白(姫色)はシステム外
空(美麗)は神なる龍なので、
フィリメス(岡ちゃん)には、
感知できない
お嬢様言葉が難しくて
耳障りが悪いかもしれません
~~~15年後・ユリウス 1~~~
迷宮案内人であるゴイエフさんを先頭に、僕らはエルロー大迷宮を進んでいた。今回僕らがこの迷宮を訪れた理由は、タラテクトと呼ばれる蜘蛛型の魔物、その変異種とみられる個体が発見されたからだ。
その討伐が僕らの仕事になる。のだけど...。
「ヤーナ、いい加減離してくれないかな?」
「い、嫌です!ユリウスも知っているでしょ!?私が大の虫嫌いだって!」
僕の服をガッチリ掴んだ聖女のヤーナ。完全に腰が引けている。
ヤーナは昔から虫が大嫌いで、虫型の魔物が相手だといつもこうだった。
そして、今いるエルロー大迷宮という場所は、虫型の魔物が多く生息する場所でもある。
加えて、ヤーナは暗い所も苦手。はっきり言って、ヤーナにとってこの場所は鬼門だ。
「まったく。だから足でまといになるから残れって言ったんだ」
「ハイリンス。それはできないって言ったじゃありませんか。聖女はいついかなる時も勇者と共にあれ。
呆れたようにヤーナを見つめるハイリンス。
わざとらしく大きく肩をすくめ、その手に持った大きな盾を揺らした。
ハイリンスは僕の
僕の生まれ故郷であるアナレイト王国の、クオート公爵家の次男として生まれている。
王族ではあるけど側室の子供で第二王子の僕と、公爵家ではあるけど次男のハイリンス。
「まあ、ヤーナ嬢ちゃんに限らず、このメンツでこういうジメジメしたところが得意なのは、俺とホーキンくらいのものだろう」
「旦那、イメージ的にそう見られても仕方ないかもっすけど、ワイもこういうのはダメでっせ?」
ジスカンとホーキンがそんな掛け合いをする。
「そうなのか?」
「そうでやす。元々ワイは人相手専門の盗賊でやすから。裏家業的な匂いには敏感でやすが、こういう自然の暗さっていうのは専門外なんでさあ」
ホーキンは元盗賊で捕まって奴隷にされていたところをジスカンに拾われてきたという経歴がある。
この5人が僕らのパーティーで今回はそこに迷宮案内人のゴイエフさんを加えた6人で討伐に向かう。
エルロー大迷宮は魔物が厄介なのもあるけれど、それ以上に広すぎるという問題がある。
迷宮案内人がいなければ、地図を持っていても迷って出てこれなくなると言われている。
「皆さん、注意してください。魔物です」
僕たちは迷宮案内人のゴイエフさんの警告の度に、戦闘を繰り返して、目的地に向けて歩み続けた。
エルローモワジシス危険度Cを鋭利な刃物のような角を持つ魔物。
~~~15年後・シュン 1~~~
この国には学園というものがある。
元の世界では学校に通うのが当たり前だったけど、この世界ではむしろ、学校に通うことのほうが少ない。学校に通えるのは、貴族などの特権階級か、1部の裕福な平民、もしくはよほど才能に恵まれた人間か。
俺の場合王族であるため、学園に通うのは問題ない。
スーもそれは同じで、公爵令嬢であるカティアも条件はクリアしている。
俺たち3人は揃って学園に入学することに決まっていた。
学園では元の世界の学校のように、一般的な勉強を教える。
それと同時に、戦うための授業も受けることになる。
むしろそっちのほうがメインだ。
このダズトルディア大陸は人族の領域となってるけど、他の大陸だと未だに魔族や魔物との戦いが激しい。
ダズトルディア大陸にも魔物は生息しているし、戦える人材はいくらいても足りないくらいだ。
なので、学園では戦いについて学ぶことが多い。
俺とスー、カティアの3人は学園の入学式が行われる会場にいた。
フェイは俺のペット、というか使い魔扱いなのでこの場には連れてきていない。
授業には連れて行くこともできるようだけど、流石にこういう行事には参加させられなかった。
周りを見回せば今年入学する同年代の生徒たちが席に座って式が始まるのを待っている。
この学園は近隣では最大の規模を誇るので、他国からも大勢の子供が入学しに来る。
そんな生徒たちを見回すと、サッと視線をそらされたり、逆にジッと見つめられたりする。
時々チラチラと視線を感じるし、ヒソヒソと噂をする声が聞こえてくる。
「あそこにいるのが、この国の王子だってよ」
「天才って言われてるらしいが、パッと見そんな強そうには見えないな」
「どうにかしてお近づきになれないかな?」
色々と言われてるけど、聴覚強化のせいで全部まる聞こえなんだよな。
ものすごく居心地が悪い。
「おはようございますぅー」
その空気をぶち破って、のほほんとした声が俺の耳に届く。
振り向いた先には予想通り岡ちゃんこと、エルフのフィリメスがそこにいた。
「おはようございます。先生が生徒ってなんか変な感じですね」
「先生はもう1回青春を味わうみたいでワクワクしますよぉー」
先生はそのまま俺の横に腰を下ろす。
反対側に座っていたスーが「ガルルル」と睨みつけて唸りを上げて先生に視線を送る。
「
「狙ってはいけないのですか?貴女は妹なのに?」
「私は、いいのです。妹で彼女なのですから!」
スーとフィリメスが俺を取り合って、言い争っている。その光景をカティアは眺めていた。
俺は元の世界でモテたことはない。カティアは、大勢の前では公爵令嬢として振る舞っているので、俺に抱きついてこない。
「カティア、この前も思っていたのですが。あの待合室で会った時から、エルフだから兄様を狙っている
「安心しなさい。大好きな兄様を取られない為に私たちが彼女と言うことを後で、発表すると昨日、彼女会議(スー、カティア、フェイ)を開きましたでしょ」
小声でそんなやりとりをしているが、聞こえているからな?
入学式は問題なく終了した。
この後はそれぞれ解散となり、たいていの生徒は新しく暮らすことになる寮に戻るか、学園の見学に乗り出すことが多い。
この学園は全寮制となる。
それは俺も例外ではなく、この学園に通う間は寮に住まなければならない。
学園の敷地から外に出ることは、よっぽどのことがない限り、長期の休暇以外ではなくなる。
「このあとはどういたします?」
カティアがお嬢様モードで話しかけてくる。
俺たちはもう寮の準備は全てできている。
できれば学校の敷地の方を見ておきたいところだけど、その場合フェイを放っておくと嫌われるので、結局は寮に
1度戻ってからにする。
「先生会っておきたい人がいるのでぇー、皆さんも一緒に行きますぅー?」
俺が1度寮戻ろうと思っていると、先生がそう提案してきた。
「会っておきたい人ですか?」
「はいぃー。未来の聖女さんと剣帝さんですぅー。会って損はないと思いますよぉー」
聖女と剣帝。
聖女といえば、隣国の聖アレイウス教国の象徴的存在だ。
聖女は家柄たどを抜きにした、完全実力だけで選ばれる。
そして剣帝とは、カサナガラ大陸の人族最大国家、レングザンド帝国の国王その人のことを言う。
代々の国王は初代国王の異名をそのままに、剣帝と呼ばれることになったという。
つまり、この学園に現剣帝の息子が在籍しているということか。
聖女の方は素質のある候補の中から、剣帝の方は完全に血筋。
「ああ、レングザンド帝国の王太子ですわね。噂は聞き及んでおります。確か今年私たちと同じようにこの学園に入学するそうですわね。なんでも初代を彷彿とさせるような剣の天才だとか」
え、カティア知ってるの?
