先陣を切ったのはパイレーツだった。彼女の動きは素早く、占い師に向かってレイピアを閃かす。
「先手必勝ですわ! まずは撃たれ弱そうなあなたからです!」
「おっと、させるか!」
しかしパラディンが盾を構えてパイレーツと占い師の間に割り込んできた。
パラディン職お得意の味方を庇うスキル、ディフェンスカバーだ。
「ちぃっ!」
パイレーツの放った一刺しは強靭な盾によって弾かれる。しかし彼女はすぐさま次手にうつっていた。
「ならば我が三段突き、防げるものなら防いでみなさい!」
パイレーツがそう叫び、弓の弦を引き絞るようにレイピアを構えた。
「パイレーツの三段突きによって……パラディンの喉……胸……腹部が……同時に穿たれる確率100%……ガードを固めなければ敗北する確率75%です……」
「なにっ……!? 了解した!」
占い師の指示によってパラディンが盾で身を隠した。
「えっ、そんな……!」
パイレーツの渾身の三段突きがことごとく盾で防がれる。慌ててパイレーツは退いて、いったん距離を離した。
「ありえない……私の行動が読まれていた……!?」
これが占い師の持つスキル、行動占いである。次の行動を確率予測するこの占いは、戦況を左右する強力なスキルだった。
事実、占い師が行動を予測しパラディンに伝えなかったら、三段突きはパラディンにヒットしていた可能性が高かったのだ。
「少々驚いた……魔物娘とはこんなにも強いものだったのか。今の一撃……いや、三撃か? 初見で対応するのはまず不可能な見事な技だ」
こちらの実力を警戒するように、パラディンが占い師より一歩前に進み出た。
「占い師がいなければ私は負けていたな……ふふ、だが占い師の行動予測があれば、我が盾による防御は完璧となる」
「私の占いは……まあまあそこそこの確率で……当たりますからね……」
この戦いで一番厄介なのは、どうもあの占い師のようだ。
あなたと彼女は顔見知りだった。あの港町で彼女とセックスしたのは記憶に新しい。
しかしあの時はまさか、魔王の手下として敵対することになろうとは思いもしていなかった。
行動を予測する占い師と、完璧な防御スキルを持つパラディン……このコンビは、こと時間稼ぎという点において無敵にも近いのではないだろうか。
「こうなったら勇者様、あれをやりましょう!」
この状況を打破するべく、パイレーツがあなたに進言した。
しかし……あれとはいったいなんなのだろうか。代名詞ではなくもっとはっきりと言って欲しいとあなたは思った
「あれなら占いで行動を先読みされても問題ありません! さあ、いきますわよ!」
パイレーツはそう叫んでパラディンたちに向かって言った。しかし待ってほしい。だからあれとはいったい何なのか。
「占い師! なにか分からんがあれが来るらしいぞ!」
パラディンが占い師の警戒をうながした。もしかしたら占い師の占いで、あれというものの正体が分かるのかもしれない。
「あれがなにかは分かりませんが……三段突きが来る確立100%です」
「了解した!」
パラディンが盾を構えて防御を固めた。占い通り、パイレーツは三段突きを放つ。
そのことごとくが盾で防がれるが、パイレーツは不敵に笑う。
「さあ勇者様!」
パイレーツがあれをやれと言わんばかりにあなたにそう呼びかけた。しかしあれが何なのか分からないあなたはどうしようもない。
「あれが来る確立……0%」
「よし、今だ!」
パイレーツの三段突きを防いだパラディンが反撃に転じる。盾を突き出してパイレーツの体を強打したのだ。
パラディンのバッシュを喰らったパイレーツは吹き飛び、地面を数度転がってあなたの足元にやってきた。
「ぐ、ぐぐ……ゆ、勇者様……なぜあれをしないのです! い、痛いっ! こんな反撃喰らう予定ではなかったのに!」
パイレーツは地面に這いつくばりながら恨み言を言った。しかしこんな結果になったのはパイレーツが悪い。あれとはなんだいったい。
「いいですか? 勇者であるあなたはしもべにした魔物娘のスキルを扱えるのです! つまり今のあなたは私の三段突きを使うことができるのですよ!」
