深夜、目覚めたあなたはエルフィーネと共に王都の街に繰り出していた。
あなたは王宮へ忍び込むために、エルフィーネだけが知る逃走経路を利用することにしたのだ。
「ここです、勇者様」
エルフィーネに案内された場所は、初めて彼女と会った裏路地だった。
エルフィーネは辺りをきょろきょろと見回して他に誰もいないことを確認してから、路地の片隅のブロックをかかとで思い切り踏みしめる。
「えいっ!」
するとあなたの足元が突然揺れ動く。慌ててそこを退いてみると、ゆっくりと地面がスライドして地下への入口があらわれた。
「この地下通路が王宮へとつながっているのです。行きましょう」
あなたに先行する形でエルフィーネが地下へのはしごに足をかける。
まさか一緒に行くつもりなのだろうか? そう思ったあなたはエルフィーネに問いかけた。
「もちろんです。こう見えても私は光魔法の使い手。きっと何かの役に立ちますわ!」
彼女の同行を許可しようか迷ったあなただが、しかたなくそれを受け入れる。自身の王宮が魔王の手下に奪われてしまったのだ。何かせずにはいられないのだろう。
それに彼女は聖女と言われるだけあって、光魔法に長けているらしい。ならばきっとあなたの助けになるだろう。
エルフィーネと共に地下へ降り立ったあなたは、王宮を目指す。十分ほど地下通路を歩いた頃、今度は地上へと続くはしごを発見した。
「この上が王宮です。勇者様お気をつけて……ここから先は魔王の手下に操られた兵士たちが巡回しているはずです」
今度はあなたが先にはしごを上り、地上へと出た。
そこは王宮の裏庭らしい。手入れの行き届いた見事な庭園だ。しかしそれを眺めている余裕はない。
幸い裏庭に巡回兵はいないらしく、あなたはエルフィーネを引っ張りあげて彼女を地上に出した。
「……とても嫌な気配がします。勇者様、聖剣による封印がもう解けかかっているみたいです」
エルフィーネが不安そうに訴えて来た。
あなたは特に変な気配は感じないが、エルフィーネは違うらしい。
「私は聖女ですから、聖剣による加護をはっきりと感じ取れるのです。今聖剣の加護が弱まりつつあるということは、封印が解けかかっているということ……急ぎましょう勇者様っ。封印の間は宮殿の地下にあります!」
どうやら事態は一刻を争うようだ。巡回兵から隠れてゆっくりと王宮内に忍び込む余裕はないらしい。
あなたは方針を定めた。進路にいる邪魔な巡回兵は速やかに倒し、何とかして宮殿内に入り込む。それを実現させるためには、魔物娘の協力が必要不可欠だろう。
あなたは魔物娘の召喚を行う。この状況、適任者は彼女しかいない。
眩い光と共に魔物娘があらわれた。鳥の飾りをあしらった青色のコートが映えている魔物娘、パイレーツだ。
「召喚に応じ、パイレーツ参上いたしましたわ」
あなたは事の経緯をパイレーツに伝えようとするが、彼女に制される。
「あなたの身におこった大方の情報は召喚される際に全て私たちに伝わります。ですので事情は把握していますわ。王宮地下にいるであろう魔王の手下を排除するのでしょう?」
そこまで分かっているのなら話が早い。しかしあなたは、リッチやネコマタは召喚に応じた際あまりこちらの情報は伝わっていなかったはずだとパイレーツに言った。
「召喚される際、わずかな時間で直接頭に情報を叩きこまれますから……慣れないうちは混乱して訳が分からないのでしょう。特にリッチはアホですから。ネコマタは……彼女は自由気ままな性格なので、召喚される際の情報伝達をあまり気にしていないのかもしれません。リッチとは違って彼女の気風は好ましいですわ」
説明を聞いて、パイレーツをこの場に呼んだのはやはり正しかったとあなたは思った。しっかりしているので頼りがいがある魔物娘だ。
「まあ……勇者様は魔物娘を従えているのですね」
突然目の前で魔物娘が召喚され、エルフィーネは目を丸くしていた。
パイレーツはエルフィーネの顔を見て一礼する。
「聖女エルフィーネですね。初めまして、私はパイレーツですわ」
「パイレーツ……王都近海を荒らしていたあの海賊ですか?」
「ええ、その節は申し訳ありません。しかし今の私は勇者様に忠誠を誓う者。以前の非礼は、今宵王宮奪還の手助けをもって償いましょう」
「あら、まあ……」
エルフィーネが羨望の眼差しをあなたに向けた。
「好き勝手に生きる魔物娘が、魔王にではなく勇者様に仕えるなんて……やはり勇者様は素晴らしいお方です」
エルフィーネの瞳を見て、彼女の羨望を裏切らないためにも今日何としてでも王宮を奪還しなければいけないとあなたは感じた。
お喋りはここまでにして、早速王宮内への侵入を開始する。
王宮へ入るためには、どうしても正面に回らなければいけない。ひとまず裏庭から正面入り口付近を目指すことにした。
しかし入り口前に来たはいいが、当然正面は警備が硬く、兵士が4~5人巡回していた。
「正面から強引に行くのはさすがに危険です。彼らを蹴散らしてうまく王宮内に入れたとしても、封印の間にいるであろう魔王の手下と応援に駆け付けた兵士に挟み撃ちにされてしまいますわ。ここは兵士に気づかれないよう王宮内に入るのが最善です」
