると前後左右から一気呵成に光芒が迫りくる。
走り、身を屈め、時に飛び込むように、時に後方跳躍を交え、しつこく迫りくる光芒の群れを回避、回避、回避。
だが、ここは輪廻の檻。檻の中に閉じ込められている以上、最終的に逃げ場を失う運命なのだ。
はたして、あなたもそうなった。回避に回避を続け、元居た輪廻の檻の中心地へと到達したあなたの周囲を、光芒の群れが隙間無く包み込む。
周囲八方を白き光で塞がれ、もはや逃げ場は無し。しかも光芒はじりじりとあなたへ迫りくる。
極光・輪廻の檻は発動したが最後、檻の中に捕えた反逆者を確実に追い詰め、女神に逆らった罪を贖わせるかのようにゆっくりと消滅させる。あなたもまた、その運命に囚われているのだ。
「さあ、私に逆らった罪を悔いろ、名も無き存在よ! 貴様の過去、現在、未来、輪廻の先に至るまで、全て消し飛ばしてくれる!」
追い詰められた。絶体絶命の窮地。しかしあなたに焦りは無かった。
すでに、輪廻の檻を攻略する手はずは整えている。そう、アイの見切りとフェンリルの氷を宿した時点で。
あなたの体に集まる魔力が膨れ上がり、ある一つの魔法を発動。
すると輪廻の檻の至る所から、青く輝く幾何学的紋様が浮かび上がる。
フェンリルが扱う氷の魔法、魔氷方陣。あなたは光芒からただ逃げていたのではない。放たれる光芒の根本、神気により形作られる白き魔法陣の位置を確認し、それを狙い穿つ為に魔氷方陣を設置していたのだ。
光芒の群れがあなたに迫る。その白き神威があなたの体に触れようとした時にはもう、魔氷方陣から氷が放たれていた。
輪廻の檻内部に設置した魔氷方陣から、次々と氷が射出。それは過たず神気の魔法陣を狙い打ちにして破壊し尽くす。結果、光芒は自身が生み出される触媒を失い、定めに従うように消えていった。
攻撃手段を失った今、輪廻の檻はただの茨の檻にすぎない。
だが、この檻から出ない事にはイストワールに攻撃を仕掛けられない。従って、輪廻の檻を形成する茨型の神気を破壊する必要がある。
あなたの中に宿るクロナの意思が陽気に笑う。そろそろ私の出番ね、さあ、派手に決めましょう。
あなたはクロナの意思に身を任せ、雷の魔法を発動する。
輪廻の檻の中に次々浮かび上がる雷の球、雷鳴球。それは地から空中まで、輪廻の檻の中を埋め尽くさんばかりに溢れだした。
そして、あなたは目の前にある紫電煌めく雷鳴球へ向け、魔剣を振り下ろした。
魔剣が雷鳴球を切り断つ。それと同時に紫電が放たれ、近くの雷鳴球へと連鎖する。
雷鳴球を触媒とした電撃の連鎖反応が次々の巻き起こり、瞬き一つの間に輪廻の檻の中を彩った。
召雷陣剛雷光。輪廻の檻の中を埋め尽くした落雷にも似た衝撃は、檻を形成する神気の茨に致命的大打撃を与える。
茨は雷撃による威力で焦げ付き、発火。次々と燃え盛り、灰となって朽ちた。
あなたの輪廻の先すらを封じ込める檻はこうして消え去った。ここにはもう、あなたを縛る物は無い。
「……ッ! 極光・林檎を喰らう蛇!」
イストワールは輪廻の檻が破られると同時、すかさず次の極光術を放っていた。彼女の体に強烈な神気が集まり、一気に放たれる。
すると、大全世界の光り輝く地面から、次々と輝く蛇が生まれる。
ものの数秒で無数に産まれ出でた蛇たちは、あなたへ向かってくるのではなく、あろうことか共食いを始めていた。
蛇が蛇をくらい、その蛇がまた別の蛇に喰らわれる。それを繰り返せば繰り返す程、蛇の体積は増え、内包する神気の強さもはね上がった。
やがて、最後に残った二匹の蛇が互いに喰らい合った結果、産まれいずるは巨大な蛇。火竜形態のグリュイエールすら凌ぐ大蛇であった。
しかも内包する神気の強烈さはこれまでの極光術と比べても圧倒的だ。分かる。威力、破壊力共に、これが最大最強の極光術。
「林檎を喰らう蛇に宿る神気量は、貴様が扱える魔力のゆうに十倍を超す! これまでのような力押しも搦め手も通じんぞ!」
イストワールの言う通り、これほど強力な極光術に魔力で対抗するのは不可能。
否。はたして本当にそうか? あなたは知っている。この世界の誰よりも魔力の扱いに長けた魔物娘を。
あなたの中に宿る魔王ファリシアの意思が跪く。蛇は好みではありません、あなたの足元へひれ伏させて見せましょう。