「シュン、あなたはもう少し
俺の顔で何かを察したのか、カティアは呆れた顔でそう言ってくる。ぐ、反論できない。それに反論したのはスーだった。
「兄様は、そんな世間のことより、私のことを考えていてくれれば、いいのです」
スーとカティアの言い争いは、気にせずに先生が話しを進める。
「そのおふたりは.....、ここまで言えば、
俺と叶多は、顔を見合わせて、
「さあ、
「ああ、
「はい♪兄様♥」
話が纏まったので、早速、移動すると、こちらに歩いてくる少年と少女がいた。
「あ、こっちから出向く必要はなくなったみたいですぅー」
少年の方は黒に近い
少女の方は波打つ
「よお。そのちっこいエルフが岡ちゃん?」
「
少年と少女は日本語で話しかけてきた。
この2人。
「お久しぶりですぅー。夏目くんも
先生の言葉でこの2人の元の名前がわかる。
少年の元の名前は
スーもこの少年が嫌なのか、俺の背中に顔を埋めている。
「はは!岡ちゃん元々ちっちゃかったけど、なおさら縮んでんじゃん!ウケる!」
「夏目くん」
夏目をたしなめるのは元隣の席だった
「エルフだからちっちゃいのは仕方ないんですよぉー。それにぃー、今は夏目くんも大差ないじゃないですかぁー」
「俺はこれからガンガン伸びてくからいいんだよ。でよ、そこにいるの、この国の王子だろ?中身誰よ?」
夏目の視線が俺に向く。その目は獲物を見据えるような、
「
「
手短に答える俺と、自分をアピールするようにわざとらしく前に出るカティア。スーは俺の背中で聞いていた。
「え?大島くん?」
「そうそう。俺、大島。びっくりだろ?生まれ変わって女になり、今は、
「山田くんの背中に隠れている娘は、誰かな?」
「ああ、シュンの妹で彼女♪」
「ええぇぇぇ?山田くん、二股してるの」
カティアがスーを俺の背中から、前に出して挨拶をさせる。
「ア...ウゥゥ....」
「スー。このお姉さんは怖くないよ♪あっちの夏目は怖いけどね。挨拶できるかな?」
夏目が腫れ物扱いされて、叫んでいた。
「はぁぁ....ふぅぅ....。ワ....ワタシハ、ニイサマのイモウトでスーレシアです」
「スーレシアちゃんは、お兄ちゃんになんて呼ばれているのかな?」
「スーとヨバレテイマス」
「そっかぁー、私もスーって呼んでもいいかな?」
「ハ...ハイ」
「スーちゃん。可愛い♥」
長谷部さんとスーが仲良くなってよかった。
なんにしても、夏目、今の名前はユーゴー・バン・レングザンドとは、あまり関わりたくないな。
~~~15年後・
「先生、そろそろ学園なんかに通う理由を教えてくれてもいいんじゃないか?」
「もちろんもう一度学生として青春を
「先生、こっちは真面目に聞いてるんですけど」
「冗談ですぅー。まあ、一言で言うと身分が高くて保護できなかったあなたたちのような転生者の監視ですぅー」
「やっぱりそういうことかよ」
「おやぁ?想像できましたぁー?」
「これだけ不自然なくらい転生者が固まってくればある程度はな。どうやったのかしらないけど、エルフが交渉して転生者をこの学園に一箇所に纏めたんでしょう?」
「夏目くんに関してはそうですがぁー、長谷部さんに関しては本当に偶然なんですけどねぇー」
「半分は否定しないんだな」
「察しのいいカティアちゃんにごまかしは通用しませんからぁー」
「じゃあ、その察しのいい
「......5人の死亡は確認しました。残り2人も、居場所は判明していますが、現状手が出せない状態です」
「そうですか。やはりそうでしょうね」
「すいません」
「先生が謝ることではないでしょう。聞いてよろしいでしょうか?死んでしまった方々のお名前を」
「
「.....そうですか。けれど、それならば先生が学園に通うなんて悠長なことを言っているのにも納得ですし。もう、探す必要はないってことなんでしょうね」
「残りの2人も一応は保護活動を続けますけどねぇー」
「その2人というのは、どのような状況で、誰なのか教えてくださる?」
「秘密ですぅー」
「先生、
「これは大真面目に秘密にしておくべきことなんですぅー」
「それは、保護されたという方々と会ってはいけないというのと関係ありますか?」
「うーん。そことはまた別件なんでぇー、あんまり関係はないんですがぁー」
「そうですか。ちなみに、保護されている方々はお元気ですか?」
「元気ですよぉー」
「保護されている方々のお名前は」
「それは言えませんー」
「どうしてもですの?」
「いずれは知ることになるかもしれませんが、今は知る時ではないと思っています」
「それだけでは、訳がわからないですわ」
「すいません。けど、必要なことです。必要ついでに忠告です」
「なんですの?」
「スキルはあまり鍛えないでください」
「どうしてですの?」
「言えません」
「先生は外の世界で何を見てきたのか、
「それが何かぁー?」
「この世界には危険が溢れていますわ。勇者とまではいかなくても、
「違います!」
「でしょうね。先生がそんなことを言う方ではないことくらい、
「そう、ですね」
「すいません、きつく言いすぎましたわ」
「いえ、いいです。隠し事をしているのはこっちですから」
「なんでこんなにも隠し事が多いのか....も、言えませんの?」
「すいません」
「それは、エルフと関係がありますの?」
「はい?」
「不思議なんですよ。なんでエルフが転生者の保護を手伝ってくれていますの?先生はエルフに事情をご説明している感じなのですけれど、エルフは信用できますの?もしかして、先生はエルフになにか変な要求を飲まされて、強要されているんじゃありませんの?」
「そんなことないですよぉー。それは先生を信じてくださいとしか言えないですねぇー」
「こんなにも隠し事が多いですのに?」
「そこも含めてですぅー」
「そのような、軽い感じでのらりくらり言われても困りますわ」
「この話し方わぁー、先生になる前からの、
「はぁー。
「この話し方にしても、それがむしろ正しいと思いますけどねぇー。シュンくんは真っ直ぐ過ぎるんですよねぇー」
「そのへんは同感ですわね。あの方は
「おやおやおやー?
「もう、
シュンが
「俺の彼女との、話は終わりましたよね。なので、これにて失礼します」
「あ....あ、はい。話は終わりました」
~~~15年後・ユリウス 2~~~
エルロー大迷宮に入ってから数日、僕らはタラテクトの変異種と
ここからはゴイエフさんの案内のもと、周辺を探索して討伐対象を発見する作業となる。
「お気をつけください。この近辺は道幅が広く、地竜などの大型の魔物も出現します」
地竜か。竜種は総じて強い。
下位の竜種ならそこらへんにいる魔物と大差ないけれど、上位の竜種ともなれば、その危険度は跳ね上がる。
それこそ、ステータスだけなら勇者である僕と互角が、それ以上になるくらいに。
「静かすぎるな」
ジスカンの呟きに、僕は無言で頷き返す。
探索は始めたのはいいけれど、魔物の一匹にも遭遇しなかった。
この魔物の
明らかな異常。
そして、肌を突き刺すような感覚。
僕は油断なく剣を構える。
ハイリンスが盾を構え、ヤーナがいつでも魔法を使えるように集中した。
ジスカンとホーキンが周りを警戒。
ゴイエフさんも、その顔にタラリと冷や汗を流した。
『勇者、来た』
『来ちゃったね、勇者』
そして、頭に直接響く声。
音としてではなく、思念として伝わって来る声。
振り向く。
「グ、グレータータラテクト」
ゴイエフさんの
グレータータラテクトは上位竜相当の強力な魔物。
それが、目の前に3体も現れていた。
けれど、僕の目はそんな巨大な魔物を素通りして、1匹の小さな魔物とそれを護る1匹の大きな魔物を
グレータータラテクトの巨体に隠れるかのように、ひっそりと
「で、出た!こいつらが今回の討伐対象!
迷宮の悪夢。その存在は、10数年前に突如現れた魔物達だ。
悪夢と呼称するにふさわしい、理不尽なまでの強さ。
人をまるで虫けらのように
その時、頭に何かが流れてくる。
『失礼するわ!私は、この世界の竜種より上位に存在する龍よ!』
「り、龍.....だと」
僕の声が漏れていたらしく、ハイリンスが話しかけてきた。
「どうした、ユリウス」
「すまない、ちょっと動揺した。あの悪夢の残滓をとぐろ状に護っている蛇のような魔物の名が頭に流れてきた」
それを聞いて、ヤーナが近寄ってきて、ジスカンとホーキンはゴイエフさんを守りつつ、聞いている。
「それで、名はなんて?」
「この世界の竜種より上位に存在する龍....と」
「龍とは、何だ?」
「竜種とどう違うのかな?あと、この世界って?」
「わからない!違う世界があるとでも」
ハイリンスが混乱しているユリウスを殴る。
「今は、わからない龍より、この状況を何とかしないと」
「すまない、ハイリンス」
そして、僕に敗北の苦さを教えた、最初の存在。
その悪夢が残したとも言われる、タラテクトの変異種である悪夢の残滓が上位種すら超えた龍に護られている奇妙な魔物が2匹。
こいつらは冒険者グループを襲い、半壊させたために、僕らに討伐依頼が出された。
『勇者、死ね』
『勇者は、排除』
悪夢の残滓と悪夢の守護神の姿が
消えたと、そう錯覚すらほどの高速移動。
咄嗟に、隣にいたヤーナを抱えて、横に飛ぶ。
直後、僕が元いた場所を、鎌が横切ったその後に爆風が吹き荒れる。
8本あるうちの、鎌状になった2本の前足、それが
ヤーナを抱えながら地面を転がり、受け身を取る。
転がった勢いをそのままに起き上がり、そのままヤーナを立たせる。
「ヤーナ、魔法での支援を。攻撃は、当てられないと見たほうがいい」
「わかりました!」
あのスピードだ。よほど魔法の命中精度がない限り、攻撃は当たらないだろう。
師匠なら当てられるだろうけど、それと同じ成果をヤーナに期待するのは酷だ。
あの人は色々と規格外だから。
僕の指示と同時に仲間が動き出し、それに呼応するかのようにグレータータラテクト3体も動き出す。
グレータータラテクトは平均ステータス2000前後の強力な魔物だ。
けれど、この場で最も危険な魔物は、それを従える悪夢の残滓と悪夢の守護神に他ならない。
「グレータータラテクトは僕が何とかする!みんなはその間悪夢の残滓と悪夢の守護神を抑えていてくれ!」
指示を出しつつ、迫り来るグレータータラテクトに向けて駆け出す。ジスカンが鎖鎌を悪夢の残滓に向けて放つ。
それを、悪夢の守護神が不思議な魔法かスキルを使い、悪夢の残滓を護った。
「おい、ユリウス。3体のグレータータラテクト早く倒して、
「悪夢の残滓のスピードは衰えなしっすか。悪夢の守護神の名は伊達じゃないっす」
グレータータラテクトは肉薄する僕に対して、糸を吹き付けて足を
けれど、光り輝く剣がその糸を切り飛ばし、消滅させていく。
蜘蛛型の魔物の厄介な糸であろうと、僕の聖光をからめ捕ることはできない。
そのまま先頭のグレータータラテクトに斬りかかる。
グレータータラテクトは前足でガードをする仕草をしたけれど、その前足ごと頭部を真っ二つにした。
体液を
その巨体を飛び越えるかのように、2体目のグレータータラテクトが僕に襲いかかる。
それを、準備していた魔法で撃ち落とす。
吹き飛ばされたグレータータラテクトの体は、衝撃に耐え切れずに破裂しながら墜落していった。
残り1匹。
そうこうするうちにヤーナの魔法が僕たちにかかる。
各種ステータスを向上させる魔法に、毒の耐性を高める魔法。
蜘蛛型の魔物を相手にした時、警戒すべき毒と、糸!
チラリと後ろを振り返れば、天井から糸が仲間たち目掛けて降り注いでいた。
ジスカンが炎を
僕は、切り刻まれた仲間たちを見て、動揺したのを感じた、残り1匹のグレータータラテクト猛毒を
グレータータラテクトの牙は、僕の目の前で光の壁に
光魔法の
動きの止まったグレータータラテクトに聖光球が炸裂した。
僕は急いで
チャンスだと思い、背後から斬りかかる。
悪夢の残滓と悪夢の守護神はその斬撃を、まるで後ろに目があるんじゃないかというくらいの反応で、余裕でかわしてみせた。
けど、想定内だ。
後ろに飛ぶ悪夢の残滓目掛けて、雷の魔法を放つ。
雷の魔法は光の魔法より劣るが最速で放てる。
いくら悪夢の残滓のスピードが速かろうと、避けきれるものではない。
直撃を確信して放った魔法は、何かに防がれて、あらぬ方向へと屈折して、続けて放った光の魔法を悪夢の残滓が放った闇の魔法に
これは、悪夢の守護神が悪夢の残滓を護ったのか。
「くっ!?」
思わず声が漏れてしまった。
魔法を使うこと自体は驚く程のことじゃない。
それならば、魔法を使っても不思議じゃない。
けど、僕の、勇者の放った魔法を屈折させ相殺するなんて、しかも、続けて放った光の魔法に咄嗟に放ったであろう魔法で、だ。
これは、ステータスは上位の竜種、下手をすればその先の龍種にすら届いているかもしれない。
しかも、悪夢の守護神は龍と言っていた。
嫌な汗が
ホーキンの投げナイフを悪夢の守護神が防ぎ、背後をとっていたジスカンが炎を纏った剣を振り下ろす。
ジスカンは複数の武器を、その場の状況に応じて使い分けることができる。
普段よく使うのは威力のある
が、悪夢の守護神の防御力を壊せず、怯んでいる隙に、悪夢の残滓はすれ違いざまに鎌でジスカンの体を切り裂いて行った。
「ぐっ!」
短いうめき声とともにその場に膝をつくジスカン。
追撃をしようと反転してきた悪夢の残滓の前に、ハイリンスが立ちふさがる。
「ヤーナ!」
「はい!」
ハイリンスの叫びに、ヤーナが答える。
すぐさまジスカンの元に行き、魔法で治療を施す。
ハイリンスが悪夢の残滓の攻撃を受け止めた瞬間を狙って、僕は魔法を放つ。
が、またしても、悪夢の守護神の邪魔が入り、悪夢の残滓に魔法は当てられなかった。
「くそがっ!!」
つい、言葉に品がなかった。
「んっ!?」
今、一瞬、悪夢の残滓の様子が変わる。
悪夢の残滓を見て、悪夢の守護神の様子も変わっていく。
なにかに、怯えている?
