※この作品はR-18です。

ツゴウノイイファンタジー   作:アーチ/arech

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55、足りない物

 アルメリアを倒し、魔界の門も封じられ、ようやく平和を取り戻した静寂の森とエルフの国。

 アルメリアとの長かった戦いも、終わってみれば一夜のうちの一幕だった。

 事態はようやく解決したが、ファリシアが垣間見せた実力に、ファリシアへの恩を返すためこのまま彼女のしもべとなることを決め姿を消したリーシャなど、懸念はまだまだある。

 しかしあなたはひとまず疲れを癒すため、エファナたちと共にエルフの国へと戻ることにした。

 

 魔界の門が消えたことでエルフたちもすっかり元気を取り戻していて、神殿に赴いたあなたは彼女たちから称賛を受ける事となった。

 しかしあなたはあまりにも疲れ果てており、気を利かしたエファナが神殿の一室をあてがってくれたのでそこで休むことにした。

 

 そうして眠ること、どれほどの時間が経っただろうか。

 起きてみれば、時刻は夕暮れ時になっていた。深夜に眠ったはずなのに起きればもう次の日の夜を迎えようとしているとは、あなたの疲労は凄まじかったと見える。

 たっぷり寝たことですっかり体力を回復したあなたは、ひとまず寝起きで凝り固まった体をほぐすため軽く伸びを繰り返した。

 

 さて、これからどうするべきか。もはやエルフの国には平和が訪れ、あなたが滞在する理由は無くなった。

 そもそも次の目的など考える必要もない。勇者であるあなたの役目は魔王を倒すこと、ただそれだけだ。ゆえにこれからまた、魔王を倒すために行動するのが当然だろう。

 そして魔王ファリシアの居場所はもう分かっている。北の果て、かつて聖都と呼ばれた地で彼女は待っているはずだ。

 だが、今行っても勝ち目などない。それは、目を背けることのできない現実だった。

 

 ファリシアは強い。戦っている姿をいまだに見せていない彼女だが、魔界の門を封印する際に見せたあの一太刀からそのことがありありと伺える。

 ファリシアに、魔王に勝つためにはどうするべきか。あなたに足りない物は、いったい何なのか。

 しばらく考え込むあなただが、一人で考えてもらちが開かないと思い直し、魔物娘たちを召喚する。

 今のところ戦闘時においての同時召喚は三人が限度だが、非戦闘時なら無制限に召喚することが可能だ。

 

 ネコマタ、リッチ、パイレーツ、グリュイエール、ミズハ、フェンリル、リュミス、そしてアルメリア。彼女たちを次々と呼び寄せ、広い神殿の一室がとたんに狭苦しくなっていく。

 彼女たち魔物娘こそが、あなたの旅路の軌跡だった。彼女たちとの戦いから多くのことを学び、そして多くのものを得てきた。

 彼女たちからならば、きっと対魔王のヒントを得ることができるはず。

 そう考えて全員を召喚したのだが……。

 

「お、おい、あたしの尻尾で遊ぶなよ!」

「……だって、楽しいから」

 

 ネコマタは召喚されるや面倒そうにベッドに寝転がって尻尾を揺らし、それに本能を刺激されたのかフェンリルはネコマタの尻尾をパシパシと手で弾いて遊び出し始めた。

 そしてリッチとミズハは……。

 

「ひ、久しぶりに呼び出されてみれば、アルメリアまで仲間になっているだと……? し、しかもナイトメアの奴と私の格好が若干被ってるし、こ、これでは私の影が薄くなってしまう……」

「そんなことないですよ。リッチさんのゴシックロリータもとても素敵です。ゴスロリ好き同士、仲良くしたいです、私」

「……そ、そうか? まあ……そういう貴様もかなり似合っているぞ」

「今度一緒にお買い物に行きましょう。私こういう服を売っているお店いっぱい知っていますから……それにリッチさんも可愛くて素敵ですから、私と一緒にアイドル活動しませんか?」

「……は? は? あ、アイドルとか言われても……そういう明るいのは私苦手だし……」

 

 リッチとミズハは服のセンスや性格が似た物同士なのか、妙に会話に華を咲かせていた。

 そんな四人を見て憤慨するのは、パイレーツとリュミスだった。

 