そう、魔物娘の扱う魔法であったり、魔物娘の個性に関連するスキル以外のもの、つまりパイレーツの三段突きのような技術はあなたにも扱うことができる。
本来は努力と才能が必要であろう一つの技として昇華された技術を、勇者であるあなたは魔物娘をしもべにするだけで使えるという実に都合のいいシステムなのだ。
「我が三段突きの前にはパラディンと言えど防御で手いっぱい。それは占いで事前に行動を知っていようが知っていまいが同じこと……つまり、あれとは!」
パイレーツがまたパラディン目がけてレイピアを閃かした。
閃光めく三段突き。しかしそれは当然のようにパラディンの盾に防がれる。
そして攻守が交代する。三段突きを放って無防備なパイレーツに向かって、パラディンがカウンターのバッシュを放とうとした……その瞬間。
「……あれが来る確立、100%です……」
「なに!?」
あなたはパイレーツの隙を補う形で、パラディン目がけて三段突きを放っていた。
当然のごとくそれは盾で防がれる。パラディンの盾スキルは虚を突かれても発動するのだ。
「そうですわ勇者様! これがあれです!」
あなたが三段突きを放った後に続いて、またパイレーツが三段突きを放っていた。
「ぐっ!」
パラディンは大きく足を開いて地を硬く踏みしめ、盾によって連続発動する三段突きの衝撃に耐えている。
パイレーツが三段突きを放ち終えた時、すぐさまあなたは三段突きを放っていた。
その連続攻撃は、パラディンに反撃する暇を与えない。
そう、パイレーツの言うあれとは……。
「ま、まさかこれがお前たちの言うあれなのか!?」
パラディンが驚愕の表情を浮かべる。
「こ、こんなもの……ただのゴリ押しではないか!」
パラディンの言う通り、あれとはただのゴリ押しだった。あれ、などと意味深に言う必要はおそらくない。
「ゴリ押し結構! これならば占いも関係ありません!」
少々知性に欠ける作戦ではあるが、パラディンと占い師のコンビ相手には割と有効なようだ。
パラディンをして、パイレーツの三段突きは盾で防ぐしか対応できない。パイレーツが言うように、連続で三段突きを放つという分かりきった行動を占いで予測されても何も問題はなかった。
そしてこのまま三段突きを放ち続けていれば……いくら防御を固めているパラディンと言え、いずれ盾を弾かれ大きな隙を晒すだろう。
「このままでは……負ける確率……70%です」
「そんなことは分かっている! お前も手を貸せ!」
「それは無理……です……戦闘は管轄外……私にできるのは占いだけ……」
「……っ! な、なら、このまま根比べだ! 占い師、三段突きの雨が止む瞬間が来たら教えろ!」
「……了解……」
どうやらパラディンは覚悟を決めたらしい。あなたとパイレーツによる三段突きの連続攻撃が止むまで徹底的に防御するつもりだ。
その判断は、この状況に置いてもっとも適切だった。
互いに息を合わせ交互に放つ三段突きの雨。当然延々に放ち続けられる訳がない。体にかかる負担も当然あり、いつかは精魂尽きて三段突きを放てなくなるだろう。
そうなる前にパラディンの防御を崩せなければあなたの敗北だ。そしてパラディンが全力で防御を続ける今、勝負はどう転ぶか分からない。
魔王ファリシアはこちらの様子をうかがおうともしていなかった。興味がないのか、それとも聖剣の封印を解いているため余裕がないのか……ただ彼女の膨大な魔力が荒々しく聖剣の周囲を渦巻いている。
もう何度三段突きを放ったことだろうか。一瞬にして三つの突きを放つこの技の反動は凄まじい。全身が軋み、そろそろ限界が訪れようとしていた。
「このままでは……!」
パイレーツの頬に汗が浮かんでいた。
焦りは当然だ。パラディンの防御はあまりにも硬く、崩れる気配がない。持久戦で分が悪いのはどうやらこちらのようだ。
「……次……パイレーツの三段突きが不発に終わる確率……100%」
占い師が無慈悲な行動予測をパラディンに伝えた。
「よしっ!」
会心の笑みを浮かべるパラディンに向かって、パイレーツが三段突きを放とうとする。