あなたはファリシアの意思に身を任せ、左手を空に掲げた。
空へ向けられた手の平。そこに、魔力が集まっていく。集った魔力は圧縮され、黒点へと至り空へと舞いあがった。
空に輝く黒点は、更に魔力を集めていく。いや、魔力を喰らっていく。そして、喰らった魔力を重力波に変えて放出するのだ。
それは星だった。神気の空に生み出された漆黒の星。魔力の恒星。神気の輝きに抗うように、漆黒の重力が吹き荒れる。
魔術――
圧倒的な重力波の重圧に押され、神気の大蛇は頭を垂れる。まるであなたに屈するかのように。まるであなたに逆らった罪を詫びるかのように。
そして、魔力を限界まで喰らいつくした魔性星は、崩壊した。
星が割れる。中から魔力が溢れる。魔力の嵐が吹き荒れ、神気の大蛇の身を削り取る。
魔力嵐が止んだ時にはもう、林檎を喰らう蛇はそこに存在しなかった。禁忌へ誘う蛇すらも、あなたの敵ではない。
そう……あなたの敵は、女神イストワール。彼女の傀儡など、相手ではない。
「――バカなっ、あり得んッ! 林檎を喰らう蛇すらも……我が極光術の悉くを凌ぐなど、ありえない事だ!」
イストワールが扱う極光術は全部で四つ。それら全てを攻略したあなたに、彼女は何を思ったのか。美しい顔をひきつらせ、わずかに一歩下がった。
対してあなたは一歩前へと進んだ。
イストワールの動揺を見逃さず、彼女に斬りかかったのだ。
「っ!? ぐぅっ!」
あわやという所で、イストワールは聖槍の切っ先であなたの魔剣を受けとめた。
聖槍と魔剣が交差する。力は互角。噛みあった刃は凝然と動かない。
イストワールは強い。この天照大全世界の中で更に力を増した彼女は、単純比較であなたのゆうに何十倍も強いだろう。
しかし、あなたには魔物娘たちの意思がついている。彼女たちの力があなたに宿っている。そして、この世界の全ての人々はあなたを信じている。
ならば決して勝てない相手ではない。決して。
ギリギリと噛みあう槍の切っ先と魔剣の刀身。互いの得物の違いから言えば、本来ありえない鍔迫り合いだ。槍と剣が互いの刃先を交差させてせめぎ合うなど矛盾している。
だが、矛盾すらを乗り越えてあなたはここに立っている。本来ならあなたは消えているはずだ。イストワールを相手にここまで戦える論理など無いはずだ。
矛盾はもはや正当な論理となって成り立っている。ならば女神イストワールを倒すという矛盾すらも、正論として成立させてみせよう。
「おのれ……おのれぇっ!」
イストワールの口から、怨嗟にも似た声が漏れ出る。彼女の冷徹な瞳が今、灼熱にたぎっていた。
極光術を四つも放ってなお、あなたを仕留めきれていない。のみならず、極光術は全て攻略された。それが彼女の心身にどれほどの衝撃を与えただろうか。
そしてその衝撃が……女神イストワールを更に本気にさせた。
「舐めるなよ、人間!」
イストワールの体に強大な神気が満ちる。それは一気に放射され、あなたは神気の波濤により吹き飛ばされた。
地面を転がる中、剣を突き立てて体勢を安定。すぐに立ち上がって状況を確認。
あなたはイストワールから大分遠ざかっていた。ただ神気を放っただけだというのに、この威力。やはりイストワールは強い。あまりにも強すぎる。
そして、今イストワールが身に纏う神気の質が一変している事に気づく。何かが変わった。何が変わったかは分からないが、彼女の本気の度合いが更に高まった事が理解できる。
イストワールの力を広く満ちる海と仮定したならば、その深度がより深くなったという事だ。圧力は増し、得体の知れぬ力がまだまだ満ちている。
勝負はまだ、ここからだ。
イストワールが手に握る聖槍を手放す。すると聖槍は地に落ちるどころか、その姿を消し去った。
「名も無き存在よ。たかが魔物娘の魔法を扱えるようになった程度で、たかが極光術を打ち破った程度で、粋がるなよ。貴様に見せてやろう。真の術技という物をな」
イストワールが空に手を掲げた。堂々たる神威に満ちた声を響かせる。
「出でよ! 我が神剣・エルネストよ!」
空に剣が現れる。それは吸い込まれるようにイストワールの右手へと収まり、彼女は柄を握った。