何はともあれ、チャンスには違いはない。
ジスカンが硬直して動かない悪夢の残滓と悪夢の守護神を、鎖鎌で拘束する。
思い出したように動き出し、拘束から抜け出そうと暴れる悪夢の残滓と悪夢の守護神。
そこに、ホーキンの投げナイフが突き刺さる。
麻痺の効果を付与したナイフだ。
悪夢の残滓と悪夢の守護神は体を痙攣させ、動きを止める。
そこに、僕は準備を済ませた魔法、聖光線を放った。
「お疲れ様でした」
ゴイエフさんの労いの言葉がどこか遠くに聞こえる。
周りを見回してみてま、僕ら以外の姿はない。
悪夢の残滓と悪夢の守護神が動きを止めたのは、一体何だったんだろうか?
あれがかければ、負けていたのは僕らの方だったかもしれない。
「ユリウス、気になるかもしれんが、俺たちの勝ちだ。今はそういうことにしておけ」
ハイリンスの言葉に
そうだね。わからないことを気にしてもしょうがない。
なぜ、悪夢の残滓と悪夢の守護神は勇者である僕を狙ったのか。
なぜ、奴らは動きを止めたのか。
なぜ、勝ったのにこんなにも不安なのか。
わからないのだから、気にしても仕方がない。この先何が来ようと、何が起ころうと、僕は勇者として戦い続けるしかないのだから。
「とりあえず、早くこんなところから抜け出しましょう」
「あ、後ろに蜘蛛」
「ええ!?どこ、どこですか!?」
「すまん。見間違いだ」
ハイリンスにからかわれたヤーナが頬を膨らませる。
それをジスカンが呆れたように見つめ、ホーキンが
いつもの風景。
うん。スッキリはしないけど、これでよかったんだ。
あの悪夢の残滓と悪夢の守護神による被害はこれでなくなる。
人々の安全を守るのが勇者としての使命。
なら、それを達成することができたことを素直に喜ぼう。
僕らはその後、
何の問題もなくエルロー大迷宮を抜け出すことに成功した。
「いかがなさいましたか?」
「んー?イヤー、フライングしちゃったのがいたらしくて、その処理をねー」
「はあ」
「ああ、大丈夫大丈夫。君には関係ないことだから。気にしなくていいよ」
「それならばいいのですが」
「そんなことよりも、自分の仕事を進めてくれた方が私は嬉しいかなー」
「仰せのままに、魔王様」
「下がっていいよ。それと
10分後
私と空は、魔王アリエルがお茶をしているテラスへと呼ばれた。
「白ちゃんと空ちゃん、そんな所に突っ立ってなくて、
私たちはアリエルに言われるがままに、可愛らしい丸いテーブルにつく。
「貴女たちがエルロー大迷宮に置いてきた、子供が勇者に接触したのね?まだ、その時ではないの?わかるかな?うん?」
「「.......」」
(魔王に追われていた時に、産み落とした卵かな?空?)
(それしかないね、白。私の子供は白の子供達を護る為に動いていると思うけど)
「貴女たち?そこで、こそこそ話してないで、アリエルちゃんにも聞こえるように、話してくれないかな?い・い・か・な?」
「「あ....は、はい!」」
「うん♪いい返事だね♪それで、説明はないのかな?」
「その子供達は、魔王様に追われていた時に産み落とした卵から
「そっかぁー。まあ、私が睨みを
「「はいっ!」」
「じゃあ、お茶会をしようかっ♪魔族領で1番のケーキ屋さんのを取り寄せたのっ♪あと、紅茶も色々、取り揃えたからね♪これからの事を楽しくお話しようね♪」
~~~15年後・シュン 2~~~
今日の授業は魔法の
ある程度の座学を取り入れた俺たちは、実際に魔法を使うための授業を受けられるようになった。
「それでは、これから魔法を使うための
若干やる気がなさそうな声で、魔法担当の教師であるオリザ先生が杖を配り始める。
集まった生徒たちは我先にと杖を受け取っていく。
「皆さん、魔力感知と魔力操作は持っていますね?持っていない人はこの授業は受けられませんからね?持っていなかったら素直に名乗り出てください」
魔力感知と魔力操作を持っていない生徒はいない。
というか、この前の授業でオリザ先生が教えたところじゃないか。
「では、魔力を集中させてください」
オリザ先生の言葉に従い、魔力を集中させていく。
「集中したら、杖に魔力を流し込んでみましょう。あとは杖に込められた魔法が勝手に発動します」
え?それだけ?
「込められた魔法は水魔法レベル1の
オリザ先生が指さした先に、いくつかの的が設置してあった。
生徒たちは思い思いに的に向けて魔法を放ち始める。
大抵は魔力が足りなかったり、魔法が不完全になっていたりして、的にたどり着く前に消えてしまっている。
「この時間いっぱいは好きに魔法を使って構いませんから。たくさん使えばスキルとして水魔法を獲得することもできます。ただし、自分の魔力の残量にだけは注意してください。危ないかなと思ったらそこで一旦中断してくださいね。無理して倒れても知りませんから」
なんて無責任な。
けど、多分毎年倒れる生徒がいるんだろうな。
はしゃぎすぎて自分の限界以上に魔法を使ってしまっても仕方がない。
「ミズマホウねー。どうせだったらツチマホウのホウがヨカッタノニ」
肩に乗ったフェイがそんな愚痴を漏らす。
フェイは地竜だから、適性的に水よりも土の魔法が得意なはずだ。
俺が得意な適性属性は光が最も高く、
「
カティアも愚痴っていた。自分の得意な属性ではなかったから。そんな会話が聞こえたのか、離れた場所からユーゴーがオリザ先生やみんなに聞こえるように叫ぶ。
「水より、俺は火が得意なんだけどな!」
それに反応した、オリザ先生が答える。
「ユーゴー君。皆がみんな、得意魔法をしていたら、収集がつかなくなるので、今日の魔法の実践は水なのです。次の実践の前には、投票で決めた魔法をしましょう」
ユーゴーがオリザ先生の返答に納得したのか、的に向かい、水魔法を放っている。が、ユーゴーの口がにやついている。
ユーゴーは、的に次々、水の弾を当てていく。
長谷部ことユーリは一心不乱に的に向けて魔法を発動しまくっている。
ちなみに、岡先生はこの場にいない。
先生は授業に出たり出なかったりを繰り返している。
授業に出ていない時に何をしているのか、それは教えてくれない。俺たちは、これから、先生を信じてもいいのだろうか?
あとは、スーなのだが、ずっと俺の背後にいて魔法を使おうとしていない。
「スー、魔法の練習をしなくていいのか?」
「兄様よりも先に私がやるわけにはいきません。兄様の完璧な魔法をその他の
あ、うん。ありがとう。ハードルが上がって、お兄ちゃんは物凄くやりにくいんだよね。
そうこうするうちに何人かの生徒が魔力切れのため一時中断し、休憩を始めた。
的が空いてきたし、俺も魔法を使ってみるか。
今まではアナに
ちょっとワクワクしてきた。
同時に背後からかかる
ユーゴーの方に目をやると、その手に持った杖を離し、魔力を高める。
次の瞬間、発動したのは火の魔法。あいつ、既にスキルとして火魔法を取得していたのか!
横に並んだ的、その全てが火に飲み込まれる。
圧倒的な破壊力。
的に当てることさえできていなかった生徒たちには、その力がどれほどなのかよくわかっただろう。
自分の力を見せつけるにはいいタイミングだ。ユーゴーはそれを見越して、自分の力を見せつけるためにわざとこんなことをしでかしたんだろう。
けど、やりすぎだ!
的があった場所には炎が渦巻いている。
下手をすれば炎がそのまま広がって、この辺一帯が火事になりかねない。
俺は手に持った杖にありったけの魔力を注ぎ込み、炎に向けて解き放つ。
俺の魔力を吸った、杖の中に仕込まれた水の魔法が発動し、
炎に直撃した
.....我ながら、とんでもない威力だ。
炎は完全にその水柱に飲み込まれ、消え失せていた。
《熟練度が一定に達しました。スキル〈水魔法Lv 1〉を獲得しました》
水魔法のスキルを獲得した。
一度の発動で獲得できたのは、よほど俺の適性が高かったからなのか。
「流石は兄様です!レベル1の水魔法で、レベル5の火魔法を打ち消してしまわれるなんて!」」
俺を現実逃避から引き戻すかのように、スーがことさら大きな声で俺のことを賞賛する。
そうか、あれはレベル5の火魔法だったのか。
案の定、俺に見せ場を奪われた形になったユーゴーが睨んでくる。
けれど、何かをする前にその背後に、オリザ先生が立っていた。
「ユーゴー君、あれ程、水の魔法が込められた杖での、魔力操作の実践だと言っていたのに、貴方という人は、ちょっと話を聴こうか?」
「俺がなんであんたの言う通りに、水魔法をしないといけないんだ!俺はあんたと話をしなきゃならないんだ?」
「いいから、ちょっと来なさい」
有無を言わせずにユーゴーを連れて行くオリザ先生。
後には、破壊し尽くされた的と、どうしていいかわからずに呆然とする生徒たちだけが残された。
『アノカタは、ナニがシタカッタのデショウネ』
フェイの片言の日本語が、虚しく俺の耳に残った。
視界の端に、ざわつく生徒たちを宥めているカティアの姿が映る。いつもスマン!
