「お主の剣についてじゃが……まずは一つ、確かめたいことがある」
ミコト姫と共にランガの工房で一泊して迎えた早朝。朝食を皆で囲んで食べ終えて一息ついた頃、ランガはおもむろにそう切り出した。
ランガにはこれから作るあなたの剣について何かしらの構想があるようだが、それに関することなのだろうか。
なにを確かめたいのか。あなたがそう聞くと、ランガは少し待っておれと言い残し、物置きと思わしき部屋へと入っていく。
しばらくして彼女が出てくると、その手には武器が握られていた。
細く長い棒状の武器は、おそらく杖なのだろう。どことなく不思議な神秘性を発していて、見る者の目と心を容易に奪いさる。
見るからに見事な一品だ。まさかこれもランガが作った物だろうか。
「これを握ってくれまいか」
神秘的な杖を差し出され、その意図が分からないままあなたは握ってみる。
すると、あなたが握ったとたん杖は淡く光り輝いた。時間にしてほんの数秒、光を放つ杖はやがて輝きを失っていく。
その反応に驚いたのはあなたとミコト姫だけで、ランガは難しい顔をしていた。
あなたは一連の事柄の訳が分からず、これはいったいどういうことなのかとランガに尋ねた。
「……この杖は、女神の使徒の遺物。女神の使徒ツキヨミが使っていた聖杖じゃ。お主もかつて女神の使徒の遺物を見たことがあるじゃろう? いや、見たどころか扱ってみせたはずじゃ」
ランガに言われて、あなたは思い出す。今聖杖から発せられた光は、グリュイエールと戦った時に使った聖剣や、エルフの姫エファナが託してくれた宝剣が発した光と同じ物だ。
それはつまり、聖剣も宝剣もこの聖杖と同種の物だという証左に違いない。エルフの宝剣の正体は女神の使徒クルスククスが使っていた聖弓の矢だということは聞いていたが、どうやら聖剣も女神の使徒の遺物のようだ。
しかし……この二つの武器をあなたが扱った事を、なぜランガは知っているのだろうか。初めて会った時すでにグリュイエールやアルメリアと戦ったことを知っていたが、その目で直接見たわけではないと言っていた。
あなたの猜疑心を察したのか、ランガは含み笑いを漏らす。
「昨日儂には仲の良い同朋がいると言ったじゃろう。その者の魔法で遠見ができてのぅ。そやつに頼んで視界を繋げてもらったのじゃ。グリュイエールやアルメリアの魔力の気配は以前戦った儂もしかと覚えている。グリュイエールは封印されていて、アルメリアは魔界の門が閉まり魔力を失う一方。じゃと言うのに突然あやつらの魔力が強力になれば、気になって様子見したいというのが人情じゃろ?」
視界を繋げたという言葉の意味はよく分からなかったが、言葉をそのまま受け取ると、遠見ができる同朋の魔物娘によってあなたの戦いを見ていたということになる。
しかしまだ疑問は尽きない。何からどう聞いたものかと口ごもっていると、ランガはあなたの肩を優しく叩いた。
「まあ、まあ、落ち着くがよい。聞きたいことには全て答えてやるからのぅ。もっとも、儂が知っていることであれば、じゃが」
ランガは少し考え込むように一度うなった。
「うーむ、まずは何から言うべきか。そうじゃのう……その聖杖をなぜ儂が持っているか、というところから、順序立てればよいか」
確かに、ランガが女神の遺物である聖杖を持っているのは疑問である。あなたが知っている女神の使徒の遺物は、聖剣とエルフの宝剣の二つ。もっとも、宝剣の方は正しくは聖弓の付属品である矢であるが。
しかしそのどちらも立場ある者が管理をしていた。聖剣はグリュイエールを封じるための要として、エルフィーネが。エルフの宝剣はそれこそがエルフの誇りであると、エファナが。どちらも立場ある彼女たちにとって重要な存在だった。
なのに、聖杖は魔物娘であるランガが工房の物置きにしまうという体たらくだ。この聖杖は重要な秘宝だと人々には認知されなかったのだろうか。
「この聖杖はな……あー、まことにバカげた話なのじゃが、偶然拾ったのじゃ。いや、待て待て、確かにそんなアホなことがあるかと思うじゃろうが、これには色々訳がある。そのことを説明するには、まず女神の使徒たちとその末路について語らねばのぅ」