「……やれやれ、勇者様がせっかく呼び出したというのに、誰も話を聞こうとしないなんて。魔物娘とはいえ、そこまで自由気ままなのは度し難いですわ」

「わたくしもパイレーツ様と同意見です。皆様もう少し勇者様に尽くすことを覚えた方がよろしいのではないでしょうか?」

「あら、意外と気が合いますわね。しかしあのアルメリアのメイドであるあなたがそんなことを言うなんて、少々予想外でしたわ」

「一度は敵だったとしても、敗北してしもべになったからには主に尽くすのがメイドの流儀。わたくしにとって当然お嬢様が第一ですが、第二の主として勇者様を認めております。その点においては、優雅と風情を第一におきながら勇者に尽くそうとするパイレーツ様には親近感を覚えていますわ」

「……ふふ、まあ話が通じる相手が一人でもいて助かったと言うところかしら」

「まったくです」

 

 パイレーツとリュミスは、几帳面な性格や心におく信条がどこか共通しているのか、互いを認め合いだしている。

 彼女たちはまだ気が合う相手がいるようだが、問題はあの二人だった。

 

「……ちっ、まさか貴様と肩を並べることになるとはな」

「……あら、それは私のセリフよ。これからはあなたと共に戦うことになるなんて、虫唾がはしるわ」

 

 グリュイエールとアルメリアは、まさに犬猿の仲。広いとはいえ一人用の寝室にあなたを含めた九人もいるものだから、自然二人は肩を並べてソファーに座ることになっていた。

 肩を並べて座りながらも、互いに顔も体もそむけている。

 この二人の仲が悪いのはしょうがないだろう。なにせライバルと言っていい間柄なのだから。

 

 しかし幸いなことに、今この二人には共通の敵がいる。勇者であるあなたのしもべになったことで、かつて彼女たちが苦渋を舐めさせられた相手、魔王ファリシアこそが仇敵になったのだ。

 いがみあいながらも、ファリシアに対すればきっと二人も協力し合うことだろう。あなたはそう信じていた。

 

「……ちっ」

「……ふん」

 

 ……あなたはそう信じている。

 魔物娘たちが思い思いにくつろいでいる最中だが、あなたとしてはそろそろ本題に入りたいところだ。

 それぞれが会話する中で、あなたは思い切って口を開いた。

 ファリシアに勝つには、どうすればいい?

 単刀直入なその問いかけに、魔物娘たちはそれぞれの会話を忘れていっせいに押し黙る。皆が神妙な表情であなたの顔を見ていた。

 

 勇者として、魔王との戦いは決して避けられない。そしてその時は近づきつつあるのだ。

 しかし、ファリシアに、あの恐るべき実力の魔王に、どうやって勝つというのか。

 これほどまでの魔物娘たちをしもべにした現状でも、勝ち目はかなり薄いというのがあなたの本音だった。何しろファリシアはグリュイエールやアルメリアを過去に打ち破ったことがあるのだから。

 全力のアルメリアを相手に紙一重で勝利したあなたとでは、まさに天と地ほどの実力差がある。

 

 なによりも、あの一剣。あの空を切り裂いた技。思い出すだけで震えが出てくる。

 あれほどの実力を持つファリシアを相手に、どう対すればいいというのか……。

 その答えを、グリュイエールがぽつりと呟いた。

 

「……まずは剣がいるな。ファリシアのあの剣と同等の、勇者にふさわしい剣が。それがなければ、話にならん」

 

 グリュイエールは言いながら、リッチを鋭く睨みつける。

 

「リッチ、貴様ファリシアのあの剣について何か知っていることはないのか? 貴様はファリシア直属の部下だろう?」

「……」

 

 リッチは少しばかりうつむいた。どことなく迷っているように見える。

 この様子だとリッチはファリシアの剣について思い当たるところがあるらしい。しかし今でこそあなたのしもべであるが、元々付き従っていたファリシアの手管を喋るのは気が引けるのだろう。

 そのうちにリッチはおずおずと口を開いた。

 

「あれは正確に言うと剣ではない。そもそも武器と言っていいのかどうか……」

「……? どういうことだ? 見た目は剣だったぞ?」

 