この日を境に、俺はユーゴーに目をつけられ、目の敵にされ始めた。
~~~15年後・幕間 2~~~
「カティア、どうして兄様の活躍の興奮を鎮めてしまったの?」
「スー、あなたあれをシュンが望んでいるとでも?」
「思わない、けど。.....カティアと兄様の関係は何?」
「何って、スーと一緒で、シュンの彼女ですわよ?だからこそ、シュンの望んでいないことは控えないとね♪」
「....はい。私とカティアは、兄様の彼女ですよ♪これからは、兄様の望まないことはやめます。が、剣帝は興味がないのでいいとして、センセイとかいうエルフと聖女候補とか。あなたたちは一体
「あなたとフェイは、
「.....兄様から教えていただきました。あれが関係しているのですか?じゃあ、イセカイからいつから来ていたのですか?」
「いつから、というか生まれた時からです。
「そ、それは、どういう....こと、です....か?」
「元の世界には、
「.....そう、兄様たちは生まれ変わり、......元の世界では死んだんですね.....」
「センセイというエルフは....」
「元の世界で、
「先生ですか。お話をしている時の兄様の目は先生を見ている目ではなくて、一人の女性を見る目をして、お話をしています」
「
「私とカティアとフェイの中に入ると?」
「
「そのセンセイは、元の世界の時から、その様な性格なのですか?」
「それはないですわ。だから、疑っているのですわ。その情報を無理やりエルフたちに利用されているかも」
~~~15年後・シュン 3~~~
そろそろフェイのレベル上げをしなければならない。というのも、フェイは地竜の幼体。
魔物の一種である彼女は、レベルを上げて進化しないと、幼体のまましんでしまう。
成長するためには魔物を倒してレベルを上げる必要がある。
フェイはそろそろ進化しないと危ない時期にさしかかっていた。
ただ、俺は学園から出ることができない。
そこで、
「それでは行ってまいります。シュレイン様♪チュッ♥」
フェイを抱えて学園を去っていくアナ。去り際に頬へのキスを残していく。この後は、スーとカティアにキスをされる俺。
魔法使いとしての腕前は王国の中でも上から数えたほうが早い。
きっとフェイのことを無事に進化させて戻ってきてくれるだろう。
フェイを送り出してから数日後、なんの問題もなく進化して帰ってきた。
レベルを上げるということは、魔物と戦うということ。
命の危険があるので、少し心配していたのだか、杞憂に終わったようだ。
そこは良かったのだが、帰ってきたフェイの姿にこそ問題があった。
「でかくなってるな」
『ワタシ、セ...セイチョウキ、ですのヨ♪』
帰ってきたフェイの体は、相当でかくなっていた。
元は俺の肩や頭の上に乗るくらいの、大きさだったのに対して、今は、
手乗りサイズが、いきなり大型犬くらいにまでなってしまった。
『これでもまだ、チイサイほうよ?もうイチダンカイ、シンカしたらもっとオオキクなりますよ』
「そうなったら、もう室内にはいられないな」
『それは、コマルわね』
魔物と言っても、
『まあ、このスガタにまでシンカすればジュミョウはソウトウ、ノビテルはずよ。アセルことはないわよ。シュレイン♪』
「フェイ!?俺の名前を呼べるように、なったのか?」
『まだ、シュレインに教えてもらった、ニホンゴは、まだ、カタコトですけど、ネ♪』
俺が教えた日本語をスーは直ぐに理解してくれた。が、魔物のフェイは、片言でも、日本語を喋れるまでになった。
あと、進化して帰ってきたので、ステータスを確認したいと、本人に了承を
結果、俺よりも強かった。
『魔物だとステータスのノビは人間よりもイイシネ!それに....ね♪ワタシは女の子なのよ!ツヨクなるくらいなら、カワイクなりたいわ』
だからって、進化前よりも変わりすぎじゃないか?
「あー、そりゃ、そうだな。女の子だから、可愛くなるんだったら、嬉しいよね♪」
『そういうことヨ。ヒツヨウだからツヨクなるけど、タタカイタクないし、ワタシのスキル、カショク』
知ってる。過食というのは、食えば食うだけSPが貯蓄されるというスキルだ。
『それをモッテルせいでアナが魔物の肉タベサセテクル。強い魔物の肉は食べればステータスが上がりやすくなるからと、ダケドね。ワタシのペースでタベサセテクレナイ』
なんというか、
しかし、こうして改めて見てみると、魔物のステータスは高いな。
フェイの平均ステータスは700前後。
しかも、まだまだフェイはこれでも下位竜。
それに、たった数日のレベル上げでこうなるのだ。
~~~15年後・幕間 3~~~
「大きくなりましたわね」
『そうなのよー。....話は変わりますが、貴女とシュレイン様は異世界から来たのですね?他にも、居てるのですか?それと、貴女は異世界では男性だったとシュレイン様が?』
「はい。
『そうだったわね♪カティア』
「貴女、日本語が上手になりましたね。フェイ♪」
『私が卵から孵ってから、シュレイン様に日本語を教えていただきましたから、スーレシアさんと一緒に♪でも、人族と竜族では、声帯が違いましたから、いままで、片言で申し訳ありませんでした』
「構いませんわ♪フェイ」
~~~15年後・シュン 4~~~
学園生活は順調だ。
授業の内容はもう既に学び終わっていたものがほとんどだったので、
ユーリに関して仕入れた情報をおさらいしていこう。
長谷部の今の名前が、ユーリーン・ウレンという。
この世界では捨て子が多い。
前世の世界ですら捨て子はいたが、文明が発達していない上に魔物が
赤ん坊の頃に捨てられ、物心ついた時には教会でくらしていたなんてことは、ありふれている。
けど、ユーリーンはそんなありふれた孤児たは事情が違う。
生まれて間もない頃から前世の記憶を持ち、しっかりとした自意識があった。
自分が気がついたらいきなり赤ん坊になっていた。
俺も経験したけど、これはかなりショックだ。
混乱するし、何より不安になる。
この先自分がどうなるのか。前の自分は死んでしまったのか。
それなら、前の人生はどうなってしまったのか。
俺がそうだったように、不安は尽きなかったはずだ。
ましてや、ユーリーンはそんな状態で捨てられた。ショックは俺の比じゃなかっただろう。
正直、俺なはその時のユーリーンの気持ちを想像することはできない。
ユーリーンはその極大な不安の中あるものにすがった。
それが、
ユーリーンを拾った教会が信仰する宗教であり、その
大雑把に訳すると、「神言を聞くためにスキルを伸ばしていきましょう」というものだ。
神言。これがなんなのか、俺にはわからない。
ゲーム的に言うならシステムメッセージみたいなものなんだろうけど、この世界ではされが聞こえるのが当たり前だった。
この声が聞こえるのは違和感を覚えるのは、俺たち転生者だけだろう。だから、聞こえて当たり前。スキルがあるのも当然。それがこの世界の常識だ。
そして、俺と同じ感覚を持つはずのユーリーンもまた、この宗教にドップリとはまっていた。
「シュン君はスキルをいっぱい上げてるんだね。素晴らしいことだと思うよ。これからもドンドンスキルを上げて、神様の声をいっぱい聞こう」
「シュン君はレベルは上げてないの?ダメだよ!レベルを上げると神様の声が聞けるんだよ?神様の声を聞くためにもレベルを上げなきゃ」
「シュン君は鑑定が使えるんだよね?じゃあ言っておくけど、
「シュン君、今日スキルが上がって神様の声が聞けたの!ああ、神様の
引いた。ドン引きだった。
神様のことを話しているユーリーンの目が濁って見えてしまっても仕方ないと思う。
けど、ユーリーンはもともとこんな子じゃなかったはずだ。
どこにでもいる、普通の女子高生だったはずだ。
それをここまで変えてしまったのは、きっと彼女の環境なのだ。
転生してしまった恐怖。親に捨てられた絶望。
異世界で暮らしていかなければならない不安。
そんなところに懐かしい日本語で聞こえてくる神言は、彼女の心の支えになってもおかしくない。
しかも周りはその神言を崇め奉る人間ばかり。
そんな状況で、ユーリーンが神言教の教えに傾倒してしまったのも、仕方ないのかもしれない。
まあ、それで傾倒しすぎて聖女候補にまで上り詰めてしまえのはどうかと思うがな。
毎回
悪いけど、俺は
無宗教派なんだよ。
やんわり断ってはいるものの、ユーリーンが諦める様子はない。
それどころかグイグイ攻めてくる。
その度にスーが半ギレしてユーリーンに襲い掛かり、カティアが仲裁に入る光景がお約束になりつつある。
相変わらず、ユーゴーは俺のことを嫌っているし、ユーリーンは勧誘が激しくて、考えないといけない。
それに、先生も相変わらず謎だ。
授業にも出ないでどこかに行ったかと思いきや、ひょっこり現れて授業を受けたりする。
会った時にいろいろ質問してみても、のらりくらりとかわされることが多い。
特に、
けど、先生はその所在をなかなか教えてくれない。
どうにもある程度は把握しているっぽいけど、保護はしていないようだ。
今京也がどこでどうしているのか、気になるが、先生がこの調子じゃ教えてもらうことはできそうにない。
~~~15年後・幕間 4~~~
「大島くん、結構、胸があるのね?何カップくらいあるの?D...その大きさでそれはないわね。じゃあ、Eかな?それとも、F?」
「俺?ていうか、転生してから女性として生きてきたけど、自分の胸が何カップか、どうやって測るか、教えて欲しいなー。長谷部さん。いや、ユーリーン」
「女としては先輩だから、胸の測り方を教えてあげる。まず、
「ありがとう、ユーリーン♪」
~~~15年後・シュン 5~~~
今日は課外活動が行われる日だ。
課外活動の探索は学園からほど近い山で行われる。
班の内訳はくじで決められ、あまりにも偏った編成にならない限りは交換などはしない。
スー、カティア、ユーリーンとは別々の班になってしまった。
そして、俺はユーゴーと同じ班になってしまった。
班の編成は、俺、ユーゴー、岡先生ことフィリメス、騎士の息子のパルトンの4人に魔法系の教師であるオリザ先生を加えた5人だ。
「では、一旦解散としたす。
まとめ役の教師がそう宣言し、説明会が終わった。
「兄様、しばしお別れです。寂しいです」
「スー、1日くらいで、カティアと仲良く」
「1日だけでも大問題です。あの
「だ....大丈夫だと思うから。スーも気をつけて。安全は確認されているから、滅多なことなんか起きないよ」
「シュン、ユーゴーにはくれぐれも注意してくださいね?あの方、こちらの世界に来て完全に頭の制御が出来ていませんわ!