ランガの言う通り、聖剣や宝剣と同じ女神の使徒の遺物を偶然拾ったというのはバカげた話なのだが、それには訳があるらしい。ここはそんなアホなと言いたい気持ちを抑えてひとまず聞いてみよう。
「まず女神の使徒とは、その名の通り女神に使役される存在のことじゃ。いわば女神の代行者じゃな。この世界は三つの領域が繋がっていて、それらをあわせて一つの世界となっておる。その三つの領域とは、魔物娘が元々住んでいた魔界、女神とその眷属が支配する神界、そしてその二つを結ぶ境界線とも言えるこの人間界のことじゃ。女神の使徒は、魔界と神界を結ぶ人間界の治安維持と管理を女神から任されていたのじゃ」
人間界が魔界と神界に通じているということは、魔界を封じる魔水晶を見つけた時にグリュイエールから聞かされていた。しかし、女神の使徒がかつて人間界を管理していたというのは初耳だ。
しかし、その女神の使徒たちはきっともうこの人間界に存在しないのだろう。ランガが聖杖を女神の使徒の遺物と称していたのもさることながら、神界はファリシアによって封印されているということもすでに聞かされている。それが女神の使徒の命運をすでに語っているも同然だった。
「ファリシアの奴めが神界を封じているのはもう知っておるようじゃな。じゃが、一応その辺りも含めて順序よく教えておいてやろう。まず、ファリシアが神界を封じるに至ったまでのことじゃ」
確かにここは一度、物事の経緯を知っておくべきだろう。もしかしたら過去の中に打倒ファリシアへのヒントがあるかもしれない。
「ファリシアが魔物娘の中で頭角を現したのは、かつて魔界の覇を争っていた儂とグリュイエール、そしてアルメリアのことごとくに勝利したからじゃ。奴はあれほどの力を持っておきながら野心も持たず、魔界の影に隠れていたようじゃ。しかしどうも連日争う儂らのことがうるさかったらしく、強引にねじ伏せることで争いをやめさせた……ということじゃ」
自分で言いながら、ランガはひどく苦々しい表情をしていた。己をねじ伏せたとまで言わせるファリシアの実力を思い出したのもあるだろうが、何よりもそこに至る理由が受け入れられなかったのだろう。
それもそうだ。魔界の中でもトップクラスの魔物娘たちの争いに真正面から立ち向かうのなら、それこそ高尚な理由がそこにあってしかるべき。だというのに、ただうるさいからというだけで、プライド高い彼女たちの鼻っ柱をへし折るなど……バカげている。あまりにも自由すぎる。
だがその愚行を遂げさせるほどにファリシアの力は優れていたのだ。
「ファリシアが儂らを倒してしばらくした頃、奴は魔物娘たちから魔王と呼ばれ畏怖されていた。しかし奴は魔界の王となってもろくろく野心も見せず、ただ静かに過ごしていた。じゃが、奴は突然、人間界に移り住むことを魔物娘たちに提案したのじゃ。こんな薄暗い魔界に閉じ込められているのはもう飽きた。人間界で自由気ままに過ごそうと」
ランガはそこで言葉に詰まったのか、少し押し黙った。しかしその表情は先ほどとは違い、かつての夢を見ているかのように儚げである。
遠い日の情景を、あの時抱いた希望を、深く噛みしめるように。ランガは静かな微笑を浮かべる。
ファリシアのその提案はランガの、そして魔物娘たち全員にとって、まさに夢焦がれるものだったのだろう。
「儂ら魔物娘たちは、決して魔界を好んでいたわけではない。あの世界は暗く、鬱屈としていて、まさに絶望の釜底じゃった。儂ら魔物娘は誰もが本能で悟っていた。あの領域は、魔界とは、儂ら魔物娘を押しこめるために女神が作った、いわばゴミ溜めなのじゃと。そうと気づきながらも人間界に繰りだせなかったのは、女神の使徒たちが人間界を管理していたからじゃ。女神の力をそそがれたあやつらは、儂ら魔物娘にとっての天敵。勝てる可能性など零に等しい。しかし……ファリシアなら、あの魔王がいるのなら……!」