 グリュイエールは怪訝な表情を浮かべる。不思議に思ったのは彼女だけでなく、リッチをのぞくこの場全員もだった。

 

「あれは……剣の形に削り上げた魔水晶なのだ。だから武器ではなく道具と言ったほうが正しいと思う」

「……なんだと? 魔水晶ということは、あの時のファリシアの魔力は……」

「そうだ、魔水晶は杖などのような魔力増幅器ではなく、ただ魔力を溜めこむだけの物。つまり魔王様のあの剣は……正確には剣に模した魔水晶は、魔力をそこに集中させて同時に扱える魔力量を一時的に突破させるだけの道具なのだ」

 

 さしものグリュイエールも、意外な真実に絶句していた。

 自身の魔力を一時的に別の物へ溜めこむというのは、別段不思議な発想ではない。しかし普通それは、事前に魔力を溜めておくことでいつでも溜めた魔力を扱えるという、いわば非常の際に備えたやり方である。

 しかしファリシアは、同時に扱える魔力量を一時的に突破するためだけにそれを利用したというのだ。

 

 魔力は同時に扱える限界量というのがある。その限界値は魔物娘それぞれの技能によって変わるが、基本的にその限界値に応じた魔法しか扱えないのだ。

 例えばミズハは闇の魔法を用いて鎌を生み出すが、ミズハの魔力の同時使用限界量を三百とし、この鎌を生み出して維持するのに魔力を五十使うとすれば、ミズハが闇の鎌を同時に生み出せるのは六つまでというわけだ。

 さらにこの同時使用できる魔力量は、魔法の威力にも比例する。同じ魔法を使ったとしても、そこに百の魔力を込めた時と五百の魔力を込めた時では後者の方が威力が高くなるという算段だ。

 つまり、同時に扱える魔力量は、そのまま魔物娘の強さと言い表してもいい。

 そしてファリシアの魔水晶の剣は、この同時に扱える魔力量を一時的に突破するための道具である。

 

 普段のファリシアが同時に千の魔力を操れると仮定して、あの魔水晶の剣を利用する事によって千の魔力を保存し更にファリシア自身が扱える千の魔力を上乗せする。すると計二千の魔力を一時的とはいえ同時に扱えることになるのだ。

 しかし、本来それを行うのは難事を極める。魔力の同時使用限界量とは、つまりその魔物娘が安定して扱える魔力量だからだ。これを強引に突破すれば、魔力を扱いきれず最悪自滅することもある。

 しかしファリシアはそれをいとも簡単にやってのけた。あの時感じたおびただしい魔力は、おそらくファリシアが扱える本来の限界量、その数十倍はあることだろう。

 

 このことからファリシアは、魔力の制御や運用に長けた魔物娘であることが察せられる。

 もしかしたら魔王という肩書きは、魔物娘たちを束ねるという意味ではなく、魔力を統べるという意味合いなのかもしれない。

 あなたはファリシアの強大さを頭で理解し、うすら寒い思いを抱いた。

 

「つまりあれは、扱える魔力を限界突破させる魔性の剣……か。以前妾と戦った時、奴はあんなものを使っていなかった。妾相手では出すまでもなかったと言うことか……!」

 

 ぎり、とグリュイエールが憎々しげに歯を噛みしめた。

 部屋中がグリュイエールの怒気に包まれる中、それと同じくらい冷ややかな空気が流れている。

 アルメリアだ。彼女は静かに、だがグリュイエールと同じく激しい怒りを心に燃やしているらしい。

 

「私と戦った時も、あんな剣は使っていなかったわ。ふん……ずいぶんと舐めてくれるわね」

「まったくだ。ここまでコケにされては、黙っているわけにはいかんな」

「不本意だけど、今はあなたと同じ気持ちよグリュイエール。あなたとの決着は、ファリシアを倒した後にゆっくりとつけてあげるわ」

「抜かせ。それは妾のセリフだ。しかたがないから、ファリシアを倒すまでの間は肩を並べるのを我慢してやろう」

 

 不敵に口を歪めながら、グリュイエールとアルメリアは視線を交わした。やはり、ファリシアを共通の敵と認めてしまえば、一時的にしろ彼女たちの関係は改善するようだ。

 これでこの二人が共にしもべになったことは問題ないだろう。今残った問題は、一つだ。

 ファリシアの魔剣に対するほどの剣を、いったいどこで調達するべきか。

 普通に売っている剣ではだめだ。それではアルメリアとの戦いでもあったように、簡単に砕かれてしまう。

 ファリシアの魔剣に勝るとも劣らない剣。勇者の、あなただけの剣。それが必要だ。

 しかしそれほどの剣を作れる者など、はたして存在するのだろうか?