「そうだな、気をつけておくよ♪チュッ♥」
「あぁぁぁぁっ!カティアにだけ、キスをして、兄様!私にもしてください!」
スーが頬っぺたを俺に向けて、待っていた。
「はい♪どうぞ♪」
「いくよ、スー♪チュッ♥」
「えへへへ、好きですよ、兄様♥」
別れ際のカティアとのやり取りが、嘘のように、探索は順調に進んでいった。
魔物に出会うこともなく、無事に野営を予定していたエリアに到着した。
「シュレイン様、ここが野営ポイントですか?」
「そうだね。予定より早く着いたみたいだ」
男の子たちは体力がありますからねぇー。女の子の先生は付いて行くのが大変でしたよぉー」
「下らねぇ。岡ちゃんのステータスも結構高いんだろ?このくらいで根を上げる訳がねーだろ」
「それを知ってても知らないふりして気遣う言葉をかけられるのがぁー、いい男の条件だと思うのですよぉー」
「いちいち女の顔色見るような男になる気はねーな」
「あぁー、俺様系もありっちゃありですねぇー」
ユーゴーと先生がそんなやりとりをする中、俺とパルトンが野営の準備を始める。
オリザ先生はそんな俺たちを無言で眺めるだけだ。
野営の準備が整ったあと、予定より早く到着したことまあって、少し時間が余った。周りを軽く確認することにした。
そして俺は1人、山の中にいた。
そこに、
それは、近くで探索していたはずのパルトンのところが聞こえてくる。
俺は急いでパルトンのところに駆け出そうとして、目の前に立ちはだかる人物にそれを阻止された。
ユーゴーだ。
「よお」
「何のつもりだ?ユーゴー、いや、夏目」
気さくに話しかけてくるユーゴーに、俺は緊張した声を返す。
「いやな、ここらへんでお前には退場してもらおうと思ってな」
信じられないことを平然と言うユーゴー。
「冗談だろ?」
「冗談に見えるか?目障りなんだよ、お前」
その瞬間、ヘラヘラ笑っていたユーゴーの顔から笑みが消える。
「この世界は俺のための世界なんだよ。俺が最強になって俺が君臨するための世界。それなのに俺と同じかそれ以上の奴がいちゃ、締まらないだろ?」
「何トチ狂ったこと言ってるんだ?この世界は誰のものでもない。正気に戻れよ」
「正気さ。スキルさえあれば何でもできる夢みたいな世界だぜ?まさに俺のためだけにあるような世界じゃねーか。けどな、その世界にお前みたいな奴はいらねーんだ。だから死ね」
ユーゴーが剣を抜く。俺も剣を抜かざるを得ない。
この演習中に何か問題が起こるかもとは思っていたが、殺しに来るなんて。冗談ではないことくらい、わかる。
混乱し、焦る内心を押し殺して、ユーゴーのステータスを見る。
〈ユーゴー・バン・レングザンド Lv31 人族
ステータス
HP:628/628(緑)
MP:566/566(青)
SP:609/609(黄)
SP:502/611(赤)
平均攻撃能力:608
平均防御能力:599
平均魔法能力:546
平均抵抗能力:522
平均速度能力:583
スキル
「HP自動回復Lv 4」「MP回復速度Lv 4」「MP消費緩和Lv 4」「SP回復速度Lv 8」「SP消費緩和Lv 8」「破壊強化Lv 7」「斬撃強化Lv 7」「打撃強化Lv 4」「火炎強化Lv 4」「魔力感知Lv 8」「魔力操作Lv 5」「魔闘法Lv 5」「魔力付与Lv 4」「魔力撃Lv 2」「気闘法Lv 7」「気力付与Lv 7」「気力撃Lv 7」「火炎攻撃Lv 3」「麻痺攻撃Lv 2」「剣の才能Lv 6」「投擲Lv 5」「立体機動Lv 6」「命中Lv 8」「回避Lv 8」「隠密Lv 5」「無音Lv 1」「帝王」「集中Lv 9」「予測Lv 3」「演算処理Lv 3」「火魔法Lv 5」「破壊耐性Lv 2」「打撃耐性Lv 2」「斬撃耐性Lv 3」「火耐性Lv 3」「毒耐性Lv 2」「麻痺耐性Lv 1」「苦痛耐性Lv 1」「視覚強化Lv 10」「望遠Lv 1」「聴覚強化Lv 10」「聴覚領域拡張Lv 1」「嗅覚強化Lv 8」「味覚強化Lv 7」「触覚強化Lv 8」「身命Lv 5」「魔蔵Lv 4」「瞬身Lv 5」「耐久Lv 5」「剛力Lv 5」「堅牢Lv 5」「道士Lv 4」「護符Lv 3」「縮地Lv 5」「n%I=W」
スキルポイント:350
称号
「魔物殺し」〉
強い。俺とは逆にやや物理寄りのステータスながら、安定した強さだ。
何よりも厄介なのが、帝王のスキルだ。
〈帝王:スキルの効果を高める。また、威圧により相手に
威圧による恐怖は一応レジストできている。
けど、スキルの効果を高めるなんて、反則的な効果だ。
ユーゴーが剣を振りかぶってくる。
俺の剣がそれを迎え撃つ。
くっ、重い!
「ふ、知ってるぞ?お前、ろくにスキルポイント使ってスキル取ってないんだろ?それにレベル上げてない。ポイントっていうのはな、使ってこそのものなんだよ!こういうふうにな!」
ユーゴーの剣から火炎が
俺はそれを間一髪で避ける。
「あんまり派手にやりすぎると、他の班の連中に気付かれるかもしれないからな。とっととくたばれ」
「お前、こんなことしてただで済むと思うのか?」
「大丈夫大丈夫。俺は未来のこの世界の
「そんな
「誰が?誰をだ?お前、ここは日本じゃねーんだよ。俺は未来の剣帝だぜ?ちょっとくらい不自然でも、誰が俺に意見を言える?それで国際問題になってもいいのか?いいわけねーよな。そういうことなんだよ。日本みたいに犯罪は全て
「じゃあな。一応お前のことは記憶の片隅に憶えておいてやるよ」
巨大な火炎を纏いながら振り下ろされた剣。
しかし、それが俺に届くことはなかった。
「夏目くん。君はやりすぎた」
いつもの間延びした声とは違う、ゾッとするような冷淡な口調。
小さなエルフの姿に似合わない、圧倒的な存在感。
そこに、岡先生が現れていた。
「君の計画はもう
「な、なん!?」
「シュンくんばかりに気にしていたみたいだけど、私のことを甘く見すぎみたいだね、悪いけど、君の暴走をこれ以上見過ごすわけにはいかない」
先生が倒れたユーゴーに歩み寄る。
ユーゴーは近づく先生に奇襲を仕掛けようとして、
「グハッ!?」
不可視の何かに地面に叩きつけられた。
おそらく、風系の魔法だと思われる。
先生の手がユーゴーの頭を掴む。そこに魔力の流れを感知した。
何かの魔法にかけられたもうだ。
「支配者権限を発動。支配者の要請により、支配者専用スキル発動。発動の合意を」
「合意します」
ユーゴーの口から、あいつらしくない平坦な声が出る。
さっきの魔法、おれはまさか、禁断と言われる外道魔法による催眠か!?
俺の驚きはそこで終わらない。むしろ、さらなる驚きが俺を襲う。
鑑定に表示されたユーゴーのステータスが、みるみる下がっていく。
さらに、スキルがどんどん消えていく。
あっという間に、ユーゴーのスキルは、謎の文字化けスキルだけとなった。
「ッ!?俺に何をした!?」
ようやく正気に戻ったユーゴーが叫ぶ。
「ステータスを低くし、スキルを
「な!?そんなことできるはずが!」
「シュンくん、鑑定結果は?」
「.....先生の言うとおり、お前のステータスは全部30まで下がってる。おまけに、スキルも残ってない」
「な、な......」
「この世界は君のものじゃありません。これを機に反省して、これからは普通の人として生きることをお勧めします。スキルなんて取って強くなっても、いいことなんてありませんから.....」
その後、探索授業は中断された。
パルトンやオリザ先生は無事だった。
危ないところだったそうだが、先生が助けに入ったおかげで、大した傷もなかった。彼らを襲ったユーゴーの手下は全て捕らえられた。
俺は、いや、俺に限らずほとんどの人がこの時ユーゴーのことばかり気にしていた。
たから、その魔物がひっそりと解き放たれ、俺たちの後をつけてきていたことに、誰も気付かなかった。
~~~15年後・シュン 6~~~
それは、俺たちが学園にたどり着いた直後に、唐突に姿を現した。
いや、正確なはずっと俺たちの背後からついてきていたに違いない。
「な、あ.....」
誰かの呻き声が聞こえた。
地竜。
本来ならばこんな場所に出現するはずのない、高位の魔物。
「夏目くん!あれも君な仕業ですか!?」
岡先生がユーゴーに問い詰める。
「し、知らねえ!あんなもん用意してるなんて、俺は聞いてないぞ!?」
「おい、お前ら、あれはなんだ!?」
ユーゴーがたまらずといった感じで、捕縛されていた今回の事件の犯行グループに問いかける。
「あれは、今回の計画で使われるはずだった切り札です」
「お前らが用意したのか!?」
「はい。召喚師が使役しておりました。しかし、現在はその使役を解除している様子です」
「その召喚師はどいつだ!?」
「私です。が、制御は不可能です。元より私の実力で制御できる魔物ではございません。捕らえた時は気性が大人しく、こちらの契約にも素直に応じたのですが、今は私の言うことを全聞いてくれません!」
ユーゴーの質問にペラペラと答える犯人たち。
自分の実力以上の魔物を使役するなるて、正気の
俺もフェイと過ごしているうちに、召喚師に必要なスキルである調教を獲得していた。
格上の魔物でも、合意の上ならば契約を結ぶことはできる。
「すごいことになっているわね!」
俺を出迎えるために来ていたフェイが、地竜を見て焦燥した念話を発する。
「このままじゃ全滅だ俺も加勢する!」
「待ちなさい!そんなこと許しません!危険すぎます!」
岡先生が俺のことを引き止める。が、俺は先生の制止を振り切り、地竜に向けて駆け出す。
「仕方ありませんわね!」
「兄様が行くのなら!」
「回復は任せて!」
俺の後ろにカティア、スー、ユーリーンが続く。
俺は走りながら魔法の準備をする。この間授業で覚えた、水魔法を。
発射。地竜めがけて水の弾が高速で迫る。
が、水の弾は地竜に命中する直前、霧散するように消える。
「逆鱗か!」
竜種が持つ特殊スキル、龍鱗の上位スキル逆鱗。
「生徒は下がれ!」
教師の1人が叫ぶが、無視だ!