「……くっ……!」
しかし限界を迎えたのか、パイレーツの体勢が崩れた。結果三段突きは不発に終わってしまう。
占い師の予測によってこれを知っていたパラディンの判断は迅速だった。パイレーツに向かってカウンターのバッシュを打ち放つ。
無防備なパイレーツに向かって盾が迫りくる……が、パイレーツがにやりと笑った。
「引っかかりましたね!」
パイレーツの体が舞い踊る。彼女はバッシュの一撃をひらりとかわして、パラディンの懐に潜りこんでいた。
「なっ……さっきのはフェイントか!?」
驚きにくれる暇もあればこそ。パイレーツの三段突きが閃いた。
喉、胸、腹部の三か所に向かって同時に放たれる突き技は、さながら雲の切れ目から差し込む閃光。後手に回ってこれに対応する術などあるはずもなく、パラディンの強靭な体は衝撃によってはるか後方に吹き飛ばされていた。
「しまった……! 逃げろ占い師!」
そして無防備となったのは占い師だった。
あなたは占い師にすぐさま攻めかかっていた。この戦い、行動予測ができる彼女こそが一番厄介であり、彼女を倒せばパラディンは恐れるものではない。
「……私が勇者様の三段突きで敗北する確率……100%です」
三段突きを占い師目がけて放つ瞬間、彼女はなぜかあなたににこりと微笑みかけた。
まるで自分の思い描いていた通りの結果に落ち着いたと言いたげな、満足した表情だった。
あなたの放った三段突きは、あますことなく占い師に直撃した。
彼女の細い体が後方へ吹き飛び、地面に倒れ込む。彼女の体力が尽きたのは明白だった。
「なんてことだ……まさか占い師の占いがはずれるなんて……!」
「いえ、はずれたのではなくはずしたのですよ」
魔王ファリシアもようやくこの戦いに興味を示したのか、パラディンに言葉を投げた。
「パイレーツの三段突きが不発に終わる確率100%……あの予測は嘘だったのでしょう。彼女の占いなら、パイレーツがフェイントを仕掛けたことも知っていたはずです」
「で、ではなぜ占い師が嘘の予測を!?」
「……占い師はどうも呪いの効きが悪かったようですね。おそらく以前勇者の精でも受けていたのでしょう。魔物娘を服従させる勇者の契約能力が、呪いを阻害した……といった所でしょうか」
「くっ……土壇場で占い師が勇者側に寝返ったということですか」
パラディンがふらつきながら立ち上がる。三段突きが直撃したダメージは中々大きいようだ。
「パラディンたる私がこのような無様な姿を晒すなんて……申し訳ありません」
「いえ、そう謝ることではありませんよ。パラディンも、結果的に勇者側についた占い師も、良くやってくれました」
形勢逆転をされたこの状況で、ファリシアは余裕をたずさえた笑みを絶やさなかった。
そこにひどく嫌な予感を抱いたあなたは、警戒して剣を強く握りしめる。
「ああ……そんな……」
絶望の色を漂わせる声音を発したのは、エルフィーネだった。
「ゆ、勇者様、お逃げください! も、もう、聖剣の封印は……!」
エルフィーネがあなたにそう叫んで、ようやくあなたは取り返しのつかない事態になったことを悟った。
「時間稼ぎは上々……おかげで聖剣の封印を解くことができました。さあ……皆でグリュイエールの復活を見守ろうではありませんか」
魔王が聖剣から一歩距離を取った。すると聖剣が突き刺さっていた地がひび割れ、そこから熱風が吹き上がる。
灼熱の光が封印の間に溢れかえった。それと共に聖剣の下から炎が吹き上がり、火炎と共に一人の少女があらわれる。
「おお……ようやく妾を縛る封印が解けたか……!」
渦巻く火炎が少女の周りに集う。まるで主人にこうべを垂れるしもべのように。
少女はほぼ全裸だった。しかし胸や秘部を覆い隠すように炎が彼女の体を取り巻いている。あの火炎こそが彼女の衣服なのだ。
赤い髪を二つに分けて結ったツインテールは、まるで吹き上がる灼熱の炎をあわらしているようだ。その顔立ちは幼くとも、嗜虐的な様相が浮かび上がっている。
少女の名はグリュイエール。魔物娘、火竜グリュイエールだった。