 あなたの意図を察してくれたのか、グリュイエールが口を開く。

 

「リッチ、もう一つ聞かせろ。ファリシアの剣を作ったのは、ランガか?」

「……その通りだ。正確には、彼女が試作した剣を気に入った魔王様が強引に奪った」

「ふん、ランガとファリシアの因縁はそこが起因か。だがこれで話が分かりやすくなった。勇者よ、あの剣に対抗しうる剣が欲しいなら、それを作り出した者に掛け合えばいい」

 

 確かにグリュイエールの言う通りだ。ファリシアの魔剣を作った者がいるのなら、その者に魔剣に比肩しうる剣を作らせればいい。

 しかし……ファリシアの魔剣を作ったランガとは、いったい誰なのだろうか。彼女たちが知っているということは、魔物娘なのかもしれない。

 

「……ああ、そうか。貴様はまだランガを知らんのだったな。以前妾が言っただろう? かつて魔界の覇をかけて争っていた魔物娘がいると。一人は妾、一人はアルメリア、そして最後の一人が、そのランガだ」

「ランガなら私も存じていますわ」

 

 グリュイエールの言葉に続いたのは、意外なことにパイレーツだった。

 

「彼女は至高の剣を求める鍛冶屋にして剣術家。近接戦闘において右に出るものはいないとまで言われています。私のレイピアも元は彼女が作り上げた物。かなりの一品なのは間違いありません」

「確かに……ランガなら、勇者にふさわしい剣を作れるかもしれんな」

 

 リッチもグリュイエールの妙案に賛成らしい。

 するとリュミスが神妙な顔をしてグリュイエールに問いかけた。

 

「しかし……彼女がはたして勇者様に協力するでしょうか?」

「そこは実際に会ってみないと分からんな。ただ、奴は何を考えているのか少々分からんふしがある。あるいはうまく事が運ぶかもしれんぞ」

「そのランガって奴も魔王に恨みがあるなら、意外と話しに乗ってくるんじゃねえの? はは、もしかしたら仲間になってくれるかもな」

 

 楽観的な事を言ったのはネコマタだった。彼女が言う通りに話が進めば、それはこの上ないツゴウノイイ展開なのだが……。

 

「……で、そのランガがどこにいるのか……誰か知っているの……?」

 

 ……。

 氷狼の魔物娘、フェンリル。彼女が発した冷静でありながら鋭く冷たい言葉に、全員がいっせいに黙りこくった。

 

「あ、あはは……誰も知らないんですね」

 

 ミズハが空気を変えようと乾いた笑いを見せるも、つられて笑う者は誰もいなかった。

 

「……知ってるわ、私」

 

 冷えた空気に、ぽつりとした呟きが流れていく。

 アルメリアだ。彼女は今確かに知っていると言った。

 あなたはぜひ教えてくれとアルメリアに頼んでみる。すると彼女は気が進まないとばかりにため息をつきながらも、口を開いてくれた。

 

「ここから遠い西の地に、ホムラという国があるわ。そこは王都の人間やここのエルフとも違う小柄な種族が住んでいて、独特の文化を形成しているの。以前私はその国の近くを隠れ蓑にしていたけど、そこにランガがいると風の噂で聞いて拠点を変えたわ。この静寂の森にね」

「なるほど、西の国ホムラか……いまだランガがそこにいるかどうかは分からぬが、行く価値はありそうだな? 勇者よ」

 

 グリュイエールに言われ、あなたは頷いた。

 やるべきことは決まった。魔王ファリシアを倒すために、強力な剣を手に入れる。

 そのために、西の地にいるというランガを探すのだ。

 魔王との戦いの時は近づいている。ゆっくりとだが、確実に。

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