「スー!合わせてくれ!」
「はい!」
俺はスーと同時に再度水魔法を放つ。
空中で1つになる俺とスーの魔法。
俺と同じく、スーも水魔法に適性を持っている。
それを重ねて威力を上げれば!
水の弾は、霧散せずに地竜の体に突き刺さった。
地竜がわずかに苦しげな唸り声を上げる。
いかる!ダメージはごくわずかだが、防御を貫通できないわけじゃない!
カティアもオリザ先生と組んで火魔法を地竜に浴びせている。
魔法で怯んだところに、近接メインの人間が切り込む。
ダメージは少ない。けど、0じゃない。
一筋の希望が見えた、次の瞬間、地竜が鎌首をまたげる。
それは、ブレスの予備動作。
「退避!」
誰かが叫ぶ。が、間に合わない!
俺は逆に一歩踏み出した。魔闘法と気闘法を全力で発動。
さらにスキルポイントを使って、光攻撃を取得。
剣に光を纏わせ、地竜の放ったブレスと、真っ向からぶつかり合う。
「ぐ、うおおおおお!」
『まったく、危ないことはしないでください!』
フェイの声ご聞こえた気がした。
同時に、ブレスが途切れる。
俺はそのまま地竜目掛けて剣を振り抜き、ポッカリと鱗がなくなったその首を切り落とした。
「ずぐ治療するから、動かないでね」
レベルアップを告げを
特に腕の怪我が酷く、後一歩でもブレスが途切れるのが遅かったら、俺の腕は消し飛んでいたかもしれない。
そう思うと、今更のように体が震えだした。
スーやカティアは、俺のそんな様子を見て声をかけてこようとしていたが、それよりも他の怪我人の看病をしてくれと頼んで、追い払ってしまった。
こんな情けない姿、できればあまり見て欲しくない。
戦っている時は無我夢中だった。
けれど、こうして落ち着いた瞬間に、死んでいたかもしれないという恐怖がこみ上げてくる。
同時に、ガッチリと固まってしまったかのように、握り締めたまま離せなくなってしまった剣が、ひどく恐ろしいものに見えた。
地竜の首を切り飛ばした時の感覚が、生々しく残っている。
これが、命を奪うということで、これこそが、本物の戦いというもの。
俺は、ステータスの高さとスキルの多さで、戦える気になっていた。
実際に俺は戦えていたはずだ。
けど、戦いが終わってから思い知る。
俺は、戦うということを、全くわかっていなかった。
戦うということは、こんなにも怖いことだったのか。
殺すということは、こんなにも怖いことだったのか。
ゆっくりと、剣から手を離していく。
ユーリーンによって回復が完了する頃に、ようやく俺の指が剣から離れてくれた。
もうだからと言って、ユーリーンを他の負傷者の治療に向かわせる。
怪我はもう大丈夫だ。問題なのは、俺のメンタルだけで。
我ながら情けない。
確かに、初の戦闘でこんな大物と戦うことになるとは思っていなかったけど、それにしたってビビりすぎだ。
それも、戦いが終わった後に。
ユリウス兄様は日常的にこんな戦いを繰り返しているんだ。
どうして兄様は、いや、この世界の住人はこんな恐ろしいことを平然とできるんだ?
どうして、ユーゴーは俺のことを殺そうとなんてできたんだ?
倒さなければならない魔物でさえ、こんなにも怖いのに、人を殺してしまったら、俺は正気でいられる自信がない。
ユーゴーの称号には魔物殺しがあった。
魔物殺しは魔物を数多く仕留めると得られる称号だ。
だとすれば、ユーゴーは魔物を多く殺していることになる。
こんなことを、繰り返しているということだ。
大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
ふと、視界に倒れた地竜を見つめるフェイの姿が映る。
俺を救ってくれたのは、フェイだ。
フェイはあの瞬間、地竜の首に噛み付き、ブレスを止めてくれたのだ。
それがなければ、俺は死んでいたかもしれない。
「フェイ、助かった。ありがとう」
『うん。どういたしまして』
俺がお礼を言うと、フェイはどこか心ここにあらずといった様子で、死んだ地竜を眺めている。
「どうかしたか?」
『私のステータスを鑑定してみてくださる』
フェイのどことなく沈んだ様子に内心首を傾げながら、言われた通りに鑑定してみる。
〈血縁喰ライ〉
そして、称号にそれはあった。
その名のとおり、血縁者を食ったものに贈られるという、おぞましい称号が。
「まさ、か」
『その、まさかじゃないかしら。私は卵から孵ってから、人族の中で暮らしてきたから、人族の言葉がわかるのね』
フェイはあの地竜の首を食いちぎっている。
もし、そうなのであれば、フェイがこの称号を獲得していることも納得ができる。
『あの竜、もしかして、私のことを、探しに来てたのかな?』
ありえなくは、ない。
フェイが卵の時にいたのは、エルロー大迷宮という、ここからはだいぶ離れた位置にあるダンジョンだ。あの地竜がフェイの親なのだとしたら、そんな離れたところからわざわざここまで来る理由が、他に思い浮かばない。
俺たちは、
そう考えると、俺は、その子の目の前で、親の首をはねたことに.....。
「うっ、おぇ!」
吐いた。
俺の初めての実践は、ひたすらに苦い記憶となって、俺の心に残り続けることになった。
~~~15年後・幕間 5~~~
「クソが!このままで終われるかよ!この世界は俺のもんだ!俺の、俺だけの、俺のためだけの世界だ!こんな終わり方は認めねえ!認めねえぞ!全部をこの手に入れるまで、終われるかよ!」
《熟練度が一定に達しました。スキル〈欲求Lv 1〉を獲得しました》
「あのクソエルフが!絶対に復讐してやる!許さねえ!」
《熟練度が一定に達しました。スキル〈怒Lv 1〉を獲得しました》
「いつかあいつのものをすべて奪ってやる!俺が奪われたのと同じようにな!」
《熟練度が一定に達しました。スキル〈奪取Lv 1〉を獲得しました》
「待っていろよ!あいつが大切にしてるもの、全部ぶっ壊してやる!その上で泣き叫ぶあの
《熟練度が一定に達しました。スキル〈
「待っていろよ!俺はこの世界を取り戻してやる!」
~~~15年後・幕間 6~~~
「フェイ、大丈夫ですか?」
『大丈夫よ。ちょっとビックリしたけど、あれが私の親でも、初対面の赤の他人ですのに』
「そうか。このこと、ユーリーンには知られないようにしてくださいね?」
『そうね。わかっていますわ。あの方に禁忌があるなんてこと知られたら、私が殺されますわ』
「ん?何かあたしの名前呼んだ?」
『うっ!?えっ、呼んでない呼んでないですわ!』
「いきなり現れないでください。心臓に悪いわ」
「え?あたし普通に歩いてきただけなんですけど?」
『ビックリして縮んだ分の寿命の慰謝料を請求するわ』
「ええ!?なんで!?」
「ああ、そうでした、シュンへの布教活動は今日はしなくていいのですか?」
「あ、さっきしてきた」
『してきたのね......」
「神様の偉大さを伝えるのに、諦めるということは存在しないんだよ、今は理解されなくても、いつかきっとみんな神様の偉大さを理解してくれる時が来るの!」
「ガンバッテ!」
『ああ、なんかこの盲信具合ってあの
「ああ。そうですね
「そうそう!人のことを信仰馬鹿みたいに言うけど、自分も勇者様馬鹿だって気づいてないんだよ、酷いとおもわない!?.....今、聞き逃すところだったけど、カティアとフェイはシュンにメロメロなのですか?」
『私とカティアさん、スーレシアもシュンさんにメロメロですよ♪彼女ですもの♪あと、あなたには言われたくないのでわ』
「まあ、気持ちはわからなくもありませんが、ユリウスさんのお話になると
『私も、勇者様の武勇伝は聞かされているわ私は
「貧しくて魔物退治にお金を出せない村を無償で救った話とか」
『勇者様の管轄である教会としては、そういうのはどうですの?』
「本当は駄目なんだけどね。今代の勇者様はそういうのを自分で肩代わりして教会に寄付してるから、上層部も強く批判できないの」
『流石は王族。お金をお持ちなのですね』
「この国のバックアップがあるからできることですわ。平民出身の勇者だったらただの戦力扱いで、戦場とか危険な魔物退治とかに駆り出されているところですけど、ユリウスさんの場合はあんまり無茶させると、国がきょうかの敵になりかねないですからね」
『難しいわね』
「
「ザ、ヒーローだね!」
「
『そんな兄にいたら、弟はひねくれるか崇拝するかのどっちかですよね』
「ひねくれなかっただけいいのかな?」
「いいんじゃなくて?実際ユリウスさんの背中を追うのは男の子として間違ってはいないのだけれど」
『シュンから聞いたのだけれど、カティアは元男なのですね?説得力はありますが』
「フェイ。やっとシュンに聞けたのか?」
『はい♪スーレシアと一緒に聞きました』
「生まれ変わって15年!女性としての喜び、
「あなたたち、そういう仲なのね。それにしても、ユリウス様かー。あたし会ったことないんだよね」
「聖女候補でも勇者様には会えないの?」
「あくまで候補だからね。今代の聖女のヤーナ様がご存命の限り、候補はいつまでたっても候補。候補であら限りは勇者様とは関係ないからね。新しい聖女が誕生するのは、聖女が亡くなられるか、勇者様が亡くなられるかのどっちか」
『勇者がしでも、聖女が生きてても代替わりしますの?』
「うん。1人の聖女が仕えるのはその代の勇者様だけ。だから、ユリウス様が亡くなられたら、ヤーナ様が生きていても次の聖女が決まるの。って、不謹慎だったね」