しかしどうやって入ればいいのか。あなたが考えあぐねていると、パイレーツはあなたに向かって言った。
「少し危険ですが、私が彼らの気を逸らしてみましょう。うまくいけば、気づかれずに侵入することができるはずです」
それはパイレーツが囮になるということなのだろうか。
「いいえ、囮になるのはあれです」
パイレーツが指さしたのは、王宮の正門前にある噴水だった。いったいどういうことなのだろうか。
「私は海に生きる魔物娘……水の魔法ならばお手の物ですわ」
パイレーツがレイピアを引き抜き、先端を噴水に向ける。
「水の妖精よ、踊りなさい」
パイレーツがそう言った途端、噴水から突如水が吹き上がった。
勢いよく空目がけて吹き上がる水に、王宮正面に居る兵士たちの視線が集まる。
「まだまだ」
更にパイレーツが魔法を込めると、吹き上がる水流が意思を持ったかのようにうねり、正門前の兵士を一人吹き飛ばした。
兵士たちは猛り狂う水に面食らいながら、慌ててそれを抑えようと噴水前に集まっていく。
「今のうちに中に入りましょう」
パイレーツに促されて、警備がいなくなった正面入り口から悠々と王宮内に侵入する。
パイレーツのおかげで兵士と戦闘する事もなく、また気づかれることもなく王宮内に忍び込むことに成功した。
王宮内に入るとすぐに大広間が広がる。床には品の良い絨毯が敷き詰められ、見上げると高い天井からシャンデリアが垂れ下がっていた。
「先ほどの噴水騒ぎで少し警戒は強まるでしょうが……私たちが侵入したことはまだバレていないはずです。今のうちに封印の間に急いだ方がいいですわ」
「では私が先導いたします」
エルフィーネがあなたとパイレーツに先だって歩き出す。
広間からすぐ横の廊下に出て、曲がり角に差し掛かった時、エルフィーネの足が止まった。
「勇者様、兵士です。どうしましょう……?」
廊下の角から様子を伺ってみると、兵士がこっちに向かって歩いてきていた。このままでは見つかってしまう。
「任せてください」
するとパイレーツが突然曲がり角から躍り出た。一閃の光のようにレイピアが二度舞い、その直後兵士が昏倒した。兵士は反応する間もなかった。
「この程度の相手なら不意打ちが決まれば問題ありません。さあ、今のうちに」
「え、ええ」
パイレーツのあまりにも鮮やかな手口に少々面食らったエルフィーネだが、すぐに気を取り直して歩き始めた。
封印の間は、王宮内でもかなり深い所から繋がっているらしく、何度か廊下を曲がり、時には階段の上り下りを繰り返し、ようやくエルフィーネが足を止める。
「この下が封印の間です」
彼女が地下に続くらせん階段を指さした。そこは暗く、見下ろしてみても最奥が見えない。封印の間はかなり地下に存在するようだ。
数分程らせん階段を降りると、ようやく封印の間へと続く扉を発見した。
あなたがそっと扉を押すと、エルフィーネが緊張した声で話しかける。
「気をつけてください。きっとこの先にパラディンたちが居るはずです」
無論それは覚悟の上である。あなたはできるだけ音を鳴らさないように扉を開けた。
あなたの視界に封印の間が広がる。そこは淡く柔らかい光が満ち溢れた部屋だった。その光は部屋の奥に突き刺さっている剣から放たれている。おそらくあれが聖剣だろう。
「……驚いたな。占い師の占い通り、本当に勇者たちが来たぞ」
「私の占いは……まあまあそれなりの確率で……当たります」
封印の間の中央には、パラディンと占い師が陣取っていた。その背後で、金髪をまとめ上げた少女が聖剣に向かい合っている。
「ふふ、来ましたか」
金髪の少女が振り向く。ボーイッシュな雰囲気でありながら、少女とは思えない艶やかな笑み。あなたは、どこかで彼女を見たことがあったような印象を抱いた。
「港町で会って以来ですね。お久しぶりです、勇者よ」
金髪の少女があなたに話しかける。彼女の言葉を聞いてあなたは思い出した。
初めて港町に来て宿屋を探している時、確かこの金髪の少女と会ったのだ。
「あ、あなたは……!」
パイレーツはなぜか、少女の顔を見て愕然としていた。
「勇者様、お気を付けください! おそらく彼女が魔王の手先です!」
エルフィーネが警戒を促すようにそう叫ぶと、金髪の少女がくすくすと笑いだした。
「私が、魔王の手先?」
さもおかしいと言うように金髪の少女は笑い続ける。
「ふっ、まあ普通そう思うだろう」
パラディンが小さくつぶやいた。占い師はそのそばで沈黙を保っている。
「そういえば、自己紹介をする前に聖女エルフィーネには逃げられてしまいましたからね。そう勘違いするのも仕方ありません」
「な、なにを言っているのです?」
エルフィーネは金髪の少女の言っている意味が分からず、戸惑うばかりだった。
「もとより勇者には自己紹介をするつもりでしたので、聖女エルフィーネに対しても名乗らせていただきましょう。私はファリシア。この世界に住まう魔物娘を率いる魔王、ファリシアです。以後お見知りおきを」
くすくすと笑いながら、魔王ファリシアはあなたに向かって一礼した。