いつしかランガの語りには熱が入っていた。魔王を倒すという目的を持つあなたからすれば、そう簡単に聞き流せない過去語りだ。
しかし、なぜだろう。その時の彼女たちの熱が、魔物娘たちの強き想いが、あなたにはどうしてか想像できる。それはあなたが魔物娘たちを仲間にし、共に戦ってきたからだろうか。
暗く鬱屈とした魔界から人間界へと移り住む。魔物娘たちの誰もが心に描き、しかし叶わぬと悟って閉じ込めた夢の輝きは、ファリシアによって呼び起こされた。そして魔物娘たちは人間界へおもむいたのだ。
「人間界に繰りだした儂ら魔物娘は、当然女神の使徒と敵対する事になった。女神の使徒は誰もが強く、儂やアルメリア、グリュイエールをもってしても苦戦を免れん。しかし、ファリシアは見事女神とその使徒の隙を突き、神界を封じることに成功したのじゃ。神界に座する女神が封じられれば、その力を託された女神の使徒たちも時間が経つにつれやがて弱体化する。ちょうどアルメリアのようにの。儂ら魔物娘の勝利は女神を封じた時点で約束されていた。じゃがそんな状況でも女神の使徒は諦めなかった」
だがその結果は現在という時が伝えている。これよりランガの口から語られるのは、女神の使徒たちの末路だった。
「女神の使徒、エルネスト。奴は力を失いつつも地上を我が物にせんとして暴れるグリュイエールに挑み、かろうじて勝利する。しかし力のほとんどを使い果たしたエルネストは、最後の力を振り絞ってグリュイエールを聖剣によって封じ、封印を見守る後継者を見出してその存在を消した」
グリュイエールとエルネスト。かつてあなたもその因縁の一端に触れたが、その根は思ったよりも深いようだ。
「女神の使徒、クルスククス。奴は女神を封じたファリシアへ戦いを挑んだ。しかし弱体化した使徒などファリシアの敵ではない。あえなく返り討ちになり、その存在を消した」
エルフに聖弓の矢を託したというクルスククス。彼女の遂げた末路は儚くも、エルフがその手に抱く誇りのように輝かしかったのだろう。
「女神の使徒ツキヨミ。奴はいずれ魔王ファリシアを倒し女神を解放する者が現れると信じ、全ての力をその聖杖に託し姿を消したと言われておる」
ランガがあなたに握らせた聖杖の持ち主、使徒ツキヨミ。彼女は遠い未来に希望を託し、己が存在を全てこの聖杖にそそいだのだろう。
「……もう一人、女神の使徒は存在する。その名はセフィリア。もっとも女神の信頼が厚く、女神の魂を分け与えられたとまで言われる、使徒の中でも最強の存在じゃ。しかしセフィリアは女神が封じられてから一度もその姿を現さなかった。女神の魂の一部を継いでいるがゆえ、女神が封じられた際にその存在を失ったとも言われておる」
女神の使徒セフィリアは、かなり謎多き存在らしい。ランガをして、彼女のことについて知っていることは少ないようだ。
「女神の使徒はこの四人で全員じゃ。その誰もがもはやこの世界に存在しない。そしてその遺物もほとんど消失しておる。聖剣はお主がグリュイエールと戦った時に消え、聖弓はクルスククスとファリシアが戦ったときに消失した。矢だけはエルフが受け継いでおるが、それにはそれ程の力は残っておらぬ。セフィリアは聖槍を得物としていたようじゃが、そもそもそやつの姿など儂も見たことが無い。ファリシアはどうも戦ったことがあるようじゃがの。その際に聖槍共々消滅した可能性もある」
つまり、今あなたが握るこの聖杖は、最後に残った女神の使徒の遺物なのだ。それも、完璧な姿で残されている。
「女神の使徒の遺物……つまり使徒の武器は、女神が作り出した物じゃ。先ほど見た淡い光は、聖なる魔力のようでいて、実は違う。その正体は神気。魔物娘や普通の人間では決して扱えない、女神の眷属のみに許された神秘の力じゃ」
神気。魔力とは違った、神秘の力。神気の強さは、実際に聖剣を用いてグリュイエールと戦ったあなたが良く知っている。
しかしだからこそ疑問が浮かぶ。魔物娘や普通の人間では扱えない神気が、なぜあなたに反応するのだろうか。それに、確かエルフィーネは力を大幅に失った聖剣に魔力をそそぎ、その力を一時的に取り戻させたこともあった。