「シュンはユリウスさんのこと盲信しているけど、あの人も無敵ではないからね。実際、魔族の罠にはまって毒を盛られて窮地に陥ったこともある。魔族との戦いが本格化してくれば、ユリウスさんだって生き残れる保証はどこにもありませんわ」
『そうね。シュンの前ではこんな話できないけど、実際魔族との戦いは厳しいらしいし』
「ずっと沈黙を保っていた魔王が動き出したんだものね」
「あそのことね。噂によると、
『その頃は、いろいろあるのよね。
「女神教は邪教!」
あー、いましたね。迷宮の悪夢と迷宮の守護神。ユリウスさんが唯一敗北を喫した、蜘蛛の魔物と龍の魔物ですわね」
『その話をしていた時、ちょうど私、シュンと一緒に聞いていたんだけど、蜘蛛の魔物はまるで魔王みたいな存在だった。そして、龍の魔物はまるで私のような竜の上位種から下位種、龍の上位種から下位種を超越した神、龍神だったって言ってました』
「案外その方が魔王だったり」
『なんで蜘蛛が魔族の王になるのよ。魔族って
「そうね、そこはフェイが目指している
『言っておきます。人化なんてスキルないからね?』
「ないのですか』
『ないのよ。もしかしたら似たようなことができるスキルはあるかもしれないけれど』
「まあ、魔族って姿だけなら人族と全く変わらないって言うから、もしかしたらそういう人化した魔物とかが混じっていてもおかしくないけどね」
『紛らわしいわよね。魔族言うのですから角の一本でも生やしてくれればいいのに』
「それは魔族っていうよりかはまんま悪魔ですよ』
『魔族なんて呼ばれているのがトップなんですし、あながち間違いでもないんじゃないの?』
「んー。ねえ、ふと思ったんだけど、魔王が代替わりしたのかもって時期と、わたしたちが生まれ変わった時期って似てない?もしかして、魔王って転生者の誰かだったりして」
「おい、冗談でもそれはないだろ。あら、驚きすぎて、転生前の男性が表に出て来てしまいましたわ♪うぅん♪大体からしてそれでは、赤ちゃんの頃、魔王になったことになりますわ」
「う、ごめん」
『私は転生者では、ありませんからわかりませんが。赤ちゃんの頃から動き回ってレベル上げをするとなると、その転生者は
「「......えぇぇぇぇぇ!!」」
「じゃあ、この学園に居てる
「どうします?このことは、まだ、
~~~15年後・幕間 7~~~
長い廊下を歩く。俺の斜め前には小柄な背中。俺よりも頭2つ分ほど低い。
そのせいで歩く速度は俺に比べるとかなり遅い。
おかげで俺は普段よりもゆっくりとした動きをしなければならない。
難儀だが、だからと言って追い抜かすわけにもいかない。
なぜなら、目の前を歩く少女こそ、
長い廊下を時間をかけて進み、たどり着いたのは1つの扉の前。
そこで魔王様は歩みを止める。
正直に言うと、この扉を開けたくない。開けたくないが、開けないわけにもいかない。
俺は
そして、魔王様に道を譲り、
魔王様はそれが当たり前であるかのように、室内に踏み込んでいった。
魔王様が室内に入っていったのを確認し、俺もその後に続く。
音が鳴らないようにそっと扉を閉める。
振り返った室内は、いわゆる会議室たった。
魔王様が座るべき
その円形のテーブルには、合わせて10人の男女が席についていて、
この2人は、全身が真っ白で、違うところは、
魔王様の入室に合わせて起立したのはその中の半数。
残り半数はそのまま席に座っている。
この中でも、特別視されている
問題は、その席に座ったままの奴らの中に、
魔王様の椅子を引き、着席を
やはり、優雅さの
多分魔王様も見逃していないだろう。その反応を見て楽しんでいるのだから当然だ。
「それでは、会議を始める。バルト」
「は」
魔王様の開催の合図。それに短く答える俺。
会議の進行も、実務も全て俺が進めている。というか、俺に押し付けている。
「では、まず各方面の報告から聞こう。第一軍から順に報告を」
この会議のいつもの流れで、それぞれ各地に展開されている軍の活動報告を聞く。
俺の言葉に席を立ったのは、
「第一軍はレングザンド帝国の正面、クソリオン砦への進行準備が整いました。
余計な報告も挟まず、端的に済ませるアーグナー殿。
「第二軍も同様です。ですが、もう少しお時間を頂ければ、裏工作が実を結ぶかもしれません」
アーグナー殿の次に席を立ったのは、
第二軍団長サーナトリア。彼女はサキュバス族だ。
「どれだけの時間が掛かる?」
「早ければ2、3日中にでも」
「進軍に支障がなければ進めてよし」
「ありがとうございます」
しかし、サーナトリアが席に着いても、次の第三軍団長はなかなか腰を上げない。
「コゴウ第三軍団長」
「あう。やっぱり、戦争になるだか?」
俺の呼びかけに、巨体のコゴウがその体を縮めるようにして言った。
「どうしても、戦争は避けられないだか?」
「避けられんな。避けられるならそうしている」
「あう。どうしてもだか?」
なおも言い
「どうしてもだ。しかしコゴウ第三軍団長、君がどうしても戦争を避けたいというのであれば、方法がないこともないぞ?」
魔王様だ。
「な、なんだか?」
「簡単なことだよ。第三軍全員で世界の
魔王様の言葉にコゴウが固まる。
「どうした?お前のわがままで世界は救えないのだが」
「す、すんません。もう言わないだす。だから、勘弁してくだせえ」
「コゴウ、これに懲りたら余計な口を出さないことだ。報告はあるか?」
魔王様がコゴウを追い詰めないように、俺はすかさず割って入る。
「全て順調だす」
「よろしい。次」
魔王様は少し不満げな表情をしているが、これでいい。
第四軍、第五軍、第六軍と問題なく報告が済んでいく。
次の第七軍団長の番になる。
しかし、その第七軍団長、俺の弟でもあるブロウは一向に席を立つ気配がなかった。
「ブロウ」
「兄貴、やっぱり俺は納得いかねえ」
腕を組み、ふんぞり返りながらブロウは苦々しく告げる。
「なんで今まで魔族を
「ブロウ」
「兄貴も兄貴だ!どうしてそんな女にいいようにされてやがる!?そいつに兄貴が忠誠を誓うような器があるようには見えねえ!それに、その隣の新参者の白いのなんか、会議だというのに、副団長を連れてくるなんて」
(えっ!?今、私に話が振られた?
(そうだよ、
(これは、アリエルに相談だね♪もしもし、アリエル!聞こえる?)
(どうしたの、
(今、あのブ、ブロ)
(アレの名前を呼びたくないのね♪今だけ我慢してね♪それで、どうしたの?)
(ブロウにいちゃもんをつけられてるの、どうしたらいい?
(殺ってもいいけど、どうするの?)
(その話、ちょっと待って、
(どうしたの、
(私は...ね。
(......
「そこの
アァン!?今、あいつ、何て言った?この
私は、気持ち悪いと言った、そいつに向かって。
「
邪眼を食らったブロウが盛大に血を吐いた。ざまぁー♪
いきなり血を吐いたブロウのところへ、バルトが向かう。
「魔王様!ブロウに何をしました」
「私は何もしてないよ♪」
魔王様は、クスクスと笑っておられる、が、何もしていないと言う。では、誰が?今、ブロウが話をしていたのは、魔王様の左隣に座っている
「お前か、
「私と
「魔王様をアリエルだと?呼び捨てに、新参者がおこがましい!」
「アリエルー!あいつも、半殺しにしても、いいかな?」
アリエル
「
すると、バルトも盛大に血を吐いた。
この光景を、第四軍団長、マリア。
第八軍団長、
魔王様が口を開く。
「わかったかな。私に逆らうとこうなるの♪
負傷させられたバルトの代わりに、私が進行することになった。ちくせう!
私は、頬を叩き、気合いを入れ、
「次、第八軍ラースちゃん、報告してくれる」
「何も問題ないよ。アリエル、
次は、ギュリギュリだね。名前を隠さないといけなかったよね♪
「第九軍団長、黒」
「第九軍も問題なく進軍可能だ」
ギュリギュリも問題なし、と。
次は、私か。
「第十軍も問題ないよ、アリエル♪」
「うんうん。順調だね♪」
魔王様は、ご機嫌そうに
俺たち、兄弟は負傷しているのに。
これが、魔王様の右腕、
「じゃあ、戦争を始めようか」
そして、その言葉で、魔と人の、最悪とも言える大戦争が、静かに幕を開けた。
~~~15年後・ユリウス 3~~~
魔族軍に動きあり。
僕がその報告を耳にしたのは、つい今朝のことだ。
魔族領に潜入していた密偵からもたらされた報告だ。
「ついに来ましたか」
「そうだね。来ないほうが僕としては良かったんだけど」
「ユリウス、そういうわけにもいかねーだろ。お前が戦いを好まないのはよく知ってるが、人族と魔族は宿敵同士。いつかこうなることはわかってただろ?」
「そっすな。先代の勇者様が亡くなってから、魔族は活発になってましたし、ワイはむしろ良く持った方だって思いやすがね」
仲間たちが言うように、先代勇者様が亡くなってから今まで、魔族は活発に活動していた。
それが大規模な戦争に発展することもなく、今まで小競り合いだけで済んでいたのは、むしろ良く持った方なのかもしれない。
「それで、魔族軍はいつごろここに?」
「今ハイリンスが確認に行っています。もうそろそろ、あ、戻ってきました」
ヤーナの言葉に振り向けば、そこには小さい頃から付き合いのある幼馴染にして、クオート公爵の次男であるハイリンス。
「ハイリンス。どうだって?」
「ああ、進軍速度からして、明日にはこの砦に到着すると予測されてる」
「そうか。いよいよか」
戦争。
僕は、この戦争を生き残って、2人にまた会うことができるだろうか?
いや、会うんだ。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。
「この戦争で生き残れば報奨金もガッポリっすな」
「そうだな。この前の迷宮の悪夢と迷宮の守護神との戦いでは、割に合わない報酬だったし、ユリウスが奴の死体を木っ端
ホーキンに合わせるようにジンカスも同意する。
「私は蜘蛛の死体なんて持ち帰るのは嫌です。龍の鱗だったら、綺麗な装飾品にしたいですけど」
ちょっとズレた感想を漏らすヤーナに、自然と笑みが浮かんだ。
「けど、あれぼどの魔物から取れる素材はいい値段に。糸とかは服にすれば結構防御力になりそうじゃない?」
僕が何気なく言った一言に、ジンカスが首を振る。
「いや、タラテクト種の糸はスキルで生成されているらしく、胴体を解体しても手に入らない」
「え?そうだったんだ」
知らなかった。
「ああ、タラテクトの糸。もう10年以上前のことでやすが、一度だけ冒険者が粘性のない完品と何かの鱗を持ち帰ったことがあるそうっますよ」
「それは俺も知っている。俺がまだ冒険者駆け出しのガキだった頃の話だが、タラテクトの巣を焼き払った後に、ご丁寧にも手玉にしていくつも残っていて、その近くには何かの鱗がこれもいくつも残っていたんだと。しかも、その糸と鱗がとんでもない魔力伝導性と耐久力を兼ね備えてるって言うんで、かなりの高値で取引されたそうだ。あと、それは噂でしかないんだが、その時同時に竜の卵も回収されたとか。竜の卵といえば、売るだけで、一生遊んで暮らせるようになる希少品。同じ冒険者としてその幸運を掴んだ連中に嫉妬したもんだ」
「その後、同じ糸を求めてタラテクトを捕獲するのが流行ったそうっすなー。結局その糸を生み出せる個体と鱗を持つ何かは捕まえられなかったらしいっすけど」
首巻きを握ったまま固まった。
それを見て、ハイリンスが呆れたように言った。
「ユリウス、お前知らなかったのか?自分がいつも身につけてるのがどれだけの値打ちものか」
「知らなかった」
ぎこちなく答える。
「?どういうことです?」
僕らのやり取りを聞いて、ヤーナが疑問符を浮かべる。
「こいつがいつもしてるこの首巻き、その噂の糸と何かの鱗で作られた一品だ」
ハイリンスが言った途端、僕のしている首巻きにみんなの視線が集まる。
「ほっほー。これが」
「俺も実物を見るのは初めてだ。どこぞの王族にまで売られたって話は聞いていたが、まさかユリウスのところだったとはな」
「いつも身につけているから何かとは思っていましたけど、そんな貴重品だったんですね」
「あ、いや、いつも身につけているのはこれが
「え?あ、ごめんなさい.....」
「いいよ」
お母様はシュンを産んでしばらくして、体調を崩して還らぬ人になった。
この首巻きは、シュンが生まれる少し前にお母様が僕に編んでくれたとのだ。
タラテクトの糸と何かの鱗を糸状に
「ヤーナ、気にする必要はないぞ。ユリウスはただのマザコンだからな」
「ハイリンス...さん、本当ですか?」
ヤーナが聞いてきたことに、ハイリンスが頷いた。
「....あ、あの、ユリウスさんは年上の女性がお好きなのですか?」
「年上?どうしてそんなことを?」
「い、いえ、そのハイリンスの言うとおりなら、年下はお好きではないのか.....と、思いまして......」
「それって、もしかして、ヤーナ。俺のこ.....」
「や....やっぱり、今のは、聞かなかったことにしてください」
俺の言葉を遮って、砦の中へ走っていく。なぜか、俺もそのあとを追っていた。
砦内をあちこち、探し回って、やっとのことでヤーナが隠れていたところにたどり着いた。
「ヤーナ、なんで逃げたんだ?俺の返事も待たずに?」
「え、えっと、あそこまで言っていて、変に思われたかもしれませんが、返事を聞くのが怖くなってしまい、まして」
「俺は、ヤーナのことが好きだ。大好きだ!愛している。だから、こっちを向いてくれ」
ヤーナがゆっくりとこちらに振り返る。
「もう一度言う!俺....いや、僕はヤーナのことが好きだ。結婚してください」
「はい。こちらこそ、
俺はヤーナを抱き寄せて、キスを交わす。
「ちゅっ......ちゅちゅちゅう.....れろっ.....ちゅちゅう....ちゅちゅちゅう....れろっれろれろれろ......ちゅうぅぅぅ♪.....ユリウスっ....がっつきすぎ......だよっ♪」
「すまない。これから、戦争だというのに、緊張感がなかったね♪」
俺とヤーナは、キスを終えて、先ほどいた場所へと戻る。
確かに、僕は幼い頃にお母様を亡くしたこともあって、人より母親に対する想いというものが強いかもしれない。
【ユリウス、今回の魔族の動き、どうにも妙だ】
【何がなんだい?】
【敵は戦力を分散させて、人族領域に一気に攻め込んでくるようだ。だが、戦力を分散させる意味がわからない】
【何か思惑があると?】
【ああ。一点集中の方がはるかにいいはずなのに、わざわざ戦力を分散させるんだ。何かあると思っておいたほうがいい】
【その何かに心当たりは?】
【さてな。流石にそれは俺にもわからん、だが、油断はしないほうが良さそうだ】
【わかった。ありがとう】
僕はザワザワとした嫌な予感がした。
まるでいつの間にか巨大な罠に
そう、蜘蛛の糸に絡め捕られるかのような。あの、龍に睨まれて動けなくなった魔物のような。
悪夢の
けれど、勇者として、ここで逃げることは許されない。
蜘蛛の糸と何かの鱗を紡いで作られた首巻きをもう一度握り締めた。
~~~10数年後・シュン 7~~~
「それでは、今日は
オリザ先生がいつものように若干やる気がなさそうに授業を始める。
竜、か。
竜というと、どうしてもあの事件のことを思い出してしまう。
あの事件から数年が経った。
ユーゴーによる俺の暗殺未遂と。地竜による襲撃。
だが、ユーゴーに具体的な罰が与えられることはなかった。
その前に学園から
同時に岡先生の姿も学園から消えていた。
思えば、岡先生は地竜と戦っている時も、参戦していなかった。
ユーゴーを簡単にねじ伏せる力を持っていたのにだ。
あの事件で変わったことは、なにもそれだけじゃない。
フェイは何を思ったのか、それまで乗り気ではなかったレベル上げに積極的に取り組むようになった。
あれだけ嫌がっていた進化もあっさりとしてしまい、今では外暮らしをしている。
俺も、あの事件を機に、考え方が少し変わった。
ただただユリウス兄様に憧れを抱いているだけだった。
今でも俺の脳裏には恐怖がこびりついて離れない。
俺が転生者だから余計にそう感じるだけなのかもしれないが、殺すのも、殺されるのも、怖い。
兄様の隣を歩むためには、その恐怖を乗り越えなければならない。
あの事件の後も、俺は演習に参加して魔物と戦う機会があった。
地竜に比べればなんてことない、俺の剣の一太刀で呆気なく倒れてしまうような、弱い魔物だ。
それでも、殺したという重みは、地竜と同じ。
俺は、命を奪うという覚悟を決めて、その恐怖を乗り越えた上で戦わなければならない。
俺はとんでもなく甘いのかもしれない。
平和ボケしていてもいいから、命の重さを理解する。
その上で、守るべきものと、奪わなければならない命とを天秤にかけ、戦うことを選択する。
そうして、俺の周りはささやかな変化がありつつも、大きな事件もなく平穏に過ぎ去っていった。
《条件を満たしました。称号〈勇者〉を獲得しました》
《称号〈勇者〉の効果により、〈勇者Lv 1〉〈聖光魔法Lv 1〉を獲得しました》
その平穏を打ち破る声。
「え?」
授業中だったこともあり、俺の戸惑いの声は予想以上に教室の中で響いた。
「シュレインさん、どうしましたか?何かわからない点でも?」
オリザ先生が俺に聞いてくる。
その先生の声も、混乱した俺には素通りしてしまう。
「シュレインさん?シュレインさん!?どうしました!?」
多分、この時の俺の顔色は、相当悪くなっていたのだろう。
だって、おかしいじゃないか。
世界に勇者の称号を持つ人間はただ1人。
そして、俺の知る勇者もまたただ1人。
称号というものは、一度手に入れると手放すことはできない。
勇者の称号も、手放すことはできない。
生きているうちは。
そういうことになってしまう。
信じられない。信じたくない。
けど、その称号は、確かに俺のステータスに記載されてしまっている。
嘘た。
嘘だ、嘘だろ?
あの兄様が、そんなことがあるはずがない!
それでも、その称号は無情に事実のみを告げていた。
この日、1人の勇者が死んだ。
そして、1人の勇者が誕生した。
~~~10数年後・幕間 8~~~
魔王はその手に龍の鱗を糸状に紡いで白い糸と織られた布切れを持ち、興味深そうに眺めていた。
その手に握られたものは、つい先程まで勇者が身にがつけていた首巻き。
「白ちゃん、空ちゃん、見て見て。これ龍の緑色の
白と呼ばれた魔族軍第十軍団長と空と呼ばれた魔族軍第十軍副団長は、その顔を魔王の持つ首巻きに向けた。
見てと言われた白の
魔王が持っている首巻きを見た、空は目をそらした。
「人族の間で高値で取引されたっていうのは知ってたけど、まさか勇者が身につけてるとはねー」
ないわー、と皮肉げに
私と空は、魔王アリエルに聞こえないように、話す。
(空、アレって、
(やっぱり、あれって、私の鱗と白の蜘蛛糸だったよね?あの人間が地竜の卵と一緒にあったから、持って帰ったんだね?)
魔王は手の中で首巻きを
その顔は、いいことを思いついたという無邪気さに
「勇者の弟って、転生者だったよね?じゃあ、返してあげよう」
そう言って、手に持った首巻きに魔力を注ぎ込む。
「うんうん。勇者の弟に魔王の加護のこもったプレゼント。
同意を求められた白と空は無言。
「これを受け取った時、山田くんはどんな顔するかなー?」
その時のことを想像して、蜘蛛の魔王は悪趣味な笑みを浮かべた。
(白、山田が王族って、それに兄貴が死んで勇者を継承したんだよ?)
(ありえないよね、フツメンの山田が、ね?びっくりだよね?空?)
~~~終幕~~~
どうやら、あの蜘蛛ちゃんと龍ちゃん、
こちらとしてもプレゼントした
あそこまで劇的な反応をしてくれると、嬉しくなりますね。
蜘蛛ちゃんが
あの蜘蛛と龍ならば、叡智もきっと使いこなしてくれるでしょう。
蜘蛛ちゃんは思考を分裂させても、あれだけ平然としていられるんですら。
龍ちゃんには、7つの大罪と7つの美徳ではなく、私が新しく創った称号を授けよう♪
蜘蛛ちゃんを守って?護ってもらうから、称号[
そして、いつか私の存在まで着いてくださいね。
期待していますから。
きっとあなたたちなら、もっと楽しませてくれると。
管理者にして、邪神であるこの私を。
さあ、次は私に何を見せてくれるんでしょうか?
このあと世界とどう関わっていくんでしょうか?
このあと世界をどう変えていくんでしょうか?
とても楽しみです。
蜘蛛娘:[白織]・Lv 1
種族:蜘蛛姫(スモールレッサータラテクト)→蜘蛛姫(スモールタラテクト)→蜘蛛姫(スモールポイズンタラテクト)
性別:雌
スキルポイント:8900
雷龍娘:[空丹]・Lv 1
種族:地龍姫→風龍姫→水龍姫→雷龍姫
性別:雌
スキルポイント:98900
シュンの物語に追加キャラが出ないので、原作のままになってしまうので?
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カットする
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カットしない