ランガがそのことについて知っているとは思わなかったあなただが、ひとまずその疑問を口にしてみる。
「うむ……エルフィーネが聖剣に力をそそげたことはある程度理屈がつく。聖女はエルネストが見出した封印の守り手の末裔。封印を守るためにはある程度神気を操れねば意味がないからのぅ……おそらくエルネストの加護があり、その一族が長年聖剣の神気を浴びたためそれなりに扱えるようになったのじゃろう」
では、自分は? そう問いかけると、ランガは難しい表情を返した。
「それは分からぬ……お主がグリュイエールやアルメリアとの戦いで聖剣や聖弓の矢を手にした時、確かに神気がお主に共鳴しておった。あるいはお主は、女神の眷属という可能性もある。……そもそも勇者よ、お主という存在は、いったい何じゃ?」
あなたは返す言葉に困った。己の存在理由を問われてすぐに答えられる者などそうそういないだろう。しかし、あなたが答えに詰まったのはそれとはまた別の要因によるものだった。
あなたは勇者である。勇者の目的は、魔王とその障害となり得る魔物娘たちを倒すこと。あなたにある背景は、ただそれだけだ。
思えばあなたは、勇者として旅立つ以前の記憶をろくに持っていない。目が覚めた時にはもう、あなたは勇者という存在だったのだ。
「……お主という存在は、あまりにも都合が良すぎる。この世界においてただ一人の男じゃと? 女を抱くことで強くなれるじゃと? 更には魔物娘たちを屈服させしもべにまでできるなど……それではまるで、お主の方こそが……」
わずかに沈黙が流れる。ランガはその先を言わなかったし、あなたも先をうながさなかった。
確かにそうだ。あまりにも都合が良すぎる。そしてそれは、はたして誰にとっての都合の良さなのだろうか。
ツゴウノイイファンタジーとは……はたしていかなる幻想なのか。
今まで考えたこともなかった自分という存在に、あなたは思いをはせる。
今分かっていることは一つ。あなたの正体が何であれ、あなたはあなたの意思によって戦い続けてきた。
封印から復活し王都を滅ぼそうとしたグリュイエール。魔界の風を世界に吹き荒らそうとしたアルメリア。あなたが彼女たちと戦ったのは、あなた自身の選択によるものだ。
「ま、お主の正体が何であれ、いずれ分かる時が来るじゃろう。もとより己という存在理由を証明するための明確な手段など、どこにもありはせぬ。だがな……己という存在を確立する手段なら、儂は知っておるぞ」
ランガは不敵な表情を浮かべ、背負っていた変形刀を引き抜いた。そしてその切っ先をあなたに突きつける。まるで、儂はここにいるぞと吼えるように。
「死力を尽くした戦いの果てこそが、己という存在を確立するためのただ一つの手段じゃ。この一刀に己が全存在を込め、自尊心すらも忘却し、ただひたすらに死力を尽くす。いつしか己の中に広がる世界は目の前の敵と己だけという矮小なものと化し、悟るのじゃ。これこそが、この一刀に賭ける一瞬こそが、自身の生命の全て。ただこの一刀を振るうためにだけ、儂は生きてきたのじゃと」
それは、ランガの見出した紛れのない真実だった。他の者がそうかは関係ない。しかし、ランガにとってはそれこそが己が見出した存在理由なのだ。
「ゆえに勇者よ。お主がどのような存在なのかを決めるのは、お主自身じゃ。いずれ知ることになるかもしれん真相をそのまま受け入れるも良し。じゃがそれに納得できなかったのなら……あがいてみせよ。これこそが己なのだと、この世界に吼えてみせよ」
ランガはにやりと笑って、変形刀を担ぎ直した。そしてあなたが握る聖杖を手にする。
「神気は魔力に対して上位関係にある。つまりこの聖杖を核として剣を作れば、神気を扱えるお主だけの……勇者の剣ができあがるじゃろう。その剣を持って、ファリシアを倒してみせい。儂らや女神の使徒すらを退け、女神をも封印したあの化け物に勝てれば……きっとお主は己という存在の意味を見いだせるはずじゃ。そしてそれこそがお主だけの真実となろう」
魔王ファリシアを倒す。あなたにあるただ一つの目的がそれだ。それを達成すれば……きっと、あなたがこのツゴウノイイファンタジー世界に存在する意味が見いだせるだろう。
ファリシアを倒した先にいったい何が待ち受けているのか……それは分からない。ただ、あなたはそれを成し遂げなければいけないのだ。
ファリシアを倒す。その決意をあなたは新たにする。それこそがこの世界であなたの存在を証明するただ一つの手段なのだから。
そしてそのための剣はランガが作ってくれるばかりか、剣を扱うための技術すら教えてくれるというのだ。
だが、ランガはどうしてそこまでしてくれるのだろうか。ファリシアに一矢報いたいという思いがあるのだろうが、当のファリシアはこの人間界に魔物娘を導いた、いわば魔物娘にとっての立役者である。多少の恩は感じていたりしないのだろうか。
そのことを聞くと、ランガはバツが悪そうに頬をかいた。
「うむ……ま、少なからず感謝しているところはあるな。儂も魔界にうんざりしていたしのぅ。だが、それはそれ、これはこれ、じゃ。儂はな、一度の敗北をそのままにしておくほど腑抜けではない」
「……そこだけは気が合いますね」
合いの手を入れたのは、それまで押し黙っていたミコト姫だった。
「ランガの気持ちは私も多少察するところがあります。敗北したとはいえその命が長らえたというのであれば、いつか雪辱を晴らすため邁進するというものでしょう。例えそれが、多少なりとも恩義のある人物が相手だったとしても」
ミコト姫もランガもそう言うのは、武人としての気質なのだろうか。
敗北したとしても諦めず、いずれ勝利するため牙を磨く。それこそがランガの強さの源なのかもしれない。
とにもかくにも、ファリシアの魔剣に並び立つほどの剣が作れる目処は立った。それも神気を宿す剣であれば不足は無い。
それで、剣はどれくらいで出来るのか。ファリシアと戦うための武器を一刻も早くその手にしたいあなたは、はやる気持ちを抑えつつ聞いてみた。
「あー……それがのぅ、結構かかると思うのじゃ。おそらく一月はまず免れん。それに使徒の遺物を使うとなると、特殊な鍛冶場が必要じゃ。ミコトよ、お主の社の裏手側に儂の工房を作ってもいいかのぅ? あそこはツキヨミを祀ってあるため、わずかに神気が残存しておる。そこならば聖杖の加工もできそうじゃ」
「構いませんよ。しかし工房を作るとなると中々手間がかかりますね」
「ま、それは全て儂がやろう。お主の手は煩わせんよ。おお、ついでにお主にも稽古をつけてやるのもいいのぅ」
「……結構です」
つんと顔を背けるミコトに、ランガはけらけらと笑った。
稽古という言葉を聞いて、あなたも思い出す。そういえば、今あなたはランガの弟子だった。剣ができるまでホムラの国を観光しようかと思っていたが、そんな暇がないほどランガにしごかれるかもしれない。
強くなるためとはいえ、これから辛い修行の日々が待っているかと思うと気が重い。しかし、それを成し遂げなければファリシアに勝つなど不可能だ。
あなたはどうにか気合を入れ直し、立ち上がった。剣がホムラの国のお社でしか作れないというのなら、善は急げ。すぐにでも出発しよう。
「あ、待て勇者よ」
そんなあなたの息込みをすかすかのように、ランガは突然紙と筆を持ってきて何やら手紙を書きだした。
「よし、これでいいじゃろう。勇者よ、ホムラに戻る前に、お主にはちょっとしたお使いを頼みたい」
律儀にも手紙を封筒に閉じたランガは、それを手渡してくる。
「ここから少し南に行ったところに、神社がある。そこには儂の同朋が住んでいてのぅ。あやつらにこの手紙を持っていってくれまいか」
それくらいなら容易いが……この手紙にはいったい何が書かれているのだろうか。
おそらく、勇者であるあなたと同盟関係になったという知らせなのだろう。あなたはそう楽観的に考えた。
「くふふふ……」
その含み笑いにどことなく不安を抱きながら、あなたはランガの同朋が住むという神社へと向かうことにした。